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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第13話-10/13

イマリもそれに倣って空いているスペースに腰を下ろしたがどうやらまだ彼女は不服のようだ。


「だって二人が抜け駆けしたから悪いんだよ?」


「なら、後で愉しめば良いだろう。蒼太に興味があるのは分かるが、それは私たちが居ない時にやっておくれ」


唯一蒼太には関心が薄いだろうセシルがその場を取り持っていく。


もちろんセシルも関心がないわけではないが、二人が抱く性的な好奇心ではなく蒼太という生物に対しての知的好奇心の方が凌駕しているようだ。


「はーい…」


不満げな返事でイマリが応える。


「ってかあんな状態になるのを目の当りにしたら簡単に色々出来ないってば、ミクの件もあるし…」


蒼太は先日のミクに行われた搾精の話しに及んだ。


詳しくは語る必要が無かったのか語尾を濁し、自身の苦い思い出に頭を抱える。


あの場に居たキャスト以外にはほとんど口外されず噂も広がらなかったが、一部では要注意人物として警戒するようにとお触れを回されていた。


「そうだな…」


三人の中で唯一事情を知るセシルが重たく返事を返す。


セシルもあの場に居合わせなかったが、月姫はセシルを要人として重要なポストに位置付けていた。


本当の所ユカもサキから蒼太の事を聞いてはいたがあえてその話題に触れる必要はなしと反応は示さなかった。


だがイマリはそうもいかなかったようである。


「え?みくの件ってなになに?何をしたの?」


蒼太の眼前に迫るイマリ。


この感覚は先ほども感じた停止世界の中だといち早く蒼太は理解する。


「…ってまたこのパターンですか!そんな頻繁に時間を止めないで下さい!」


予想通りセシルもユカも再び停止世界に誘われていた。


空気の感覚と音の質感ですぐさま別世界に居ることは把握できるようになった蒼太。


少し立腹気味の蒼太にイマリは腕を組みながら少し斜に構えてお決まりのワードを口走る。


「え~、あたしにとっては無駄な時間なんて」


『0.01秒もないもん』『0.01秒もないんでしょ』


タイミングを見計らって彼女の台詞に蒼太も合わせた。


「あ、はもった」


「ハモらせたんです、さっきも聞いたフレーズですから」


テンションが上がるイマリに比べ、蒼太はやれやれと言った感じの表情で答える。


しかしそんな潮対応の蒼太に構うことなくイマリはマイペースで彼に再度質問を投げかけた。


「で、なになに?そのみくの件って」


「後で、後にしましょう。セシルの要件が終わってから後でじっくりと尋問を受けますから」


「え~、時間がもったいないよ?それに止まってるんだから今でも後でも一緒じゃないの?」


蒼太は半ばあきらめた様に彼女に提案するが、イマリはイマリで今すぐにでもその真相に触れたいと思っているようだ。


話すぐらい容易い事だが、事あるごとに時間を止め同じことを繰り返されていては蒼太もたまったものではない。


「俺の思考が付いていきません!今はセシルの話しに集中したいんです、いちいち止めて話題を変えられたら頭の中で整理できませんってば!」


蒼太とてスキルをシェアしてもらっている立場上彼女にはこれ以上強く言うのはためらわれた。


一度シェアした関係を解除できるかどうかは分からないが、そうなっては元も子もない。


シェアスキルの変更が出来ることは昨日のユカとの前例があるため可能と分かってはいる。


「じゃあじゃあ、後であたしのお願い聞いてくれる?」


イマリが譲歩する為、その後のことについて言質を取ってくる。


「へ、変なものじゃなければ…でもこの部屋を出るまでもう時間を止めないと約束してください」


一瞬躊躇うものの、現状を打破するためにはとイマリの申し出にやむを得ず承諾する蒼太だが、すかさず交換条件を出すことを忘れなかった。


「するする!えへへ、楽しみぃ!」


お互いの交渉が成立したとイマリは満身の笑みを浮かべると、これまた息をするかの様に簡単に時間を動かし始める。


「でだ、アプリに関してもう少しマナの支配下に居ない時の身体への影響を低減することと、距離について考えてみようと思う」


セシルは全く違和を感じることなく話を続け、まさか時間が止まっていたとは言われるまで気が付かないだろう。


困惑するのはむしろ停止世界に導かれた蒼太の方だ。


