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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第16話-10/11

酒が飲めるわけでもないが、ただでファナー気分を味わえるのなら願ったり叶ったりと言ったところか。


「そうか、それならお願いしようか、隣の席も空いていることだし」


そう言われてはエルナも練の申し出を断る必要がなく、彼の言葉に甘えることにする。


「オーケィ、オーケィ。今週の新人さんは…瑠美るみっち、ね。俺っちが瑠美るみっちを担当するからそうっちは妃梨きりっちね」


許可が下りたところで練はさっそく隣の席に腰を下ろしていた。


その際にルミの腰について居た名札をチェックしつつ、彼女の名前をさも知っていたかのように呼びかけた。


実は練とルミは初対面だがそんな雰囲気を一切感じさせないのが彼の社交性の高さと言えよう。


仕切り直しとばかりに、キリは一度ボックス席から退き、再度初めてここに来たかのような素振りで蒼太の前に姿を現した。


「ソウクン、改めて初めまして。キリと言う、以後お見知りおきを…」


テーブル席と同じように高身長のキリは立ったままの姿勢から上体を曲げ、蒼太にハグを求めた。


見えそうで見えない双丘のぽっちりを覗き込もうとしながら彼はそれに応えた。


重力に逆らえないそれは薄い布をその重さに任せて胸元を大きく開いて見せる。


ハグを終えた蒼太は自身の視線を谷間に釘付けにしながらチークキスに応じるために顔を少し前に出すことにする。


その頬をキリの手が掴むと同時に蒼太の唇にキリの唇が重ねられた。


唇同士が触れる一瞬のキスだったが呆気に取られてしまう蒼太。


「え?いきなりキス?」


戸惑いながらキリに尋ねる。


「ボックス席はテーブルと違うと習ったが…」


「初対面でいきなりキスはまずくない?」


キリもルールは守っているし、ボックス席では禁じられているわけではない。


ただ蒼太の感覚としては雰囲気を楽しみつつするべき行為だと思っていた。


「ソウクンとは顔なじみだったからつい…、本当に初対面ならしてはいない」


「な、…ならいいけど」


やはり戸惑いは隠せなかったが、キリの中では蒼太はすでにキスをしても構わないという位置付けに居るのだと納得することにした。


彼には初対面時の衝撃が強すぎたため心を許せない思いはしこりとして残ってしまっているが…


「では席に座らせてもらう」


高圧的にならない様に、上体を曲げたままキリは蒼太に確認をする。


「口調堅いよね、もうちょっと柔らかい方が好きかな」


あくまで模擬として蒼太は思いつくことを口にする。


皆が皆蒼太のように思うわけではないだろうが、指摘するに越したことはないと彼の判断で注意を投げてみた。


それにはやや後ろでやり取りを見守っているエルナも無言で頷いている。


「ふむ…、席に座わるね」


キリは仕切り直しと長い前髪を払い、口角を上げ目を細めながら言い直した。


言動と表情は繋がるものがあるようでわずかだがキリの笑顔も柔らかく感じられた。


「その方が親しみやすくて…」


指摘するばかりではなく、良いところは褒めるべきと蒼太は彼女にそれを伝えようとしたところで、またしても彼の感覚とは違う突飛な行動をとった。


ボックス席のソファはゆったりと3人が座れるように幅が設定されている。


詰めれば4人座っても構わないが窮屈な感じは否めない。


てっきり自分の隣に座ると思っていたが、この前のミクと同じように蒼太の太ももの上に対面して腰を下ろした。


「絶対座り方違うよね?」


絶句した後に蒼太は呆れながらキリに告げる。


「なぜ?」


首を傾げるキリ。


彼女は何が悪いのか分かっていない様子だ。


「普通は隣に座るものです」


淡々とした口調で蒼太は自身の右隣を手でたたきながら諭すように言った。


しかしキリは合点がいってない様子で隣のボックス席を指差しながら蒼太に告げる。


「隣がやってる」


彼女の指が示す方向に視線を投げると、そこにはこちらと同じような態勢でルミを抱きかかえている練の姿があった。


「隣…れ、練さん!なにやってるんですか!」


思わず大きな声で蒼太は叫んでしまっていた。


場慣れしているから大丈夫だと蒼太の方ばかりを注目していたエルナも予想外の出来事に思わず頭を抱えてしまう。


「れんくんともあろうものが…」


「えへ、えへへ…」


トレードマークのサングラスがずれ落ち、練は正気を失っている様子で目尻が下がり半開きになった口からは涎が滴り落ちていた。


平常時ではありえない事態にエルナはルミがなにか別のアプローチをしたのだと推測する。


「るみくんはなにかスキルを使ったのか?」


「ピョンピョピョン」


エルナの問いかけにルミは聞こえていないかのように聞き流してしまう。


「基本的に相手に気に入られようとか、好かれようとしてスキルを使用するのは看過できない」


「ウサギは寂しいと死んじゃうピョン…」


再度投げかけた忠告にルミは言い訳を並べた。


「それは都市伝説でしょ」


「これ、ヤベェ…ふかふかでもふもふですべすべもちもちだ…」


隣の席から蒼太もエルナの援護に回るが、練はルミの身体をまさぐりながら夢見心地でうわごとのように感想を口にしていた。


先程蒼太も意図せずルミの肌の感触や質感を味わったが、練の言葉に共感できるものがった。


加えて今キリが蒼太の上に乗ってしまっているが、彼女の体重と比べてルミの身体は綿毛のように軽い事も知っている。


「確かにその胸と肌感はるみくんの武器ではあるな…羨ましいが」


ほぼ露出してしまっている胸に顔を挟まれながら練はさらに天国へといざなわれて行ってしまってるようだ。


「れ、練さん!」


「というわけでソウクンも私ので良ければ味わってみるか?」


彼を心配して声をかけるが、キリは別の意味でそれを受け取ってしまい、彼女もルミと同様のサービスをしようと迷いなくドレスを脱ぎ始めてしまう。


あわや胸が露出しそうになったところで彼女の手を蒼太が止めた。


「いや、だめでしょ…普通は横に座って話をしたり、それとなくムードを作ってからキスしたり、おさわりしたりしないと」


過剰なサービスをしすぎることでお店の風紀も乱れ、ただでさえ健全とは言い切れないホール内の秩序が壊れてしまう。


そこを懸念しての蒼太の発言。


本心ではお願いしたいところを断腸の思いで彼は訴えかけた。


「よく分かっているな。今そうくんが言った通りだ、るみくん」


いよいよ見るに見かねたエルナがルミと練が居るボックス席に立ち入った。


「え~一気に昂らせて個室にピョン、じゃダメピョン?」


「あぁ、ダメピョンだ。るみくんも慣れてくれば分かるがキャストはファナー1人を相手にするのではない、ファナーもしかりキャスト1人を相手にしにきているのではない


 もちろん1人の特別になるケースもあるが、本来の目的としては違うと私は思う」


ルミの言い分に異を唱えるエルナ。


どちらも意見としては間違っていないのかもしれないが、お店のコンセプトとしてはやはりエルナに軍配が上がると思われた。



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