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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
138/192

第14話-1/10

イマリのノックに中から「はーい」という返事が聞こえてくる。


聞き慣れた月姫の声だが扉越しなのか少し曇った感じを抱いてしまう。


イマリはノブに手をかけ、元気よく扉を開き、挨拶と共にその中に足を踏み入れた。


「おじゃましまーす!」


「お、おはよう」


少し身をかがめながら蒼太も申し訳なさそうに彼女の後に続いた。


仕事部屋というだけあって他のアフタールームとは違い、事務所の感じを思わせるインテリアが置かれていた。


丁度扉に向かう様に設置されたデスクには書類が置かれていたが、作業途中のようでペンがその上に転がっているのが見える。


しかしそのデスクに月姫の姿はなく、少し隣のソファとテーブルが置かれたところに彼女は鎮座しているのだった。


そして月姫と向き合う様に座っている女性…見た目はイマリに非常に似た顔立ちだが、和風の衣装である着物を着用しているのが分かった。


髪型も独特で、和髪と分類される結った髪を編み込み綺麗にまとめ上げていた。


「おはようございます、どうされたん?」


落ち着いた雰囲気でその女性は客人に向かって挨拶を返してくる。


彼女の姿を見るなりイマリは苦虫をつぶしたような表情に変わり、女性の名を呼んだ。


「げっ、みらい!」


「奇遇ね、伊鞠。あんたもムーンはんに用事やろか?」


静かにソファから立ち上がるとミライと呼ばれた女性は二人の方へと向き直り近づいてくる。


蒼太も思わずその女性、ミライとイマリを見比べてみるが見れば見る程よく似ている容貌をしているのが分かる。


「イマリが二人?えっとお姉さん?」


イマリが言った言葉で彼女がおそらく姉だと算段を付けて蒼太は問いかけた。


「お初にお目にかかります。蒼太はんがここに来るのんは予想してましたわぁ」


背筋をただしたその姿は非常に美しく、挨拶をしながらミライは軽く会釈をしていた。


彼女は独特のイントネーションで蒼太たちの来訪を分かっていたと告げる。


「です」


忘れ去られないように月姫が一言だけ付け足した。


「伊鞠も話があってきたんやろうなぁ。なんやろなぁ?」


イマリに詰め寄りながらミライが尋ねた。


顔立ちこそ似ているもののミライの表情はイマリのそれとは明らかに違っていた。


目を細め、口を歪ませ、明らかに相手に対して挑発的な表情を浮かべている。


「分かってるよね、みらいのことだから」


イマリはそんな姉の顔から眼を逸らして口を尖らせながら言った。


言われたミライは鼻で笑うと、腕を組み視線を逸らす妹に体を摺り寄せるように近づいていた。


「えぇ、きちんと納得させられるんやろか?」


まるで強者が弱者をいたぶり、あざ笑うかのような雰囲気でミライは訊ねる。


出来ないことを否定するための準備はすでに終わっているのだろう。


僅かなやり取りだけで客観的に見ていた蒼太はミライの存在を疎ましく思ってしまう。


「邪魔した?」


「なんのことやろか?」


横目で睨みつけるイマリにミライは飄々と答えている。


阿吽の呼吸などと言った良いものではない。


とぼけるミライに対し、妹は舌打ちをすると口を噤んでしまった。


重苦しい空気の中、口を開いたのはミライだった。


「それに…ちょいちょい時間を止めるのはやめてほしいおす」


「この前は良いって言ったじゃん!」


すぐさま姉に言い返すイマリ。


わがままな妹にお手上げとばかりにミライは目頭を押さえて苦々しく吐き出した。


「それはISKの営業時間だけのことどす。日中に止められたら日常生活に影響がでるさかい、ここに来る前にもエレベータが止まって大変どしたし」


「そ、それはなんかごめん…」


ミライの苦情に素直に謝るイマリ。


乗り物に乗っている最中の時間停止は本当に恐ろしいことをイマリも熟知している。


それとミライにはそれを解除できる術がある上で、イマリが時間を動かすまで解除しなかったのはミライなりの優しさがあったからだろう。


