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15-2(アウレリア)

 アウレリアの指示を聞いたクラウスは、すぐに両陛下と王太子に話し合いの場を持ちたいと伝えてくれた。多忙な三名がそう簡単に集まれるはずはないと思っていたのだが、三名とも、アウレリアが本日ディートリヒを起こすことを知っていたため、予定を空けていたらしい。ディートリヒの様子を見るという目的の元、早々に集まってくれることとなった。


 さすがにベッドの中で三名を迎えることなど出来るはずもなく。アウレリアとディートリヒは一度分かれて簡単に身支度をした後、話し合いの場となった昼食の席へと向かうこととなった。


 ちなみにディートリヒの頭の中で聞こえていた声は、眠る前に比べて少しだけ落ち着いたらしい。「俺自身が体力を回復出来たからでしょうね」と、彼は言っていた。一週間眠っていたと言った時はさすがに驚いた様子で、申し訳なさそうに頭を下げていたが。


 そのおかげで、事態が好転することもあるかもしれないのだ。アウレリアは小さく苦笑した後、「気にしないでください」と応えておいた。




「あの美貌の騎士様が、あんなにやつれてしまうなんて……。とても残念というか……。魔王というのは、やはり恐ろしいものなのですね」




 ディートリヒと別れて一度部屋に戻ったアウレリアは、一週間ぶりに浴槽で身を清め、身支度をしていた。侍女のパウラが残念そうに言うのに、周囲の侍女たちも「本当に」、「ねえ……」と同調している。


 確かに魔王が恐ろしい存在だというのはよくわかる気がした。異空間に閉じ込めた状態でさえ、こちらに干渉してくるのだから。けれどそれにより、ディートリヒがやつれてしまったところで、残念だとは思わないが。


 むしろどうすれば彼にもっと休息をとってもらえるかと、そちらの方が気になる。彼自身、魔王を自らの影に封じるとなった時、何かしらの不具合が出ることは予想していただろう。だというのに、自らの身を犠牲にしてくれたのだ。この国の王族として、出来ることは何でもするべきだろう。


 それも含めて、検証していかなければならない。そのための話し合いなのだから。




「お顔がやつれてしまっても、ディートリヒ卿のお心が清く素晴らしいものであることに変わりはありません。彼は私たち皆のために、その身を犠牲にしてくださったのですから。彼を貶めるようなことを言うのは、感心しませんよ」




 声を荒げることなく、一応の注意を促す。何よりも、そのような話は、ディートリヒの耳に入れるべきではないからだ。アウレリアが添い寝するということもあり、彼はこれから王城で過ごすことになるだろうから。


 アウレリアの言葉にはっとし、侍女たちは申し訳なさそうな顔になると、「お許しください」と呟いていた。彼女たちにとっては世間話程度なのだろう。困ったように笑って、アウレリアは「気を付けていれば、大丈夫ですよ」と鷹揚に呟いた。




「それでは、そろそろ参りましょうか。お待たせしてはいけませんから」




 身支度のためとはいえ、随分と時間がかかってしまった。家族とはいえ、客人がいる場で目上の人間を待たすわけにもいかない。


 思い、アウレリアは部屋の外で待っていたクラウスを呼び、昼食の場へと向かった。


 昼食の場に着けば、一度騎士舎へと戻ると言ってディートリヒがすでにその場で待っていた。先程までと変わらぬ黒騎士の団服であったため、それほど見た目に変化はなかったが、アウレリアと同じように身を清め、顔でも洗ってきたのか、すっきりとした表情をしていた。相変わらず、顔色はあまり良くはなく、頬もやつれていたが。


 それにしても、改めて見ても、不思議な髪色と目の色である。先だけが元の鉄錆色の白髪に、真っ赤な目、なんて。




「……ああ、そうでした。ディートリヒ卿。エスコートをお願いしても構いませんか?」




 ふと思い出し、アウレリアはディートリヒにそう訊ねる。両陛下、そして王太子との話し合いの場だ。少し落ち着いたとはいえ、触れていた方が聞き取りやすいだろう。


 ディートリヒは数度瞬きをした後、ほっとしたように笑みを浮かべた。「お気遣いありがとうございます、殿下」と言いながら。


 クラウスの手を放し、差し出されたディートリヒの手を取る。クラウスと同じく、剣を握ることに秀でた、固い、大きな手。途端、深く息を吐いたディートリヒに、やはり自分の判断は間違っていなかったようだと、そう思った。




「アウレリア王女殿下、ディートリヒ卿。両陛下、王太子殿下もすぐに参られます。席に着いて、お待ちください」




 現れた侍従が言うのを聞き、アウレリアはディートリヒと共に、先に席へと座る。その状態でも手を繋いだままだという状況が、少しだけ擽ったく感じた。

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