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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第14話-4/10

彼女にしては初めての愛を込めた口づけ…ISKで見る大人のキスとは違ったそれに悠久な時間。


「あら、何をしてるん?真昼間から破廉恥やわぁ…」


現実世界に二人を呼び戻したのは意外な人物だった。


その言葉にびっくりして月姫は蒼太とのキスを解いた。


と言っても下着姿で抱き合っている状態からは解放されていない。


「ミ、ミライ?どうして」


髪型以外はイマリと見分けがつかないミライだがその言葉遣いでミライ本人だと確信して蒼太は問いかけた。


「扉を強うたたく音が聞こえたさかい、戻ってきたんどすけど…。お邪魔どしたか?」


「いや、助かった…でも扉は開いたの?」


ミライがここに居ると言うことは扉を開けて入って来たに違いない。


蒼太はここが他のアフタールーム同様オートロックと思っていたが、実際は施錠しない限り鍵はかからない仕様になっているようだ。


「けったいなことを…開かへんかったとでも?」


つまり彼女は何事もなく普通に扉を開けて入ってきたという。


逆に彼女から扉に何か異変でもあったのかと質問で返される始末。


「うん、その通り」


蒼太の言葉を待ってミライは扉のノブを手にすると、開けたり閉めたりを繰り返し何の仕掛けもないとアピールして見せる。


ミライが来たことで自然に月姫は蒼太の上から立ち上がると、腕で体の部位を隠すようにして少し彼とは離れた位置に後ずさった。


彼女が何度か扉を開閉したことで外の熱が室内に入り込み、極寒の地と化していた室温が少し上がったように思われる。


「あら、もしかしたらなんか不思議な力が働いとったかもしれしまへんなぁ、不思議な力が…」


そう言いながら彼女は扉をノックしてみたり、眺めたりと種も仕掛けもないわと言いたげに蒼太を見やった。


「ミライが、なにかしたわけでは?」


月姫を横目で一瞥すると蒼太も立ち上がり、ミライに歩み寄った。


彼の眼は猜疑心をもって彼女を見下ろしている。


「そない人聞きの悪ぅこと…けったいな言いがかりはやめとぉくれやす」


飄々とした態度に、蒼太は怒りがこみあげて来る。


彼女の登場は色んな意味でタイミングが良すぎたのだ。


とは言え彼女が扉の向こうで何かしていた様子は感じられなかった。


ノブも回れば、扉をたたいた時の音も衝撃も、その向こうに誰かが押さえていた感じでもなくただ扉が開かなかったとしか形容のしようがない。


「お、俺に何をしても良いけどかぐ…こいつには危害を加えるなよ!」


思わず蒼太は感情のまま手が出てしまっていた。


ミライの肩を掴み、その手に力が籠る。


「あらあら、うちがなんかしたと疑うてはるようどすなぁ?」


うろたえる風もなくミライは彼の手首を右手で掴み、意味深な笑顔を浮かべている。


手首をつかんだ指には力が込められていないが、蒼太の出方次第ではミライが何を仕掛けるか予想することができた。


それに確たる証拠がないがゆえに蒼太もこれ以上強く出ることはできなかった。


「いや、偶然が重なっただけかも知れないけど…」


一度深く深呼吸をすると蒼太はミライの肩を掴んでいた手を離した。


こんな時こそ冷静にならなくてはと蒼太は葛藤の中、怒りの感情を鎮めることに成功する。


「そうどすなぁ、偶然と偶然と偶然が重なって必然になるかも知れへん世の中どすさかい…。ねぇ?ムーンはん」


まるで舞踊でも舞うような動きで右手と左手をひらひらと交わらせて、ミライが言った。


名指しされた月姫はデスクに隠れていたが、その場で直立すると頭を下げて詫びを言葉を述べた。


心蕾みらいさん変な疑いをかけてごめんなさい。そうちゃんも謝って」


「なんで?…ったく。疑って済まなかった。助けてくれてありがとうな」


不服はあったものの、この場を仕切る月姫の言う通り嫌々ながらも蒼太も彼女に倣って頭を下げた。


「人間素直が一番やわ。…でも、キスだけでは既成事実とは至らしまへんなぁ。残念どすけど」


