27-1(アウレリア)
自分の見た目をどうこう言われたくらいで罪を問うのは。その考えが、そもそも甘かったのだろう。人に対してだけでなく、自分に対しても。
自分のことを言われるのは構わない。今でもそれは変わらないけれど。
彼を巻き込んで貶めるような発言は、見過ごせなかった。
(あの時はディートリヒがいたから、彼の気分を害したくないのもあって離れようとしたけれど。一人だったら、乗り込んでいたでしょうね)
どうしても、彼を悪く言うのは見過ごせない。その思いは、以前から変わらない。だから。
でも。
(考えれば考えるほど、思ってしまう。そもそも、彼の相手が私でなければ、もっとまともな容姿の貴族の子女でさえあったならば、と)
自分のことならば気にする必要はないと前向きになることも出来る。けれど自分のせいで他人が、殊更ディートリヒが関わっているとどうしても考えてしまうのだ。
申し訳ない、と。
まだ僅かにその表情が分かる、薄暗い寝室。暗い表情の彼が言った素直な言葉に、アウレリアは首を振った。彼のせいじゃない。決して。
全ては、自分のせい。自分のこの、どうしよもない後ろめたさのせい。
どうしても、頭の隅で思ってしまうから。自分に、彼はもったいないと。魔王を封じるほどの技術と才能を持ち、心根まで優しいこの人に相応しい者は、きっと他にいるはず。
(そんな綺麗ごとを並べてみても、……彼が別の人を選んだらきっと、とても、苦しいくせに)
夢から覚め、泣き叫び、喚き、暴れる自分の酷い姿を見ても、優しく受け止めてくれる人。『女神の愛し子』として、思ってもいけない本音を口にしても、当然のことだと言ってくれる人。
彼の容姿だけを見続けて、自分とお似合いだなんて言っている人に告げたかった。彼がどれほど、素晴らしい人なのかを。
それと同時に、このまま誰にも知られたくないとも思ってしまう。きっとこれは、醜い嫉妬であり、どうしようもない独占欲なのだ。
(顔だけじゃなくて、心まで醜いなんて)
本当に、彼に相応しくない人間である。自分は。でも、どうしても、離れたくないのだ。
そんな気持ちを知られたくなくて、無意識に距離を置いた結果が今である。彼に暗い顔をさせて、自分は一体何をしているのだろう。
(彼は素直に言ってくれました。寂しい、と。それが、私と同じ気持ちであると思いあがることは出来ないけれど、でも。……せめて私も、素直に伝えなくては)
自分のこの気持ちを。醜い心を。
アウレリアは、じっとこちらを見るディートリヒを見つめ返しながら、口を開いた。
「公の場で発表はしましたが、私たちの婚約はまだ仮のもの。正式に婚約したとしても、解消するという道もあります。だから何か方法が見つかるまでは傍にいて、いずれもっと、相応しい人と。……そう、言えたら良かったのだけど、ね」
思わず、笑ってしまった。仮の婚約が決まった頃ならば言えただろう。彼のためにと、そう思って。でも、今となってはもう。
「ごめんなさい」と、アウレリアは呟いた。
「あんな風に、私の陰口に巻き込まれるようにあなたが貶められるのならばと、そう思ったのは本当なの。あなたがあんな風に言われるのは、本当に嫌だった。……でも、他の、もっと相応しい人と結ばれて欲しいなんて、言えない。これからもあなたが悪く言われるかもしれないと分かっていても、……傍にいて欲しくて」
王族である自分が望めば、彼が拒めないことくらい理解している。だからこそ、自分はある程度の距離を保つべきであるし、最後の選択は彼に任せるべきだと、分かっていた。分かって、いたのに。
どうしても、傍にいて欲しかった。離れたくなかった。
こんな醜い気持ちを知られたくなかったのに。彼を縛り付けるこの気持ちを。他の誰でもない、彼にだけは。
だからもう一度、「ごめんなさい、ディートリヒ」と呟いた。
「今のは私の、ただの我儘です。だから、聞かなかったことにして構わないわ。……むしろ、そうして欲しい。騎士であるあなたにとって、王女である私の言葉がどれほど大きなものか分かっています。あなたの重荷になりたいわけじゃない。あなたには本当に感謝しているの。だから……」
もしも自分が離れるべき時が来たら、王族としての誇りを持ち、毅然と離れるよう。そう、口にしようとしたアウレリアは、自分の手を放し、伸びて来た彼の腕がゆっくりと自らの背に回るのを、どこかぼんやりとした心地で眺めていた。
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