表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

35.

  

「どこから得たか」


怒留湯基ノ介(ぬるゆきのすけ)


「少し話は戻る。清水さんの次は俺が分かりにくくする番かな。今度は」


清水颯斗(しみずはやと)


「私は話をただ(ひろ)げたつもりです」


「うん。でね。安紫(あんじ)会の話に戻すんだけれど」


「ほう」


「いい? あくまでも『どこから得たか』なんだ。俺はさ。若頭(わかがしら)自身の部屋へ行ったことがあるの。生きていた若頭がそこへ居て」


「その若頭は替え玉だったと。今の話で言えば、入海暁一(いりうみあきかず)だった」


桶結千鉄(おけゆいちかね)


怒留湯。


数登(すとう)さんの予想に乗るとしてだ。あんたの仮定を良しとするならね。ただ、俺らは彼を若頭として話を聞いていたから。あの時はね。オケは一方で、若頭の部屋には行かなかった」


ガサ入れの日。

安紫会の事務所。

その時のことを言っているのだろう。

杵屋依杏(きねやいあ)は思う。


桶結。


「ええ。俺は裏へ回っていました」


「事務所のね」


「ええ。そう」


「そう。俺とオケは安紫会の事務所に居た。居たけれど場所は別だ。同時刻には事務所に居たことになるけれどね。それは数登さんも同じだな。とにかく」


手に帽子。


「情報を『どこから得たか』。とりあえず数登さんの仮定に乗っかっていく」


「ええ。ぜひ」


数登珊牙(すとうさんが)は微笑む。


怒留湯。


「是非と言われても」


「では怒留湯さんから」


「うん。あんたの集めた資料で可能性を、挙げていくとするなら。という俺の意見」


数登は肯いた。


「若頭の替え玉が入海暁一だったとしよう。するとまあ自然、組員の連絡回しに入海が組み込まれても。そんなにおかしくはない。っていう状態になる」


「俺も参加していいでしょうか」


軸丸書宇(じくまるしょう)


怒留湯。


「なんだい」


「組員であれば(なお)の事でしょう」


「なにが」


「今の仮定であれば。入海先生の情報が得やすいって点です。若頭の替え玉なんだから、組員ならそういう情報を得やすい」


と軸丸。


「そう。それが一点だな」


と怒留湯。


(ひと)呼吸。


「でさ。俺らは連行したんだよ」


と桶結へ。


「安紫会の組員たちを。ここの。西耒路(さいらいじ)署へね」


桶結は肯く。


洋見仁重(なだみとよしげ)伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)でしたね」


「そう。任意での連行だ。二十三時を回っていた。たぶん」


「恐らくね」


と桶結。


怒留湯。


「それで数登さんが若頭と再び会う。入海暁一が生きて戻ってきたその後だ」


数登は肯く。


「そう。だから、入海先生が替え玉だったとしたらさ。俺らの連行の段階で。既に若頭の替え玉の身体(からだ)は、西耒路署にあったことになる」


と怒留湯。


軸丸。


「つまり。ええと」


と考え込む。


「組員は(ほか)にも任意で連行を」


「そう」


「だったら」


と軸丸。


「西耒路署に居た組員は。替え玉かつ入海先生であるその人の署内の動向を把握」


「そう。可能性としてはね。署内で奴らが連絡を取るっていうのは。それは簡単には行かないだろう。俺らとしても簡単に行かせてはいけない。と思うよ。ただ署内に、安紫(あんじ)会の組員も阿麻橘(あおきつ)組の組員も連行して来たのは。事実だからな」


怒留湯。


「組員であれば。何らか奴ら同士で、連絡を取り合うだろうっていう。俺がそう思いたい。だけかもしれないけれど」


桶結は怒留湯を見つめる。


入海暁一(いりうみあきかず)が解放されたっていう情報を得るのはさ。と言うか入海が若頭の替え玉であったなら。組員の奴らが、いち早く情報を入手してもおかしくない。それは、西耒路署内に居たのかどうかもある。情報をどこから得たのか。それは俺も分かる気がするの。西耒路署から得た以外には考えられないから」


と言って数登を見る。


「だがね。その後はどうするか。劒物(けんもつ)大学病院へ連絡したのは女性の声だった。そしてさ。女性とは限らない可能性も出て来たとあんたは言った」


続く話。


「情報を得るのは組員でも出来るだろう。署に居て身動きが取れなくても。組員同士そこは多分やる。だが、外側への連絡となると話は別だ」


歯朶尾灯(しだおあかし)へ言う。


「分かるだろう。あんたも」


歯朶尾は黙っている。


怒留湯。


「つじつま合わせとしてはこんだけか。ただ、今の場合だと組員が()られた件とか。入海が殺られた件とは何もつながっていない。しかも。殺す殺さないとなればここからは。俺らの領分だし」


