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20-2(ディートリヒ)

 それからまた、いくつか試してみた。アクセサリーの中でもペンダントの効果が高かったため、今度は別の宝石ではどうだろうかという話になったのだ。アウレリアが普段使いしている物をいくつか借りてから、それを手に、周囲の音へと耳を傾ける。


 何度も、それこそ何度も繰り返したけれど、宝石の種類による変化はそれほど大きくなかった。




(まあ、一歩前進には違いないかな。あと、思いつく物で、すぐにでも検証出来るのは……)




 元々考えていたのは、今まで試していた、アウレリアが身に着けていた物を身に着けるというもの。他に、魔力を溜めるのと同じように聖力を溜めることの出来る魔道具のような物を作り、それにアウレリアの聖力を溜めてもらうというもの。

 そして、最後が。




「他に、何か試してみたいことはありませんか? ディートリヒ卿」




 考えていた所で、同じようにあれこれと思案していたアウレリアに声をかけられ、はっとそちらを向く。咄嗟に表情を取り繕い、「あとは、そうですね」と言って、魔道具についての話をした。聖力が重要なのならば、それが一番であろう。宝石の効果といい、魔力と同じように聖力も宝石に込められるとするならば、魔道具のように聖力を蓄えられる物を作ることも、出来ないことはないだろうから。


 アウレリアもまた、納得した様子で頷く。「では、知り合いの魔道具士にお願いしてみましょう」と約束してくれたので、そちらは経過を見るということになった。


 本当は、それ以外にも思案していたもう一つの考えがあったのだが。彼女に対し、失礼な気がして口に出来ず、ディートリヒは今回の検証をここまでで終わらせようとしていた。何にせよ、アウレリアがアクセサリーを貸してくれるというので、日常生活はある程度通常通りに送れそうだと、そう思ったから。


 なのに、である。




「ディートリヒ卿。まだ何か、考えがあるのではないですか?」




 話を終わらせようとするディートリヒの方を、ベール越しにしばらく見つめていたアウレリアが、そう訊ねてくる。不思議そうな声音。


 顔にも声にも、言葉にも出したつもりがなかったディートリヒは、アウレリアの声に驚いて動きを止め、瞬きをする。なぜ、気付かれたのだろう。そんなに自分は、分かりやすかっただろうか。


 アウレリアは穏やかな口調で、「ひとまず、何でも試すべきですから」と続ける。テーブルの上に置かれた紅茶を飲みながらこちらの言葉を待つアウレリアに、ディートリヒは少しの間躊躇った後、「では、最後にもう一つだけ」と口を開いた。




「殿下の、……髪を頂けたら、と思うのですが」




 身に着けている物に聖力が宿っているというならば、彼女自身の一部であればどうなのだろう。心臓から離れてはいるが、心臓から繋がっているともいえる。


 アウレリアの背後に控えていた、クラウスの目つきが鋭くなった気がしたけれど、こればかりは仕方がない。何でも試してみるしかないと、自分だけでなく、彼女もそう思っているのだから。


 だからと言って、髪が欲しいと言われるのは気分が悪いだろうと、そう思ったけれど。アウレリアは軽く首を傾げると、「もちろん、構いません」と応えた。




「近々、梳いてもらおうと思っていた所ですし」




 特に気にした様子もなく、彼女はそう続ける。これには、ディートリヒの方が少し驚いてしまった。


 自分の髪を、他人が持っていたいと言うのだ。気分の良い物ではないはずだ。


 少なくとも自分は、気味が悪かった。




「……本当に良いのですか? 殿下の髪を、俺が持ち歩くことになるかもしれないんですよ?」




 改めて、そう聞き返す。アウレリアはむしろ、ディートリヒがそこまで躊躇っていることを不思議に思ったようで、「髪くらい、別に……」と言いかけて。


 はっとしたように手にしていた紅茶のカップをソーサに戻すと、テーブルの上で手を組み、姿勢を正した。「もしかして、卿にはそういうことがあったのですか?」と、問いかけて来た。「誰かに、髪が欲しいと強請られたことが」、と。


 ディートリヒは彼女の言葉を受け止め、一つ息を吐くと、「いいえ。そのように強請られたことはありません」と応えた。疲れたような表情を浮かべながら。




「ただ、落ちていた俺の髪を集めていた令嬢なら、いましたね。俺の髪は赤かったから、落ちていても目立ったようで。……他にも、不要だと思って捨てた物などを持っている者もいまして。なかなかに、ぞっとしました」




 落ちていた髪を束にして持ち歩き、見せつけてきた者や、捨てたはずの服などを大切そうに見せびらかす者。気味が悪くて、気分が悪くて。


 テーブルの上、アウレリアの組んだ両手に力が入るのが見える。ディートリヒは腕を伸ばして、彼女の手に触れた。「大丈夫ですよ、殿下」と言って。

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