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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第12話-1/8

18:00を迎えた直後、お店の入り口となる観音扉がゆっくりと開かれていく。


まだ日の光が残っている外界と店内の空気が繋がると同時にキャスト達が声を揃えて歓迎の言葉を発した。


『ようこそ、CLUB・ISKへ!』


今日の開店待ちは10人程度、蒼太も見たことがある顔が数人は居た。


『いらっしゃいませー!』


深々と頭を下げ、入店どうぞと挨拶を送る。


最初の一瞬でキャスト達は事前に通知が入っていたファナーを見つけ、自分を推してくれているいわゆるマイファナーを見つけそちらに足早に向かって行った。


「こうちゃん、おいでませ~今日はアタシがお迎えするよ~」


おそらくこのお店で知らないファナーは居ないだろうサキが最初にお出迎えをする。


ファナーの腕に自分の腕を絡ませ、尻尾を巧みに扱い身体に絡めながら色っぽい声で耳元で何かを囁き落とす。


「しんニャン久しぶりだニャ、開幕ボックスの指名ありがとニャン♪」


続いてミオがボックス席のリザーブキャストに指名してくれたファナーに抱き着き、全身で喜びをアピールしていた。


「あーゆーくんお久ー、待ってたよー」


その二人とは違ってマイペースでマイファナーを迎え入れるネネ。


今日は彼女は厨房の洗い場ではなくホールの担当をしているようだ。


彼女がステージ上で繰り広げる水芸は夏場では特に人気が高い出し物である。


「毎回すごいよね、開店待ちしてる人たちって…」


「アプリを経由で推しのキャストの出勤が分かるようになってるからな、最初の混雑が一番大変だと思うな」


他にも数人はキャストとの関係が深くマイファナーであったり、そうでないファナーも好みのキャストに声をかけ入店手続きに取り掛かろうとしていた。


少なくとも10人分の入店手続きにはそれなりの時間がかかり、順番待ちが生じてしまう。


とは言えファナー達もその待ち時間にいらだつこともなく、キャストとの会話や戯れに勤しんでいるため急かす人もいなかった。


月姫一人が手続きをしているが、彼女も慣れたもので時間制限のあるボックス席から優先的に進め、一組、また一組とファナーを店内へと進めていった。


「ちょっとかぐの手伝いしてきていいかな?」


蒼太はセシルの車椅子の取っ手を握っていたが、別段移動するわけでもなく、待ちぼうけをするなら彼女の助力になりたいと申し出をする。


「別に構わんよ、それに私にもコール入ってるしな」


「え?セシルって滅多に店にこないからマイファナーとかいないんじゃないの?」


少し小ばかにするように蒼太は言ってしまった。


確かに今までセシルがホールで見かけたことはない。


スキリングのアプリが無ければ今日も彼女はここには居なかっただろう。


そんな彼女にマイファナーが居るとは思えない。


「見くびるな、私にも好いてくれるファナーはごまんと居る」


「本当に?」


蒼太も入れているこの店のアプリISKAPRアイエスケーアプリを見ればすべてのキャストのデータやマイファナーに関して知ることができる。


通称【イスカ】と呼ばれるアプリだが、ここの常連で知らない者は居ないだろう。ただ蒼太のようにアプリの名称を知らない者も多いが…


彼女が本当のことを言っているかどうかはそれを見れば一目瞭然だ。


「少し盛ってしまったが、それでも私と話したいファナーはいるよ」


「へぇ、セシルとねぇ…話かみ合わない気もするけど…」


「蒼太とはな、共通の話題は少ないが私と気の合う者もいてるさ」


少し遠い目をしてセシルは呟き落とす。


セシルに本当にコールが入っているかどうかは分からなかったがそこまで蒼太も追及する必要はないと彼女のプライドを崩さないようにした。


なにより一人で切り盛りしている月姫の手助けをすると言ったのに行動に移していない自分を叱咤し、彼女の元へと駆け付けることにした。


「それじゃ、かぐの手伝いをしてくるよ。用事があったらコールしてよね」


「あい、分かった」


セシルは返事をすると、自分で車輪を操作し、動線の邪魔にならない様部屋の隅、壁を背にして成り行きを見守ることにした。


