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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第19話-3/7

落ち込むミライを一瞥した後、蒼太は場が落ち着いた頃と見極め、咳ばらいを一つしてから約束を果たすべく決意を決める。


「…イマリ。君には言っておかないことがあって…」


「なになに?改まっちゃって、もしかしてプロポーズ?」


真っ直ぐ見つめて来る蒼太に、イマリは期待の色を浮かべ話の続きを待ち望んだ。


「ち、違くて!俺は君とは付き合ってもいないし付き合えない。俺は彼女…月姫と付き合うことにしたから」


彼女のポジティブさは見習いたいと思いながら、蒼太はそれをはっきりと断るべく自身の想いを告げた。


「な、なんで?急に別れ話!?今までそうたに尽くしてきたのに」


急転直下で予想した言葉と真逆の台詞にイマリの目がこれ以上ないほどに見開かれる。


「違う!俺がはっきり言わなかったのが悪い思うけど、俺達は付き合ってないし、誤解を招いたなら謝る。これだけははっきり伝えておかないといけないか…」


一方的な勘違いと言いたいところだが、あえてそれを言わず自身の非に変え蒼太はイマリへと告げた。


彼の頭の中にカコと約束場面がはっきりと思い出される。


巻き戻され記憶にも残っていないはずが、なぜだか鮮明に蒼太には感じることが出来た。


カコのスキルの一つである巻き戻す前の記憶を少しだけ残す「事象記憶」というものだった。


そして蒼太が言葉を紡いでいる最中にイマリからの痛烈な平手打ちが彼の頬を襲った。


「…ばかぁ…、あたし…あたしぃ…」


涙を流しながらイマリは呪う様に呟き、二、三歩後ずさったところで膝から崩れ落ちてしまう。


思わず蒼太はイマリに歩みより、彼女の震える肩に触れようとした手をマサキが払った。


「馬鹿かお前は?ここでまた優しさを見せてどうすんだよ、それを優柔不断って言うんだ、覚えておけ」


蒼太の代わりにイマリの介抱に当たるマサキ。


ぐっと唾を飲み込み、蒼太は彼の言葉に背中を押され、ダメ押しとばかりにイマリにもう一言付け加えた。


「分かって欲しい、しっかりと伝えるって約束はカコさんとしていたから。濁すもなにもなくて俺はイマリ…君とは付き合えない」


嗚咽交じりに鼻をすするイマリの耳にその言葉はしっかりと届いていた。


「ひどいなぁ、泣いてる女性にそこまで言わなくても良いと思うけど…」


蒼太の背後でモノがさらに蹴落とそうとしてくる。


「モノも茶化さないで、今大事なこと言ってるから」


雰囲気を壊してしまうような発言に蒼太は苦言を徹したが、モノはモノでこいつはひどい男だと烙印を押すための一言だったと後に語っていた。


心にダメージを負わないようにと周囲の暖かい協力を肌で感じたイマリは涙をぬぐうと座ったまま蒼太を見上げ、彼の言葉に答えた。


「…分かった。これ以上はかこにも迷惑かけれないし…そうたのことはあきらめるよ」


「あぁ、こんなやつより世の中には良い男はごまんといるからな」


さらに追い打ちを入れるマサキ。


「ありがとう、マサキ」


蒼太は自分を卑下する相手に謝辞を入れた。


それにはすかさずイマリを抱え起こそうとしているマサキが苦い顔をしながら呟き落とした。


「やっぱ、俺はお前が嫌いだ…な」


「あたしも嫌い。今嫌いになった!」


モノも即座にマサキに同調し、口をへの字に曲げて胸の前で腕を組み仁王立ちをする。


「女性を泣かしてばかりだって言いふらしちゃお♪」


ニヒヒと笑いながら彼女は軽くステップを踏みつつ、蒼太との距離を取る。


「おいおぃ…」


良い言葉が思い浮かばず周囲から罵声を浴びせられた蒼太は頭を抱えるのだった。


「…ごめんなさい」


突然この場を空気を壊すような突然の重い謝罪の言葉が響いた。


「え?」


声の主は今の話題には関与していなかったミライだ。


みんなの視線がミライに向けられると彼女は礼儀正しいお辞儀をし、頭を下げていた。


そのままの姿勢でさらに言葉を紡ぐ。


伊鞠いまりも…今までうちが勝手に思い描いた未来を歩ませて、かんにんえ」


上辺だけでなく心の底からそう思っていることを感じるミライの態度と言葉。


