表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「私は誰に嫁ぐのでしょうか?」「僕に決まっているだろう」~魔術師メイドの契約結婚~  作者: 神田柊子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

ふれあい

 婚姻を結んでもフィーナの生活はほとんど変わらなかった。メイド業務とブラッドの助手は今まで通りだ。

 ブラッドが言っていた通り、エイプリル伯爵家は社交を行わない。領地も持たない。

 客といえば、分家の者や前伯爵の弟子など、要するに魔術師ばかりなのだ。ブラッド不在の際に、彼らの話を代理で聞くのは執事の仕事だった。以前から客室メイドとして同じ部屋に控えていたフィーナだったが、結婚後はフィーナが主に話を聞き、執事が補佐につく形になった。

 ブラッドはフィーナに使用人部屋を出て、伯爵家の家族用の部屋を使うように勧めたけれど、フィーナは固辞した。もともと使用人部屋は十分な広さがあり、魔術の研究も許されていた。実家の自室よりも快適なのだ。年代物の豪華な家具に囲まれて眠るなど、逆に落ち着かない。

 ブラッドはフィーナの意志を尊重してくれた。


 書斎の時計がぽーんと軽い音を立てた。

 魔術院発行の最新の論文集を閉じ、ブラッドが大きく伸びをする。彼がカートに積んだ本の上に論文集を乗せると、フィーナは短い呪文でそれらを書棚に片付けた。

「今夜もお願いしていいかな」

 ブラッドはソファに移る。フィーナは彼の背後に回って、両肩に手を乗せた。

 結婚して一番変わったのは、この時間だった。

 ブラッドを癒すため、フィーナはこうやって毎晩彼の肩を揉んでいる。

 普通のマッサージとは違って、魔力をなじませて正常に整える作業だ。力はそれほど必要ではない。どこか触れているだけでもいいらしい。触ってもいない目の疲れも、肩こりと同時に治っているとブラッドは教えてくれた。

「あー、楽になったよ。ありがとう」

 ブラッドは首を回して、フィーナを振り返った。

「ジェシカは肩こりが治った礼に、ユーグ君に指輪の魔道具を贈ったって聞いてね。僕も君に何かお礼をしたいと思うんだ」

 ブラッドは肩越しにフィーナの手を取った。

「今度の休みに結婚指輪を見に行こう。うっかりしていて、忘れていて悪かったね」

「いいえ、結婚指輪なんて……」

「魔道具の方がいいかい? 君が持つなら防犯用の魔術を仕込むのがいいかな」

 具体的に考え出すブラッドにフィーナは慌てた。

「ブラッド様。お礼なんて必要ありません。私、もう十分よくしていただいていますから」

「うーん、僕も君に何かしたいんだよ。何か欲しい物はない?」

「困ります……」

 フィーナが首を振ると、ブラッドはフィーナをソファの隣りに座らせた。

「物が困るなら、同じように癒しで返そう」

 ブラッドはそう言って立ち上がると、後ろに回ってフィーナの肩に手をあてた。大きな手がフィーナの肩を押す。

「あ……」

 予想以上の快感に、フィーナの口からため息が零れた。

 物理的な力加減もちょうどよく、魔力のおかげで温まっていくのも気持ちいい。

「ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから」

 フィーナが振り返ると、こちらを見下ろすブラッドと目が合った。

 彼はなぜか驚いたような顔をしていた。

 たいていの場合、座るブラッドの横でフィーナは立って仕事をする。彼に見下ろされたことはほとんど記憶にない。

「ブラッド様?」

 さらに振り仰ぐと、肩に乗ったままだったブラッドの手が首筋をかすめた。人に触られるような場所ではないため、フィーナはびくっと身を震わせた。

 それなのに、いつもは紳士的なブラッドが、フィーナの肩から手を離してくれない。真剣な目でフィーナを見ていた。

「あの、私……」

 無防備にブラッドの視線にさらされている状況が恥ずかしく、フィーナは涙目になった。

「君はかわいいな」

「え?」

 不意にそう言って、ブラッドは優しく微笑んだ。

「僕以外の男にそんな顔を見せたらダメだよ」

「そんな顔って……?」

 首を傾げるフィーナにブラッドは困ったように笑った。

 それから、彼はもう一度フィーナの隣に座った。どういうわけか、先ほどは一人分空いていたのに、今はぴたりと身を寄せて腰かけた。

 フィーナは疑問を顔に浮かべながら、ブラッドを見た。

「フィーナ」

 ブラッドが名前を呼ぶ。それは甘くフィーナを溶かすような声だった。そんな呼び方をされたことは今までになく、フィーナは状況についていけない。

「驚かせたかな。すまない」

 ブラッドはフィーナに向き直り、手を取った。

「不誠実なのはよくないから、はっきり伝えておくことにするよ」

 フィーナを見つめるブラッドの瞳の奥に熱がある。

「今気づいたのだけれど、僕は君を女性としても愛している」

「はい?」

「性的な欲求を抱いている」

「は、い……?」

「僕を受け入れてほしい。君がその気になったときには、教えてくれないか」

 手の甲を撫でられると、ぞわぞわと背筋が震えた。

 ブラッドは微笑んで、そこに唇を落とす。少しかさついた唇が離れるとき、熱い吐息がかかった。

「僕の気持ちを覚えておいて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