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27-2(アウレリア)

「……俺はすごい単純だから、自分の都合の良いように解釈してるだけかもしれないけど。……今のって、君が、俺の傍から離れたくないから、色々考えすぎて、余所余所しくなってたってことで合ってる?」




 先程よりもずっと近くから聞こえてきた低い声。端的に言われると、本当にただの子供の我儘のよう。羞恥に顔が赤くなるのを感じて、ディートリヒの腕の中、隠れるように彼の肩に額を押し付け、頷く。


 離れるべきだとか、王女だからとか、決めるのはディートリヒだとか、偉そうなことを言っていたけれど、結局は傍にいたいだけなのだ。自分が、彼の傍に。


 幻滅しただろうか。いや、そもそも幻滅するほどの理想を抱いていないかと、アウレリアの思考は暗くなる一方で。


 と、不意にアウレリアを抱きしめたままだったディートリヒの腕に力がこもる。「どうしよう」と言う彼の声は、僅かに震えているように感じて、やはり言うべきではなかったのだと、そう思ったのだが。




「嬉しすぎて死にそう」




 そう続いた彼の声が聞こえて、アウレリアは驚いて顔を上げた。そのまま彼の顔を見ようとするけれど。今度は彼の方が、アウレリアの肩に顔を押し付ける番だった。「今はちょっと、見ないでくれると有難いかな」と言いながら。




「緩み過ぎて、変な顔になってる気がするから」




 困ったような声音。じんわりと服越しに伝わる熱に、「それは」とアウレリアもおずおずと口を開く。




「……本当、に?」




 困らせることはあっても、喜ばれるなんて思えなかった。自分を褒めてくれることはあっても、『女神の愛し子』としての生き方を認めてくれているだけだと、そう思っていたから。


 だから思ってしまう。顔を隠したいのは、本当に嬉しさからだろうか、と。落胆した表情を見せたくないだけじゃないのか、と。


 彼がそんな人じゃないことは、よく分かっているのに。


 ディートリヒは一拍の間を空けると、もう一度ぎゅっとアウレリアの身体を抱きしめた。「うー」と、言葉にならない声を上げたかと思うと、ぐりぐりとその頬をアウレリアの首筋に押し付けて。


 ぱっと、顔を上げた。薄暗い中でも分かるくらい頬の赤く染まった顔を、口許だけ手で隠し、僅かに視線を逸らしながら。




「……分かった?」




 俯きがちの彼は、アウレリアよりもずっと背が高いのに、上目遣いにちらり、とその赤い目をこちらに向けていて。


 つられるように更に赤くなりながら、アウレリアは慌てて、こくこくと頷く。途端、へらりと、嬉しそうに彼が笑った。




「ふふ。可愛い。だめだ、顔が緩む。可愛い。……アウレリア。俺、君のことが好きだよ。本当に好きなんだ。……顔しか取り柄がなかったのに、その顔さえこんな風になっちゃった俺だけど、君のこと、好きで良い?」




 嬉しそうに、けれどどこか淋しそうに言う彼の目は、声は、とろりと甘い。するりとアウレリアの頬に触れる、その仕種さえも。


 顔だけが取り柄と言うけれど、おそらくアウレリアが好きになった彼は、最初からアウレリアの目にその顔が映っていなかった。あの、今この時よりも暗い薄闇の中、声をかけてくれた彼に惹かれたのだから。


 偶然にもその顔のない彼は、異様と言われる美しさを持つ人だったわけだけれど。




「あなたの顔が傷だらけになっても、誰だか分からないくらい変わり果てても、あなたはあなただわ、ディートリヒ。あなたの言葉に、心に、惹かれたのだもの。……私の、傍にいて、くれますか?」




 頬に当てられた彼の手に自らの手を重ねて問うた。おそるおそる、彼の言葉を待つ。


 ディートリヒは一瞬、泣きそうな顔になった後、破顔した。そのまま、アウレリアの身体を再度、優しい手付きで抱き寄せる。


 いつかの美しい顔を思わせる、明るい笑顔だった。

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