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9-2(アウレリア)

 謁見の間には、すでにアウレリア以外の王族と、『魔王封じの儀式』から帰還した騎士や魔法使いたちの姿があった。間違いなく、自分とレオンハルトを待っていたのだろう。おそらくは、ディートリヒのことも。


 いつものように檀上の椅子に腰かけた国王である父と、王妃である母。いつもと違うのは、王太子である兄、イグナーツが、檀上ではなく、父たちに向かい合っていることだろう。




「アウレリア。こちらへ」




 アウレリアの姿を見つけたらしい国王の言葉に、アウレリアははっとしながらも穏やかな動作で頭を下げ、壇上へと向かう。エスコートしてくれたクラウスはもちろん、壇上には上がらず、アウレリアが席に座るのを見届けてから、部屋の壁際へと向かった。


 母の隣の席に座り、眼下を見下ろす。イグナーツの斜め後ろには、自分と一緒に広間へと入ったレオンハルトが立っており、静かに頭を下げていた。彼の隣が空いている所を見ると、そこがディートリヒの定位置だったのだろう。彼らの後ろには、おそらく聖女と思われる女性と、魔法使いと思われる女性が、同じように頭を下げていた。


 と、その魔法使いと思しき女性の姿をまじまじと見つめる。どこかで見たことがある気がする。けれど、どこで。


 思い、ふっと目を細めた。思い出した。思い出したくもなかった、過去の事を。


 彼女は、自分に『骸骨みたい』と告げた令嬢、その人だった。




「待たせてしまったな。それでは、帰還式を行おう。王太子よ、報告を」




 帰還式、などと大層な名前をつけてはいるが、詰まる所、行程の報告の場である。それも、儀礼的なものであるため、大した内容にはならない。王太子が無事に『魔王封じの儀式』が終了したと唱えるだけの場。だからすぐに終わり、ディートリヒの様子を見に行けるだろうと、そう思っていたのだけれど。


 「『魔王封じの儀式』は、無事終了しました」と告げたイグナーツは、更に言葉を続けた。




「しかし今回行われた『魔王封じの儀式』では、少々問題が起きました。……不慮の事故により封じられていた魔王が目覚め、封印を継続させるだけの、古くから伝わる『魔王封じの儀式』の形を取れなかったのです」




 ざわり、と謁見の間の空気が揺れた。この場にいるのは、『魔王封じの儀式』から帰還した者だけではない。空気の震えは、主に謁見の間の左右に控えていた、国の要職にある大臣や、警備のための騎士たちの動揺の現れであった。


 そしてアウレリアもまた、その一人であった。




「魔王が目覚めた、か。……どういうことだ。王太子よ」




 イグナーツの言葉に、国王は静かに問いかける。表情は落ち着いており、その姿から、国王はすでにこの話を聞いていたのだと理解した。大臣たちの中にも、真面目な顔で事態を見守っている者たちがいる。彼らもおそらく、国王と同じく、先に情報を共有していた者たちだろう。


 イグナーツは国王の質問に頷き、傍らのレオンハルトたちを示した。




「魔王を封じるための聖槍が、例年よりも弱っていたらしく、新たに聖槍を突き刺すまでもたなかったのです。何の因果か、我々が魔王城に辿り着き、儀式を遂行しようとした瞬間、魔王が目覚めてしまいました。その場にいたのは、私と勇者の役割を与えられたレオンハルト卿、聖女の一人として参加していたビアンカ殿、魔法使いとして参加していたカロリーネ卿、……そして騎士として参加していたディートリヒ卿の五人だけでした」




 怪我をした者、戦意を喪失した者は、近くの街や村に待機させて進む。そうしている内に、最後にはその人数になったということだろう。


 イグナーツは「さすがは魔王と呼ばれる存在。勝てる相手ではありませんでした」と、顔を歪めて続けた。




「聖槍を使って再び封じようとしたのですが、魔王の手下が邪魔をし、魔王を庇って封印される事態に……。このままでは魔王を野放しにしてしまうと、刺し違えてでも倒す覚悟で彼らと共に戦い、それでも魔王の命を奪うまでには至らず。……これまでかと考えていた時に、この場にはいない、ディートリヒ卿が提案してくれたのです。影に、魔王を封じよう、と」




 「黒魔法を使って」と、イグナーツは言う。倒すことも出来ず、聖槍まで効力を無くした時に、それは最後の手段であっただろう。


 けれど、とアウレリアは思った。その場にいたのは、イグナーツを含む五人だけ。そこに黒魔法を使える者はいたのだろうか、と。




(……ああ、魔法使いと言っていたわね。カロリーネ卿は、黒魔法を使う闇魔法使いということかしら)




 苦い思い出に知らず目を細めながら、イグナーツが示した三人の内の一人、魔法使いであるカロリーネの方を見遣った。


 けれどそう思うも、少々腑に落ちない。激闘の末にディートリヒの提案を呑んだということは、魔法使いであるカロリーネの魔力はほとんど残っていなかったはず。自らの影という近い距離であるとしても、相手は魔王。膨大な魔力で空間に抑え込み、閉じ込める必要があるだろう。影に、と言ったのも、継続的に魔力を注いで封じるためだとすれば納得できる。

 しかし、魔力が残っていないのならば、どうやってそれを成し遂げたのか。


 僅かに首を捻るアウレリアは、イグナーツの言葉の続きを静かに待った。




「とある事情で隠していたようですが、ディートリヒ卿は、黒騎士であると同時に、……闇魔法を操る、闇魔法使いでした」

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