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29-3(アウレリア)




「終わりだと思った。相手は魔王だからね。……でも、何とかなった。何とかした、の方が正しいかな。死んでたまるかって、思って。それに、本当のことを言うと、……今では、あの時、魔王の封印が解けて良かったって思う自分がいるんだよね」




 「内緒だよ」と言って、彼は微笑む。けれどその言葉の内容はとても頷けるものではなく。驚いた顔で「どうして、そんな風に思うのです?」と問うたアウレリアに、ディートリヒは楽しそうな表情を隠さなかった。


 手を伸ばし、彼は指先でアウレリアの頬に触れる。くすぐったいような感覚に、アウレリアは僅かに身震いした。




「君と、こんなに近づけたから。手を伸ばせば、触れられるくらい近くに」




 優しい声は、冗談を言っているようにはとても聞こえず。恥ずかしさに口許を隠しながら、「それを言うならば、私の方が魔王に感謝しないと」と呟いた。




「眠ることが出来なった私にしっかりとした睡眠と、健康、……こんなに優しい婚約者を与えてくれたんだから」




 言えば、ディートリヒは神々しいばかりに、嬉しそうな笑みを浮かべていて。少し美しすぎる気がするけれど、と思いながら、無意識に目を細めた。


 辺りは少しずつ暗くなってきていて。「そろそろ寝ようか」というディートリヒの言葉に、アウレリアは頷き、ランプの灯を消した。


 一気に暗くなる室内に、アウレリアは手探りでベッドの中に潜り込んだ。一方、ディートリヒは暗さなど感じていないかのようにいつも通りの動作でベッドの向こう側へと回り込み、アウレリアの隣で横になった。


 当たり前のように彼はこちらへと手を伸ばし、アウレリアの頭を自分の腕の上へと移動させる。反対の腕はアウレリアの腹部の上を通って、抱き込むようにアウレリアの肩に触れた。


 こんな風に彼の腕の中にいると、宝物を護る子供のようだと、そんなことを思う。腕の中にあるものが、眠っている内に逃げ出さないように、取られないように守っている、小さな子供。




(彼にとってのそんな存在が自分であれば、とても嬉しいのだけれど)




 思いながら、アウレリアは身動ぎをして、身体をディートリヒの方へと向けた。急に動いたためか、彼は少し不思議そうな様子でこちらを見ている。と、思う。何せ、暗くてよく見えないのだ。


 「どうかした? アウレリア」と問い掛けてくる声は、驚いたためか少しだけ上擦っていて、彼もまた僅かに身動ぎする。「何でもないです」と言えば、彼は一拍の間を置いた後、「そっか」と呟いていた。




「腕、邪魔だった? 重いかな」




 何でもないというのに、彼は心配そうにそう続ける。アウレリアは思わずくすりと笑って、「大丈夫」と答えた。




「不思議と、重さも心地が良いです。ディートリヒは私よりも体温が高いから、あったかくて」




 言って、彼の方へと顔を寄せ、その胸元に手を当てて、頬を摺り寄せる。暗闇の中、人肌が温かく、無意識の行動であったのだが。


 ディートリヒは不自然なくらいに動きを止めた後、深く、長い溜息を吐いていた。




「本当に君は、……無防備すぎて困る」




 言うが早いか、彼はアウレリアの頭の後ろに手を回すと、その髪に顔を埋めた。「……だめだよ、俺以外にこんなことしちゃ」と、聞こえたくぐもった声はあまりに甘くて、心臓がどきりとした。




「俺以外のやつに、君が甘えたりしてるの見たら、……俺がそいつ、殺しちゃいそうだから」




 「絶対に、やめてね」と言う彼の口調は、冗談交じりのそれのようだったけれど。なぜか絶妙に、その声色が甘く、重く感じて。


 自分が彼以外の誰かにそんなことをするはずがないのに、どうしたのだろう。そう不思議に思いながらも、「ディートリヒだけですよ」と素直に言って、アウレリアは再び彼の胸に頬を摺り寄せるのだった。

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