体たらく
きょうは男の子視点です。
以前、嶋永は言った。
「女口説くのに行き当たりばったりで数をこなすのは最初だけ、アイツらだってバカじゃねえ!ただゴチになられて終わりよ! しかしここからが勝負だ。“撒き餌”がしっかり効いたところで目的に合わせて声を掛け、釣り上げる…… ん?!“初心者”はやっぱ、傷心オンナだろ! チョロいぜ!」
で、今オレは……小洒落たバーに居て、右隣にはオレの憧れだった三原さんが座っている。
三杯目のグラスを空にし、左こぶしに軽く頬をのせながらついた三原さんのため息が……呷っているシェリーのせいなのだろうか……芳しく香る。
「あの、三原さん!チェイサーとか飲んだ方が良くない? それ、そこそこ度数あるでしょ?」
右手の人差し指を立て、バーテンに『次』を所望した三原さんは物憂げな瞳をオレに向ける。
「他に言う事はないの~?!」
「言う事って?!」
「例えばさ!『キミの小指の赤い糸は実はオレの小指と繋がっているんだ』とか……耳ざわりのいい言葉を聞かせてよ」
三原さんには……向こうの方から言い寄られて付き合い始めたカレシが居るのは知っていた。
そのカレシについ最近フラれた事も……
「オレ、不器用だから気の利いた事、言えないよ」
「それは、キミの都合でしょ?!」と言いながら三原さんはコツン!と肩をぶつけて来る。
その勢いで、持っていたグラスから手の甲にウィスキーが零れる。
「ダメじゃん!勿体ない……」
『ええっ??!!』って目の色を向けると三原さんは『何よっ!』って目で返し、オレは目を逸らす。
「舐めてあげようか?」
「えっ??!!」
動揺が口から漏れ出た瞬間に三原さんはの前髪がオレの腕に掛かって……手の甲をねっとりと舐められ、オレは総毛だって固まった。
それからの時間は短かったのか長かったのか……
三原さんに「美味しくないや」と囁かれ……
店のざわめきやBGMからも追い立てられてオレ達は店を出た。
そして、三原さんはスプリングコートの裾を翻し……こちらを顧みる事無く、人混みの中に消えて行った。
それを見届け、オレはうなだれながら駅へ向かった。
やっぱり……
やっぱり!!
送るべきだった!!
カノジョの後を追い掛けて……
でも、それが出来なかったオレは……
ガラ空きの電車の中
座る事も出来ず、吊革につかまり窓を眺めた。
窓の外はどんどん街の灯りから遠ざかり……
暗闇の中に浮かぶのは、ただ家路を急ぐ情けないオトコの顔だけだった。
その翌日、帰ろうと会社の外に出たオレは嶋永に腕を掴まれた。
「昨日、三発やったよ!」
囁かれたこの言葉にオレは青ざめる。
「誰の事だか、分かるよな?」
オレの怒りはみっともない震えとなり、それを嶋永は嘲笑する。
「オレを恨むのは筋違いだぜ! 恨むんなら『フニャチン』と蔑まれた自分自身を恨むんだな」
「チクショウ!チクショウ!!チクショウ!!!」
一人になったオレは今も、涙を零しながらただ叫んでいる。
そう!
こんな体たらくの
情けないヤツは……
ただ、
アパートに逃げ帰って
布団を被るしかないのだ。
おしまい
情けない人ですけど……
やりきれないなあ……(-_-;)
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