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13-3(アウレリア)

 『女神の愛し子』として、ろくに眠ることも出来ないアウレリアではあるが、夢を見る合間は、ほんの少しの時間ではあるが、眠っているのである。それすらも出来ていない今の状態が自分の身体にとっても負担になってることを、アウレリア自身もまた気付いていた。


 それに加えて、眠っているディートリヒが起きないようにと常に気を張っているのだ。食事などはそれほど豪華なものを望む方でもないのでどうとでもなったのだが、浴場には行けないため、衝立を立てて身体を清め、化粧室に行く際は騎士たちにディートリヒの身体を隣室まで運んでもらった。起こさないように、静かに、そっと。彼は寝返りも打たずに眠っていたので、むしろ丁度良いと医師に言われたのが救いである。


 そんな細かな気遣いをする必要もあってか、普段よりも格段に神経を擦り減らし、疲労が一層蓄積されていったようだった。おかげで、全然動いていないというのに、通常の何倍も疲労を感じているという状態なのである。クラウスが口を挟むのも無理ないことだろう。


 まあ、そういうクラウスも、二日おきに別の護衛と小一時間ほど交代していただけで、常に廊下に控えていたわけで。きっちりと休息をとっているのかといえば、そうではないと思うのだが。




(彼の言うように、私だけでなくクラウス卿のためにも、そろそろ一度休んだ方が良いかもしれないわ……)




 ぐっすりと眠っているディートリヒには申し訳ないが、彼の疲労を回復させるためとは言え、共倒れしては意味がないだろうから。


 心配そうにこちらを見るクラウスに頷き、「では、明日の朝に一度、ディートリヒ卿に起きてもらいましょう」と告げた。父や母、イグナーツも分かってくれるだろう。ディートリヒには、一度目覚めた後、一日二日の間を空けて、また同じように眠ってもらって良いのだから。


 そう思い、アウレリアは父や母、イグナーツに話を伝えてもらうべく、ほっとした様子のクラウスに侍女のパウラを呼ぶように言った。


 そうしてアウレリアの思った通り、反対の意見が出ることもなく、一度ディートリヒを起こすことが決まった。父と母、そしてイグナーツもまた、クラウスと同じく、アウレリアの体調が気になっていた様子である。無理せず休むようにと言われ、ほっと息を吐いた。


 すぐにでも休んで良いという話だったが、どうせならば今夜まではと言ったのはアウレリアだった。クラウスに話したように、翌日の午前中に一度手を放し、ディートリヒに目覚めてもらうことに決まった。そのくらいならばまだ、目を開けていられるだろうと、そう思って。


 その考えが甘かったと気付くのは、翌日のことであったが。


 ここ数日間と同じようにその日を過ごすことにしたアウレリアは、今夜までだと自分に言い聞かせながら一日を過ごした。明日の訪れを待ち望んでいるせいか、ゆっくりとした速度で日が昇り切り、傾き、落ちて。周囲が暗闇に包まれた頃、今日もまたテーブルの上の灯りを頼りに、書類に目を通す。




(あと一晩だけだもの。大丈夫、大丈夫)




 思いつつ、手に取った書類を一枚、二枚と、疲れて霞む目で文字を追い、内容を頭に入れて、確認する。時折、目が泳いで文字を拾えなくなるたびに、ふるふると頭を振った。




(大丈夫。問題ない。まだ、起きていられる。だから……)




 それは、ここ数日で初めての、気の緩み。瞬きを、一つ。けれど、一度閉じた瞼が戻ることはなく、手元の書類はぱさりとテーブルの上に落ちた。


 アウレリアは自分でも気付かぬ内に、ディートリヒの手に引かれるように、ベッドの方へと上半身が傾いていく。ふわふわと、頭の中が揺れるような感覚があったけれど、意識が遠くなりつつあったアウレリアには、何も分からなかった。そして。


 ぱたり、とアウレリアの身体がベッドに横向きに倒れた。


 すう、すうと、呼吸は安定していて、ディートリヒのそれと同じように、ゆっくりとした間隔で繰り返されて。


 アウレリアは一週間ぶりに、我知らず、眠りについてしまったのだった。

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