第1話-1/16
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
数か月に単位で行われる友人との呑み会。
合うメンツはいつも同じ、人数は若干前後するものの気の知れた居心地の良い
空間。
ただ楽しい時間は過ぎるのは早く、気がつけば彼は岐路に向かう道をただ一人
歩いていた。
「はぁぁ…」
思わず長い溜息を吐き、肩の力が抜けた。
いつもの呑み会のはずなのに今日の話題は少し違っていた。
「俺、あいつと結婚することになったんだ」
いずれ出るであろう話題。遅かれ早かれその時が来るとは思っていた。
友人の一人が照れながら呑み会の冒頭に打ち明けた。
今日の話題はほぼそれ一色のおめでたい空気に包まれていた。
けれど自分には無縁の話題。彼女もいなければ気になる女性が居るわけでもない。
大学を出て、就活の末にようやくつかんだ職場も人間関係が合わず
ドロップアウト。
仕方なくバイトで生計を立て、夢があるわけでもなくただただ毎日を
自堕落的に過ごしていた。
彼の名前は鍵主 蒼太、大学卒業から2年過ぎた24歳、
趣味は読書。
友人と別れ、最寄り駅まで徒歩で向かっていた彼だがふと気づけばいつもと
違う道を歩いていることに気がついた。
無意識?というより足が勝手にそこに向かって歩いていた感覚。
それに気づき、足を止めたところに降りる階段があった。
まるでそこにいざなうように壁には矢印と【INN】と書かれたネオンが煌々と
光っていた。
「あれ?」
心の声が自然に漏れてしまった。
そこから立ち去ろうとしても心がついてこない、不思議な感覚。
後ろ髪を引かれるわけでも背中を押されるわけでもない、表現するなら鶴の
恩返しの襖を開ける感覚に似ていた。
決して覗いてはいけないはずなのに、好奇心が勝り行動に起こしてしまう。
今の蒼太がまさにそうであった。
僅かに漏れてくる音楽と、活気あふれた男女の声が彼の耳に届く。
ここに足が向いたのも何かの縁と思い蒼太は一歩、
また一歩と階段を下りて行った。
階段を下りると大きめの扉、現代風ではないどこか西洋風の観音開きの扉があり、
そこには【クラブISK】と書いたプラカードが貼られていた。
バーというより、キャバクラのような雰囲気に一瞬脳裏に立ち去るべきと
危機感がよぎったが彼の身体はすでに扉に手をかけ、押し開いてしまっていた。
3畳程度の広さに、カウンターがあり、赤い装飾の基調とした部屋が扉の
向こうにあった。
「いらっしゃいませ~」
語尾が若干間延びするような柔らかを感じる挨拶が目の前の女性から蒼太に
向かって発せられた。
「あ…うっ!」
蒼太は一瞬辟易ろいでしまう。その女性の出で立ちがあまりにも露出過多で
目のやり場に困ってしまったからだ。
水着と呼ぶにはあまりにも布面積が狭く、女性の肝心なところだけを少量の
布で覆ったような恰好。
背中には蝙蝠のような羽があり、たわわに実った乳房を余すことなく
露呈させている。
紫色の長い髪に、何より蒼太の目を引いたのが下腹部にあるタトゥーだった。
彼が愛読する種類の小説で頻繁に登場する【サッキュバス】に相違ない格好の
女性だった。
「ファナーさんはハジめてですか~?」
固まってしまっている蒼太に彼女は問いかける。
「ふぁ?ふぁなぁ?」
「は~い、ここではおキャクサマをシタしみをコめてファナーってヨばせて
いただいておりますの~」
「ち、違います、ちょっ、…店間違ったみたいで」
「え~、そうなの~?」
慌てて踵を返そうとする蒼太だったが彼女が一足早く、彼の手を握った。
その手は妙に生暖かったが不快な感じではなく、むしろ離したくない感覚に
襲われる。
「せっかくここまでキてくれたんですからアソんでいきませんか~?」
いつの間にか蒼太は彼女の手を両手で握り返してしまっていた。
その手が彼女の胸の谷間に誘われる。
「アタシイガイにもとっても、と~ってもミリョクテキなあなたゴノみの
キャストがタクサンいますよ?」
「へ?」
俺好みって俺の好みを知ってるわけないでしょ?と頭の中で訴えかける
と同時に奥の扉が開き、大音量の音楽がこの部屋にも漏れて来る。
奥がどうなっているかは見えないが、電飾が煌びやかに光、ムードのある
BGMが聴こえてくる。
それと同時に別の女性がここの場所にやってくる。
目の前の女生とは全く違った落ち着いた服装。
これまた彼の愛読する書物類に登場する【メイド】の姿そのものであった。
モノクロを基調とした長めのスカートに丸い眼鏡が真面目さを醸し出している。
「紗希さん、ファナーさんですか?」
「はいは~い、ごシンキさんとオモったけどおミセをマチガっていたって~」
サキと呼ばれたサッキュバスもどきとは打って違って蒼太に向かって
冷ややかな視線を送るメイド。
「そうなんですか、ではお引取りいただ…」
メイドが言い終えるより先に再び奥の扉が開き、二人の女性がこの部屋に
入ってくる
「ファナーさんいらっしゃニャー!」
「今日は暇だからサービスするぜっ!」
二人ともサキと同じようにごく少量の布切れで恥部を隠している水着を着用
していた。
向かって右が頭部に猫耳を付け、細く長い尻尾を揺らしながら蒼太の
右腕にしがみついてくる。
左側に立っていた女性は蒼太の身長をはるかに凌駕する大きめの女性、
筋骨たくましい体躯に水着の柄が牛柄といった思わず牛を連想してしまう
風貌だった。
首にはご丁寧にカウベル付きのチョーカーを付けており、より一層【牛感】を
引き立てていた。
「希乃さん、美緒さん気が早いです。
この方は違うお店に行きたかったと…」
その時、サキが握っていた蒼太の手を自身の胸の谷間に潜り込ませた。
「ここではこういうことや、もっとステキなことができるんですよ~?
それでもホカにしちゃいます~?」
「サキニャン、ずるいニャ!このファナーはミーのものだニャッ!」
「おいおい、そりゃないぜ、今日は暇なんだからみんなで楽しもうぜ?」
サキとミオの取り合いに参加すべくノノと呼ばれた大柄の女性も蒼太の元へと
やってくる。
「ちょ、ちょっと!皆さんやめてください、ファナーさんが困っ…」
メイドが抑止する声を遮るように大きな声が3畳程度の小さな部屋に響いた。
「ここにします!ここでみなさんと遊びたいです!」
「はぁ?」「やった~」「さすがニャ!」「うししし」
そこに居合わせた四人が各者各様にそれぞれの対応を見せた。
一番びっくりしていたのはメイドでもなくその言葉を発した蒼太自身だった
という。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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