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26-3(ディートリヒ)

 彼女の隣に腰かけて、ちらりと彼女の方を覗き見る。共に眠るようになってしばらく経つからだろうか。ディートリヒもかなり血色が良くなってきたが、彼女もまた、随分と顔色が良くなっていた。


 しかしその表情はどこか暗く、こちらに顔を向ける時は少しだけ視線を逸らしている。今も、「少し早いけれど、寝ましょうか」と言う彼女の目が、ディートリヒの視線と重なることはなかった。


 立ち上がり、ベッドの上へと昇ろうとするアウレリアの手を、反射的に掴んでいた。驚いた様子の彼女の手を引いて、ここに来て初めてこちらを向いた彼女に、「待って」と小さく呟く。


 随分と酷い顔をしていたのだろう。彼女は焦ったような顔で目を瞠ると、ディートリヒが掴んでいない方の手でディートリヒの頬に触れて、「どうしたのです?」と問い掛けて来た。




「どこか具合でも悪いの? また魔王の声が酷くなりましたか?」




 こちらに顔を寄せ、訊ねてくるアウレリアに慌てて首を横に振る。「驚かせてごめん、そういうんじゃないんだ」と言えば、彼女は動きを止め、ほっとしたように微笑んだ。「でしたら、良かった」と言いながら。




「もう私に触れていても、効果はないのかと思いました。まだ、あなたの力になれているのならば、良かった。……ですが、具合が悪いのでなければどうしたのです? そんなに、不安そうな顔をされて……」




 頬に触れた指が、目許を辿る。紫の目が、真っ直ぐにこちらを見ている。


 たった数日のことなのに、その事実が嬉しかった。それと同時に、またその目が自分を見なくなるのではないかと思うと、不安にもなった。




「……君に、謝りたくて」




 ぽつりと、ディートリヒは呟く。頬に触れた彼女の手に、自らのそれを重ねれば、びくりと彼女の手が震えるのを感じた。





「この前の夜会の日。俺が怒ってるのを見て、君が俺のこと、怖いと思ったみたいだから。あの日から、余所余所しくなった気がして。……怖がらせて、ごめんね」




 素直にそう口にする。彼女が怯えているのならば、言葉にするのが一番だから。


 それと同時に、彼女が態度を変えたのは、また別の要因があるのかもしれないとも思っていた。ここ数日、いつも通り彼女の護衛として傍にいて、疑問を感じたから。


 何度も魔物に食い殺されるような恐ろしい夢を見続ける彼女が、果たして自分が怒ったくらいで、態度を変えたりするだろうか、と。


 しかし、そうでないならば一体なぜ、彼女は余所余所しくなってしまっただろうか。そう考えても、理由が分からなくて。


 だからこそ、この謝罪は糸口でもあった。本当の理由を知るための。怒った顔を見せて申し訳ないと思う気持ちもまた、本心だが。


 アウレリアは、ディートリヒの言葉に驚いたように瞬きを繰り返すと、ふるふると、その頭を横に振った。「いいえ、そんなことは……」と、焦ったように言いながら。




「違うの。私が、あなたの傍にいられなかったのは……、怖かったとか、そんな理由じゃなくて……」




 するりと、また視線が逸らされる。俯くように動いたそれが、なぜかとても淋しくて、「アウレリア」と、彼女の名を呼んだ。


 「じゃあ、何で俺のこと見ないの」と。




「情けない話なんだけど、……君が目を逸らすたびに、悲しくなる。距離を感じるたびに、泣きたくなる。だから、教えて。どうしたらまた、俺と向き合ってくれるの」




 口にしながら、自分が幼い子供のようなことを言っている気がした。人間関係も恋愛も、持って生まれた顔のせいで、ろくに上手くいかなかったから仕方がないのかもしれない。


 だからこそ素直に聞くことしか出来なくて、その質問に、今もつらそうな顔でこちらを見ている彼女の姿が苦しくて。そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。




「ごめん、言いにくいよね。無理に言わなくても……」




 表情を暗くする彼女を見ていられず、そう口を開いたディートリヒに、アウレリアは視線をこちらに向けた後、また首を横に振った。


 「……申し訳なかったの」と、彼女は小さく呟いた。




「私に対する陰口ならば、慣れているからもう良いの。でも、あなたのことまで巻き込むように言われて、申し訳なくて……」




 「本当に、私が婚約者で良いのかと、考えていたの」と、彼女は続けた。

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