彼女の一言で和やかだった雰囲気は一蹴し、再び鈍重で張り詰めた空気が辺りに帳を下ろした。


「わ、分かれば良いよ。それにあたしの事考えてくれてのことだし…」


ただスーパーポジティブなイマリはそんな空気を感じることなく、胸を張って姉に伝えた。


少しはイマリもその雰囲気にのまれたのかもしれないが、周りの人を暗い雰囲気から脱するには充分な振る舞いだった。


「別にみんなもミライが嫌いってわけじゃないから…ただ今回のことはしっかりと反省して俺達の未来は変えないで欲しいってだけだから」


そこに蒼太も一言付け加える。


頭を下げたままの姿勢でミライはゆっくりと蒼太を視線だけで見上げた。


「悪いことが起きる未来でも?」


彼女は蒼太に確認するように問いかける。


「あぁ、試練、困難、どんとこいって!俺が全部跳ねのけてやるよ!なぁ?」


蒼太は胸を張り自身の手で握りこぶしを作りドンと大きく叩いて力強さをアピールする。


そしてイマリの横で彼女の腰を抱いてフォローしているマサキに向かって同意を求めるように視線を送った。


すぐさまその視線を感じたマサキはにんまりと目を細めて虹彩をはためかせた。


「うむ、頑張れ。孤軍奮闘」


「マサキ、そこは『俺も協力してやるよ』って言うところ」


思い描いた答えではなかったことに蒼太が不満げに口を尖らせる。


その様にモノとイマリは自然と笑顔がこぼれていた。


不謹慎と思いながらも周囲に悟られないようにミライもまた二人の漫才の様なやり取りに顔がほころぶのを隠し切れなかった。


「お前とは友達でもないからな」


「いうだろ、昨日の敵は今日の友って」


「敵でもないし…まぁミアの願いだから少しは仲良くしてやらんこともないけどな」


最後は白い歯を見せてマサキも微笑み返す。


マサキが蒼太と馬が合わなかったのではなくミライへの協力を約束していたために合わせないように努めていたことを悟った。


最終的には二人は握手を交わし、みんながそれを賛美したところで落着したかのように見えたが…


「流れを断ち切ってわるいんやけど、心配やさかい花恋かこの所に行ってもええやろか?」


自分が蒔いた種とは言え、カコの容態が気になっていたミライが蒼太に尋ねる。


名だたる面々が解放してくれているため心配ないと言われていたが、実際に会ってみないと安心はできないようだった。


なぜなら先ほど使った未来予知では決して良い方向へと向かっていないことを観てしまったからだ。


「そうだね、俺達も行こう!かなり疲れていたから…今頃少しはましになってると思うよ」


蒼太の号令で皆はこの部屋を後にし、アレテイアにあるカコの部屋へと向かって駆けだしていた。


列の一番後ろになったミライも胸騒ぎを感じながら駆けだしていた。






治療はカコの部屋で行われていた。


寝室のベッドで寝ているカコの周りにはユカとミク、ネネとシュミの回復のエキスパートと称される面々が居た。


ただその中でもミクはどさくさに紛れてやってきたにすぎない。


解錠や施錠、収納の類には優れているがミクが治癒能力に長けている噂は誰も耳にしたことはなかった。


「どう?容態は?」


駆け付けた蒼太が第一声でユカに尋ねた。


それは場の雰囲気が言葉より早く現状を伝えてしまっていた。


誰一人笑顔ではなく神妙な面持ち。


「思わしくありません…体を酷使しすぎたのでしょう。回復魔法や治癒スキルでも一向に改善の気配は見えなくて…」


予想外の答えに取り乱してしまったのはカコにこのような状況へと陥れてしまった姉、ミライだった。


他には目もくれず周りをかき分け、ベッドで寝ている妹の傍に駆け寄るった。


花恋かこ花恋かこ!あほなことしてからに…こんなになるまで…」


揺すり動かしたい気持ちを抑え、言葉で彼女に呼びかける。


「それほどミライの能力が強大だったんだよ。命を賭してまでって言ってたから…カコさんは…」


蒼太もそれだけ絞り出すのがやっとだった。


シュミが両手を差し出し、カコに治癒の魔法をかけ続けているのが分かった。


蒼太が部屋に入った時から行われていた行為。


おそらく彼女たちは一晩中代わる代わるカコに治療を施していたのだろう。



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