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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第19話-2/7

この場に居るみんなの視線がミライに集中していた。


「…こ、こんな展開はありえへん!」


ついに周囲の圧力に耐えきれずミライはその場で膝をつき、崩れるように座り込んでしまった。


悔しさからかその目には光るものが映って見える。


「ありえるんだよ、カコさんの能力でお前が描いた未来予想図を書き換えたまでだ」


今回の事象に対して種明かしをする蒼太。


それを聞いても尚、ミライは現実を受け止めれずにいた。


「そんなこと出来る訳が…」


彼女のスキル、未来予想図は幾重にも事象を重ね成り立つものだ。


一枚の未来予想図はそれこそミライの事象変化というスキルを使い、出来事のわずかな異変をもたらすものだ。


あらかじめ未来予知のスキルで未来を予想し、なりうる結果を少し変え、変わった結果をまた少し変えながら自身の望む結果まで導いていく。


事象変化で変えきれないピースを今回の場合マサキに依頼し、蒼太の恋愛感情を操作した経緯がある。


「難しかった、本当に…彼女はそう言ってた…。複雑に絡み合った糸を一本一本ほぐすようにカコさんが孤軍奮闘して望まぬ未来を変えたんだよ」


「なぜ、それを知ってはる?」


力無く問いかけるミライに蒼太は隠すことなく彼女の気持ちを伝えた。


「俺達も協力したし、カコさんがそれを望んだから…いや本当にカコさんが望んだのは姉の笑顔だよ。イマリが恋敗れ、再起不能にまで陥る姿を見たくなかったらしい」


蒼太に過去に戻る前の記憶はないため、聞いたままを伝える。


それが嘘ではないことは予知したミライが良く知っている。


「じゃあ、あたしたち付き合えるの!?」


先ほどまで落ち込んでいたイマリが花が咲いたように明るくはじけた。


「それとこれとはちょっと違くて…ミライの未来予想図にはそれこそ立ち直れないほどの精神的衝撃を受けて、鬱症状に陥る君が居たんだよ。だよな、ミライ」


すぐさま、蓋をすべく蒼太はイマリを落ち着かせるようなだめながら、ミライにも確認する。


「けったいな男に振り回されるよりはよっぽどその方がましだと判断したさかい」


「妹の心を壊してまでか?」


自棄になるミライにマサキが吐き捨てた。


「とにかく蒼太はんの存在が邪魔やった」


「それが本音だろ?カコさんは24時間前までなら時間を戻せるらしく、何度も、何度でも…。ここに居るモノだって本当は昨日は月姫と入れ替わってISKで働く予定だったらしいが、それを説得したのものカコさんだ」


言われなくともミライは知っていた。


それは事象変化によってミライが湾曲させたピースの1つだからだ。


何も語らないミライにそのまま言葉を続ける蒼太。


「マサキも一昨日の朝、俺の所に来て徐々にかぐに魅力を感じ、恋焦がれるスキルを使っていたらしい。これは時間が間に合わなかった為、阻止することはできなかったが本人の協力の元解除し、それらは無力化したんだよ」


そう、ミライはカコが戻せる時間が24時間までと分かっていた為、それより前から未来予想図を描くことが多かった。


今から48時間前に仕込んだマサキのスキルはカコの力ではどうしようもなかったはずなのだ。


「裏切りはったん?」


「まぁそうなるかもな」


涙目でマサキを睨みつけるミライ。


彼女の視線を受けても顔色一つ変えることなくマサキは風を受け流すように平然と答えた。


「淫魔風情が…、うちがどんだけ妹のことを想うて…」


「それらもすべて1回の巻き戻しで出来たわけではなく、彼女は何回も、何十回もただ一人で時間を巻き戻し、深く絡まって出来たお前が描いた未来予想図を書き換えていったんだ」


ミライが事象変化を幾重にも重ねた分、カコも事象変化で変わっていく未来を本来あるべき事象へと変化させない工夫を行っていた。


失敗すればまた時間を巻き戻して、何度も何度も丁寧に姉のスキルをなかったことにしていくことを繰り返した。


「そないなことしたらあの子ぉ、花恋かこの身体も精神も…」


スキルの行使はそれほど心身ともに疲れるものではないが、影響力が大きいものになればその枠に収まらない。


ミライとて大きな未来予想図を描き、事象変化を重ねるのはそれなりの労力と時間、体力を使うことになる。


1度や2度ならそこまでではないだろうが、何十回となれば簡単なものではない。


「そこまでして彼女はあんたの思惑を阻止したかったってことだよ、たった一人で!」


ミライがスキルの行使をした以上にカコは自身の身を削る想いで事象変化を解いていった。


「彼女は巻き戻しを使い合計63回、時間にして約270時間、10日以上も彼女は一睡もせずただひたすらに時間旅行を続けていた。だから今、彼女は衰弱しきって意識さえも…」