と数登へ。


「更に一点」


「さらに?」


「ええ」


と数登。


「入海先生の自宅には。入海先生が解放されたと思われる、その(あと)に。警備が付いていました」


怒留湯は溜息をついた。


「警備か」


「ええ」


桶結。


「俺からも、()いでしょうか」


「なんだい」


と怒留湯。


「いまの時点で。西耒路署の俺らは。流れとして関わっていなかったとは言い切れない。そういうことでしょうか」


「俺も。そう思っている」


と怒留湯。


「じゃあここまで異論はない? 少なくとも、歯朶尾さんを除いては」


歯朶尾。


怒留湯は続ける。


「オケにも。つじつまを合わせるための話があるっていう(ふう)に。俺には受け取れた。そうかな」


「そこまで行くかは」


と桶結。


「少なくとも。俺らが関わったという時点から。あるいはその前から。特に、釆原(うねはら)記者殿が、安紫会のことを嗅ぎつけた辺り。西耒路署は既に一連の流れに組み込まれていたということです。恐らく」


怒留湯は肩をすくめる。


「シダさん。俺の記憶ではさ」


と桶結。


歯朶尾へ。


「スクリーンのある場所と言っては。安紫会の事務所の方が印象が強い。分かるだろう。シダさんの場合、そっちはどうでも良いのかもしれない。でも」


と桶結。


「何故、動画をブラックアウトさせる必要があったんだろう」


と歯朶尾を見つめて。


そう。

安紫会の事務所にて。

一気に暗くなった件だ。

動画及びスクリーンのブラックアウト。

ただのブラックアウトじゃないだろうと。


あの時は、いきなり暗くなって。

大騒ぎになっただけだと思っていた。

でも一連をよくよく見て行く中で。

そこに何らかの意図があったのだろうと。

依杏は思ってきた。

それは道羅友葉(どうらともは)にも共有していたこと。


桶結さんは「ブラックアウトさせる必要があった」と言う。


「僕が思うに。証拠はありません」


と数登。


「音声を聴くか(いな)かという点」


「証拠ならあるかもしれない。今言ったことに関してだ」


と桶結はかぶりを振る。


「それは」


と依杏。


「音声のこととかでしょうか」


「その証拠ではない。理由でもないと思う。ただ」


と桶結。


「理由なくブラックアウトした感じではない。と俺も思ったよ。怒留湯さんは若頭の部屋だと()った。俺は事務所の裏手に居た。そこで切られたコードを何本か見つけている。そして」


と歯朶尾へ。


「スクリーンとスマホがブラックアウトしただけなんだ。そうだろう」


歯朶尾は桶結を見ている。


桶結は続けた。


「電気系統が全てダウンするなら。事務所内全体で真っ暗闇になっても。おかしくないはずだ。俺は裏手に居たから、ガサ入れ中の事務所の様子はよく分からない」


「つまり」


と清水。


「電気系統自体のダウンではなかったと」


桶結は(うなず)いた。







切られたコード。

なくなった安紫会の装飾品。


コードは切られていた。

それだけだった?

だとすれば?

意味を成すものはなかった?

(なん)の行為?

ただ切っただけ?


それが事務所内の電気系統全体に影響を及ぼしたのか。

と言えば、そうではない。

とするならば。

少なくとも。

抗争中にコードを切るのはまず難しい。

ではいつのタイミングで切られたか。


「全部。西耒路署を中心にして考えれば収束するんでしょうか」


と依杏。


「シダさん。西耒路署内部では動きやすかったんだろう。違うか」


と桶結。


「動画については。ただ単にブラックアウトを引き起こすだけならだ。電気系統全体でダウンさせなくても話は済む。そしてスマホだ。自分で誤作動を起こさせば、それ単体でブラックアウトするだろう。スクリーンとは別にね」


続ける。


「スクリーンとスマホ同時。ではなくてもブラックアウト自体を起こすことは出来たんだ。そしてスクリーンで流れていた、Se-ATrec(シーアトレック)の音声。西耒路署以外の人間に聴かれたら困る。シダさんがそう思ったのか否か」


「そして警備の件」


と数登。


「それにも西耒路署の人間が関わるんだろう」


と桶結。


歯朶尾は立ち上がった。







入海暁一(いりうみあきかず)

そして伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)

