24-1(アウレリア)
『魔王封じの儀式』の成功を祝う夜会は、延期された予定通り、功労者たちの帰還の二週間後に開かれた。
ディートリヒをパートナーとして参加しても良かったのだが、彼は祝われる側の騎士であり、自分は祝う側の王族である。そのため、アウレリアはクラウスと共に会場を訪れ、いつものように一段高い席に座っていた。
夜会とはいっても、主役は儀式に参加した者たちである。そのため、普段開かれているものとは違い、その半数近くが騎士の団服や魔法使団の団服、神殿の祭服であった。煌びやかなドレスや衣装を纏った貴族たちが、あとの半数以上を占めているが、かっちりとした服が周囲に揃うと、どこか雰囲気もまた落ち着いたものに感じた。
「陛下からのお言葉である。諸君、静粛に」
大臣の一人が声を上げれば、会場の者たちが口を噤み、壇上の国王へと視線を向ける。
真っ直ぐに国王の方に顔を向ける儀式の参加者や貴族たちの中、ふと視線を感じてそちらを見れば、ここ数日でその身体に合わせて作り直した白い団服を身に纏ったディートリヒの姿があった。
最初にその服を着た時、「白い髪に白い服って合うのかな……?」と、少し困ったような顔をしていた彼は、アウレリアの方を見ると、嬉しそうにその頬を緩めていた。
「皆、先の『魔王封じの儀式』を成功させてくれてありがとう。そしてご苦労だった。その働きに感謝の意を示し、皆に褒美を与えようと思う。また、より多くの困難に立ち向かってくれた者には、それ相応の位を用意した。受け取って欲しい」
国王が厳かな口調で言う。儀式に参加していた者たちの目が輝き、周囲の貴族たちもまた、自分たちにより都合の良い者は誰かと目を光らせた。
「ベンノ・ビーガー。前へ」
大臣が差し出した目録と共に書かれた名を、国王が読み上げる。呼ばれた名が早い者ほど、儀式への功績が低いとされるのか、準男爵位とそれに見合った領地や品物などが与えられた。
それでも、元々が一介の騎士爵位である者からすれば、領地のある準男爵位など何よりの褒美である。加えて、彼らもまた自分たちの功績について理解しているのだろう。段々と与えられる爵位が上がっているのを見ても、先に名を呼ばれた者が妬ましそうにする様子は見られなかった。
(さすがは、実力主義の騎士や魔法使いね)
「ディートリヒ・シュタイナー。前へ」
考えながらその光景を眺めていたら、呼ばれた名にはっとする。儀式に参加している者は多くはなく、更にそこから神殿に所属している聖女たちは外される。勇者の称号を持つレオンハルトを除けば、ディートリヒは最も今回の儀式に貢献しているはずだ。けれど。
(あの、魔法使いの女性の名を呼ばれた気がしないのだけれど……)
この場にいないのだろうかとも思ったが、一応は参加しているようで姿がある。ということは、自分の勘違いだろうか。
首を傾げるアウレリアを余所に、国王は当初王太子イグナーツが言っていた通り、ディートリヒに辺境伯爵の位と、それに伴う辺境の領地などを読み上げていった。
「謹んで、お受けいたします」
言い、ディートリヒは深く騎士の礼を取った。これからは、与えられた辺境伯爵位の名を重ね、ディートリヒ・シュタイナー=ブロムベルクと呼ばれるようになる。ブロムベルク辺境伯爵である。
他の面々と同じように立ち上がり、その場を下がろうとするディートリヒに、「待ちなさい」と国王が声をかける。
そのようなことはこの場で初めてだったため、呼ばれたディートリヒや、アウレリアを含む皆が、驚いた様子でそちらを見ていた。
「この場を借りて、伝えておこう。ブロムベルク辺境伯爵と、我が娘、アウレリア・メルテンスが婚約することとなった。皆、祝福してやってくれ」
国王の言葉に、会場内がたくさんの拍手の音で包まれる。突然の宣言に、誰よりもアウレリアが驚いていた。ディートリヒも驚いているようだったけれど、彼はアウレリアと目が合うと、先程よりも嬉しそうにその顔を緩めている。
(……婚約を公言しても、喜んでくれるんですね)
嫌がられるのではないかと、心の隅にほんの少し残っていた疑念は消え、アウレリアは彼のその幸せそうな表情につられるように、ベールの下で笑みを浮かべていた。
後日、国王である父で話を聞いたところ、辺境伯爵位を得たディートリヒに声をかける者がいるはずだと思い、先手を打っておいたとのことだった。加えて、父もまた、彼が眠れるようになったことで、少しずつ回復しているのに気付いていたようで。その容貌が元に戻る前に、アウレリアとの婚約を宣言しておきたかったということらしい。彼が元々の美しさを取り戻せば、面倒なことになると分かっていたから。
ディートリヒにそれを伝えたら、「それは確かに、陛下に感謝かな。俺は良いけど、アウレリアに何かあったら、とてもじゃないけど大人しくしていられないから」と、真顔で応えてくれた。その誠実さが、嬉しい反面、少しだけ気恥ずかしかった。
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