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16-2(ディートリヒ)

 用意された客室に入り、荷物を運び込んでいたディートリヒは、視界の隅で扉が開くのに気付き、顔を上げた。礼儀正しく頭を下げた彼は、先程王太子イグナーツから指示を受けていた、彼の侍従である。


 部屋に入ってすぐの所で立ち止まった彼が、手にしていた紙をこちらに向けたので、数度の瞬きの後、ディートリヒもまたそちらへ歩み寄った。彼が示した紙には、イグナーツからの伝言で、時間が出来たら侍従について来て欲しい、と言うものだった。




(何か言い忘れてたことでもあったのかな? まあ、これ以上ここですることもないけど)




 周囲を見渡しても、荷解きが終わっていない荷物はあと僅か。ディートリヒは数歩歩いてテーブルに向かうと、そこに置いてあった紙に了承の意を書き留め、侍従へと見せる。侍従はそれを見て頷き、こちらへ、というように廊下の方を手で示した後、部屋を出て、歩き出した。


 黒騎士団として、王城の外の警備を行うことは多かったため、外であればそれなりに詳しいと思う。しかし王城の中は、夜会などで使用される広間など以外は滅多に近付くことがなかった。そのため、こうして廊下を歩いていても、どの辺りなのかがまだ上手く掴めない。窓の外を見た方が、何となく建物のあの位置かと理解できるくらいだ。


 外敵からの攻撃に備えて作られた、石造りの城。魔物犇めく『黒の森』に隣接した国であるため、今だに戦いに備えた造りとなっているのだ。いつ、どのようなことが起きて、魔物たちが攻め込んでこないとも限らないから。




(まあ皮肉なことに、そのおかげで、他の国からの侵攻はあんまり考えなくて良いみたいだけどね)




 魔物一体を相手にするのと、人間を十人相手にするのでは、圧倒的に前者の方が負担が大きい。それどころか、魔物の強さによっては、一体で人間百人ですら軽く凌駕するものもいる。


 自分たちの国と、そのような厄介な魔物がうんざりするほど住んでいる森との間に国があってくれるのだ。都合の良い緩衝材をわざわざ取り払う者などいないというわけである。




(だけど、これもまた皮肉なことに、その魔物相手が人間相手よりよっぽど大変だから、この国の騎士団は他の国に比べて相当レベルが高い。『黒の森』があろうとなかろうと、手を出せる相手ではなくなってたりするんだよね)




 むしろ魔物の存在に護られているのは他国の方だというわけだ。魔物の存在がなく、この国の王族がもっと好戦的な人間ばかりであれば、すぐさま隣国に手を伸ばしていただろうから。


 現国王や、他の王族を見る限り、それは有り得ないだろうけれど。




「ディートリヒ卿。すまないな、呼び立ててしまって」




 侍従の後を追っていたディートリヒは、今考えていた王族の一人、イグナーツの姿を見て立ち止まり、頭を下げる。ぽん、と肩を叩かれて顔を上げれば、彼は何やら言葉を口にしていた。頭の中では、相変わらず低い声が響く。


 残念ながら、読唇術が使えるわけではないため、どうしようかと口を噤んだところ、彼の方がはっとしたように侍従から紙を受け取っていた。すらすらと、何やらそこに書きつける。




”君の所属について話し忘れていた。今、時間は大丈夫か?”




 イグナーツが差し出した紙には、そう書き込まれていた。


 所属というと、黒騎士団の部隊のことだろうかと内心で考えつつ、「もちろんです」と応えようと口を開いて、やめた。言葉はおそらく問題なく発することが出来るだろう。けれど、声量の調整が上手くいっているかどうかが分からないからだ。


 礼儀に反することで申し訳ないと思いつつも、一度、深く頭を下げることで了承の意を示す。イグナーツはその反応で問題なかったようで、こくりと頷くと、背後にはる部屋の扉の方を振り返り、誰かを呼んでいるようだった。




(……ああ、ここはアウレリア王女殿下の部屋だったのか)




 イグナーツの指示で駆け寄って来た人物、アウレリアの第一護衛騎士、クラウス・バルテルの姿を目にして初めて、なるほどと理解した。


 けれどなぜ、自分の所属についての話をするのに、アウレリアの護衛騎士を呼ぶのだろうか。




(クラウス卿、何というか、視線が冷たいんだよね。……無理もないか。青騎士団から移ってまで護っていた王女様の婚約者に、俺みたいな平民上がりの騎士が内定したんだから)




 先程の昼食の場で、陛下がディートリヒとアウレリアの婚約の話をした時も、かなり動揺していたようだった。優秀な護衛として有名な彼が物音を立てるくらいだから余程である。


 アウレリアと、仮とはいえ婚約することとなったのだ。彼女の傍にいることが増えるということは、クラウスと顔を合わせる機会も増えるということ。少しでも打ち解けた方が、アウレリアにも気を遣わせずに済むだろう。


 そんなことを考えていたら、クラウスと話していたイグナーツがこちらを向いた。何やら再び手元の紙に書き込み始め、ぱっとそれをこちらへと向けた。




”明日から、卿の所属は白騎士団の、王女の護衛だ”




 紙には端的に、そう書いてあった。

 昨日は投稿を予約するのを忘れておりました……。すみません……。


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