第6話-5/14
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
地上から十数メートルの高さを蒼太を掴んで飛ぶツバキ。
蒼太にとってはもちろん初めての経験で、この手の類の遊園地の
アトラクションは自慢じゃないが苦手としていた。
股間に感じる男性特有の寒気を感じながら、極力下を見ないように努めて
ツバキに身を委ねていた。
スピードにして時速40Kmぐらいだが、体感速度はそれをはるかに上回り男は
恐怖を感じずにはいられなかった。
その恐怖の時間も数分程度、ツバキは月姫の姿を見つけると、追い付き彼女の
そばでゆっくりと着地するのだった。
「見つけた…ムーンさん…」
ツバキに連れられた顔面蒼白の蒼太と目が合い、月姫はその視線を逸らした。
地面に足が付いたものの、男の恐怖からくる震えは収まっていない。
「ごめんなさい、ムーンさん…でもこのままではきっと…後悔すると思う…
だから、2人で話し合って…私は帰るから…」
深く頭を下げてツバキは途切れ途切れになんとか言葉を繋いだ。
「ありがとうツバキさん」
月姫の顔を見れば泣いた後だとはっきりわかるほど彼女の目が赤く、頬に
その軌跡が残っていた。
ツバキは言い終わるが早いか再び羽ばたき始めると上空へと向かって飛びあがり、
元来た場所へと飛び去ってしまった。
残された2人…重い口を先に開いたのは月姫の方だった。
「そ、そうちゃん…」
名前を呼ぶのがやっとの彼女。
しばらく待っても次の言葉は出てこなかった。
蒼太もようやく恐怖心が無くなり、ツバキが用意した挽回のチャンスを
なんとかしようと頭をフル回転させ、言葉を選びつつ絞り出すように話し出した。
「ごめん、かぐ…その急展開過ぎて色々…ごめん」
「べ、別に追ってこなくても良かったし、謝らなくても…
解雇とかしないからしっかり仕事をしてくれたら」
妙によそよそしく月姫は蒼太に応えた。
彼女にとっては彼に対して告白したに近い内容の話。
その返事も決して色よいものではなく今に至っている。
「それは分かったけど…さっきからかぐの様子も変だ、
みんなが居た手前茶化してしまったけど、かぐのことは、き、嫌いじゃないし…
その、結婚とかはまだまだ考えられないけど…」
2人きりだからこそ言える本音。
その一言、一言が月姫の胸に届いていた。
「そうちゃん…」
ようやく月姫の顔が綻びを見せる。
笑顔とまではいかないが、険しい表情でも悲しむ表情でもない穏やかな顔色に
蒼太も思わず笑みが零れた。
決して頭が良いとは言えないが彼は思考回路をオーバーヒート気味に作動させ、
最善の言葉を選び出し言葉にする。
「友達以上、恋人未満ってどうかな?」
言い終えると同時に歯を見せ満面の笑みを浮かべる蒼太。
彼の中では今言える最高の台詞だった。
「はぁ?」
月姫の中で様々な感情がマーブル模様のように混じり合い、結果として
素っ頓狂な声を発してしまった。
が、時間が経つにつれ徐々に様々な感情の中から怒りが非常に色濃く他の感情
を飲み込んでいく。
「ほら、まだ再会して間もないからさ、お互いの事ってよくわかってないし…」
一人で話を続ける蒼太。
だが、その台詞はもはや月姫にとっては戯言にしか聞こえていない。
「はい、わ・か・り・ま・し・た!」
一言、一言はっきりと力を込めて彼女は男に叩きつけるように吐き出した。
言っても無駄と分かりながらも彼女は彼に対しての怒りが収まらない。
「あれ?まだ怒ってる?」
月姫の怒りの原因がまるで自分のせいではないかのように問いかける蒼太。
「当然でしょ!お互いのことが良く分かってないって?
幼稚園から中学卒業までずっと一緒に居てまだ分からないの?
私だってそうちゃんがそんな答えしか出さないってわかってたし!
でも腹がたつの!」
もはや彼に対してを通り越し、そんな彼を理解しつつも惚れてしまった自分に
憤りを感じ始める月姫。
地団太を踏み、それでも発散できずに彼女は履いている靴を脱ぎ始めた。
何をしだすのかと傍観する蒼太にその靴が飛んでくる。
「もぉ!この!このっ!」
「いてて、分かった、分かったからかぐやめなって!」
右足の靴だけでは物足りず、左足の靴も脱ぎ始めた彼女の行動を止めるように、
蒼太は月姫の手を掴んだ。
なんとか振り払おうとするがなかなかどうして蒼太の力が強く、彼女の動きは
束縛されてしまう。
「分かってない!分かってないから平気で翼姫さんに出会って一日で
告白しておいて私には友達以上、恋人未満で!なんて言えるのよ!」
心の限りに叫ぶ月姫にようやく蒼太も自責に駆られたようだ。
彼女の言う通り、ツバキに対しては一目惚れに近いものがあった。
外見、仕草、性格どれもが彼の望む最高の形がツバキだったからだ。
返す言葉が見つからないまま月姫を取り押さえる蒼太。
「だからありもしない鉄の掟を決めたのに…」
「えぇ?」
ぼそりと呟き落とした月姫の言葉に蒼太は思わず声を上げた。
「そうちゃんはキャストが住んでいるような世界の話は好きそうだったし、
本当に目の前にそんな女性たちが現れたらって…
ましてやそこを職場になんかしたら絶対…」
彼女の考えは杞憂ではなかった。
現にその通りになってしまい、今日のような事態にまで発展してしまったからだ。
いつの間にか蒼太は月姫を抱きしめていた。
もちろん拘束するのが目的だったが、抱きしめているからこそ彼女の身体が
小刻みに震え、痛いほどにその気持ちが肌を通して伝わってきていた。
そんな彼女になにか応えれる言葉があるはずだと蒼太は今日一番、
頭を使い浮かんだ言葉をパズルのように組み合わせ最高の台詞を作り上げていく。
時間にして10数秒、長く感じれる時間だが、月姫も彼が何かを考え伝えようと
しているのが分かったようでその時を待つことにした。
重い口がついに開かれる。蒼太の気持ちを込めた彼女への言葉…
「わ、わかった!じゃあかぐのことは友達以上はもちろん!
恋人以下での付き合いにしよう!」
「い、いかって…」
「ほら、未満は恋人にならないけど、以下だと恋人も入る意味って
算数で習わなかった?」
やはり蒼太は蒼太だったのだ。
またしても期待して待った自分をこれ以上ないぐらいに月姫は後悔し、それと
同時に三度沸騰したように怒りがこみ上げてくるのを感じた。
「馬鹿っ!以下って聞いたら普通それよりも下って意味でしょ!
最低!ほんと最低!最低の最低の最低!」
抱きしめられている状態から逃げ出そうと必死に抵抗する月姫だが、
如何せん男の力は強く拘束を解くことはできなかった。
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ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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