21-1(アウレリア)
醜い自分と、美しい彼。いや、美しかった彼、か。
どちらの方が、より周囲の人間から傷つけられているだろう。
疲れたような顔で過去の話をするディートリヒの言葉を聞きながら、そんなことを思った。
(『骸骨さま』なんて言われるようになって、少しでもこの容貌が美しければ、なんて思ったこともあったけれど)
その美しさの極致にあるような彼の過去を聞いた今では、美しければ、なんてとてもじゃないが思えなかった。
一つは、彼の身分もあるのだろう。孤児出身で、元平民の騎士。貴族の令嬢たちからすれば、何をするにも容易い相手。何をしても、許される相手。咎める者など、誰もいないのだから。
(本当に許されるわけなんてないのに……。それに、本当に彼を想うのならば、彼が気分を害するようなことをするのがおかしいとなぜ分からないのかしら……)
アウレリアには、いくら考えても分かるような気がしなかった。
ただ少しでも、彼のような人間を救える方法を考えられたならと、それだけを思う。好意の皮を被った周囲の悪意から、彼を少しでも守れたらと、そう思わずにはいられなかった。
『女神の愛し子』としての仕事を果たすために、アウレリアはパウラたち侍女と、ディートリヒたち護衛を伴って、客室ではない、自らの私室に来ていた。客間を通り過ぎ、その向こうにある扉を開いて、執務室へと入る。アウレリアの部屋の扉は、そのどれもが重々しい見た目をしており、その外見通りの重さを持つ、重厚なものだった。ちなみに、壁も他の部屋より分厚く出来ている。
アウレリアが、『女神の愛し子』だから。
「それでは、いつも通りお願いしますね。……ディートリヒ卿は、クラウス卿と共に部屋の外、廊下の方へ。少し長くなりますので、途中で交代を挟んでも構いません。その辺りはクラウス卿に一任しておりますので、彼に聞いてくださいね」
背後を振り返りそう声をかければ、クラウスはいつも通り礼の形を取って、来た方向へと戻っていった。対してディートリヒは、少し不思議そうな顔をした後、クラウスの後を追った。部屋の扉が、重々しい音を立てて閉まる。その扉の向こうでもまた、廊下に続く扉が、ゆっくりと閉まる音が聞こえた気がした。
「アウレリア王女殿下、今日はどの夜着になさいますか?」
部屋にアウレリアと侍女たちだけになったのを見計らって、侍女のパウラがそう声をかけてくる。今から、『女神の愛し子』としての役割を果たすため、一度眠りにつかなければならないからだ。
夜に眠ることが出来たため、少しでも眠りやすい服が良いかと、着慣れた夜着を選ぶ。いつもならば、どんな服であろうと構いはしなかった。横になった途端、それこそ落ちるように、眠りについていたから。それも、一瞬のことだけれど。
しかし、今日は違う。ぐっすりと眠ることが出来た今の自分では、少しでも寝やすい方が良いはずだ。いつもよりもずっと目が冴えていて、簡単には眠れなさそうだったから。
「あなたたちも、いつも通りお願いね」
夜着に着替えたアウレリアは、侍女たちに声をかけた後、ベールをしたまま横になる。呼吸が苦しいのは間違いないが、横になっていられるのはどうせ、少しの時間でしかないから。
もっとも、夢を見られれば、の話だが。
「……夢を、見られると良いのだけれど」
小さく、口の中で呟く。それだけが、ずっと不安で仕方なかった。もしかしたらもう、『女神の愛し子』としての役割を果たすことが出来ないのではないか、と。
そこまで考えて、深く息を吐く。弱気になっても、意味はない。まずはやってみなければ。
「ディートリヒも、色々試してみるしかないって言っていたものね。私も、やってみなければ」
彼もそうだが、自分のこの状態もまた、前例のない、初めての事態。何事もやってみなければ分からないのだから。
言って、ゆっくりとその目を閉じていく。暗い色のベールの向こう、透けていたベッドの天蓋が、瞼の動きと共にその姿を消す。意識して、何度も穏やかな呼吸を繰り返して。じわじわと、意識が遠ざかって。
それから、ほんのしばらくの時間が経った頃だった。
口から吐き出された、あまりにも悲痛な声と共に、かっとその紫の目が開いたのは。
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