離れた場所に居るもの同士、時間停止の行使や解除は知らないタイミング行われると困ったことが起こるのはよく分かる。


停止世界だからこそできる行動の最中に時が流れ出すとそれも事故につながる可能性は高いと言えた。


ぐうの音も出なくなったイマリの隣を過ぎ、蒼太の近くへと歩み寄るミライ。


先ほどと同じように悪意に満ちた不敵極まりない悪質な笑顔を浮かべる彼女に蒼太の背筋が凍る。


「蒼太はんの周りには沢山の虫が集まってきて大変どすなぁ。この際ムーンはんと既成事実を作っても良いとうちは思てます」


初対面の相手に突然何を言い出すのかと蒼太は怪訝な表情を浮かべ目を逸らした。


「それはちょっと…」


「でも浮ついた気持でうちの妹に手を出すなら姉として見過ごせへんのどす。うちの言うてる意味は分かりはる?」


逸らした視線に映り込むようにミライは体の角度を変えると、低いトーンで蒼太に訴えかけた。


不敵な笑みは変わらないように思えたが、間違いなく彼女の眼は怒りの色を纏っていることが分かった。


もちろん蒼太はミライに恨みを買うようなことはしていないし、イマリに至っては彼女自ら付きまとっているに過ぎない。


「…で、でも。それは俺が手を出したとかじゃなくて」


溜まらず反論する蒼太の言葉をぴしゃりと断ち切るようにミライは言葉を被せて来る。


「でももへちまも関係おまへん、はいかいいえでお答えとぉおくれやす」


穏やかな口調なのにどこか威圧感を感じる彼女の声。


ISKでも何度か経験したことのある恐怖感…雰囲気こそ違えど否定を許されない圧倒的圧力に蒼太はたまらず返事をしてしまっていた。


「は、はい」


その返事にミライは良い心がけどすと答え、ゆっくりと目を閉じた。


そして再び目を開けた時に蒼太の視線は吸い込まれるように彼女の瞳を見つめていた。


その中には無数の時計が浮かび上がり、時を刻んでいるのが見て取れる。


「なんなら作ったあげてもよろしいどすえ?月姫はんとの既成事実♡…ほならうちの妹に手ぇ出そうとは考えへんどっしゃろ?」


言いながらミライの手が蒼太の頬に触れた。


彼女の瞳は瞳孔の中心を軸に長針と短針がゆっくりと動いており、さながらアナログ時計を連想させる動きをしていた。


その手のひらはとても冷たく、血が通っていないのかと思うほどのものだった。


「いえ、遠慮します…」


これ以上彼女の眼孔を直視することは出来ず蒼太は顔を背けながら断りの言葉を述べる。


それに対しミライは「ほんまに?」と首を傾げて、彼の隣を通り過ぎてしまった。


ミライが向かったのはこの部屋の出入り口になる扉、彼女の用件は蒼太たちが着たころにはすでに終わっていたようだ。


「では、うちはこれで…伊鞠、次にお店の営業時間以外に時間を止めたらおしおきするさかいな」


ノブに手をかけ背中越しで妹に忠告を促すミライ。


「…ぐぅ」


よくぐうの音も出ないと言うが、ミライの言葉にイマリはぐうとだけ答えるのが精いっぱいだったようだ。


「水責め?火責め?それとも生き埋めがええんやろか?」


怖い単語が羅列されるがそれが脅しなのかそれとも本気なのか知っているのはこの姉妹だけだろう。


「もう帰る!」


辛抱溜まらずイマリがその場で地団太を一度踏むと、肩を怒らせながら姉の居る扉の方へと向かって歩き出した。


月姫を目の前にしておきながら、彼女には何も言わず部屋を出て行こうとするイマリを咄嗟に呼び止めようと蒼太がその背中に声をかけた。


「かぐに話があったんじゃないの?」


心蕾みらいさんから内容は伺っていますが…」


言い終わるが早いか月姫が蒼太に語り掛けた。


事前に聞いていたミライの能力。彼女は予知する能力に所有し、それを使って蒼太たちが来ることを、そして何を言いに来たかを知り月姫に伝えていたようだ。


「ほら、みらいの意地悪!」


扉の前に立っていたミライの身体をどけ、イマリは外へ出るために扉を開けた。


「心外やわぁ、伊鞠の心配をしてのことやのに」


「じゃあそうた、また夜に」


