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6-1(ディートリヒ)

 『魔王封じの儀式』には、最低でも勇者と騎士、聖女と魔法使い、そして王子の存在が必要となる。初代国王が魔王を封じた場面を再現するためだ。ちなみに、聖女とはもっとも光魔法に優れた女魔法使いのこと。勇者というのは聖槍使いのことであり、騎士の内、もっとも槍を使いこなせる者にその称号を与えることになっているとか。


 しかし近年では、王子は魔王城までの進行には参加せず、一行が魔王城に辿り着いた際、闇魔法を用いて召喚することになっていた。




「理由は、危険なことももちろんあるが、第十三代目の国王の息子である王子が、平民であった当時の聖女に懸想し、結ばれようとして一騒動起きたため……。アホくさ」




 本日の仕事を終えたディートリヒは、自室のベッドに腰かけ、城内の図書室から借りた本を読みながら、ぼそりと呟いた。国を治める立場にある王族が起こした騒動にしては、馬鹿らしい話である。


 と言っても、それまでの規則を変えてしまうくらいだ。相当、大きな騒動になってしまったのだろう。


 王族は、余程の事がなければ、他国の王族か高位貴族、国内の高位貴族と婚姻することが義務付けられている。全ては国の利益のために。


 下位貴族との婚姻でさえも反発が大きくなるというのに、平民となれば相当なものだったのだろう。ちなみにその第十三代目の国王の息子は、王位継承権を失い、聖女と共に一代限りの男爵位を与えられて、政治と関わらない辺境の地で暮らしたという話である。




(……ん。でも、魔王城から王城の距離を闇魔法で移動させるって、結構な魔力が必要だよね)




 ベッドの上、座り込んだ自分の脇に置かれたいくつかの本の向こうに、ひらりと広げられた大きな地図。そこには、この国を中心とした、大陸の姿が描かれていた。


 大陸で最も大きな国、メルテンス王国。その北隣に広がる、巨大な『黒の森』。大陸の北の端でもあるその森の中心に、魔王城があった。


 森の広さは、おおよそメルテンス王国の三倍ほど。王城から魔王城の距離を考えれば、おそらくメルテンス王国の端から端までの距離を跨ぐ計算になるはず。単純に、かなりの距離がある。




(普通に考えて、一国を越える闇魔法なんて……。昔は今よりも魔力量が多い人が大勢いて、魔法も分け隔てなく学んでいたと言うけれど……)




 闇魔法は、距離が遠ければ遠い程、魔力を使用する。しかも今回の場合、魔物が大量に住まう『黒の森』の中を分け入って、魔物との戦闘の末に、王子を呼ぶことになるのだ。正直な話、ディートリヒであってもぎりぎりだろう。そこまでの行程で魔法を使っていたら、という話だが。




「俺は普通の魔法使いと違って、剣も使えるから。まあ、大丈夫だろうけれどね。闇魔法って面倒臭い上に結構地味な魔法だから、使うやつ少ないんだよなぁ……」




 聞いたところによると、魔法士団に二人しかいなくて、同行できるのは一人だけ。他は現在、民間のギルドに依頼しているという話である。


 『黒の森』が隣接している分、他国に比べて魔物の出現が多いため、メルテンス王国では、運送や探索、護衛などの他に、魔物を討伐するためのギルドが存在しているのである。魔物相手ならば、下手すれば騎士たちよりも戦い慣れている者たちだ。悪い手ではないだろうと、ディートリヒも思った。




(最悪、俺が闇魔法使いだって言っても良いから……。でも、魔法士団には行きたくないからなぁ。白騎士団とか青騎士団と一緒で、あそこも貴族の子弟ばっかりだし。しかも騎士団と違って、女もいるから……)




 鬼門なのである。本当に。


 面倒が起きると分かり切っている場所に、誰が行きたいのかという話である。しかし、だ。




「もう俺の同行は決まっているからね。失敗は遠慮したいから、いざとなったら、で良いかな」




 最悪の事態については、考えておくことにしよう。溜息と共に、そう呟いた。


 あの夜会から、今日で一か月が経っていた。レオンハルトの言葉通り、『魔王封じの儀式』が、約二か月半後に行われると正式に伝えられ、今日の仕事の際にディートリヒたちも内示を受けたのである。自分とレオンハルトもまた、その一員として選ばれたことを。


 ちなみに、レオンハルトは槍を使わせたら黒騎士団内でもずば抜けて優秀であるため、勇者の枠での参戦らしい。ディートリヒはといえば、正直なところ、槍はあまり得意ではなかった。剣ならば、良い勝負なのだが。


 まあ、そういうことで。予想はしていたが、改めて気合を入れるしかないと、そう思ったのである。


 何せこの『魔王封じの儀式』、早くても二年、遅ければ三年ほどかかる上、稀に魔王城に辿り着けず、帰還や全滅。改めて一行のメンバーを選びなおし、合わせて五年ほどの時間をかけて成功させた例もあるのだ。


 『魔王封じの儀式』事態は大変なこともないらしいのだが、そこまでの道のりは本当に過酷なのである。




「まあ、だから褒美もかなり良いらしいけど。死んだら元も子もないからね」




 気を引き締めなければと、広げた地図の中、黒く染められた魔王の城を見ながら呟いた。

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