第2話-3/9
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
急遽バイトを始めるといった突発的な行動に出てしまった蒼太だが、
今までのバイトもおろそかにすることはできなかった。
時間を問わずシフトに入っていたが、ISKのバイトを優先するため夕方から
夜間のシフトを外してもらい、日数・時間共に今までの半分程度にまで
減らしてもらうことにした。
ただISK一本に絞るにはギャンブル要素が強いと感じており、
本音としては皿洗いという仕事内容に対して意欲がわかなかった。
夢のような世界は楽しいがそれは客として行った時の事であり昨日の仕事内容
ではその欠片も感じることが出来なかった。
いつISKを辞めても、そして辞めさせられるかもしれないための
保険は残しておきたかった。
今日も今までのバイトが11時から18時までのシフトを少し変更してもらい
急用が入ったとのことで15時までの融通を利かせてもらった。
近所のコンビニのバイトだが、他のメンバーも快く、
居心地の悪い場所ではなかった。
すでに半年以上努めていることもあり、お客さんにも顔が馴染んだ頃あいだ。
バイトを終え、家まで5分程度、帰宅後軽くシャワーを浴び、
ISKまでの通勤時間が15分。
タイトなスケジュールだが、余裕がないわけでもない。
時間の配分は間違いなかったようでISKの前についたのは
15時50分頃だった。
いつもの階段を降り観音扉を開くと、まだ準備中の店内には活気はなかった。
後一時間もすれば前半のキャストが揃い、ファナーも入店してくるだろう。
昨日と違い店内は明るく、何人かのキャストがうろうろと準備を進めている
ようだった。
蒼太の持ち場はホールの奥、キッチンを兼ねたスタッフルームまで歩みを
進める。
準備をしているスタッフの中にミオの姿はなく、見知った顔が居なかったため
あえてキャストとの接触を避ける形でキッチンへとたどり着いた。
ホールのキャストはほとんどが蒼太が勝手に名付けた
【異世界の住人】=【異住人】であるが、蒼太と同じ普通の人達も少なからず
居た。
もちろんキャストの中にも普通の人もいるが極稀であり、探す方が難しい
ぐらいだった。
今日はキッチンの中には蒼太以外にも一人異住人が居た。
一目で異住人と分かる出で立ち。
初日ファナーとして訪れた時も居たかもしれない人物。
身体が半透明で向こうの景色が透過して見える人物。
脇ぐらいまである緑色の髪に、緑色の瞳、体はやや青みがかった色をしていて
白いエプロンを羽織っている。
蒼太が初日に見かけた同じような感じの女性とは雰囲気も少し違う感じがする。
彼女は蒼太がキッチンに入ってくると同時に存在に気づいたように振り返り、
笑顔を零す。
「あなたが新しいキャストネ」
まるで水中で話しかけられているように声が少しくぐもって聴こえる変な感覚。
明るい雰囲気でエプロンの脇からはみ出て見える大きな胸。
男の性に逆らえず蒼太の視線はそこに向いてしまう。
ここのキャストは採用条件なのか比較的胸の大きい女性が多い気がする。
「あたし流夏って言うの、よろしくネ♪」
そういうとルカは歓迎の意味を込めて両手を広げ蒼太にハグを求めた。
断る必要もなく蒼太は彼女の求めるままに歩み寄ってハグを交わす。
柔らかいではなく軟らかい明らかに人とは違う肌の感覚戸惑いを見せる。
そんな彼に頬を寄せ、耳元で甘えるような声をだすルカ。
「あんまり【ギュッ】としちゃ、だ・め・ヨ♡」
少しの時間抱き合っていたものの、蒼太は慌てて体を引き剥がすように離れた。
衝動的に抱き着く腕に思わず力を込めそうになったからだ。
「そこはぎゅっとするとこなのニ~」
すねるように口を尖らせルカは言った。
抱き枕、いやそれ以上に軟らかい水枕のような彼女の身体。
「あたし水系だから大丈夫ヨ」
くねくねと体をくねらせ、ルカは続けた。
目の錯覚か時折彼女の身体が人型を形成していない時が垣間見れる。
「水系?」
専門用語的言葉に蒼太は復唱する。
ゲームなんかではよく聞く言葉だが彼の認知している水系とは大きく
何かが違うと悟った。
「え?知らない?おいおい教えたゲル」
もったいつけはにかむルカに蒼太はあえて追及することはなかった。
開店までまだ少し時間がある間に親睦を深めようと二人は他愛のない会話に
花を咲かせた。
そんな彼に頬を寄せ、耳元で甘えるような声をだすルカ。
時間は瞬く間に過ぎ、ホールの喧騒が営業が始まったことを間接的に二人に
伝えた。
開店から少し過ぎたころ、この日初めての洗うべき対象物のグラスが二人の
元に届いた。
「洗い物はあたしだけで大丈夫なのにネ」
「今はまだ始まったばかりだけど時間が経つと溢れて来るよね?」
「ん~週末は大変だけど平日はそうでもないかナ」
グラスが届いたのは二人が丁度そんな話をしていたところだ。
ルカはそれをシンクに入れず右手で持つと不思議なことに彼女の腕から水が
生き物のようにグラスを包み込み、球体のような形をとると
同時に中でグラスに泡が付着し、まんべんなく泡が塗布された後、少し時間が
経ちその泡がルカの右手から腕・肩を通り、左手へ泡が移動していき、
左手をシンクに置くと泡がそのままシンクの中へと流れこんだ。
時間にしてわずか数秒程度。
右手の球体がしぼむとそこには人型の手が再び形成され、持っていたグラスが
ピカピカに磨かれたように光っていた。
「後は水を切ってくれたらおしまイ」
と言いながらルカは右手のグラスを蒼太に手渡した。
あっけにとられる蒼太。どう見ても渡されたグラスは汚れ一つついていない
綺麗なものに見える。
「すごいね」
一種の感動を覚え、蒼太は感嘆の声を上げた。
そのグラスを受け取り、ふきんで水けをふき取った。
ルカの作業は蒼太が食器を洗うスピードと比べれば10倍どころで済まない
だろう。
「あたしとかネネちゃやライムちゃなんかはこんな感じで洗っちゃうヨ」
と名前をあげられるものの蒼太が知っている人物の名前はない。
いや、正確には憶えていないのだった。
今のやり方がルカだけのものでないとすればオカルト的な話になるが蒼太自身
も彼女が使っている魔法のようなものが使えるのかと打算する。
「すごい技だね、やり方を教えてもらえるものかな?」
「まずは体の一部を水にする所からチャレンジかナ」
「一生できない気がします…」
あえなく撃沈。体の一部を水にするなど今の蒼太に出来るはずがなかった。
と言っている間にも徐々に洗い物の来るペースが上がり、
洗浄場が持ち通り戦場となり始めた。
とはいえ昨日の二の舞にはならず、シンクがいっぱいになるほど洗い物が
溜まることはなかった。
むしろふき取る蒼太の方がルカより時間がかかってしまうほどだった。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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