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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第18話-3/6

良いムードを醸し出していたJホールのバーで小一時間ほど二人は少しお酒を煽ることにした。


中学生時代の過去の話しや、空白の数年間を埋めるように互いの高校生活や苦労話、尽きることない話題に花を咲かせていく。


時折ブッチに目をやり時刻を確認する月姫。


蒼太はそれに気づきながらも指摘することなくやり過ごしていた。


バーを出ようと持ち掛けたのは蒼太の方だった。


最後に時計を確認したのは23時30分。


丁度ISKがラストイベントであるアフターチャンスを始める頃合いだ。


月姫を家まで送ろうと言い出したのだが、彼女は平素はISKで寝泊まりしているため今日もそこで就寝する予定だった。


前回のようにホテルの予約もしていなければ、明日の仕事も考えての事だ。


Jホールからゆっくりあるいて20分程度の道程


「結局…ここまで送ってもらいましたね」


日付が変わる10分前…イベントが長引いた時はキャスト達がファナーをお見送りするしていることもあるが、今日はお店の外にキャストの姿もファナーの姿も見受けられなかった。


中からの喧騒も漏れず、静かな印象を受けるISKの前。


「どうせならみんなに報告しておこうかな…ちょうど店も終わった時間だろうし」


蒼太は月姫と腕を組んだまま、ISKのエントランスへと続く階段を下りていく。


「まだ片付けをしているころだと思いますから残っているスタッフさんとキャストさんにだけでも伝えておきましょうか」


月姫も蒼太に同意を示した。


一部のキャストに伝われば後は噂が瞬く間に広がることは知っている。


壁にかかっているISKのネオンライトは消え、暗い印象を受ける店前。


大きな観音扉を開いて、エントランスへと足を踏み入れる二人。


そこに待っていたのは月姫と同じ身なりをしたドッペルゲンガーのモノだった。


「あら、あるじ…に蒼ちゃん。今日は急にシフト変更を受けてくれてありがとうございます」


月姫に対して礼儀正しくお辞儀をして感謝を伝えるモノ。


明らかに蒼太に対しての呼びかけのトーンに月姫との差を感じたものの、多少の無礼は許してやろうと彼は寛容な心でそれを見守っていた。


「そんなに気にしないで下さい、そのおかげでとても良いことがありましたから」


にっこりと微笑む月姫はどこか浮かれているような印象を与えてしまう。


「上機嫌なあるじを見るのは初めてだ、なになに?何があったの?」


彼女は月姫として取り繕っていた仮面をはがし、素の自分を出しながら主と呼んだ彼女に問いかけた。


月姫はモノの問いかけに対し、言葉の代わりに自身の左手の甲をかざすように見せつけた。


「ジャン♪」


「おっ!結婚指輪!?」


月姫の左手の薬指にはめられた指輪を見てモノが感嘆の声を上げる。


「違くて!俺達付き合ったからって報告」


バーに行く前に閉店寸前のアクセサリーショップで半ば強引にプレゼントさせられたペアの指輪。


高価なものでも、形式ばったものでもない玩具の様な代物だが、月姫にとっては金額以上にとても意味のあるリングだった。


「お、おめでとう、あるじ念願のだね!」


まるで自分の事のように喜ぶモノ。


ドッペルゲンガーである彼女たちには自身の代わりに店番に立ってもらうこともあるため一部の情報は常に共有していた。


蒼太のことについても例外はなく、幼少の頃の事から最近に至る恋愛感情まで詳しく伝わっている。


「えぇ、ありがとうです」


にこりと月姫がモノに笑顔を向けた。


蒼太から見れば月姫が二人、自分が自分と喜びを分かち合っているように映ってしまう。


月姫の手を掴むと、モノはホールへ急ぐようにと引っ張ろうとした。


「みんなもホールで待ってるはずだから…一緒に」


誘わるままに歩を進めてホールへの扉を開ける。


いつもなら若干名のスタッフとキャストが片づけをしているだろうホールだがまるで二人を出迎えるための準備が整っていた。


足を踏み入れると同時になり始めるクラッカー。


音と共に紙吹雪が舞い、直後に割れんばかりの拍手が届けられる。


『おめでとう!ムーン&蒼太!』


