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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第14話-6/10

そしてカコの噂話を続けた。


「らしい…おそらく間違いないんだよね」


流石に蒼太もそれは経験していない分、月姫同様噂話のレベルの付き合いをした。


でもイマリが時を止めれるからには、カコが時間を巻き戻してもおかしくないと断言する。


「実際には目の当たりにしたことがないので確証はないんですけどね」


きっと作り話でしょうねと言い切りたい月姫だが、裏を返せばありえないことを認めれない自分が居ることを証明している。


本当の話しならイマリに匹敵する恐ろしい能力ではある。


どんなことが起こってもなかったことにしてしまえるのではないかと蒼太はその能力の凄さを感じていた。


「最後に心蕾みらいさんは未来を予知することができるみたいです」


そこで区切った月姫だが、蒼太は続きを待ってしばし無言で二人は見つめ合った。


しびれを切らしたのは蒼太の方だ。


「…それだけ?」


「それだけ?」


蒼太の言葉をそのまま反芻する月姫。


あまりにも拍子抜けしたように蒼太は月姫に言葉の補足を求めた。


「いや、他の二人に比べたら全然大したことがない感じだよね。賭け事とかあてたりできるかもしれないけど」


真っ先に思い浮かぶのはその程度の利用方法だった。


確かに予知できるなら危険を回避できるかもしれないが、圧倒的にイマリとカコの能力の方が素晴らしいと思ってしまう蒼太だった。


月姫はそれに対し一度ゆっくりと瞬きをすると、口に手をあてがい静かにうなずき、言葉を続けることにした。


「ただ、これも確証の話しではないですし、伊鞠いまりさんも花恋かこさんも教えてはくれないんですが心蕾みらいさんは未来を操ることができると思います」


「な、なにそれ?」


信じがたい能力に思わず蒼太の声が裏返ってしまった。


イマリの時間停止やカコの過去に戻る時間操作等は漫画や映画で耳にしたことはあったが、未来を操るということは今まで聞いたことがないことだ。


予知夢なんて言葉を聞いたことはあるが、未来を操るなんてことはあってはならないことだと蒼太は思った。


心蕾みらいさんは因果律を捻じ曲げてしまえるほど強力な未来操作ができると思っています」


「ほ、本人に確認してみれば?」


「いつも偶然と偶然と偶然が重なって…と言ってはぐらかされます」


ミライの極め台詞を真似て月姫が言った。


「あぁ、さっきもそれらしいことを言ってたね。じゃあさっきのもミライの仕業?」


「断定はできませんよ、証拠がないですから…私が火傷しかけたのも、水道が壊れたのも、扉が開かなかったのも…すべて偶然が重なっただけかも知れません」


「確かに偶然が…ってありえないじゃん!そんなこと!」


一度や二度偶然が重なったと言え、それがたまたまとは思えなかった。


「実際に起きましたよね?心蕾みらいさんの力が関与していたとはどこにも確証がありません」


それがミライの逃げ道だと月姫は語った。


それとなく匂わせる言動をするミライだが、彼女はいつだって尻尾を掴ませない。


おそらく自身の能力を開示しないのも秘密にしておきたいからだと予想ができる。


「ちょっと待て…本当かそれ?彼女ってものすごくヤバイ奴じゃないのか?」


狂気じみた彼女の笑顔の理由はそこにあったのかと蒼太は確信する。


ISKのキャストの中でも何人かは尋常でない心理的プレッシャーをかけて来るものが居る。


例に上げればイクの様な恐怖と言える心理的プレッシャー、シノのように死を意識してしまう薄氷の様な心理的プレッシャー。


力任せに相手を支配しようとするミウのような暴力的プレッシャー。


そのどれとも違っていたミライの心理的プレッシャーは掌で踊らされる、自由が利かなくなる行動的プレッシャーだったようだ。


月姫がコーヒーを入れるのはいつも気を遣う彼女らしい行動だとしても


たまたま運が悪く熱湯を浴びてしまう引き金になった行動、慌てて水道を締めた蒼太が乱雑に取ってしまった行動、どれも普通だが違和感なのかも知れない可能性。


けれども扉が開かなかった原因だけは分からない…押戸と引き戸を間違ったわけでもなく、施錠されていたわけでもなく、立て付けが悪かったわけでもなく…ただ開かなかった。


そして月姫が自らした口づけ…それさえも彼女が本心からとった行動なのか分からない…


蒼太が行動を振り返り疑心暗鬼に陥る中、脳裏にミライの不敵な笑みが思い浮かんでくる。


「これからの話は仮定も含めますが、実際に起きたことなので3姉妹の事を念頭に置いて聞いてください」


そう語る月姫の声がより一層低いものになっていた。


