第11話-1/12
蒼太が初めての異世界へ足を踏み入れ、戻ってから3時間が経過しようとしていた。
彼は眠気眼を擦りながら、すでにアレテイアで宅配業務を営んでいた。
大量にあるその荷物を各部屋へと転移させていく。
ほぼ毎日のように100を超える荷物が届いており、慣れてきたとはいっても間違いがないように確認しながら慎重に転送させるだけでもそれなりの時間が必要となっていた。
それでも1日に数件は彼も間違いを犯してしまっており、幸い苦情こそ届かないが自身もミスを少しでも減らすよう努力を怠らなかった。
特に体調が万全でない今日にいたってはいつも以上に時間をかけて確認をしながら転送処理を行っていた。
ついつい独り言が増えてしまうのは致し方ない事だろう。
ぶつぶつと呟きながら作業を進めていた為、近くに人が近づいてきていることも気が付いていなかった。
集中し、没頭することが悪いとは言わないが、危険が皆無とは言えないアレテイアでは不用心とも言えた。
「おや、ムーンが居るかと思えば…オマエが例のソウチャンってやつか?」
声を掛けられて初めて蒼太は人の接近に気づき、そちらを振り返る。
その声の主の見た瞬間、思わず蒼太は驚きの声を上げてしまった。
「きっ!?うわっ!」
その原因は彼女の服装だった。
明らかに下着姿であり、普通の下着と比べても露出過多…破廉恥と言うべき服装を身に着けていた。
秘部を覆う部分は非常に生地が少なく、あえて隠す必要のない部分に装飾が施された実用性がない衣装だった。
男性への性的アピールとしては非常に有用的かもしれないが…
「違ったか?」
いぶかし気な表情で彼女は目を見開いている蒼太に向かって行った。
「そ、そうだけど、君は?」
明らかに初対面の相手に蒼太は警戒しつつも目のやり場に困り、結果的には相手の目を見て答えることになった。
特に乳房を覆う部分は小さなハート形のパッチがあてがわれており、それでも乳輪部分はその形状からはみ出ており、
下腹部にはサキの様な淫紋と呼ばれる独特のあざの様なタトゥーが刻まれていた。
股間部分も乳房同様にハートのパッチが前張りのように張り付いているがあらゆる意味で無意味と思われるほどの小さなものだった。
蒼太でなくても彼女の抜群のスタイルには生唾を飲み込んでしまうだろう。
胸とお尻は形が整っており、腰のくびれも一流のモデル顔負けといっても過言ではないスタイルをしていた。
「オレは真咲。オマエの話しは噂で聞いている」
「め、目のやり場に困るんだけど…」
マサキと名乗った相手の目を見ながら話を続けていたが、男性の性には逆らえずその視線は胸や股間に移ってしまい挙動不審さを増してしまっていた。
そんな彼の視線を感じマサキはさらりと言ってのける。
「見たければ見れば良い、それとも覗く方が趣味に合ってるか?」
「そんな趣味はないって…それより俺に何か用事?」
皆無とは言わないが、蒼太は覗きと言う趣味は持ち合わせていない。
ただ手を止められていることに対して蒼太は用件があるなら早めに済ませて欲しいと願った。
「あるといえばあるが、ないといえばない」
マサキの返事に蒼太は首を傾げると、彼女に背を向けた。
「なぞかけ?俺、今仕事中なんだけど…後にしてくれる?」
目のやり場に困っていたこともあるが、この後に控える用事が彼にとっては大きな案件だったため無駄に時間を裂きたくないと思っていた。
再び作業を再開した蒼太の背中を見守るマサキ。
彼女から新たに何かモーションを起こす様子は感じなかった。
しばらく転送作業を続けていた蒼太だが、思わず頭に浮かんだ疑問を投げかけてみる。
ISKで努め出してまだ1週間と少し経った程度だがある程度のキャストの顔は把握し始めた頃合いだ。
一部の特徴的なキャストに関しては名前も把握しており、顔見知り程度のキャストでも顔と特徴は記憶に残り始めていた。
「まだお店で見かけたことないよね?」
背後にいる彼女はまだ一度も顔をみたことがない人物だ。
敢えて振り返らず蒼太は背中越しに尋ねてみる。