第一声を放ったのは誰か分からなかったが、次々とホールを埋め尽くしていたキャスト達から喝采の言葉が飛び交っていく。


「え?みんな?」


キャスト総出とはいかないまでも、営業時間の倍以上のキャストがそこには待ち構えていた。


『コングラチュレーション!月っち、蒼っち!改めてこれからの門出をお祝いするぜー!』


ステージの上から練がマイクを使って二人に祝福の言葉を送る。


立ちすくむ二人に準備された席へいざなうイチコ。


二人が案内された場所にはVIPルームで使われている長テーブルとソファが用意されていた。


「ささ、主役はここに座るわん」


なすがままに半ば強引に着席させられた蒼太と月姫。


「ど、どうして?」


蒼太の頭の中には沢山のハテナが浮かんで処理しきれずにいた。


『神のお告げか、悪魔のささやきか、この羽住 練、君たちが今日付き合う事、分かっておりました!なぜ知っているかは企業秘密』


ステージ上の練が特等席に案内された二人に告げる。


なんとなく予想がつきそうな企業秘密だが、蒼太の中のいくつかの疑問が解けていく。


誰からも漏れない情報を入手できる方法は限られている。


尾行や追跡、盗聴や盗撮、そしてそれらを行使しなくても占いのように不確定要素が強くても先の出来事を予想することはできる。


そしてそのどれにも当てはまらない異住人達の持っている特殊なスキル。


それを使うことによって100%の確率で未来を予想できる人物を知っていた。


『今日はミス.ムーンのバースデー。残り僅かだけど夜通し飲んで騒ごうぜぇー!』


群衆を煽るかの様な物言いで練が盛んに囃し、周囲も同調して喝采を挙げた。


「お誕生日おめでとうー、それと交際開始日ねー、これからもお幸せにー」


「サイショはアタシがメをツけたのに~ムーンにリャクダツされちゃったわね~」


「ムーン、そいつは美味しそうだから飽きたらいつでも俺に回してくれたらいいからな」


「めでたいねー、むーちゃんはデカパイじゃないから、そーちゃんの浮気にはちゅーいねー」


「そうくんも男を見せたということだな、これでは私が入る隙が無いではないか…今までの約束を反故にするのは許せないな」


「もう一度蒼太さんの唾液呑みたかったのですが…なにはともあれおめでとうございます。今日はとっておきのお部屋を準備していますので」


「お祝い=祭りやな、賑やかなのは大歓迎やで!毎日交際記念日〇日目ってのをお祝いしてまおか?」


「そーくん、おめでとう!ボクも嬉しくて涙が出ちゃうよ」


誰彼無しに代わる代わる蒼太たちのテーブルへ祝福にやってくるキャスト達。


中には散々なことを言われたりしているが今日は何を言われても許してやろうと蒼太は心の中で呟いた。


蒼太がいまだに名前を憶えていないキャストも居たが、些細なことなど忘れてしまうぐらい祝杯でのどを潤していた。


月姫の隣で強くないお酒を一口、また一口と煽られながら口を付けることになっている。


どれぐらいの時間が経ったか分からなかったが永延と続くと思われた祝賀会も彼の言葉によって幕を下ろすことになる。


『みんなの喜びも一塩ですが、そろそろ熱々の二人だけの世界にしてあげよーぜ!』


練のアナウンスに割れんばかりの拍手がホール全体を揺るがした。


『今日は特別にISKは二人の為の貸し切り仕様!後は超特別VIPアフタールームのウェディングルームへご招待!』


練が周囲に拍手を煽るとそれをうけ再びホール全体が拍手で揺れる。


「え?あの部屋?…恥ずかしいですよ」


「どんな部屋?」


さすがに月姫は彼が言った意味を知って頬を赤らめる。


普段からアフタールームのチェックは蒼太が行っているが、指示がない4階のVIPアフタールームと呼ばれる部屋には2、3度しか入ったことはない。


それも1室だけ、月姫と一緒に足を踏み入れた俗称SMVIPアフタールームだけしか彼は知らないのだ。


「チャペルをイメージした4階の特別アフタールームです」


初めて聞く部屋の名前に蒼太は妄想を働かせた。


彼女が言う様に協会をイメージした部屋なのだろう。


ここで働いてから一度も入ったことのない部屋に蒼太の胸がおのずと高まってしまう。


と同時に練の言葉の意味を理解する。


「え?一緒に寝るってこと?」


それが何を意味しているか分からない程初心でもない。



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