第3話-7/9
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
「そろそろお昼にしますか、近くに食堂がありますから」
気がつけばすでに正午に近い時間帯だった。
ここに来てからは覚えること、やることが多くてあっという間の時間と蒼太には
感じられた。
ただ体は素直なもので食事をとれると聞くと同時に空腹を感じてしまう。
月姫が席を立つのに合わせ、蒼太も席を後にした。
「そういえば昨日も紗希さんが~」
少し後ろを歩いていた蒼太に歩みを合わせ、月姫が話を始める。
内容は他愛の無い事だったが、自然に話しかけてくれたことが蒼太には嬉しく
思えた。
触れてはいけない話題はたくさんあるものの、昔の関係に戻ったみたいで彼は
笑顔で話を聞くのだった。
程なくして着いた食堂はフードコートを思わせる様に、20ほどの4人掛け
テーブルと10人ぐらいが談話できる大きめのテーブルが2つ準備されていた。
4人掛けのテーブルに先ほど同様向かい合って座る蒼太と月姫。
「まだ使ってなかったですけどもう一つ別のアプリを開いてみて」
勤怠管理用に入っていたアプリの隣をタップするとまた違うアプリが起動された。
月姫が蒼太のスマホの画面をのぞき込みながら順番に操作を進めていく。
「これはここの住人用のアプリで食事をタップして…
するとここのキッチンと連動されるので…」
「あ、メニューが表示された」
メニューの数は豊富で大きな分類でも和風・洋風・中華風・欧風などから選び、
今日のおすすめなどが表示される。
中にはエジプト料理などもあったが蒼太は好奇心で食欲を満たすタイプでは
なかった。
「今日ある材料から作ることが出来る料理が表示されています、食べたいものを
タップすれば調理されるのでテーブルで待ってれば出てきますよ」
「え?なんでも作れるの?」
「基本表示されればそれは全部出すことが出来るシステムです」
そう答えながらも月姫は自分のスマホを操作しつつ、応えていた。
彼女も空腹を満たすために今日の昼食を選んでいる最中の様だ。
月姫が何を選ぶのかと思いつつ長い付き合いだがそこまで彼女の好き嫌いを
知っているわけではないと今更ながら思ってしまう。
強いて言えばトマトが苦手だったことぐらいは古い記憶の引き出しから取り出す
ことが出来た。
「誰かが調理してくれてるの?」
ありきたりと思いながらも蒼太はカレーライスを選択し、いつもの癖でスマホを
テーブルの上に伏せて置いた。
蒼太は食に関してはこだわりがある方ではない。変色でもなければいたって普通
と自己評価では付けるだろう。
しかし大半はよっぽど物好きでもない限り自身を変わっているとは
評価しないだろうが…
「お店でもお手伝いしてくれてますよ、ルカさんやネネさんが洗い物が得意な
ように料理するのが得意なキャストも沢山いるので」
この3日間ISKで皿洗いのバイトをしていた蒼太。
皿洗いに得意も不得意もないだろうと思っていたが、彼女たちの技を見ればその
域を脱していることが分かった。
あの二人を思い出し、月姫の得意なキャストと言った相手の調理風景を思い浮
かべる。
そういえばネネはいつも歌いながら、ルカは蒼太とのおしゃべりを楽しみなが
らだが数時間ずっと洗い物をしていたことを思い出す。
「ずっと働いてる感じ?」
彼女たちは働くことを苦と思わないだろうかとふいにわいた素朴な疑問。
月姫はあごに指をあて、少し目を瞑った後ゆっくりとその言葉を否定した。
「それとは違いますね、ルカさんもネネさんも洗い物を仕事と思ってなくて…
例えるならそうちゃんがゲームしたり、カラオケしたりとか遊んでる感覚に
近い感じですね」
蒼太は自身のその光景を思い浮かべる。
例に出た娯楽はあくまで楽しんでやっている。
好きなことを仕事にできるのは最良だがとてもあの二人がそう感じているとは
思えなかった。
「もっと簡潔に言えばスマホでパズルゲームをしてるとかそんな感覚に近い
感じで従事してくれてますよ。私にとっては感謝しかないですけど…
キャストの大半はお店のお仕事も働くというより遊ぶ感覚に近いみたいです、
不思議なものですけど」
切り口を変えた月姫の言葉に、蒼太の疑問も腑に落ちた。
ある種目的があってゲームを嗜む事もあるが、手持ち無沙汰や暇つぶしで惰性で
それらを行う時もあった。
ただ毎日となれば話も変わってくるだろうが…と思ったものの変わらないかと
心の中で呟いた。
「そうなの?なんか意味なく尊敬しちゃうな」
能天気に見えたルカだったが、次に会った時は彼女の見方を変えなければ
いけないと思った。
「私も脱帽です」
注文を終えた二人はそのまま談話に花を咲かせることになった。
今度は蒼太が主導権を持って、皿洗いの時の話題やコンビニのバイトで出会った
変わったお客さんの話で盛り上がっていた。
注文を終えて5分程度経った頃…
「おまたせ、バーニャカウダにカレーライスでーす」
女性の声と共に注文の品が運ばれてくる。しかもそれはあの時と同じ空路を
使っての輸送だった。
アレテイアでは散見した妖精たちがトレーに乗せて飛びながら持ってきていた。
飛行速度は速くはないが、混雑時でも他者とぶつかる可能性は低いだろう。
月姫の前にバーニャカウダが、蒼太の前にカレーライスが用意される。
食器ケースもお好みで選択できるよ数種類のカトラリーが入っていた。
「いつもありがとうね」
用事を済ませ、戻ろうとする妖精たちに月姫が声をかける。
「どういたしまして、ムーンさんまたお店でね」
彼女たちは快く謝辞に応じると、バイバイと手を振って飛び去ってしまった。
「えっと、え?」
「妖精さんですよ、ピクシーさんとかフェアリーさんとか」
先ほどまで何度も見てきたであろう存在に疑問符を浮かべる蒼太にいまさら何を
言わんとばかりに月姫は応えた。
「それは分かるけど…あれも労働じゃなくて?」
「そうですね、多分本人たちに聞いてもらえば分かりますけど、キャストは
働いているって感覚を持ってる人はいませんね」
あ、そっちの意味でと月姫は瞬きをした後、先ほどと同じ内容の台詞を返した。
その後、両手を合わせて「いただきます」と小声で呟き、手ごろな野菜を手に
取った。
「そうなんだね、変わった感覚だよね」
月姫の言葉に返事をすると蒼太も倣って食事を始めることにした。
食事をつづけながら蒼太は伏せていたスマホを表に向け、表示される時刻に目を
やった。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
誤字脱字のご報告いただけると助かります。
応援していただける方は、ぜひここで☆の評価とブクマをお願いします!!