セシルが話した前の言葉が思い出せない。


確かミクの名前を出したまでは覚えているが、これが混乱を招く元となり、今更ながらイマリと約束を交わしておいてよかったと心で思う。


「距離は10m以内って制限があったよね?でも厳密にはもう少し余裕がある感じがしたけど」


今日、ユカと一緒に競走した時でも感じた距離の問題。


あきらかにシェア元であるユカとは10m以上の離れていたがスキルの発動は行うことはできていた。


「…そうだな、遮蔽物が無ければ電波の通りが良い分若干距離については融通が利いている感じはしたな」


と付け加える蒼太。


実際の距離は測っていたわけではないが目測でも充分分かるほど許容の範囲を超えていただろう。


「私もそれは思いました。ここに来る前にトランスポートで競争したんですが、明らかにもっと…100m以上差が開いていても蒼太さんはトランスポートを使用できましたので


距離もありますが、何か蓄積?されているとかそういった考え方もあるかもしれませんよね?」


彼の発言を待ってユカが補足説明を付けたした。


「ふむ、面白い実験をしてくれていたのだな」


セシルが二人の結果報告を興味深く聞き入れていた。


自身でも設定していた値より良好な結果が出たことや、次の課題に取り組むことが出来る確信。


二人に協力を申し出なくとも求めうる実験をしていたことやそれらの有用性について吟味していく。


「ええ、10mぐらいと聞いていたので敢えて差を開けて蒼太さんがトランスポートを使えなくて泣いている所を見たかったので頑張ったのですが」


とニコニコしながらユカはセシルに伝える。


「ちょっと聞き逃せませんよ今の言葉…」


大人しく優しいお姉さんのイメージで接していた蒼太だったが、ここで初めてユカの意地悪な一面を知ることとなった。


勝負を挑んできたときはすでに勝ちを確信したうえでそんなことまで考えていたとは露とも知らず、違う意味でもっと深く彼女の性格を知るべきだと言葉にはせず蒼太は頭のメモ帳に書き残しておいた。


「ふむ、改良の余地もあるし、まだまだ試行回数を増やしてみる必要があるな」


そう言ってセシルは少しだんまりと考え込んでしまう。


それを見かねたイマリがついに口を開いた。


「難しい話は分かんないけど、要は話は終わりってこと?」


「まだ終わってない、茶々を入れるなら黙って聞いておけばよい」


セシルが一蹴、イマリにぴしゃりと言ってのける。


ふてくされ気味にイマリは両手の人差し指で口元にバツ印を作ったものの、すぐさま退屈に負けた体が大きな欠伸を促していた。


「イマリさんはこの手の話し苦手なんだね」


大欠伸をしているイマリを横目に蒼太は蚊帳の外に出された彼女にも関わるように言葉を投げた。


「ふむ、明日はムーンはISKは休みだったな、一度ムーンを交えて話をして彼女にもこのアプリを使ってもらうか…どうだ?」


試行回数を増やすの意味に月姫の存在も含んだのだろう。


セシルはそういうと蒼太を見つめ、彼の返事を待った。


「え?俺?良いんじゃない?」


突然話題を振られ、答えを求められた蒼太は泡を喰って適当に返事を返した。


なぜ自分に承諾を求められるのか分かっていない。


「なら明日はここに一緒に来てもらおうか」


セシルはそう続けた。


「分かったよ、俺に許可取る必要はあるのか?かぐ本人に直接聞いた方が良いんじゃ?」


「最初の発案者は蒼太だろう、物事において最初のきっかけというのがなにより大切だからな」


というセシルだが、やはり蒼太はそう言われても合点がいかない様子で…


「いや、開発したのはセシルだし、お店はかぐが一番偉いんだし、スキルを共有してくれるのはみんなだし、俺なんて」


「謙遜しすぎですよ、蒼太さんは偉大な方ですから」


自信を卑下する蒼太に今度はセシルではなくユカが口を挟んだ。


以前からユカは蒼太に一目置いており、それを彼は買いかぶりすぎだと思っている。


「持ち上げすぎですってユカさん」


あまり天狗にならないように自重する意味を込めて彼は周りに言った。


その実、彼自身に言い聞かせるためのものだが。


「こいつはすぐに調子に乗るらしいからな、ほどほどにしておいた方が良い」


「手厳しい意見で」


むしろセシルのように厳しめの意見を発せられる方が自分の性にはあっていた。



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