第4話-2/9
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
少し前の危機を救ってくれた相手をぞんざいに扱うことができず、今度は容認
してしまう蒼太。
次から次に会わられるキャストに蒼太に新たな考えが浮かんだ。
「ここにいてみんなに挨拶した方が良いかな?」
相手が月姫なら適切な回答を期待できたが、蒼太の腕をくんか、くんかと嗅い
でいるサキからまともな返事があるとは思えなかった。
予想通りサキからの返事はなく、右手にしがみつくぬいぐるみのような感覚で
蒼太はその様を見つめていた。
やがて次に現れるキャストに対してわずかながら期待が膨らむ。
しかし蒼太の期待に背き新しいキャストはすぐさま転送装置から現れはしな
かった。
代わりに2人の前に現れたのは先ほどホールに向かった人物、リリだった。
相変わらず彼女は怒った表情のまま扉から半身を乗り出し、棒立ちしている
蒼太に向かって大声を浴びせた。
「暇なら手伝うニッ!えっと…名前は…バイなんとか?」
「バイトは名前じゃなくて蒼太って名前だよ」
勘違いして名前を覚えようとしていたリリの声に負けじと蒼太も大声で応える。
「ね~そうちゃ~ん」
蒼太に相槌を打ってフォローするサキだったが、この時がチャンスとばかりに
彼女の一瞬の隙を突き蒼太も行動に移した。
手伝うべくホールに向かって駆けだす蒼太。獲物に逃げられたサキはしぶしぶ
その後をゆっくりと歩いて追った。
「ソウタか分かった、とにかく手伝うニ!」
リリは蒼太が来るのを知って扉を開けて到着を待つのだった。
ホールでは先についたグミとシノが仲良く、ノノはその体躯を生かして2人分の
働きをしていた。
先程殺気を放っていたノノとは同一人物とは思えない程和気あいあいと楽しく
作業に取り組んでいるようだった。
その中にリリも加わり、雑談が飛び交う中、グミが備品をテーブルに並べシノが
一つ一つチェックしていた。
「楽しそうだね」
その中に入るタイミングを失った蒼太は壁際で一人佇んでいる。
「そうね~タノしい?タノしい…かな~、タノしいかもね~」
少し遅れて蒼太の横に並ぶサキ。今度は彼の手に絡まろうとはせず、腕を組み
ながら同様に四人を見守っていた。
「まるで学生時代みたい」
思わず蒼太は想い出に浸る。
放課後、クラスメイトと他愛のない話をしながら教室の掃除をしている光景が
浮かぶ。
目の前の四人はまさにその時の自分たちに似ていた。
ただ本来ならさぼる男子生徒を口うるさくしかる女子生徒がいたりするが、
女子生徒役の自分たちはただ見守るだけだった。
「そうちゃんもマざれば~?」
「今日は遠慮しておくよ」
極度の人見知りと言うわけではないが、初対面の面々に気安く混ざれるほど
蒼太は社交的ではない。
リリ、グミ、シノ、ノノ。この四人は先ほど挨拶を交わした程度の仲だ。
しかし片隅で佇んでいた蒼太に向こうの方から歩み寄ってくる人物が居た。
「ねぇねぇ、ぼっとしてるならボクたちのお手伝いしてよ」
ムスっとした表情で腰に手を当ててグミが蒼太を睨みつけて来る。
睨みつけると言ってもそれほど脅威を感じる凄味はない。
どちらかといえば拗ねていると言った方が表現的にはあっているだろう。
「アタシはみんながマチガわないか~カンシしてるのよ~」
しみじみと頷きながらサキはグミに応える。
「お隣さんは?」
「タブン~さぼり」
サキの突然の裏切りに蒼太は耳を疑ったが、言い訳のしようが無い現状に
甘んじてその身をささげる覚悟をした。
いや、むしろ蒼太によっては4人とお近づきになる良いチャンスとなる。
「さぼりだめっぜったい!手伝ってよ、えっと…なにくん?」
「改めて蒼太って言います」
「そーくんだね、お手伝いお手伝い!」
グミは蒼太に駆け寄ると、その手を取り持ち場へと向かって一緒に走るように
促した。
彼にはその手が妙に冷たく感じたが、女性特有の冷え性だろうと自己解決して
しまう。
「部屋見て来るねー、ここよろしくー」
人手が一人増えたことで、チェックを行っていたシノは別の持ち場へと向かう
べくリリに声をかけ、VIPルームへと向かっていった。
ホールから繋がる部屋は個室が4部屋VIPルームが2部屋あるが、そのどれ
にもまだ蒼太は足を踏み入れたことはなかった。
開店準備を行っていた蒼太だが、時間が経つにつれ徐々にキャストの数も増え
気がつけば15人を超える大所帯になっていた。
そうなれば勝手の分からない蒼太は足手まといにしかならない。
