31.
「そう。ただ頭蓋骨と薬物につながるかどうかは別として」
と軸丸書宇。
「あなたは推定を出しました」
「頭蓋骨は死後二、三日が経過していた。その推定は出したよ。それで」
軸丸の他には歯朶尾灯。
今の部屋には他にも。
杵屋依杏、数登珊牙。
八重嶌郁伽も来ていた。
恐らく彼女は賀籠六絢月咲のことが気掛かりで来ている。
絢月咲はまだ西耒路署にいる。
その点は変わらない。
今この部屋とは別の場所で、そして今も話を聞かれている最中である。
そのため、この部屋に怒留湯基ノ介と桶結千鉄は居たりいなかったりする。
絢月咲さんは「憶えがある」と言ってくれた。
それでも絢月咲さんの疑いはあまり晴れるとか晴れないとか。
そういうことでもない。
今はまた、取調室に移動しているかもしれない。
郁伽先輩は、恐らく様子を見に行ったのだろう。
ただ、「憶えがある」かどうかを言ってくれたというのは。
そうだ。
何かの確証ある証拠になるのだとか。
刑事さんの言う「正式」なものを掴めるとか。
いまの時点で。
今私たちが集めている資料の中で話を進めて行くにあたって。
その点だけは、「憶えがある」というのは材料になるということで。
「と言っても今となっては。何日もあれから経過している」
歯朶尾。
「軸丸さんは、俺の鑑定に穴があったと言いたいの」
「穴というか薬物自体、データベースになかったんでしょう」
軸丸。
歯朶尾は肩をすくめる。
「それはまあ、西耒路署の抜けって言えばそうだね」
「言っときますけれどね。日本じゃあんまり見ない薬物なんですから。だから穴とか抜けとか言っている場合じゃない。そんなふうに片付けちゃいかんでしょうよ」
「ほう」
と歯朶尾。
依杏はびっくりして聞いていた。
「あまり見ない、薬物」
と数登。
「そうなんです。名前はね。それこそ怖い感じです。クロコダイルって言って」
「クロコダイル……」
その部屋に居て話を聞いていた者の空気がどこか。
硬直したのには違いない。
軸丸。
「そう。クロコダイル。あまり聞かないでしょう」
「確かネットに引けばあるんじゃないか?」
と歯朶尾。
軸丸はかぶりを振る。
「あのですね。今は俺の話ですよ。生成部分の主なものにはコデイン塩ですね」
「結構特殊なルートじゃない」
「そう。確かに特殊です。一般に広く薬物として、出回っているようなものじゃあなく」
「やっぱり安紫会絡みと考えていいのかな」
「あるいは阿麻橘組でしょうね。安紫会は確かご法度って聞きましたからね。薬物。いずれにしても入手ルートとかを、調べるのは西耒路署さんの出番でしょう」
歯朶尾は肩をすくめる。
「勢いこまれちゃった」
軸丸。
「そいで。僕らに回って来たデータ。死体のほうに使われていた薬物」
「それは、入海先生ですか。それとも」
と依杏。
「頭のない遺体のほう」
依杏は思い出して、思い出したくなかった。
軸丸。
「ついでに言えば。その頭は見つかったからまあね。力江航靖の遺体だ」
「じゃあ」
と依杏は少々俯いた。
「うん。少なくとも。何か意図があって力江は遺体になった。そう見ることが出来るでしょう。その力江の遺体から出た成分。これまたクロコダイルだったからさ」
「だった」
歯朶尾はつぶやく。
軸丸。
「強烈なんですよ」
「強烈」
と数登。
軸丸は肯いた。
「ええ。肉体組織を融解させてしまう。その力江航靖という組員が摂取したのか。あるいは、誰かに摂取させられたのか。というのはともかく」
「頭が千切れるほどに作用した。と云いたい?」
と歯朶尾。
「まあね。とにかく使用されていたんです。検出されちゃったんですから。肉体組織が溶けやすくなっていた」
と軸丸。
歯朶尾は立ち上がった。
「清水さんを呼んで来たほうがいいか」
「いらっしゃいますか、今日」
「うん」
桶結が軸丸の傍へ来る。
軸丸は桶結へ。
「ありますね。押収したやつでしょう」
「そうだよ」
「安紫会の武器類?」
「まあね」