口元に手をあてがい、くすくすと笑うミライ。


「!?」


この言葉だけ聞いても彼女が何かを企てたと結び付けてしまいそうになる。


絶句する蒼太にさらにミライは言葉を続けた。


「ほな今度こそお暇いたします。扉の立て付けには気ぃ付けとくれやす。それと水道の修繕の必要ある思うさかいアスカはんに来るよう連絡しといたさかい」


彼女は扉を開け、背中越しに二人にそのことを告げてこの場を去っていった。


「あ、ありがとうございます」


その背中に月姫はもう一度頭を下げ、お礼を言っていた。


拭いきれない違和感が蒼太の中でこみ上げてくる。


確かにこの部屋は水浸しになっていたが、水道が壊れたことまで彼女には話していない。


きっと話すまでもなく彼女はそのことを知っていて、修理の必要性があることも分かっていたのだろう。


ミライがいつどこでこのことを予知していたのか、また壊れる前に事前に月姫に伝えることはできなかったのか。


違和感が違和感を生み、ミライという人物に少し抱いた猜疑心が見る見るうちに膨れ上がっていく。


そんな中、視界に移った月姫の姿に自分が今一番しなければいけないことを蒼太は思い出すのだった。


「ごめん、かぐ。すぐ衣裳部屋着替えを持ってくるから」


そういうとすぐさま蒼太はこの部屋を出て、廊下で歩くミライを抜き去り、エレベーターを経由してアレテイアへと向かうのだった。






蒼太が戻ってくるまでそれほど時間はかからなかった。


衣裳部屋から持ってきたのは月姫がISKの仕事中に来ているメイド服らしきものだった。


メイド服にも色々種類があり、普段月姫が来ているものはクラシカルタイプと分類されるがその違いが分かるほど蒼太は通ではなかった。


蒼太が戻ってくるまでは彼女は机の下に姿を隠していたようだが、衣服を受け取り蒼太は着替えの間部屋の外で待つことにした。


程なくして着替えを終えた月姫から声がかかり、室内へと入りソファに座ることにした。


流し台から遠いこともありかろうじてソファは水害を免れていたようだ。


「ごめん、きっと俺が絡んでるよね?」


重苦しい雰囲気の中蒼太が口を開く。


「怪我とかしなくて良かったと思ってます」


髪を乾かす用具が無かったため、月姫は未使用のタオルを使って髪の水気を取りながら答えた。


その様子を見ながら蒼太は自身が思っていたことを口にした。


「やっぱりあのミライってのが原因だよね」


「多分…ですが言い切ることは出来ませんし、私達では太刀打ちできる相手ではありませんから」


目線を合わすことなく月姫は手を動かしながら淡々とした口調で答えていた。


何か憂いを含んでいる彼女の瞳。


胸騒ぎと共に蒼太はその意味を知るべく追及することを選んだ。


「何か知ってるの?」


「こんち、水道の修理と聞いて来たダナ」


タイミングが悪いと言うべきか、蒼太が立ち上がって月姫に問い詰めようとしたところで部屋の扉があき、以前一緒にプレングスタへ足を運んだ仲間のアスカとネネが姿を現した。


「水回りはあたしの出番ねー」


アスカに続きネネも自分の存在をアピールする。


たまたま立ち上がった蒼太に、月姫も来訪者二人に挨拶すべく、腰を上げ頭を下げた。


有沙香あすか寧音ねね、ありがとうございます。お忙しいのに…」


「アタイは今日は非番ダナ。ネネは水浴びしてただけダナ」


挨拶も中途にアスカは早速流し台の方へと向かい、歩き始めた。


少し馬鹿にされたネネは口を尖らせながら、自身の頬をさすりながらアスカに反論の言葉を投げた。


「えー、水浴びもお肌のケアの一環なのよー、誰かさんみたいに暇じゃないのよー」


「暇と言えばシルクの事ダナ。いったい…」


「あーちゃんのことよー、はい水かがみー」


ネネの皮肉った相手を受け取り間違いして、ここに居ないシルクを引き合いに立てたアスカ。


その間違いを正すためにネネは両手で円を描くと目の前に反射板を水を用いて作り出した。


彼女たちは4元素精霊、エレメンタルと呼ばれる種類の異住人である。



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