「手伝うよ、かぐ」


いつも一人で開店時の入店手続きをこなしている月姫に助力は必要なかったが、


やはり人手があると無いとでは大きく立ち回りが変わった。


蒼太はまだ慣れてはいないが勝手がわかる分足手まといにはならない。


入店待ちをしていた最後の一組のファナーの手続きを終え、キャストのほとんどはホールに戻り、コールが入っているものだけがエントランスに残っていることになった。


「そういえばセシルって足悪いんだよね?」


蒼太が隣の月姫にだけ聞こえるように彼女に確認する。


以前二人でセシルの部屋に訪れた時にはそんな雰囲気を感じなかった彼の違和感。


「え?そうだったかしら、そのイメージはないけど…」


言われて月姫はセシルを一瞥し応えるが、元々歩行が困難なほど足が悪いことは知らなかったし、足を怪我した話も耳には届いていない。


「ほら、車椅子を使ってるし…」


「そうですね、私も気にはなりました。以前はそんなことなかったんですが…」


月姫は記憶の糸を手繰って彼女がホールに居た時のことを思い出すが、いたって普通に他のキャスト同様業務をこなしている姿しか思い出せない。


本人に聞くのは憚られ大人しくしていたが、ユカのように治癒能力に長けたキャストが居るなら直してもらえば良いじゃないかと頭の中で閃いた。


それと同時にもう一つの可能性も浮かび上がってくる。


「そうか…。もしかして…偽装?」


考えたくはなかったが化の可能性が無いとも否定できない。


なら何のために…と思うが、今日の彼はひらめきの連続があった。


「あ、こういう時の為の…」


そうつぶやくと蒼太はおもむろにスマホを取り出し、操作を始める。


「どうしたの?」


「うん、さっそくスキリングの有用的な活用法を…」


隣でガサゴソとしだす蒼太に月姫は優しく問いかけた。


彼はそれに応えながらスマホの操作を続け、今トランスポートの設定になっているのをセシルに変更しアナライズを指定する。


一度登録している状態のスキルの切り替えは相手の同意は必要なく、スムーズに移管できセシルに向かってそのスキルを発動させた。


【アナライズ】


ターゲットとなるのは彼女の両足で分析対象として、足の怪我、不調、状態を絞って確認していく。


導き出された分析結果は正常と表示され、不調な部位は見当たらなかった。


「え?なにも悪いところないよね…ってことは嘘ってことだ」


セシルのスキルがセシル自身の嘘を暴く皮肉な結果となってしまった。


「そんなこと分かるの?」


目を見開いて驚く月姫。


先ほどの瞬間移動もそうだが、蒼太が突然身に着けた能力にびっくりしていた。


それに対して蒼太は得意げに答え、再度スキルを発動させようと試みる。


「うん、例えば…」


蒼太の目が一瞬青白く光ったかと思うとまじまじと見つめられる月姫は少し照れたように顔を逸らした。


【アナライズ】


真横に居た月姫のデータが分析され、蒼太には文字として記されていた。


ウィンドウに表示された彼女のデータを読み上げていく蒼太。


「星宮月姫、年齢24歳、身長165cm、体重49kg、Cカップの、んぐ!」


「な、なにを口走ってるんですか!」


胸のサイズを言いかけたところで彼女の手が蒼太の口を塞いだ。


誰も自分の秘密を公言してほしいとは言ってはいない。


体重でさえも秘密にしているのに勝手に分析されるだけでも月姫への精神的ダメージは大きかったようだ。


「で、でも当たってるよね?」


彼女が敏感に反応したことに蒼太は逆に驚いてしまうが、女性への気遣いが出来ないのがこの男なのだから仕方がない。


「その通りですけど…のぞきですよ、それって」


月姫もあらぬ形で諸々把握されてしまったのはいただけず、あからさまに嫌な感じを顔に出して告げた。


その眼差しは次はもう使わないでねと意味も込めたものであった。


「ごめんごめん、でも能力が数値化されてて色んな情報を分析することができるスキルなんだ」


蒼太もこれ以上心証が悪くならないようにと彼女から視線を逸らし壁を見つめながら答えた。



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