「ちょうど一年前、ここISKで乱交騒ぎがありました。その原因を作ったのが真咲まさきさんと深咲みさきさんです」


「なんで?」


「二人はその…性欲を促進させ、欲望を増幅し、淫らな行為に及ぶことを理性で抑えることが出来ず、本能のまま行動してしまう状態にすることができます」


それについては蒼太も予想はついていた。


サキと同じ種族ならマサキや名前しか聞いたことがないミサキも同様のことが出来るのだろうと…


「サキさんと同じサッキュバスって種族だよね?」


先日マサキを下腹部に刻まれていた淫紋と呼ばれる紋章はサキも持ち合わせており、それらがサッキュバスの特徴として認知していた。


蒼太の予想は間違ってはいなかったが正解でもないと月姫は答えを出す。


「少し違っていました、そのインキュバスって言っていたと思います」


サッキュバスとインキュバスは相手こそ違えど類似種族と言っても良かった。


サッキュバスが女性の姿で男性をたぶらかすとすれば、インキュバスは男性の姿で女性を惑わすと定義されている。


ここISKでのキャストは総じて女性であり、男性限定の種族であっても女性の姿をしているのが特徴だ。


そう考えればインキュバスであるマサキが女性の姿をしているのもうなずけた。


「あぁ、なるほど。もしかしたらマサキって両性具有?」


ポンと手を叩いて蒼太は納得する。


アレテイアに訪れた時に施設の説明を受けた際、月姫から両性も存在しているの言葉が頭の中で再生された。


「りょーせいぐゆー?」


月姫は聞き慣れない単語に首を傾げて蒼太に問いかける。


その質問からして彼女が無知なのではなく、存在自体を知らない=マサキはそれではないと答えてもらったようなものだ。


「あぁ、男性器と女性器があって、幻想世界ではシーメールって呼ばれてるやつだね」


再び聞き慣れない単語に月姫は自身の知識と照らし合わせて確認をする。


「ニューハーフではなく?」


「それはちょっと違う。違くもないかも知れないけど…ごめん、話が脱線した」


やはりそこは想像の域の世界の話しで現実味は帯びていないことに蒼太はこの話を終わらすことにした。


ついつい話の腰を折ってしまいがちになるのはセシルの指摘通り蒼太の悪い癖でもある。


「えっと…その日は私が非番の日で、授無じゅなさんが受付をしていたんです」


一年前のことを思い出すように、月姫は当時の事を振り返って話を続けた。


「ジュナって?」


さっそく蒼太が聞き慣れない名前に思わず問いかけてしまう。


「えっと…萌乃ものさんと同じ私の影武者?本人曰くドッペルゲンガーと言う種族だとおっしゃってました」


「なるほど…モノとジュナね」


蒼太はジュナにも会っているが会話をした事のあるのはモノの方だ。


話し方やイントネーションに少し違いがあるものの見てくれは月姫と全く見分けがつかない程、容姿は酷似していた。


モノが言うには裸の状態でも瓜二つだと言っていたが、彼女が複製を得意とする種族ならそれもうなずけることだった。


「その日二人がホール全体にスキルを暴発させてキャスト、ファナーを問わずに錯乱状態に陥り、みなさん誰彼問わず体を重ねていったと聞きます」


「エッチしたってこと?」


抽象的な言い方に分かりやすく蒼太はそれについて言及する。


露骨な問いかけに月姫は小さく咳ばらいをして、少し頬を朱に染めながら彼の言葉を肯定していた。


「…こほん。そ、そうです。生憎そこには性欲を中和することが出来る紗希さきさんも居なくて、なぜか状態異常を緩和したり解除したりすることができる面々が誰も出勤していなかったんです」


それに続く言葉を聞いて蒼太はしかめっ面になってしまう。


「最悪な状況だったんだね」


今のISKで同じ状況を想像し、そのまま閉口してしまっていた。


しばしの無言…月姫は顔の火照りが治まるのを待って短く呟いた。


「…偶然にもです」


「え?待てよ…それって偶然?」


今日何度も耳にした単語に蒼太は思わず食い付いてしまう。


それを待って月姫はその日の出来事を再度呪う様に復唱する。


「私も偶然出勤していない日、制御できるキャストもスタッフも誰一人居ないホールの人員配備も偶然が引き起こしたことです」


「なんだよそれ…絶対偶然が重なるわけがないじゃないか」


明らかに仕組まれたような状況に蒼太は苛立ちを覚えながら呟く。


「後日それを聞いた私たちは極力可能な限りその時のファナーの記憶を欠損させたり、代替の記憶を植え付けたり…人としてはやってはいけないと思いますがあらゆる手を尽くしてすべてをなかったことにしました」


更に苦々しく続ける月姫の表情はとても辛辣なものだった。



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