おのずと持ち場を失い、最終的には邪魔にならないように隅っこで待機すること
となってしまった。
傍観すること十数分、何人か知った顔を見かけるが蒼太にとってはまだ名前すら
知らないキャストが多数いることに気づく。
「首尾は順調かしら?」
突然の声掛けに驚く蒼太。
いつの間にか月姫が彼の隣に立ち、ホールの状態を眺めていたからだ。
「多分…ってみんなの方が分かってるみたいだから」
彼女は他のキャスト達と違いいつものようにメイド衣装に着替え、真ん丸眼鏡で
いかにも仕事が出来そうなメイドの雰囲気を醸し出していた。
事実仕事に関しては非の打ちどころがないとは言える。
「いつもそうなの、だから私は私の仕事に集中できるって感じで…」
もうホールでは全ての支度を終えたキャスト達が和気あいあいと雑談を楽しんで
いるようだった。
一目で異住人と分かる特徴を持ったキャストも居れば、見てくれでは全く普通の
人と区別がつかないキャストも居る。
蒼太にとってはリリもその一人だ。
名前は教えてもらったが彼女が本当に異住人なのか人間なのかは分かっていない。
おそらくというか十中八九は異住人だと推測するが、彼女の種族が何か検討も
ついていない状態だ。
リリだけではなくグミもシノもどの種族か断定できる特徴は持ち合わせて
いなかった。
かろうじてノノは巨人の類だと予想はしていたが…
「あのさ、一つ思ったんだけど…」
隣にいる月姫に聞こえる様に蒼太は言葉を投げた。
「何か?」
「俺が覚え悪いだけかもしれないけど、名札?付けたら分かりやすいと思う」
このお店ではお客ことファナーの愛称は入店時に確認し、それらをキャスト全員
に共有している。
ファナーは名札代わりの名刺をテーブルの上に置いておくことがルールとなって
いるが、キャストの名前は開示されていない。
名前を名乗ってハグ、そして頬のキスをするというISK独自の挨拶で名前こそ
伝えるがそれを全部覚えているファナーは滅多と居ない。
ファナーとして来た蒼太だからこそ、そこにニーズがあるはずと提案を投げ
かけるのだった。
「名札…そうね、それもありかもしれないわね」
今更感はあるが、名札は新規ファナーにとっては助けとなることだろう。
今は気に入ったキャストが居ても指で指名するか、常連であればアプリ経由で
指名することはできる。
慣れれば必要ない話だが、ご新規さんにとって名札はありがたいツールの一つ
にはなるだろう。
「かぐは全員の名前とかって憶えてるの?」
「毎日仕事をしていると自然と覚えてしまいますよ。
でもそうちゃんが言った名札があればファナーにも覚えてもらいやすいかもね」
「慣れないうちはね。呼び間違えると失礼だと思うし」
呼び間違えるよりは、失敗しないように名前ではなく君や貴女と呼ぶことが
多くなるだろう。
月姫に至っては確かにムーンと呼ばれるより「君、君」と呼ばれることが
多かったことを思い出す。
名札を付けることによって名前を呼ばれるとは限らないが、何も変わらない
よりはましだと思えた。
「すぐにでも採用して明日からでも取り掛かるわ」
さすがに200人分を一気に作ることができないにしても明日出勤する
キャストの分ぐらいは作ることができるだろう。
「何かお手伝いすることは?」
彼女の早い決断力に蒼太は提案した本人として何か助力することはないかと
問いかける。
しかし月姫は受け取り方を間違え今の状況下での蒼太に出来る役割がないと
いう意味で解釈してしまったようだ。
結論的には何もなかったようで、この後のキャストとして彼の立ち回りを
模索する。
「…そうちゃんも着替えてきたら?
アレテイアの衣裳部屋で男性用の制服もあったはずだから」
月姫はまだしも周囲を見渡せば蒼太の服装がいかにも浮いているのが分かる。
ファナーとして来店しているならまだしも、この服装ではだれからもキャストと
は思われないだろう。
「今から?」
「ゲート…さっきの転送装置を使えばすぐに行きかえり出来ると思うから」
そう言って月姫は厨房の方を見やる。
確かにゲートを使えば着替える時間を計算しても10分程度で行き来はできる
だろう。
「分かった行ってくるよ」
そうと決まれば善は急げと蒼太はここに残りたい気持ちを抑え、アレテイアへと
向かうため厨房へと駆け出した。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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