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36-1(アウレリア)

 神殿の外は思った通り、アウレリアの生誕祭を祝う人々で溢れていた。王城へと向かう馬車に乗り込むために、神殿の入り口に立ったアウレリアは、その姿を認めた人々の歓声に顔を上げ、穏やかに手を振ってみせる。途端、人々の声は一際大きくなり、アウレリアはベールの下で少々戸惑いながらも、ディートリヒのエスコートを受けて馬車に乗り込むのだった。


 王城ではこれから、アウレリアの生誕を祝う夜会が予定されている。久しぶりに一晩、眠らずに過ごしたわけだが、思ったよりは疲労を感じていなかった。


 ディートリヒやクラウスを含む、馬に乗る護衛の騎士たちに囲まれて、王城の内部へと進んで行く。停車場ではすでに国王である父を筆頭に、母や兄も、アウレリアの帰還を待ちわびていた様子で。馬車が動きを止め、その扉が開いた瞬間、家族が嬉しそうな笑顔で迎えてくれるのを、アウレリアは幸せな心地で見ていた。




「……なるほど。女神に会うことが出来るというのは、本当のことだったか……」




 城に入ったアウレリアは、父に、先に少し話がしたい旨を伝えた。父は軽く驚いたような表情になった後、頷いてくれたため、その場にいた兄にも声をかけ、女神との場に居合わせることになったディートリヒを伴い、四人で国王の書斎へと足を向けた。


 水に浸かっていた時に服はすでに着替えているので、あとは昼食を取った後に夜会用のドレスへと着替えるつもりである。そのため、少しくらいは問題ないだろうと、先に話すことにしたわけだ。


 女神と会い、分かったことについて。


 そもそも、アウレリアを含め、本当に女神と会えるとは誰も思っていなかったため、その点から父も兄も、驚いたように言葉を失くしていた。


 アウレリアは父の呟きに頷き、先を続けた。




「兄様の仰っていた通り、魔王は女神が愛した男神が堕ちた姿であり、今回の対面により、二柱は和解されました。そのため、これ以上魔王が魔物を生み出すことはなく、魔物が増えることもない、とのことです」




 書斎に置かれた、他の部屋と比べて飾り気のないソファにそれぞれ腰かけ、アウレリアは女神たちとの邂逅の場で起きたことを、掻い摘んで話した。アウレリアに与えられた夢を見る能力は、女神の左目の欠片が宿っているためだということも。女神を愛した魔王は自らの行いを深く後悔し、女神に自らの左目を与えたということも。もちろん、魔王は相変わらずディートリヒの影に宿り、彼に触れていれば、今まで通り夢を見ずに済みそうだ、ということも。


 父も兄も、新たな魔物が生み出されないことについては、とても喜んでいた。アウレリアと、そして魔王を影に宿すことに応じたディートリヒの功績だと讃え、「次に神殿の天井画を描き直す時は、女神の左目を赤くするように言わねば」と、冗談を言う程に。


 アウレリアもまた、伝えるのがそれだけであれば、ほっとして笑みを浮かべていたことだろう。これからは魔物からの被害も減っていき、アウレリアか、はたまた次の世代かは分からないが、いずれは『女神の愛し子』たちも、夢を見ることはなくなるだろうと、女神からはそう告げられたから。


 しかし、だ。問題は、男神がディートリヒへの礼に教えてくれた、男神曰く、面白いことの内容だった。


 アウレリアは、「しかし、良いことばかりではないのです、父様」と前置きをして、続けた。




「男神様はディートリヒ卿の影の中で、私たちの会話を聞いておられるそうです。もちろん、常にではなく、気まぐれに。……そして偶然にも、耳にされたそうです。ドラゴンを凌ぐ強さを持つ、魔物が現れるという話を」




 ぴたりと、父と兄は動きを止め、一気にその表情を静かなそれへと塗り替える。「それで、男神様は、何と?」と、父は国王の顔で問うてきた。


 アウレリアはちらりとディートリヒの方を見る。硬い表情の彼は頷き、アウレリアの代わりに口を開いた。




「男神様の話によれば、……魔王という身に堕ちた今の状態で、男神様がドラゴンよりも強い魔物が生み出すことは有り得ない、とのことでした」




 それが、男神が教えてくれた、面白いこと、であった。




〈ドラゴンは、我がまだ神の力を宿していた間に作り出した魔物だ。今の我は、あの頃よりも目に見えて力を失っている。浄化が進めば回復するだろうが、そうでもなければ、ドラゴンを凌ぐほどの魔物を生み出すことなど不可能であろうよ〉




 〈ただでさえ、他の者の世界というのは、制約が多いのだから〉と、男神は続けていた。


 父はそんな男神の言葉をディートリヒの口から聞き、難しい顔をして俯く。兄もまた、同じだった。その場にいた誰もが思っただろうから、仕方ないことだ。


 では一体、何がドラゴンを傷付け、追いまわし、その報復さえも恐れることなく、放置したというのか、と。

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