「この武器類は、つまり力江を殺ったかどうか。というの?」
「その他抗争に使われているのも含まれている。入海先生のこともそうだが。あらかた抗争の時に押収してしまった。いま安紫会にある武器と言っては少ないはずだ」
「力江の件はどうなんでしょう」
「頭部のほう」
「そうです。何の武器類で切られたとか。何の武器かは判明した」
桶結はかぶりを振った。
「今も調べている。切り口の合うものは見当たらない」
「誰が殺ったかっていうのは、検討がついているんですよね」
「そう」
洋見仁重が既に自供済み。
安紫会だ。
軸丸。
「切り口の合うものが見当たらないといって。それももしかすると薬物のためかもしれません」
「というと」
「クロコダイルと考えれば」
歯朶尾が清水を連れて戻って来る。
軸丸は続ける。
「力江の身体へ使われていたために、肉体組織への変容として作用。それで頭部と身体が分離しやすくなっていたら。とかね」
桶結は考え込むようにした。
「憶測でしかないだろう」
「どの程度まで肉体組織を融解させるか。そのあたり僕も素人です。あくまで成分分析ですから。ただクロコダイルって考えると。誰が力江を殺ったかっていうのは警察さん側で検討はついている。にも関わらず、切り口の合う武器がない。少し考えやすく。なりませんか」
「力江のことはもう、公になっているんだな」
「おおやけ?」
「軸丸さんが知っているということは」
「西耒路署さんは既に公にしていたはずでしょう。ただ力江っていう名前は俺、今知りました」
「そう」
桶結。
依杏。
「肉体組織が解けたから、切り口が合わない」
軸丸。
「憶測というか予想でしかない。ただクロコダイルはそれくらい危ない薬物なのね。自分から吸引しようなんてのは、俺だったら考えたくもない」
「そもそも摂取したのが。自分か他人からの影響かってところもありますがね。それで」
と言って清水が来た。
「確かに。うちの署のデータベースにはありませんでした」
「でしょう。さっきも言いましたけれど」
「入手ルートも特殊なはずだ」
「そう」
「使用例は西耒路署周辺ではほとんどない。というか出回っていない。大体の商売ではと記憶している」
清水は腰掛けてパソコンをいじり始めた。
「ただそれが力江の体内から検出と。軸丸さんがクロコダイルと見つけたこと。つまり薬物としてはもうすでに、周辺へ出回っていると考えたほうがいい」
歯朶尾は眼をぱちくり。
「つまり?」
「つまりだ。死後二、三日で綺麗に骨になっていた。というのにも予想がつくだろう」
「予想」
「フネが死後二、三日と割り出した頭蓋骨だよ」
歯朶尾は考え込んだ。
「溶けちまったってことですか。組織」
「そう。融解が早かったんだろう。死後二、三日で土の中にただ放置されていたくらいでは、あんなに綺麗に白骨化するのは恐らく難しいと思う。事前に溶かされたか何か。しない限り」
歯朶尾と軸丸。
その表情は硬く。
依杏。
清水は続けた。
「伊豆蔵蒼士。頭蓋骨の名前だよ」
「ああ」
と歯朶尾は言って肩をすくめる。
「そうでしたね」
数登は資料をめくる。
各々作業をする面々。
今数えるとゆうに十人程度。
そのくらいは入ることの出来る部屋。
押収した武器類も同時にここへ入っている。
依杏はなんとなく、絢月咲の家へ行った時の。
そのキッチンの広さを思い出していた。
資料とパソコン。
指の動き。
タイプ音。
サンプル。
解析結果。
依杏は天井を見つめた。
白い蛍光灯。
ドアも無機質だ。
そう。薬物の話と相まって。
依杏は自分の資料を見た。
今は紙の資料が多いが、依杏のは主にパソコンである。
解析画面。
クロコダイル。
薬物か。
依杏のとはまた別の解析だ。
成分の分析と、画面に表示された資料の解析。
アナログとデジタル。
それでも結果が出ることには、同じなのだろうか。
「明らかに」
と依杏は数登へ言う。
「誰かの意図があって。薬物が使われたということになる。いずれにしても」
