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15-1(アウレリア)

 「起きてください」という彼の声に、呆然としていた。自分が、眠っていたのだと理解したから。




(私が眠っていたのならば、とても騒がしかったはず……。ああ、だから起きていたのね)




 眠った自分は必ず魔物に襲われる夢を見て、叫び声や呻き声、泣き声と共に目を覚ます。一晩中、何度も何度も。


 だからディートリヒも起こしてしまったのだろうと、そう思って謝ったのに。


 彼は不思議そうな顔で首を横に振った。それどころか、アウレリアがぐっすり眠っていた、と言うのだ。わけが分からなかった。




(……確かに、夜に書類に目を通したあとの記憶がないわ。もう朝みたいだし、いつの間にかベッドに横になっているし……。頭も少し、すっきりしてる気がする。ディートリヒ卿の言う通り、眠っていたのかもしれない)




 夢を、見ることもなく。


 ディートリヒはアウレリアの言葉を聞いて、夢見が悪いのかと問うてきた。確かに、夢見が悪いと言えば、その通り。見たくもない、けれど見なければならない夢を、瞼を閉じる度に目にし、夢の中の自分が怪我をしたり、最悪命を落とすたびに目覚めるのだから。


 しかし、そんなことまで口にしては、彼も気分が悪いだろうと、適当に誤魔化す。眉根を寄せ、心配そうな様子でこちらを見る彼に、『女神の愛し子』としての役割で、毎日魔物に襲われる夢を見るのだ、なんて言えないだろう。


 そう、思ったのに。




「王女殿下は、……レオノーレ女神が見せる悪夢のせいで、今まで眠ることが出来なかったのですか」




 問うてきた彼の声は随分と固く、質問というよりも確認のようだった。




(少し語弊があるけど、間違ってはいないのよね。でも、あまり公にされていないことでもあるから……)




 アウレリアはディートリヒの言葉に返事をする代わりに、「……その質問の答えも含めて、一度、陛下たちも交えて、お話をさせて頂いても?」と、さらに質問を返した。


  その返事は、ほとんど答えのようなもの。ディートリヒは小さく「なるほどね」と呟いた後、頷き、「もちろん、構いません」と応えた。


 どのみち、自分が眠っていた、眠ることが出来たということは、父や母、兄たちにも伝えた方が良いだろう。なぜこのようなことが起きたか分からないのだから。




(まさか、魔物たちの王である魔王が、女神ではなくディートリヒ卿()の力で封じられたから、もう『女神の愛し子』として、夢を見ることが出来なくなった、なんてことは……)




 はっとして、そう考えを巡らせるも僅かに首を振る。魔王がディートリヒの影に封じられた後、ここに来るまでは毎日夢を見ていたのだから、その考えは間違っている。そう、すぐに心の中で否定することは出来たけれど。不安なことには、変わりなかった。


 未来が見えないなど、当たり前のことである。けれど今まで見えることが当たり前であり、それにより人々を助けることが出来ていたアウレリアとって、夢を見ることが出来なくなったかもしれないというのは、あまりにも大きな不安だった。




(私の価値が下がるのは、別に構わない。けれど、私が夢を見ることで助かっていたはずの人々が魔物に襲われるのだけは、……恐ろしくて仕方ない)




 魔王は依然として封じられている。女神の力ではなく、人の力によるものに変わったというだけ。魔物たちにとっては、何の変化もないのである。


 大切な、メルテンス王国の国民を守りたかった。だからこそ、『女神の愛し子』として、いっそ死にたくなるくらい恐ろしい夢を見ながらも、精一杯勤めて来たのだから。




(すぐに、いつも通り眠って、夢を見るかどうか試してみなければ。ディートリヒ卿が私に触れていると頭の中の声が聞こえない、というのと同じように、私にも、彼の影に封じている魔王の存在が影響を及ぼしている、とも考えられるわね。……レオノーレ女神と魔王には、何か因縁のようなものがあったのかしら……?)




 どうやら、検証すべきことや調べるべきことは、多く存在するようだ。


 けれど、こうも考えられる。もし、今考えたように、ディートリヒがアウレリアに触れていれば眠ることが出来るのと同じように、自分もまた彼に触れていれば眠ることが出来るのならば。


 『女神の愛し子』としての仕事をこなした上で、身体を休めるために眠りにつくことが可能かもしれない、と。




(これまでの『女神の愛し子』が早逝していたのは、明らかに眠ることが出来ないがゆえの過労が原因だもの。この考えが正解ならば、少しでも長く生きて、人々を救うことが出来るかもしれない。……後の誰かに、早々にこの恐ろしい夢を引き継がなくて済むかもしれない)




 何にしても、まずは話してみよう。もし自分の考えが正しく、夢を見ずに眠ることが出来るにしても、それを許可されるかどうかは国王である父の判断によるのだから。


 思い、アウレリアは開いたままの扉の方に顔を向けてから、「クラウス卿、お願いがあります」と声を張り上げた。

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