表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『骸骨さま』と言われる王女ですが、人外染みた美貌の騎士さまに添い寝を所望されました。  作者: 蒼月ヤミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/111

35-3(ディートリヒ)

 と、男神の言葉に、わけも分らぬまま女神の方へと視線を向けたディートリヒは、思わず目を瞠った。少し離れた位置にいても、分かる。いつの間に移動したのか、男神が水中に落としたはずのそれが、胸元で広げられた、女神の手のひらの上にあったのだから。




〈……本当に良いのですか? これを私に与えれば、今度はあなたが、完全ではない存在になってしまうというのに……〉




 女神が手の中のそれを大切そうに眺めた後、男神の方を向いてそう問いかける。男神はゆっくりと頷いた後、再び女神の方へと歩み寄ってきた。


 その左目は、先程の女神のように、ぽっかりとした空洞となっていた。




〈我のしたことに対する対価は、我が払うべきであろう。最初こそ機能しないだろうが、其方が身に着けていれば少しずつ浄化されるはず。……我のことは気にせずとも良い。元々、他のやつらには好かれぬ身だからな〉




 〈弱き者の鳴き声など、興味もない〉と、男神は嗤う。ついで、問うた。先程の女神と同じことを。〈この姿の我の傍には、いたくないか?〉と。




〈其方は先程、左目を失った其方を我が厭うと思っていただろう。其方は、どうだ? そもそも、其方が左目を失うほどに追い詰めたのも、我だ。いくら我の左目を捧げたとしても、……やはり我の傍には、いたくないか?〉




 女神のすぐ目の前に立った男神は、そう言ってその表情を暗くする。縋るようなその赤い右目は、ただ真っ直ぐに女神を見つめていて。


 女神がゆっくりと首を横に振った。〈そんなこと、思うはずがないでしょう〉と呟きながら。




〈私も、あなたと変わらないのです。ゲオルク。あなたが半端な存在となれど、私にとってあなたがあなたでいることに変わりはないのです。……そんなにこの気持ちが軽いならば、そもそもあなたをこの世界に封じたりしなかったでしょう。眠っていながらも魔物を生み出し続けるあなたを〉




 〈ただ私が、あなたから離れたくなかったのです〉と、女神は答えた。


 男神はそれを聞いた途端、嬉しそうに微笑み、〈そうか〉と呟いていた。〈其方も、其方なりに我を愛してくれていたのだな〉と。その美しい顔は緩み、魔王に堕ちたといえど、神々の神々しさを放つその表情は、目に眩しい程で。


 「……まだ見てはだめですか?」と胸元で思わずというように呟いているアウレリアに、ディートリヒは小さく、「うん。もう少し」と答えた。


 自分が美しいことは、嫌というほど理解していたが、すぐそこに在る二柱は明らかにそれを越える何かである。男神の微笑みにアウレリアが惹かれる可能性を考えると、とてもじゃないが、彼女を解放する気にはなれなかった。




〈どのみち、堕ちた身を浄化せねば、其方の元には戻れぬ。我は今しばらく、この世界で身を清めよう。其方の気持ちを知り、其方との未来を再び得た今、これ以上魔物を生み出すようなこともしない。すでに在る物は、どうしようもないが。……だが、あの辺鄙な森に戻るのは遠慮する〉




 男神はそう言うと、今まで眼中にもなかったディートリヒたちの方へと顔を向けた。〈其方の影、しばらく借りるぞ〉と、男神は唐突に宣言した。




〈そちらの人間は、レオノーレの気配が濃い。傍にいると、気分が良いのだ。あの聖槍を取り込み、其方の影で浄化に勤めよう〉




「……は?」




 さらりと告げられた言葉に、思わず口をぽかりと開く。影を借りるというのは別に構いはしないが。


 あまりに唐突で、一方的過ぎやしないかと、そう思ったから。それが神という物だというのならば、それまでだが。


 ディートリヒの返事を待つことなく、今度は女神もこちらを向いて、〈それは良いですね〉と朗らかに言う。〈そちらの愛しい子の影ならば、最も愛しい子を介して私の力を送り、浄化を早めることも可能でしょう〉と。


 男神といい、女神といい。当然のように進む話に啞然とし、力が抜けた隙に、アウレリアがディートリヒの腕を抜け出す。こちらを見上げて来て、「……良いのですか? ディートリヒ」と、彼女だけが心配そうに問いかけてきた。


 良いか悪いかと言えば、自分の身体に問題がないのならば、別に良いけれど。




「……一つだけ、教えて欲しいのですが。もしまた男神様を俺の影に封じたとして、今までのように、アウレリアは俺に触れている間、夢を見ずに済みますか?」




 それだけが、気がかりだった。


 今までも、なぜ自分に触れて眠ると、彼女が夢を見ないかは分からなかった。けれど、アウレリアがそれでその身を、心を休められるのならば、それで良かった。


 しかし今回、男神が改心し、自らディートリヒの影に封じられることで、何かが変わるのならば。そう思ったのだ。


 アウレリアは困ったような声で、「私のことは良いのですよ、ディートリヒ……」と、呟くけれど。ディートリヒにとっては、それだけが最も重要だった。


 何よりも、彼女にとっての唯一でありたいと、そんな浅ましい心があったから。


 女神はその神々しい顔に柔らかな笑みを浮かべると、〈ゲオルクを封じたのが、あなたで良かった〉と言った。




〈私の最も愛しい子を、最も愛してくれる人間。大丈夫です。私がゲオルクの元に力を送っている間は、夢を見る力は失われます。どちらも私が与えている力ですから。どちらかに集中すれば、片方は失われるのです〉




 〈だから、安心してください〉と女神が続けるのに、ディートリヒはほっと息を吐く。「それならば、構いません」と、静かに答えた。アウレリアが少し驚いたように「ディートリヒ」と呟いたけれど。そちらを向き、微笑んでから、今度は男神の方へと向き直る。


 アウレリアを癒やす存在で在れるならば、何でも良かった。




「俺の影を使ってください、男神様。女神様の元へ帰るために」




 言えば、少しだけ意外そうな顔になった後、男神は小さく笑った。〈……人間もまた、それなりに面白いものかもしれん〉と、そう呟きながら。




〈それでは遠慮なく、使わせてもらう。……ああ、そうだ。影を借りる代わりに、面白いことを教えてやろう〉




 ふと思い出したように、男神は楽しそうな表情を向けた後、そう口を開いた。

 気に入って頂けたら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂けたら大変喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