第2話-7/9
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
エレベーターは6人乗れる程度のそれほど広い空間ではなく、
ホールが地下1階、フロントの1階と5階までのボタンがあった。
サキは3階のボタンを押し、目的地へと向かった。
蒼太の背中からは熱にうなされる月姫の吐息が漏れる。
意識は朦朧としている様子で、目は閉じたまま熱にうなされている感じだった。
サキを先頭に彼女の背中を追いかける蒼太。
3階に上がると通路を挟み両方に扉があった。
手前と奥に見える扉の数からしてこの階には4つの部屋があると推測できる。
奥の右側の扉に、サキがブドウッチをノブの部分にかざすと「カチャリ」と
金属音が響き解錠されたことが分かった。
扉を開け、サキが二人を招き入れる。
蒼太たちが案内された部屋は赤紫を基調とした見覚えのある間取りだった。
蒼太がここで働くきっかけになったあの部屋。
彼が介抱された部屋だ。
優に大人二人は眠りにつくことが出来る大きめのベッドに月姫を寝かす。
今の状況下では邪魔にしかならないであろう頭飾りを外し、再び蒼太は彼女の
額に手を当て自身の額との温度差を確認する。
やはりかなりの高熱で、明らかな体温差を感じることができる。
前回はこの部屋を散策することが出来なかったが、
今回は月姫の容態が悪いこともありそれを改善させるためのものを探しに
部屋の中をうろつき始める。
先ほど月姫を寝かせた大きめのベッドに反対側の壁に添えつけられた
60インチ程度の液晶テレビ、奥には談話用のソファーと小さなテーブル。
クローゼットにトイレと思われる個室。扉とは逆側の壁に大きめの窓があるが、
カーテンの他に外側には雨戸が添えつけられている。
部屋の4分の1程度をガラスのパーテーションで区切られており、一部は擦り
ガラスになっているがそこがバスルームになっているのは見て取れる。
少し広いホテルの一室に思えるがビジネス用の物ではなく男女がひと時の悦楽
を楽しむためのいわゆるラブホテル的なつくりだと分かる。
注視すればテレビの横にマイクも置かれているのが見て取れる。
テレビの下部に蒼太が探しているものが目に入った。
小さめの冷蔵庫が2台、ただ1台は冷蔵庫のように見えたが物販用の
ショーケースだと分かる。
氷嚢を作るつもりで蒼太は冷蔵庫を開け、中を探る。
水、酒類が並び、上部に自動に製氷されるであろう僅かな氷が目に入った。
次に袋を探し、その中に氷を入れ、トイレに設置されていた洗面台から水を
供給して簡易的な氷嚢を作り上げた。
月姫の様子を見ているサキを尻目に、彼女の額に即席の氷嚢を乗せる。
固定する方法はなかったため彼は自身でそれを支えるしかなかった。
「なにそれ~」
問いかけるサキ。
「ムーンが高熱でうなされているから少しでもそれを和らげるように
頭部を冷やすんだ」
「そうなんだ~、コウカあるの~?」
「劇的とはいかないけど、古来より伝わる方法だから意味はあると思うよ」
サキの問いにそう答えたものの、確かにそれが今の月姫にとって効果的な方法
とは言い切れなかった。
夏場に発生する熱中症の対策としてもわきの下や、首筋に氷をあてて体温を下
げるのは効果的と言われている。
太い血管を冷やすことで全身の熱を除去し、改善に努めるが額が本当に正しい
のか分からない。
「それじゃおミセにもどるね~、ヨウがあったらヨびダしてね~」
しばらくその様子を見ていたサキだったが、彼女はこの場に居ても仕方ないと
判断しホールに帰ると言ってこの場を後にしてしまった。
取り残された蒼太は連絡が出来ない状況に不安を感じたものの、彼女一人を
残してこの場を離れるには抵抗があった。
何よりこの熱の原因が分からなければ対処法も見つからない。
情報を得たいと思ったものの、肝心の彼の手荷物は地下のキッチンにまとめて
おいてしまっている。
最低限それを取りに行ければ…などと考えていると不意に入り口の扉が開いた。
サキが戻ってきたのではなく、すらりとした長身の女性が現れる。
白いドレスが絶妙に似合った透明感のある白い肌。
ルカやネネと違い透過しているわけではないが非常に白い陶器を思わせる感じ
の女性が部屋に入ってくる。
「失礼します、ムーンさんが倒れたって…」
手には枕を持ち、月姫と蒼太の元へと歩みを進めた。
すぐさま月姫の枕を彼女が持ってきた枕と入れ替え、そのまま胸元に手のひら
を乗せた。
彼女は静かに目を伏せ、何かを感じているようだった。
何かを悟ったようにゆっくりと目を開けると、それを見つめていた蒼太と目が
合った。
「ん?私の顔に何かついてます?」
「ご、ごめん。ちょっと見惚れちゃって…」
正直なところだった。
彼女が部屋に入ってからその美しさに惹かれ、視線が釘付けになってしまって
いた。
一度目にしたことがある彼女の顔。
その時もそうだったが絵画のように整った顔立ちに心が奪われる。
「うふふ、ありがとう。わたくしは優雅、あなたは最近入ったスタッフさんね?
お顔は拝見していますわ」
柔らかな笑みを浮かべ、ユカは再び月姫に向き直った。
「では…始めますね」
言うと同時にユカが月姫にあてがっていた手のひらがポウと小さく光った。
その光は継続的に灯り、それを見ているだけで蒼太の中にも優しい気持ちが
溢れて来る。
見てくれでは分からないが彼女も間違いなく異住人だと推測できた。
その証拠に頭部に小さな角が生えてあったが、そこに気付くほど蒼太も
目ざとくはなかった。
「もしかして…魔法?」
蒼太はユカのそれを見ながら問いかけた。
幻想世界では日常的にありふれている魔法。目の前の光景はまさしくそれに
該当するように思えた。
「魔法?そういう表現もありますね、ただしくはスキルですよ」
予想は外れたがあながち外れでもない答えだった。
仕事仲間で働いていたルカやネネが食器の洗浄をいとも簡単にやっていたのも
この類のものだ。
「おそらくムーンさんは疲れが溜まっていた、過労からきた発熱と思われますね。
病気や精霊が悪さをしているものではないようです」
「そっか、安心したよ」
胸をなでおろし蒼太は数日前わずかに交わされた月姫とのVINE内容を思い
出していた。
まだ彼女と再会して蒼太の心の中に淡い期待を抱いていた時に少しでも距離を
縮めようと食事に誘うため彼女の休業日を訪ねた時に「なし」と返ってきた
こと。
出勤に関しては蒼太より遅く店に来ているが、最終時間までは残っており1日
も休むことができないとなれば疲労が溜まるのも仕方ないと思えた。
とはいってもそのことに関して今の蒼太に何かできるわけでもない。
「そういえばあなたは先日からお店でお見掛けしますね」
「あ、蒼太って言います。ユカさんはここ長いんですか?」
「長い…かもしれませんね、色々ありましたし」
しばらくユカがその状態を続けていると、つらそうにしていた月姫の表情が
徐々に和らいでいくのが見えた。
徐々に呼吸も落ち着き、規則正しくゆっくりとした息遣いへと変わっていく。
「後は時間薬で楽になると思いますが、
蒼太さんに少しお手伝いいただければと…」
ユカは右手を月姫に添えたまま、左手の甲で額の汗を拭いながら言った。
「俺が出来ることならなんでもするよ」
「そうですか…では」
傍観する事しかできなかった蒼太だったがユカの申し出に二言返事で
身を乗り出すのだった。
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ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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