ミライの言葉など聞こえていないかのようにイマリは蒼太に声をかけると、バタンと強めに絞められた扉の衝撃で部屋の小物が少し揺れた気がした。


イマリのノックに中から「はーい」という返事が聞こえてくる。


聞き慣れた月姫の声だが扉越しなのか少し曇った感じを抱いてしまう。


イマリはノブに手をかけ、元気よく扉を開き、挨拶と共にその中に足を踏み入れた。


「おじゃましまーす!」


「お、おはよう」


少し身をかがめながら蒼太も申し訳なさそうに彼女の後に続いた。


仕事部屋というだけあって他のアフタールームとは違い、事務所の感じを思わせるインテリアが置かれていた。


丁度扉に向かう様に設置されたデスクには書類が置かれていたが、作業途中のようでペンがその上に転がっているのが見える。


しかしそのデスクに月姫の姿はなく、少し隣のソファとテーブルが置かれたところに彼女は鎮座しているのだった。


そして月姫と向き合う様に座っている女性…見た目はイマリに非常に似た顔立ちだが、和風の衣装である着物を着用しているのが分かった。


髪型も独特で、和髪と分類される結った髪を編み込み綺麗にまとめ上げていた。


「おはようございます、どうされたん?」


落ち着いた雰囲気でその女性は客人に向かって挨拶を返してくる。


彼女の姿を見るなりイマリは苦虫をつぶしたような表情に変わり、女性の名を呼んだ。


「げっ、みらい!」


「奇遇ね、伊鞠。あんたもムーンはんに用事やろか?」


静かにソファから立ち上がるとミライと呼ばれた女性は二人の方へと向き直り近づいてくる。


蒼太も思わずその女性、ミライとイマリを見比べてみるが見れば見る程よく似ている容貌をしているのが分かる。


「イマリが二人?えっとお姉さん?」


イマリが言った言葉で彼女がおそらく姉だと算段を付けて蒼太は問いかけた。


「お初にお目にかかります。蒼太はんがここに来るのんは予想してましたわぁ」


背筋をただしたその姿は非常に美しく、挨拶をしながらミライは軽く会釈をしていた。


彼女は独特のイントネーションで蒼太たちの来訪を分かっていたと告げる。


「です」


忘れ去られないように月姫が一言だけ付け足した。


「伊鞠も話があってきたんやろうなぁ。なんやろなぁ?」


イマリに詰め寄りながらミライが尋ねた。


顔立ちこそ似ているもののミライの表情はイマリのそれとは明らかに違っていた。


目を細め、口を歪ませ、明らかに相手に対して挑発的な表情を浮かべている。


「分かってるよね、みらいのことだから」


イマリはそんな姉の顔から眼を逸らして口を尖らせながら言った。


言われたミライは鼻で笑うと、腕を組み視線を逸らす妹に体を摺り寄せるように近づいていた。


「えぇ、きちんと納得させられるんやろか?」


まるで強者が弱者をいたぶり、あざ笑うかのような雰囲気でミライは訊ねる。


出来ないことを否定するための準備はすでに終わっているのだろう。


僅かなやり取りだけで客観的に見ていた蒼太はミライの存在を疎ましく思ってしまう。


「邪魔した?」


「なんのことやろか?」


横目で睨みつけるイマリにミライは飄々と答えている。


阿吽の呼吸などと言った良いものではない。


とぼけるミライに対し、妹は舌打ちをすると口を噤んでしまった。


重苦しい空気の中、口を開いたのはミライだった。


「それに…ちょいちょい時間を止めるのはやめてほしいおす」


「この前は良いって言ったじゃん!」


すぐさま姉に言い返すイマリ。


わがままな妹にお手上げとばかりにミライは目頭を押さえて苦々しく吐き出した。


「それはISKの営業時間だけのことどす。日中に止められたら日常生活に影響がでるさかい、ここに来る前にもエレベータが止まって大変どしたし」


「そ、それはなんかごめん…」


ミライの苦情に素直に謝るイマリ。


乗り物に乗っている最中の時間停止は本当に恐ろしいことをイマリも熟知している。


それとミライにはそれを解除できる術がある上で、イマリが時間を動かすまで解除しなかったのはミライなりの優しさがあったからだろう。


離れた場所に居るもの同士、時間停止の行使や解除は知らないタイミング行われると困ったことが起こるのはよく分かる。


