第6話-8/14
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
かといえ0距離でずっと彼女といるのは蒼太としても避けたいところだ。
「じゃあ今から行こう!」
「せっかく作ってもらったし、お店の営業もあるから…」
「営業って…この状態で?」
彼は耳を疑った。
「こうやって手を合わせてたら大丈夫みたいだから」
お互いの手首を合わせた状態、少し離れてるぐらいなら大丈夫だが、
それでもこれで1日過ごすのは土台無理な話だ。
「なんてことをしてくれるんだよ…」
「だって、そうちゃんが…」
男は自分が何をしたか問い詰めたい心境に駆られたが、浅い付き合いでもない
彼女に仕方なく折れることにした。
ツバキの事で心配をかけたのは分かるが、その対価にしても月姫の想いは
とても重い。
「はいはい、今日だけはこの遊びに付き合ってあげるよ、
明日は絶対解除しにいくから」
変な優しさを出してしまうのが彼の良いところでもあり、悪いところでもある
だろう。
だから彼女がまた少しの期待を抱き、それを大きくしてしまう現状を招いている。
ほとほとあきれた足取りで蒼太は最後に残っているアフタールームのチェックに
向かった。
「あ、そうちゃん離れたら…」
咄嗟に叫ぶ月姫。
案の定2人のブッチからは耳なじみのある電子警告音が鳴り始める。
すかさず、月姫の元に戻り、ブッチを彼女のブッチに近づけた。
「こ、これ大丈夫か?」
言いながら蒼太は一歩離れ、ディスプレイを見やる。
今のところ青のまま色は変わらないが、もう一歩離れたところでディスプレイの
色が黄色に変化し、さらに一歩離れたところで赤に変化して電子警告音と共に
10の文字が表示された。
0m距離の猶予はざっとみて1m未満、手を合わせていなくても、その距離を
保てば罰はくだらないだろうと予想する。
「今日だけはってさっき言ったよね?」
アプリを弄り、時間の表記が23時間56分に変わっていることでこれが
残り時間だと推測する蒼太。
彼の問いかけに月姫は無言でこくりと頷いた。
「俺は良いけど、かぐは?トイレとかお風呂とかどうするの?」
「え?えぇ!?」
今度は月姫が慌てる番だった。
確かにやがて訪れる生理現象には抗いようがない。
お風呂は最悪我慢できてもトイレはとても1日以上我慢できるものではない
だろう。
「そういうとこ抜けてるよな、昔から…」
「ごめんなさい…」
うなだれる月姫の頭に蒼太の手のひらが乗せられる。
叩くわけでもなく撫ぜるわけでもなく頭の上に手を乗せてわしゃわしゃと少し
指を動かした。
彼が昔よくやっていた行動が、今の月姫にとっては懐かしく感じられる。
「良いって、俺はな…かぐはトイレやお風呂見られても平気なのか?」
「そ、そこは目隠しとヘッドフォンで…」
すぐさま打開案を見つける月姫。
アイマスクやヘッドフォンぐらいならすぐに調達できる代物だろう。
「…ったく、本当に世話が焼けるな」
再び長い溜息を一つ吐き出して蒼太は月姫の手を握った。
突然の積極的行動に月姫は一瞬頬を赤らめる。
「まだ後1部屋のチェックが残ってるから付き合って」
こうでもしなければ1m以下の距離を保つのは難しいからとった蒼太の行動。
他意はないが、こんな行動一つでも彼女の胸はときめいてしまうのだった。
「は、はい」
早歩きで歩幅を合わせるのがやっとだが、2人の接触にブッチのディスプレイは
青色を示すのだった。
アフタールームのチェックを終えた2人は早々にアレテイアに向かい、着替えを
行っていた。
まずは蒼太が、いつもの黒服に着替え、次に月姫がメイド衣装に着替えを始める。
毎日同じ衣装と思っていたが若干違いがあるようだった。
色も黒を基調としながらも青系、紫系があり、あれでもない、これでもないと
何着か鏡を見ながらあてがい今日の衣装を選んでいた。
ようやくフルセットがまとまったところで、月姫は先ほど用意したアイマスクと
ヘッドフォンの着用を蒼太に促した。
幸いにしてヘッドフォンの音楽は好きなものを大音量で聴いてよいとのことで、
まさに渦中にあるTBKの楽曲を選択した。
早い時間に来たこともあってまだキャストも衣裳部屋には誰もきていなかった。
たとえ来たとしても今の蒼太には視覚も聴覚も遮断されているので確認しよう
がない。
着替えに夢中になるあまり、なんどかブッチから電子警告音が流れるが、
それさえも今の蒼太の耳には届かなかった。
月姫が一人慌てふためきながら、かろうじて一度も電撃を受けることなく
着替えを終えメイク直しに着手する。
他のキャストが来るには早い時間だったが、いつも用意の早い今日出番の
キャストがそこに姿を現した。
「あら、早いなムーン。ん?男連れか?」
目深にフードを被った長身の女性。
この部屋に入ってフードを取ると、白髪の短髪、フレームが赤いアンダーリムの
眼鏡を着用しており、体の線はすらりと細い体型をしていた。
「おはようございます、璃知さん。実は事情があって…星詩瑠さんが
開発したアプリでそうちゃ…この男性の方と離れられなくなってしまっていて…」
隣で鼻歌を歌いながら座り込む蒼太を指差し応える月姫。
「離れられない?」
その言葉に疑問を抱くリチ。
見たところくっついているわけでもないし、2人が何かで繋がっているようにも
見えない。
「ええ、一定距離離れると数秒後にお互いのブッチから
強い電流が流れる仕組みになっているようで」
「なんでまたそんなものを?」
次々と疑問が生まれて来る月姫の台詞。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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