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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
11/192

第1話-11/16

初めまして、【れいと】と申します。


初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。



蒼太も辟易とし、事の成り行きに任せることにしたところを、


苦笑交じりに年配の男性が挨拶の言葉を投げかけてきた。


どうやら隣のボックス席の予約者であろう男性。


頭髪は少なく、中年太りの言葉を体現している風貌に


年相応の皺が顔に刻まれている。



「若いねぇ、お隣失礼するよ」



軽く会釈をし、中年の男性は蒼太の隣のボックス席のソファーに腰を下ろした。


その後ろに従う真っ白なドレスの女性。


肩にかかるかかからないかの少し長めの銀髪がなびく。


気品あふれる仕草に、蒼太は思わず見とれてしまった。


キャストのほとんどは水着だというのにこの女性は


パーティーに参加するかのようなこのお店のキャストととしては場違いなドレス。



「あ、うるさくしてすみません」



思わずかしこまってしまう蒼太。



「気にしなくても大丈夫ですよ、そういうお店ですから」



くすりと笑いながらドレスの女性は応える。


口元に手をあてがう様さえ絵になる女性。


心を奪われるとはこのことだろう。


蒼太は口を半開きにしたままその女性に見惚れてしまっていた。



「なにぼけっとしてるニャ?」



「綺麗だなって…」



呆けたまま蒼太はうわごとのように答えた。


恋愛的な惚れるとは違う、芸術的に夢中になってしまった類の反応。



「ユカニャンは今日はプロだから他のファナーには挨拶しニャいニャよ?」



「ユカニャン?プロ?」



ミオの言葉を反芻する蒼太。


ミオにとっては当たり前の単語でも蒼太にとっては初耳、


いわゆる業界用語と彼女の名前だ。



「ユカさんはお隣のファナーさんとプロ。

プロローグの事で要約すると同伴出勤だわん」



左耳から詳しい説明がイチコによって添えられる。


正式名称を言われたところで蒼太にはピンとこない。



「何それ?」



「ファナーと食事をして、それからお店にくる事前店外デート出勤のことだわん。

かな~り親密になってから申し込むと良いんだわん、

連絡先を交換しとくのは最低条件だわん」



なるほどと心の中でつぶやく蒼太。


彼はこの時間、この場所での楽しみと思っていたが


意外にもこの時間、この場所以外でも楽しみが広がっていることに納得する。


もちろんそれぞれにそれなりの対価も必要なるが


今の蒼太の思考能力では深読みすることはできなかった。



「そうニャンがして欲しいならミーはいつだってOKだニャン!」



イチコの説明に一番乗りとばかりに


ミオが親指を立て蒼太の相手になる決意表明をする。


なぜそこまでミオが蒼太の肩を持ってくれるのか、


彼は自身の本質を知るのは少し先の事となるだろう。


その時、再び店内の照明が一気に消え、


暗転した後舞台へ集中的な照明が照らされる。



「ん?イベントの時間ニャ?」



瞳を爛々と輝かせたミオが言った。


猫が暗闇で少ない光源でもあたりを見渡すことが


出来る能力は彼女にも備わっているのだろう。


舞台上でMCがイベントについての説明がマイク越しに行われていた。


とはいえこの時間のイベントは少し前のダンスバトルとは違って、


MCによれば歌自慢のキャストによる歌唱が行われるようだった。



「バキニャンの歌ニャ!」



「つばきさんだわん」



ほどなくして舞台に両手の部分が大きな翼の女性が登場する。


下腹部より下は鳥を思わせる羽毛に鋭い足の爪が印象的なツバキ。


名前は憶えていなかったが蒼太がずっと探していたのが他ではない彼女だった。


彼の知識で知るのは彼女が幻想世界で言う


【ハルピュイア】または【ハーピー】と呼ばれる種族だ。


一説によると下品、狡猾、不潔でその名の通り掠め奪うものと


呼ばれ忌み嫌われているが舞台の彼女にはそんな印象を微塵も感じなかった。