停止世界だからこそできる行動の最中に時が流れ出すとそれも事故につながる可能性は高いと言えた。


ぐうの音も出なくなったイマリの隣を過ぎ、蒼太の近くへと歩み寄るミライ。


先ほどと同じように悪意に満ちた不敵極まりない悪質な笑顔を浮かべる彼女に蒼太の背筋が凍る。


「蒼太はんの周りには沢山の虫が集まってきて大変どすなぁ。この際ムーンはんと既成事実を作っても良いとうちは思てます」


初対面の相手に突然何を言い出すのかと蒼太は怪訝な表情を浮かべ目を逸らした。


「それはちょっと…」


「でも浮ついた気持でうちの妹に手を出すなら姉として見過ごせへんのどす。うちの言うてる意味は分かりはる?」


逸らした視線に映り込むようにミライは体の角度を変えると、低いトーンで蒼太に訴えかけた。


不敵な笑みは変わらないように思えたが、間違いなく彼女の眼は怒りの色を纏っていることが分かった。


もちろん蒼太はミライに恨みを買うようなことはしていないし、イマリに至っては彼女自ら付きまとっているに過ぎない。


「…で、でも。それは俺が手を出したとかじゃなくて」


溜まらず反論する蒼太の言葉をぴしゃりと断ち切るようにミライは言葉を被せて来る。


「でももへちまも関係おまへん、はいかいいえでお答えとぉおくれやす」


穏やかな口調なのにどこか威圧感を感じる彼女の声。


ISKでも何度か経験したことのある恐怖感…雰囲気こそ違えど否定を許されない圧倒的圧力に蒼太はたまらず返事をしてしまっていた。


「は、はい」


その返事にミライは良い心がけどすと答え、ゆっくりと目を閉じた。


そして再び目を開けた時に蒼太の視線は吸い込まれるように彼女の瞳を見つめていた。


その中には無数の時計が浮かび上がり、時を刻んでいるのが見て取れる。


「なんなら作ったあげてもよろしいどすえ?月姫はんとの既成事実♡…ほならうちの妹に手ぇ出そうとは考えへんどっしゃろ?」


言いながらミライの手が蒼太の頬に触れた。


彼女の瞳は瞳孔の中心を軸に長針と短針がゆっくりと動いており、さながらアナログ時計を連想させる動きをしていた。


その手のひらはとても冷たく、血が通っていないのかと思うほどのものだった。


「いえ、遠慮します…」


これ以上彼女の眼孔を直視することは出来ず蒼太は顔を背けながら断りの言葉を述べる。


それに対しミライは「ほんまに?」と首を傾げて、彼の隣を通り過ぎてしまった。


ミライが向かったのはこの部屋の出入り口になる扉、彼女の用件は蒼太たちが着たころにはすでに終わっていたようだ。


「では、うちはこれで…伊鞠、次にお店の営業時間以外に時間を止めたらおしおきするさかいな」


ノブに手をかけ背中越しで妹に忠告を促すミライ。


「…ぐぅ」


よくぐうの音も出ないと言うが、ミライの言葉にイマリはぐうとだけ答えるのが精いっぱいだったようだ。


「水責め?火責め?それとも生き埋めがええんやろか?」


怖い単語が羅列されるがそれが脅しなのかそれとも本気なのか知っているのはこの姉妹だけだろう。


「もう帰る!」


辛抱溜まらずイマリがその場で地団太を一度踏むと、肩を怒らせながら姉の居る扉の方へと向かって歩き出した。


月姫を目の前にしておきながら、彼女には何も言わず部屋を出て行こうとするイマリを咄嗟に呼び止めようと蒼太がその背中に声をかけた。


「かぐに話があったんじゃないの?」


心蕾みらいさんから内容は伺っていますが…」


言い終わるが早いか月姫が蒼太に語り掛けた。


事前に聞いていたミライの能力。彼女は予知する能力に所有し、それを使って蒼太たちが来ることを、そして何を言いに来たかを知り月姫に伝えていたようだ。


「ほら、みらいの意地悪!」


扉の前に立っていたミライの身体をどけ、イマリは外へ出るために扉を開けた。


「心外やわぁ、伊鞠の心配をしてのことやのに」


「じゃあそうた、また夜に」


ミライの言葉など聞こえていないかのようにイマリは蒼太に声をかけると、バタンと強めに絞められた扉の衝撃で部屋の小物が少し揺れた気がした。



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