蒼太が言ったそれはカコ本人から聞いたことだ。


昨晩この部屋にモノと一緒に入る直前、ユカに支えられながらカコ自ら足を運び蒼太に託した想い。


目の下にくっきりと刻まれたクマに明らかに疲弊しきった体。


彼女のその姿が壮絶な状況を物語っていることを思い出す。


「なんてことさすん!あんたらそないな無茶させたんか!」


涙にぬれた顔で激高しながらミライは立ち上がると同時に蒼太の胸ぐらを掴んだ。


彼はミライのその声を上回る大声で彼女に捲し立てる。


「それはお前だろう!誰も望みもしない自己満足の未来図を構築し、人の人生を弄んだのは!」


ミライは悔しさのあまり下唇を噛みしめ、掴んだ服を離すと近くに居たイマリに指差し再度声を荒げた。


伊鞠いまり!時間を止めて、すぐ花恋かこのとこに行くで!こないなやつらと話しとっても拉致あかへんわ!」


「なにそれ、責任転嫁してるだけ。みらいは自分の罪認めて謝罪してよ?黙って聞いていたらあたしが鬱になる?なにそれ?なに勝手なことしようとしてたの?」


姉と蒼太のやり取りに口を挟まずにこらえていたイマリだったが、自身に白羽の矢が立ったことで反論を開始した。


「ちゃう、それはそれ!これはこれやん!」


「違うことない!かこだって、そこまでしてみらいに分かって欲しいと思ったから巻き戻したはず。まだ分からないの?」


「…」


もはやここにミライを擁護する者は居なかった。


妹の言葉に絶句しつつも、ミライは一人この場を後にしようと入り口の扉へと向き直った。


「ど、どいつもこいつも!なんやのん!」


今の彼女はとても非力だった。


「カコのことは心配いらないよ。信用できる仲間が見守ってくれてる。ユカさんだけじゃなく、ミクもネネさんも必死で回復に努めてくれてるから」


扉を開けようとしたところで蒼太がミライの背中に語り掛ける。


「…」


ISKのキャストの中には回復魔法や回復のスキルを使用できるものも少なくないが、その中でも群を抜いて秀でているのはユカの存在だ。


ミライもそれを知らないわけではなく、自身が傍につくよりよっぽど頼りになる存在だと分かっている。


「偶然が偶然を呼んで必然になる?偶然が呼び起せない場合は何らかの力を借りてでも自分の描いた未来を成し得るんだよな。ただのエゴイストじゃねぇかよ…。こんなやつに俺が力を貸してたと思うと反吐がでるわ」


マサキのその言いぶりからして、ここが屋外であれば本当に唾でも吐きかねないだろう。


「なんなん!うちは伊鞠いまり花恋かこの事を想うてしか能力つかわへんかったのに…なんでこうなるん?」


誰に言うでもなく叫ぶように言い放つミライ。


その言葉は涙交じりの悲痛な叫びだ。


「その能力が強大過ぎるからだよ、人の未来を操作するなんてことはしちゃいけない。ましてや望んでいても望んでなくても未来は自分で掴むものだから」


「それでこそあたしのそうたやね」


ミライを諭すように蒼太は優しく呟くと、彼の腕にしがみつきながらイマリが褒め称えた。


「いや、イマリのってのは語弊があるから…恋人気分はNGね。マサキなんとかできない?」


すぐさま絡みついたイマリの両手を自身の腕から離し、彼女と距離を取ろうとしながらマサキにも助けを求める。


「できないこともないが、嫌なんだろ?恋心を弄られるのは?」


ふっと鼻で笑った後に、マサキは表情を真顔に戻しながら嘲笑う様に尋ねた。


その台詞は蒼太がマサキを相手に言った言葉だ。


前言撤回は恰好がつかないと思った蒼太は妥協案として別のパターンを提案してみた。


「嫌われるってのでも良いけど」


「嫌われる?別に…俺はお前の事見直したぜ?むしろ俺もお前に興味があるぐらいだ」


首を傾げながらマサキはサキが時折浮かべる誘惑じみたにたりとした笑みを浮かべて蝙蝠型をした虹彩を細めて羽ばたかせた。


「あ、それ私も挙手したいかも…今回協力してあげたし、ちょっとは見返りあっても良いんじゃない?」


ベッド際で待機していたモノも言葉通り右手を挙げながら蒼太の方へと近寄ってくる。


「モノまで…やめてくれよ、それにきっと俺の身体にあるなにかに惹かれてるだけなんだから…俺そんなに良い男でもないし…」


またしてもいつの間にか身についてしまっている蒼太の【好意を持たれたい相手には好かれず、そうでない相手にばかり好かれてしまう】スキルが発動してしまったようだ。


「無自覚って罪ね、こりゃあるじも大変だわ」


うんざりと肩を落とす蒼太を見ながら小さな声でモノは呟き落とす。



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