間に血縁という関係が存在した。

名前の苗字が違う。

それは、血のつながりとは言えど腹違いだったから。


先に殺されていたのは、替え玉でない方の伊豆蔵蒼士。

その後に入海暁一。

彼は遺体で発見される。

致命傷は刺されたことによるものだ。


怒留湯と桶結の見方としてはこう。

西耒路署のデータベースにはなかった薬物。

「クロコダイル」という薬物。

それが関係している可能性が高いこと。

安紫会では薬物は、ご法度(はっと)で即破門もの。

とすれば、安紫会でクロコダイルのやり取りなんかが発覚する場合。

騒ぎとなるのは必然だ。

阿麻橘(あおきつ)組であった、力江航靖(りきえこうせい)の遺体。

その遺体からも同様の薬物が検出された。

そして力江を「()った」と自供したのは、安紫会である洋見仁重。

薬物に対して洋見がよく思わなかったのは。

洋見ならそうだろう。と。


クロコダイル。

既に亡くなっていた伊豆蔵蒼士。

彼の場合は頭蓋骨だった。

その伊豆蔵にもクロコダイルが使われていたという可能性。

では伊豆蔵を殺ったのは誰なのだろう。

薬物絡みでいくとするなら、候補として上がるのはまず洋見。

洋見だろうという見方。


警備の話。







時間は過ぎた。

大分(だいぶ)過ぎた。

何時頃なのだろう。

ここは取調室ではない。


自供の件から、安紫会の洋見は西耒路署で過ごしている。

いま取調室には空きがある。

しかし、そこへ入る人があまりいない。

押収された沢山の武器が、床へと積まれている部屋。

依杏たちが集まって話している部屋。

そこでの話は、一旦お(ひら)きになった。

それは時間的にという意味である。


取調室でないところで。

予想をああだこうだと言い。

取調室だったら、たぶんもっと別な形だったろう。

しかし、数登は九十九(つくも)社である。


あくまでも、九十九社の非公式。

数登はじめ依杏らの予想。

予想であり、推測であり。

情況的な話。殺しの件。

ついでに清水も非公式の場で、情報を照らしたことになるが。

ただ西耒路署の刑事にとっては、追加が増えたことになる。

例えば。

エクセレとしての事実確認が追加事項。

洋見への追求内容も追加。

劒物大学病院への事実確認等も追加事項。


取調室への出入りは再び増えることになる。

盗難の件に関しても事実確認は必要だった。


主に歯朶尾(しだお)へ。


「あなたの荷物から」


と数登は言った。


暗い夜の窓の外。

そこから見える緑。

補っているのは店内の照明である。


「出て来たと」


釆原凰介(うねはらおうすけ)はこの場に居ない。

だが日刊ルクオは近い。

今のこの場は喫茶店。

数登ともう一人。

歯朶尾だ。


レコードがあり。

その針は盤に載っている。

だが音は店内のもの。

恐らくCDか有線か。

ジャズ。


時間としては閉店ギリギリ。

それが逆に功を奏しているのか(いな)か。


「清水さんがそう(おっしゃ)っていました。何故なのでしょう」


と数登。


歯朶尾。


「清水さんは(くせ)と言っていたけれどさ。自分の中では少し違うと思っている所があるかな。いや、いろいろ一(くく)りに言葉にしたって。結局一般的には、()ったってことになるんだから」


数登は苦笑。


座っているのはソファのあるテーブル席。

テーブル自体も背が低いものだ。


「あんたはどう思う」


と歯朶尾。


「どう思う。と言うと」


「いや。忙しさにかまけて俺が出て来ちゃってさ。あんたはついてきたじゃない」


「ええ。あなたにお話を伺う必要がありました」


テーブルの上にはトーストとコーヒー。

夜食か。


数登はトーストをかじった。


歯朶尾は皿に手が伸びない。


「訊き足らないところがあった?」


「ええ。途中で途切れてしまいました」


「どのあたり」


と歯朶尾。


「あなたなりの理由を。何故かということをお伺いしたい」


数登は歯朶尾を見つめる。


「何故なんだろうね」


と歯朶尾。


何故なのだろうか。

しばし沈黙。

その後結局。

数登と歯朶尾は、トーストをかじりコーヒーをちびちびやり。

店員たち。


何故か。

歯朶尾自身にも。

これと言って理由が浮かばないという。

数登の聞いたところである。


ただ。

彼がNーRodin(エヌロダン)こと、上ノ段七日生(うえのだんななせ)のライブ会場へ行って。

その警備に励んでいたこと。

そして荷物に手を触れたことのあること。

それは認めた。


歯朶尾はカップを置いた。


「あんたも薄々感づいているとは思うけれど」


「ええ」


「動画のブラックアウトは俺自身というか。俺単独でも引き起こせるみたいなことを。桶結さんも含めて言ったじゃない」


「ええ」


「だからさ。言わなくても勘づいているんじゃない?」


「切られたコード」


「そう」


「歯朶尾さん以外で切った(かた)が居ると」


「そう。俺の指示だ。ただ」


「ただ?」


「アンタらは逆にさ。何でガサ入れなんかに顔を出したりしたの」


「出さない方が良かったと」


「そりゃそうだよ。だから困ったんだ」


店員が数登と歯朶尾を見つめている。

だが、苦笑して会釈。


数登。


「では、動画を企画したのは」


「それは事務所の方針。時間は大丈夫なの、ここ」


数登は店員を見た。

すぐまた眼を戻す。


「署に戻りましょうか」


歯朶尾は再度トーストへ。


「途切れた話ってどこまでだっけ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