挨拶の時に消極的で人見知り、とてもこの店にはそぐわない女性だと感じたが


時間が経つに連れ、彼女の存在が気になり、もう一度話をしたいと思っていた。


どこに惹かれたか自分でも分からなかったが出来ることなら


残りのチケットを使ってもっと親密に彼女を知りたいと考えている。


舞台ではMCによる紹介が終わり、照明の雰囲気が変わる。


それと同時にアップテンポのBGMが店内のスピーカーから流れ始める。


メジャーな選曲ではなかった。


少なくとも蒼太が知る楽曲のイントロ部分ではない。


だが、好きなジャンルの音楽に相違なかった。


短いイントロの後ツバキが歌い始める。


第一声は蒼太の想像を超える物だった。


テーブルに挨拶に来た彼女とは全く別人のような


歌唱っぷりにあっけにとられてしまった。


声量、歌い方、そしてプロ顔負けの歌唱力。


何かの番組で見たことのある本物のミュージシャンが


一般人が扮して後で正体を明かす感じの意表を突くぐらいの代物。


耳にしながら蒼太は腕や足が総毛立つのを感じた。


今まで行ったことのあるどのライブよりも心が震え、血が沸き立つのを感じていた。



「すごい…全然違う…」



たった1曲だけの披露だったが、あっという間の3分間に蒼太は放心状態に陥っていた。


興味があった彼女だからではなく、


おそらくこの歌だけを聴けても事前の気持ちに関連なく心を奪われていただろう。



「ミーたちと居るより歌聴いてる方が良かったのかニャ?」



「いや…」



ミオの心配を払拭する言葉を続けたかったが声が出なかった。


図星…核心を突かれた蒼太は反論する語彙を持ち合わせていなかった。



「見れば分かるニャ、それニャらバキニャンをここに呼んであげようかニャ?」



今までのミオならもっと否定したり、


駄々をこねたりしそうだったが拍子抜けするほどあっさりと引き下がり、


彼の恋路のお手伝いを自ら買って出ようとする。



「え、それは…」



「呼んで欲しいって顔に書いてるニャ…んっとに世話が焼けるニャ」



言うが早いかミオは右手のリストバンドに隠してある


腕時計型の端末を操作し始める。


覗き込むのは良くないと思い、あえて蒼太はイチコの方を向いていたが、


ミオが端末経由でツバキを招集しているのがそれとなく分かった。



「キャスト同士で取り合いしてるわけじゃないんだけど、

ここにいるみんなはまたそうさんがお店に来て欲しいって願ってるわん」



穏やかな話口調のイチコ。


ミオとは仲違いしているように思えるが


イチコに至っては彼女を毛嫌いしている様子は全くなかった。


じゃれ親しんでいる同僚扱いだ。


またそれはミオに対しても当てはまるように思える。


「この店に居る時は、この時間だけは普段の事を忘れて楽しんでほしいわん」


ファナーに対して不快な気持ちを与えないのはここのキャストの総意だろう。


蒼太にしても性格的に合う合わないはあったが、


どのキャストに対しても嫌悪感を抱くことはなかった。


やりすぎ感は否めない所もないが


初対面の相手にそこまで計れる物差しを誰しもが持っているとは限らないだろう。


頃合い良しと判断したのかイチコはソファーから腰を上げると


くるりと一周廻って蒼太に向かい敬礼のポーズをする。


「じゃあ他のファナーさんに挨拶してくるわん、お邪魔したわん」


「しっ、しっ!ミーとそうニャン、二人の邪魔は許さニャいんだニャン!」


相対するミオは早くいけとばかりに右手で厄介払いの仕草をし、


左手で蒼太の首をぎゅっと抱き寄せた。


すでにこの席を後にするイチコの後姿に向かって舌を出して


「あっかんべー」と侮蔑のポーズをして見せた。


ミオのその様を見ながら蒼太は子供っぽいなっと苦笑いを浮かべる。



ご覧いただきありがとうございます。


ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。


誤字脱字のご報告いただけると助かります。


応援していただける方は、ぜひここで☆の評価とブクマをお願いします!!


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