「ええ」
数登は資料を繰った。
「絢月咲さんの意見も加味した上で、考えましょう。今の時点で、伊豆蔵さんの名前が挙がっています」
依杏。
「伊豆蔵さんの名前」
「ええ。既に亡くなっていたと」
「そう、ですね」
「そして。生きている若頭に面識があったのは僕と、それから怒留湯さんに炎谷さん。劒物大学病院の方々三名」
依杏は肯く。
「生きている若頭とは、珊牙さんは何回か対面している」
「ええそうです。軸丸さんも含まれる」
「私は、今もまだ会ったことがなくて」
「ええ。一方で。亡くなった方々の話をしましょう」
「亡くなった方々?」
依杏はきょとんとした。
「亡くなったのは伊豆蔵蒼士さんで」
「ええ。ですがそれだけでは」
依杏は俯いた。
そうだ。
今回は。
伊豆蔵さんだけではなかった。
「生きている若頭に面識があった。それは誰でしょう。亡くなった方で挙げるならば、入海先生となります」
「入海先生」
依杏は間を置いた。
「若頭に入海先生が会いに行ったから」
「ええ」
「入海先生は、あたし面識なかったんです」
「そう。それは僕も同じ」
依杏は眼をぱちくりした。
「ではその他。生きている若頭と面識があったのは入海先生です。そして僕。それから怒留湯さんと。炎谷さん」
依杏は辺りを見回す。
そして肯いた。
数登。
「では。入海先生と面識があったのは?」
依杏はきょとんとした。
「あたしは。さっきも言いましたけれど面識がなくて」
「ええ。それは僕もです。今いる方々で言えば、軸丸さんのみ」
「入海先生と面識があるかないか? なんで今それを」
「アツは、確か面識があったはずです」
今、釆原の姿はここにはない。
軸丸が来た。
「さて」
と言って数登は少々椅子をずらした。
脚を伸ばす。
「軸丸さん。入海先生を御存知ですね」
「そうですよ。当然です。同じ病院に居る。いや、彼は居たってことになる」
軸丸は眉をしかめる。
数登。
「では。軸丸さん。生きている若頭との面識はありますか」
「ないですね。姿をくらましているんでしょう」
「ええ」
数登は依杏に言った。
「あの場でディアは遺体を一目で見て、入海先生だと思った」
「あの場」
思い出すのに時間を少々。
「頭部と。全身の遺体が見つかった場所」
「ええ」
山だった。
「あの時は。だって」
数登は黙っている。
依杏。
「入海先生の自宅で、血痕が見つかったのと同じ日でした」
「ええ」
「郁伽先輩から連絡をもらった」
「ええ。僕もその場に」
「あたしは違う場所に居たけれど。でも現場に行くときは一緒に行きました。入海先生の自宅で血痕があって。大変なことになっている感じは分かったし。それで現場へ連れて行ってもらって、遺体を見た」
山道。
山。
思い出した。
依杏。
「じゃあ関連性がないかって言ったら。言えないでしょう。入海先生の遺体だなって思うのは流れからしてそうっていう」
「そう。思わざるを得ない」
「はい」
「では入海先生本人との面識はまだない」
「そうですよ……」
「ただ」
と数登。
依杏はポカンとした。
「ただ?」
「そう。話題としては既に公になっている部分がありましたから。どこかで無意識に見るという可能性は否定、できません」
「え」
依杏は顔を数登に向けた。
「それは、どういう」
「おおやけ。ですからね」
と軸丸。
「そっからは、釆原さんの方が詳しい感じになるでしょう。あの人は報道っぽいんだ」
と軸丸。
今まで立っていた。
そこから椅子へ飛び込んで、脚を投げ出した。
脚先は机の上だ。
言った。
「あんまり考えたくないなあ」
数登は苦笑する。
軸丸。
「ただ無意識ってそういうことでしょう。情報として拡がっていれば。どこかで眼にするんですよ。嫌でも眼に入るとか、避けられないとかね。そういうの僕らどうしてもありますから」
「そう。どこかで見ているという可能性もある。それはディアも同じ」
軸丸は依杏へ。
