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19-2(クラウス)

 それからほどなくして、クラウスは所属していた青騎士団から白騎士団へと異動した。青騎士であった時にすでに高位の神官の護衛を任されていたため、アウレリアの護衛となるまでにそれほど時間はかからなかった。


 それから、もう何年が経つだろう。クラウスの中で、アウレリアは誰よりも護られるべき存在であり、その意志を支えることこそが、クラウスに与えられた使命なのだと、そう思っていた。


 だから、気に障ったのだ。二年と三ヵ月前。『魔王封じの儀式』に参加する者たちを激励する式典で、アウレリアに声をかけたあの男のことが。




(おかげで、あの後に殿下が酷い中傷に晒されたことも、知らないでしょうね)




 『女神の愛し子』だからと、あのディートリヒ・シュタイナーに声をかけられた、役得な王女。先のパーティで顔を見た者は、まるで骸骨みたいな王女だったと言っていた。『女神の愛し子』でなければ、ディートリヒ・シュタイナーが声をかける価値もない人間のくせに。


 密かに囁かれるそんな会話に、しかしアウレリアは何故か、呆れたような顔をしていたけれど。全てはあの男が彼女に声をかけたのが始まりだと、それだけは間違いなかった。


 そしてその頃から、人々が陰で彼女のことを呼び始めたのだ。『骸骨さま』と。




(殿下はそれを知っていながら、気にしていないように振る舞っておられる。……あの目立つ男が、殿下に声をかけさえしなければ、そのように言われることもなかったでしょうに……)




 だというのに、『魔王封じの儀式』を終えて戻って来たあの男は、アウレリアに添い寝して欲しいなどとほざくのだ。そこに事情があり、アウレリア自身のためにもなると言っても、クラウスが気分良く迎え入れられるはずがなかった。


 その上、仮とはいえ、婚約者だなんて。




「……殿下を護るのは、私の役目なのに」




 思わず、ぼそりと呟いた。


 『女神の愛し子』の婚約者に関する慣例は、もちろん知っていた。白騎士であり、第一護衛騎士である自分は、まず最初にその候補に挙がるだろうということも。だからこそ、彼女が何事もなく二十の年を迎えることが出来たなら、ずっと護って行こうと、そう思っていたのに。




「……何も知らないくせに」




 深く息を吐きだし、言葉を零す。


 彼女がどうしてあれほどまでに痩せ細っているのか。休むことさえままならないのか。どうやって、『女神の愛し子』としての役目を果たしているのか。何一つ、彼は知らないというのに。




(今日からは、またいつも通り仕事を行われるでしょう。……苦しむ殿下の姿を見て、果たしてあの男は何を思うのでしょうか)




 恐ろしいと思うだろうか。それとも哀れだと嘆くだろうか。


 思いつつ、クラウスはゆっくりと目を閉じる。どちらにしろ、崇高な彼女の仕事を貶めることは、許さない。自らの役割を理解し、誇りをもって仕事に望む彼女を護ることこそが、クラウスの最たる役目なのだから。




(何か余計なことを口にすれば、すぐにでも王太子殿下に進言しましょう。護衛騎士としては、使えない、と)




 夜に、一時を共に過ごせれば良いのだろう。だから、彼女のことを邪魔することだけは、許せない。


 自分の言葉に影響力があるなどとは思ってもいないが、王太子が再考するきっかけにはなるかもしれないから。何事かあれば、遠慮なく伝えるつもりだ。彼女の傍から、早々に廃されるように。


 仮とはいえ、婚約者という立場から外されるように。




(殿下のことは、私が護れば良いのですから。……殿下の意志を惑わせる者は、私が排除しなければ)




 密かに思いながら、クラウスは閉じていた目を開いた。アウレリアの隣にいるべきなのは他でもない自分なのだと、我知らず心の底でそう思いながら。


 相変わらず、窓の外からは小鳥の鳴き声が耳を擽ってくる。隣の部屋では、耳障りな男の声の合間に、聞き慣れた彼女の声が、密やかに聞こえ始めていた。

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