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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第17話-4/9

「あぁ、プレングスタに行っただろう。そこから少し離れたところにある都市だ」


「何日ぐらいかかるんですか?」


続いて月姫が質問を投げかける。


「ざっと見積もって7~8週間程度と踏んでおる」


「2か月程度か」


「日数にして100日弱だな」


「え?60日じゃなくて」


「それは蒼太の世界の話しだろう、我々の世界では1週間は12日と知らなかったか?」


みんなの質問に対して淡々と答えるセシルだが、異世界と現世界の違いを改めて知らされる蒼太。


「あぁ、そうか。前に聞いたことがあるよ。100日か…長いな。その間にアプリに不具合があったら?」


12x8と言われてもすぐに計算が出来る程蒼太が算数が得意ではない。


セシルが言った日数を復唱しながら蒼太は心配の種を彼女に尋ねた。


「さすがに対応はできないな、【スキリング】以外にも今は【イスカ】にも【キャルム】にも差し当たってトラブルはないようだからな」


セシルから返ってきた聴き馴染みのない単語。


それは無理もないだろう、まだ蒼太がここで働いて2週間弱、彼女たちとは圧倒的に歴が違いすぎるようだ。


「イスカ?キャルム?」


「普段使っているアプリですよ、出勤チェックやスタッフが使用しているのが【キャルム】、ファナーさんに使用してもらってるのが【イスカ】の名前で呼んでいます」


セシルの代わりに答えたのは隣に居る月姫だった。


アプリの説明は以前行っていたが、名前までは教えていなかったことを今更ながら後悔してしまう。


とは言えアプリの名前を知らなくても困らないのも事実だ。


「初めて知ったよ」


「せめて自分が使ってるアプリの名前は覚えておいてくださいね」


蒼太があっけらかんと答えるのに対し、月姫は呆れるように釘を刺す。


「う、おっしゃる通りで…」


ぐうの音も出ないと蒼太が口を噤むと、代わってセシルが口を開く。


「どうしても急を要する場合は利久りきゅうを頼ると良い、連絡先はムーンに送っておく」


「誰それ?」


「利久さんは星詩留せしるさんのマイファナーでごくまれにISKに来てくれています。SEだとか…」


月姫の返事より先に蒼太がセシルに問いかけるが、その問いに素早く月姫がフォローをする。


横目でちらりと蒼太に視線を送った後、セシルは月姫を見つめながら話を続けていった。


利久りきゅうにもこの件は伝えておくし、トラブルが無ければないに越したことはない」


「そうですね、私もそれは願っておきます」


「業務的な連絡はそれだけだ」


パタンと話を区切るセシル。


質問なら受け付けるぞと言った表情のセシルだが、あらかた聞きたいことは聞いてしまった面々。


「セシルがしばらくいないのは不安だし、寂しいけど戻っては来るんだよね?」


勝手にチーム蒼太と自ら作ったグループ名、スキリングに関与しているメンバーの突然の離脱は彼にとってもつらいものだった。


特に中核をなす彼女は何かあった時には必要不可欠な役割を担っている。


「もちろんだ」


先程それは言っただろうとセシルの目が物語っていた。


「では解散ですね、星詩留せしるさんも充分気を付けて行ってきてください」


新たな質問が無いかと一同を見渡した後、この場を締めるように月姫が軽く手を叩いてセシルに餞別の言葉を送った。


「その前に一つ頼みたいことがあるのだが…」


そう言ったのは他でもないセシルだ。


「なんでしょう、私にご協力できる事なら言ってもらえれば」


首を傾げ、月姫は彼女の助力を惜しまない姿勢を見せる。


意外にもセシルの願いは月姫にではなく隣に居る蒼太に対してのものだった。


「蒼太、もう一度唾飲だいんをお願いしたい」


「え?」「は?」「あら」


思わぬ要望にサキを除いた三人が三様の反応をみせる。


「ムーンには悪いと思うが今一度体験しておきたくてな、駄目か?」


再度問いかけるセシル。


「お、俺はダメってわけじゃないけど…唾出すだけだし…なぁ?」


蒼太が同意を求めたのは月姫に対しての了承だった。


「そ、そんなの私に聞かないで下さい」


見当違いの確認に思わず彼女は顔を逸らして頬を赤く染めた。


「いや、かぐが駄目だって言ってるから俺も断ってるだけで」


蒼太の言う通り唾を飲ます行為、唾飲を禁止したのは他でもない月姫だ。


「蒼太にはなんらかしらの不思議な力がある、それを追求したいのが本心だ。他に他意はないが…どうだ?」


セシルの行動は何か探求心があって行われることが多い。


スキリングの開発も蒼太の願いがあったものの彼女もそれが実現できるかどうかの探求心があったともいえる。


蒼太と同様にセシルもまた月姫に対して答えを求めていた。


「な、なぜ私に確認するんですか?そうちゃんの唾ですよね?」


「旅に出る餞別としてですね駄目ですか?ムーンさん」


慌てる月姫にユカまでセシルに加担し、言葉を投げる。


「べ、別に私が許可するとか…こ、今回だけですよ?」


自分の許可など必要ないと言いかけたが、歯止めが利かなくなってしまう恐れや蒼太を占有する思いが勝り、言葉途中で方向転換することを決めた。


やはり唾飲たる行為は自身の許可を取ってからという流れを崩さない方が良いと思ったようだ。


「あぁ助かる、ということだ蒼太。お願いできるか?」


了承を得たセシルは蒼太に向き直り、今度は彼に行為を求めた。


「かぐが良いなら、俺はそんなに大したことするわけじゃないし、ただイマリの事もあるからユカさんフォローをお願いするよ」


停止時間の中で起きたトラブルを知っているものは多くない。


ここにいるユカとイマリ本人、当事者の蒼太だけだ。


月姫にその報告をすれば間違いなく唾飲は絶対禁止にされてしまう事だろう。


「では早速…」


蒼太の前に跪いて口を開いて待つセシル。


「ごめんな、かぐ…」


彼女の高さに合う様に蒼太は立ち上がりながら月姫に詫びの言葉を述べた。


「あ、謝られても…別にエッチなことするわけじゃないんだから…」


まるで周りのみんなから独裁者的な扱いを受けてしまう立場に居心地が悪そうに蒼太に言い返す。


蒼太が店内でファナーの時に来てキスをしたり、ボディタッチをしたりすることを思えばなんてことはないと月姫は自身に言い聞かせた。


落ち着こうとする気持ちを逆なでするかのようにユカが目を細めて小声で月姫の耳元で囁き落とす。


「そうは言いますが意外にやらしいんですよ?唾液が滴り落ちてくるのを今か今かと待っている時とか胸の高鳴りが…すごいんです♡」


優雅ゆかさん!そんな説明いらないですから…」


月姫にしては珍しくキャストを叱咤しながら視線は蒼太とセシルに釘付けになっていた。


「え?見てるの?」


ユカと月姫の刺さるような視線を受け、思わず蒼太は二人に言い放った。


「変なことしないように監視してるだけです」


と、月姫。


「ほら、蒼太集中」


気を逸らした彼にセシルが催促がてらに自身の方へ意識を向けるように伝えた。


「集中するほどの事でも…いくよ…」


今度こそと口腔内に唾液を溜め始める蒼太。



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