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14-2(ディートリヒ)

 目が覚めた。と言っても、空腹により、夜中に何度か目を覚ましたが。




(食料を保管しといて良かった。……固い携帯食が、乾燥して更に固くなってたけど、まあ、食べれたし)




 あまりに空腹すぎて思い出しのだ。『魔王封じの儀式』へと向かう旅の途中、何かあった時のためにと、食料を別の空間に保管しておいたことを。


 こういうところが、闇魔法の便利な点である。


 魔王を影に封じてから三か月程。睡眠不足ゆえにか、身体が食べ物を受け付けず、かといって空腹すら感じず。そんな状態だったため、眠ることが出来て頭がすっきりしたとはいえ、急に燻製した肉が乾燥し過ぎた物を口にするのは少し不安があったのだが。我ながら、さすが貧民街の出身と言うべきか。特に不調を感じることもなく、腹が膨れて再び眠ったのだった。


 乾燥し過ぎた燻製肉の携帯食料がとても美味しく感じたから、余程である。




(本当なら、もっとスープとかから食べ始めるべきなんだろうけどね。ま、何ともないから良いか)




 思いつつ、半身を起こして片手を上げ、軽く伸びをする。とても清々しい気分である。飲み物だけはさすがに保管していなかったため、少々喉が渇いていたが。まあ、それだけだ。


 隣を見れば、まだ静かに眠っているアウレリアの姿。寝相がとても良いようで、寝返りを打っていたのは気付いたけれど、ほとんどその場から動いてはいなかった。




(そろそろ起こした方が良いのかな……? でも、ぎりぎりまで寝かしておいてあげたいし)




 考えながら、前髪を掻き上げる。ここしばらく、全くと言って良い程手入れのされていなかった髪は、ごわごわとして指通りが悪かった。


 窓の方を見れば、カーテンの隙間から日の光が入り始めている。朝が来たようだ。


 待っていれば、その内彼女の侍女が起こしにくるだろうと結論付け、ディートリヒはアウレリアを起こすことをやめた。相変わらず、二人の手は繋がれたまま。




(……でも、手を握っていないといけないっていうのは、俺も不便だし、彼女も大変だよね。何か方法はないかな……)




 騎士という職種上、頭の中の声に邪魔されて周囲の音が聞こえないというのは、致命的である。かと言って、剣を振り回す際に、彼女に傍にいてもらうわけにもいかない。護るべき立場にある彼女を、無意味に危険に曝すことになる。


 夜はこうして休んだ方が、彼女が休む理由にもなるから良いとは思うのだが。何か方法を考えなければ、とてもじゃないが騎士としては生きていけない。


 ふむ、と口許に手を遣り、三ヵ月ぶりに働くようになった頭を巡らせる。例えば、アウレリアの聖力のおかげで、頭の中に響いていた声が聞こえなくなったのならば、何か魔道具のような物に聖力を溜めてもらい、持ち歩くという手もある。


 アウレリア自身が影響しているというならば、彼女の身に着けている物を手元に置いたり、髪などを持っていても良いかもしれない。


 まあ、効果があるかどうか検証していかなければならないわけだが。




(そんな風に出来たら助かるんだけどね。夜だけは、聖力が切れたとか何とか言って、一緒に過ごせれば、彼女も休めるだろうし。あとで王太子殿下に、色々試して良いかどうか聞いてみよう)




 そんなことを考えていた時だった。こんこんっと、開いたままだった部屋の扉がノックされたのは。





「王女殿下、お疲れ様です。そろそろディートリヒ卿を起こされてはどうでしょうか?」




 聞こえて来たのは、侍女ではなく、男の声。誰だろうか、と首を捻るも、男でアウレリアの傍にいる人物ならば、護衛の白騎士であろうとすぐに推測できた。




(となると、彼がかの有名な、彼女の第一護衛であるクラウス卿、かな)




 遠くから彼女の護衛をしている姿を見たことはあるけれど、話したことも、離している所を見たこともないため、声だけでは正確に判断できそうにないが。


 そう考えていると、「王女殿下?」と彼がもう一度声をかけてくる。返答がないため、不審に思ったのだろう。普段ならばこの時間、アウレリアはすでに目覚めているということか。


 周囲に時計もなく、時間の感覚が分からないため正確なことは言えないが、まだ日が昇ったばかりの、かなり早い時間だと思うのだが。




(まあ、何にせよ起こした方が良いだろうね。クラウス卿と思しき彼に俺が返事しても、その声で起きちゃうだろうし)




 それならば、きちんとアウレリアを起こした上で、彼女がクラウスらしき男に返事した方が良いだろう。まともに眠ることを許されない、とも言っていたため、眠っていると知られては困るかもしれないから。


 思い、「アウレリア王女殿下。殿下、起きてください」と、出来るだけ小さな声で呼びかけつつ、その細い肩を、傷付けないようにそっと揺らす。


 何度かそれを繰り返したところで、「……んっ」と、彼女が小さく声を漏らした。




「大丈夫よ、クラウス卿。ちゃんと、私、起きて……」




 ぼんやりとした口調で、彼女は呟く。空いている方の手で、ベールの上からくしくしと目許と思しき場所を擦っている姿が、小動物のようで愛らしい。


 思わず、ふふっと笑いながら、「殿下」と再び声をかけた。




「殿下、起きてください。俺はディートリヒですけど、クラウス卿らしき人も、向こうで呼んでますよ」




 外に聞こえないように、なるべく潜めた声でそう呟き、再び肩を揺する。「そう、起きないと、クラウス卿が、呼んで……」と、彼女はディートリヒの言葉に返事をして。


 一気に頭が覚醒したのか、はっとしたように、彼女は動きを止めた。

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