「オレはムーンから出入り禁止を受けていたからな…」
呟き落とすマサキの言葉に自分と同じ境遇だと親近感を抱きながら、蒼太は質問を重ねた。
「え?キャストなのに?なにかしでかした?」
規律にうるさい月姫のことだからキャストに対しても度が過ぎれば出入り禁止の処分を下すことはあるとは思ったものの
普段からキャストに関しては寛容な彼女が処罰するならよっぽどのことをしでかしたのかと勘繰る蒼太。
現に彼も今ファナーとしては1か月間の出入り禁止を受けた所だ。
だが、蒼太の質問にマサキは驚いたように質問で返す。
「知らないのか?」
「マサキ…だっけ?名前も聞いたことなかったよ、サキさんのお友達?」
後にISK始まって以来の大惨事を招いた人物であることを知ることにはなるが、その噂すら今の蒼太は耳にしたことが無かった。
あてずっぽうだったが蒼太はサキと同類の種族であることを感じ取っていた。
その容姿もサキに通ずるものがあったが、それ以上に内側から感じる性的欲求の増加が彼女がなんらか関与しているのではと探りを入れる。
現に背中で会話を続ける理由は彼女の姿に興奮しないようにしていただけでなく、すでに勃起してしまっている股間のきかん坊の処理に困っていたからであった。
やや前屈みに荷物のチェックをしながら蒼太は彼の返事を待った。
「あいつの姉、ってか兄?あいつは妹分みたいなもんだよ」
「兄?見た目はじょせ…」
言いかけた蒼太は言葉を飲み込んだ。
今のご時世であれば見た目で中身を判断するのはご法度だと彼の中では思っている。
心が男性であれば男性として接するのが彼の流儀であり、親友たる田中陽奏がまさにその人物である。
「オレはどっちでもOKだぜ?バイセクシャルっての、本当の意味で両方相手にできるがな」
「そ、そうなんだ」
マサキがあっさりと言ってしまうのを聞いて蒼太はひき気味に受け答えをしていた。
生憎彼が知る陽奏は心は男性で、恋愛対象も女性であり、その陽奏に言い寄られることを想像するだけでぞっとしてしまう蒼太。
目の前のマサキは心が男性でもあり、恋愛対象は性別問わずと公言したのだから身の危険を感じざるを得なかった。
「確かにオマエ、オレに通ずるものがあるみたいだが、似て非なるものだ…」
突然マサキが蒼太の身体のことに言及を始める。
女性キャストが口を揃えて言う、蒼太に対しての性的魅力のことだとすぐに悟った。
「俺の身体のことが分かるのか?」
思わず蒼太はマサキに振り返り、自身の身に関係する話題に食い付くように言葉を求めた。
この身体に秘められた謎への答えに差し込む一筋の光を期待した蒼太だったが…
「いや、分からん。ただ言えるのはオレたちと同族ではないということだけだ」
首を左右に振って答えるマサキ。
それでも蒼太にとっては一つの可能性を消去できたことで一歩前進したと前向きにとらえることにした。
マサキが同族という単語を出したことで蒼太はサキと繋がる種族を導き出す。
「それってサッキュ…」
「厳密には違うがな、今日の所は挨拶までだ、いずれオマエとなんらかの接触はあるだろうが…その時までおとなしくしておくとするか」
そう言い残すと、マサキは踵を返し、蒼太に背中を向け歩き始めた。
一体マサキが何をしに来たか真意は読めなかったが、その後ろ姿に蒼太の視線は釘付けになってしまった。
正面でも過激な衣装で目のやり場に困っていたが、背後はまるで全裸のように何も身にまとっていないように見えてしまう。
形の良いぷっくりとした臀部が左右に揺れながら歩く姿はさながら痴女を彷彿とさせ、収まりかけていた蒼太の興奮のシグナルが再び灯り始める。
相手の視線を感じてしまうと直視できなかったが、その後ろ姿を凝視するように蒼太はマサキが角を曲がるまで見守っていた。
どうやらマサキが言った覗き的趣味が蒼太の心の奥底から芽吹き始めていたようだ。
「なんなんだ、あいつ?マサキって言ってたな…徹夜明けのおつむにはハードだってば…」
誰に言うでもなく蒼太は垂れる涎を拭いながら一人呟き落とすのだった。




