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死神は友と歩く

作者: 葉沢敬一

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 「死神」と呼ばれた男が居た。職業は暗殺者。主に裏社会からの依頼で、対象を処分し報酬を貰う。映画『ジョン・ウィック』みたいに殺して回るというわけではなく、対象だけ、自殺や事故死、病死に見せかけて殺す地味な仕事だ。


 SNSで騒ぎが起きると、どこからともなくあのハンドルネームの奴を消して欲しいとかの依頼が来る。消すのに半年、1億円と言うと躊躇して取りやめになることが多い。怒りにまかせて、華々しく殺して欲しいという希望ばかりだが、そんなことしたら大騒ぎになってこちらの身も危うくなる。

 そして、払わないと依頼人を消すと伝えるとトーンダウンして話が無くなる。地味な暗殺しか仕事が入ってこないがそれはそれでいい。


 ある日、男に「犬」を殺して欲しいという依頼が来た。報酬も人間と同じで期間も納得済み。


 なぜ、「犬」なのか?


 引退した盲導犬で、旧主人は交通事故で亡くなっている。不思議に思ったので深掘りすると別の事件で事故に見せかけて殺された節がある。


 犬は、事故に巻き込まれて下半身が不随になっていた。もう盲導犬としては使えず、新しい里親に引き取られて余生を過ごしている。


 ただ、かなり頭が良い。旧暗殺者が100メートル以内に近づいただけで、唸り出す。足が付くので消して欲しいとのこと。犬一匹に1億出すなんて主人暗殺するのに何億もらったのか?


 男は受諾した。まず餌に毒を盛ろうとした。盛る隙が無い上、無関係な人に頼んで毒入りおやつを与えようとしたら気づいて拒否した。

 銃は使えない。使うと、旧主人の事件が浮き上がってしまう。


 新しい主人ごと車で轢こうか散歩途中を観察する。ダメだ、二回連続交通事故に遭うなんて何らかの意思があると疑われかねない。


 ベンチに座って散歩を見ている。後ろ足は、車輪を付けられてコロコロと歩いている。

接触することにした。


「こんにちは、ワンちゃん可愛いですね」男はいかにも犬好きそうに言った。

飼い主は立ち止まると、挨拶して、

「盲導犬でしたが交通事故に遭いましてね。主人共々暴走車に轢かれました。この子は生き残りましたが、主人は亡くなってこの子を引き取ったんですよ」


 犬は悲しげに男を見上げた。元盲導犬らしく、よく躾けられた犬だ。男が自分を殺そうと思っているなんて全く思ってない顔をしている。


 手を出すと、恐る恐るペロリと舐めた。挨拶か?

 男はそこで、気が変わった。この仕事は断ることにしよう。ふつふつと後味が悪そうな仕事だと思った。


 前金2千万を返して、手を引くと言ったら、

「そうか。他の暗殺者が仕事を済ませている頃だ。お前はまどろこっしくていかん」と、言われた。

 他の暗殺者? まさか里親ごと消すつもりか?


 心配になって、飼い主の家に行ったら宅配便の軽トラが止まっていて、ピンときた。宅配業者に偽装して侵入する手口だ。


 玄関は空いていた。男は自分が何をしているのか意識してなかった。里親と飼い犬が心配だった。

 音を立てずに部屋に侵入する。暗殺者は犬と格闘していた。後ろ足が動かないのに里親を守ろうと犬はしていた。


 噛みついたまま離れない犬を暗殺者はナイフで刺そうとしたとき、

 懐から紐を取り出すと暗殺者の腕を極め絞め殺した。


 明かりを点けて里親を見たらナイフで刺し殺されていた。

 犬は男を見て、味方だと判断したが、死んでる里親を見て、悲しそうに泣いた。

 男は犬も涙を流すとはついぞ知らなかった。


 男は犬を抱え上げた。逃げないと。殺しの手口から男がやったとバレる。

 大事にしている里親の毛布で犬を包むと、そのまま夜の中へ消えていった。

 子供の頃飼い切れなくなって保健所へ連れて行った犬のトラウマさえなければ、放って置いたのにと思いながら。

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