表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/111

20-1(ディートリヒ)

 ゆっくりと目を覚ます。数度瞬きをして、深く息を吸い、吐き出した。小鳥の囀りが、すでに夜は終わったのだと教えてくれていた。


 ゆったりした動作で顔を横向ければ、眠りに落ちる前に見たのと同じ位置で、彼女はまだ眠っていた。穏やかな寝息は、相変わらず耳に心地良かった。




(どのくらいに起きなければいけないのか、聞いておけば良かったね。まだそれほど遅い時間でもないから、慌てて起こさなくても良いと思うけど)




 どうしても起きなければならない時は、昨日の同じように扉の向こうから声をかけられるだろうから、問題はないだろうけれど。


 ごろん、と横向きに寝返りを打って、ディートリヒは眠るアウレリアの姿を眺める。もうひと眠りしようかと思ったが、昨日まで一週間ほど眠っていたためか、思ったよりも目が冴えており、二度寝をするのは難しそうだった。


 寝起きの、少しだけぼんやりとした頭で、アウレリアの寝顔を見つめる。彼女が目覚めたら、嫌がられるだろうなと思いながらも、なんとなく目が離せなくて。しばらくそのままでいると、案の定、ぽやぽやとした表情で目を開いたアウレリアがディートリヒの視線に気付き、繋いでいない方の手で顔を覆う。「……そういうのは、本当に良くないです」と、彼女は耳を真っ赤にしながら呟いていた。


 その日の午前中は、アウレリアがいつもよりも遅く活動を開始したということもあり、ディートリヒの症状の改善のために使うことになった。つまり、実験である。


 アウレリアが普段よく身に着けているハンカチやリボン、アクセサリーなどを身に着け、魔王の声がどう変化するかを調べていく。その作業を、一つ一つ繰り返していった。


 結果として、ハンカチやリボンにはあまり効果はなかったけれど、アクセサリーの、中でもペンダントを身に着けると、魔王の声が、脳内でほんの少しだけ遠ざかったような気がした。細かな音は聞き取れないが、人と会話するには問題ない、という程度には。




「魔力と同じで、聖力も宝石には宿りやすいのかもしれませんね。イヤリングや髪飾り、ブレスレットよりも、ペンダントの方が効果があるのは、何故かしら」




 ディートリヒの様子を見ていたアウレリアがそう言って首を傾げる。ペンダント以外のアクセサリーを見に着けた場合も、確かに脳内の声は小さくなったけれど。それでもまだ、周囲の物音を聞き取るのは難しいという程度だった。


 耳や髪、腕を飾る物よりも、胸元を彩る宝石の方が効果が高い理由。持っていたアメジストを主体としたペンダントをまじまじと眺めながら、ディートリヒもまた口許に手を遣り、考える。


 彼女が貸してくれたアクセサリー類は全て同じ宝石を使ったセットの物。そのため、宝石そのものが重要なのではないだろう。だとすれば、大きさか、位置か。




(でも、髪飾りとペンダントに使われている宝石は、あまり違いはないから……)




 だとすれば、位置が重要なのかもしれない。




「魔力が生み出されるのは、心臓だとされています。聖力も同じだとすれば、より多くの聖力に触れていたため、効果が大きかったのかもしれませんね」




 周囲に侍女や護衛たちもいるため、丁寧な口調でそう呟く。アウレリアもその紫の目を瞬かせると、「なるほど、そうかもしれません」と頷いていた。




「やはり、聖力の問題なのかしら。でも、神官たちの聖力ではいけなかった……。私の、女神から与えられた聖力でなければ意味がない、ということでしょうか……」




 これと言って確かなことはなく、二人で同じテーブルに向い合せに腰かけ、頭を悩ませる。ひとまず、一つ一つ解明するしかない。何せこのような事態など初めてで、分かることなど何もないのだから。

 気に入って頂けたら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂けたら大変喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