「例えば君みたいな年齢じゃ。週刊誌は読まないだろうけれどな。新聞だったらどう」
「新聞」
新聞。
依杏は考えてみた。
取ってはいない。
月額料金で結構掛かる気がする。
郁伽ともそれは言っていることだ。
新聞を取らなければ文字に触れる機会がないと。
確か以前居た高校では、新聞を読むよう推奨されていた。
でも、実際にはお金が掛かる。
ただ読まないわけではないと依杏は思う。
新聞を手に入れる方法。
例えばコンビニだ。
ただその場合は店内に置いてある新聞ということで。
新聞と言えばネットのもある。
ただ読むのであれば紙だった。
郁伽ともそれは言っていたことで。
今回抗争をはじめ安紫会の周辺などのことも、新聞で見ていたのかもしれない。
実際、コンビニで買って読んでいた。
「ということは」
と依杏。
「新聞に、入海先生が載っていた?」
「いや、正確に言うと違うだろう」
と軸丸。
「違う?」
「うん。少なくとも入海先生は。亡くなってからの報道だろう」
「ええと」
依杏。
「時系列がよく分からなくなってきました。要するに私が無意識で見ていた可能性があるのは。入海先生の生きていた頃に、新聞でってことでしょうか」
「そうなるね」
「ただそれが、入海先生とは違う」
「これもあんまり考えたくないんだが」
軸丸。
「仮にも。うちの病院が関わることになるなんてさ」
依杏は自分の記憶を辿ってみた。
どこかで無意識に。
だがどこで?
「そう。正確に言うと。よく似ているという場合があります」
「似ている?」
依杏。
似ているってなんだ。
数登は資料を二枚抜いて依杏の前へ。
「作りや声やしぐさ。となれば」
「これは」
「ええ」
依杏は資料から眼を逸らせなくなった。
「似ているって」
「ええ」
「今、私は見ているってことになる」
「そうですね。これでディアも面識が出来たことになります」
数登は微笑んだ。
「僕は薄々」
軸丸も覗き込んでいる。
その表情は硬い。
「珊牙さんはこう言いたい?」
と依杏。
「若頭が、入海先生だったと」
「その可能性が高い、としか言いようがないんじゃない」
と軸丸。
写真が二つ。
伊豆蔵蒼士。生きている方?
しかし。
そして入海暁一。
よく似ているその顔。
軸丸。
「そうだね。ただいろいろと鑑定をしていって、数登さんの仮説とこの資料に誤りがなければ」
依杏。
何か気が付いたのかもしれない。
「安紫会の血縁って」
数登は肯く。
「じゃあ」
依杏。
軸丸。
「俺って結構突っ込んでますかね」
と数登へ。
「さあ」
と数登。
軸丸。
「何故生きている方の若頭が姿をくらましているか。そうすると説明がつきやすいんだよね」
言って顔をしかめる。
「何故かと言って。二度と見つからないかもしれないからさ」
姓と姓。
出生場所。
大学病院からの伝手。
「血縁」
と依杏は言った。
「ええ。亡くなった若頭と、入海先生の血のつながりです」
*
「亡くなった若頭と、入海先生のつながり?」
怒留湯は言った。
「どういうことだそれ」
数登は資料を滑らせた。
怒留湯はそれを見つめる。
「じゃあ、生きている若頭はどうなるの。今姿をくらまして見つかっていない」
軸丸。
「だから言ったんですよ。そっちも、可能性としては見つかるかどうかってところで」
「可能性としては!?」
「そうですよ。姿をくらましているというより、俺としては見つからないんじゃないかって」
「それで、亡くなった若頭と入海先生がどうつながるわけ」
「つまり、入海先生が生きている若頭という可能性が高いと」
と歯朶尾。
数登は肯いた。
怒留湯。
「頭の整理が追いつかねえ」
数登。
「僕もそうです」
「資料は見た。確かに血のつながりっていうのはあるかもしれないさ。姓とか見てもそうだ。でもじゃあ、どうなの? その後でいろいろなきゃ、こう入海と伊豆蔵なんて姓も違っていてましてや」
怒留湯は顔をしかめた。
「安紫会だぞ」
「ええ。ですが入海先生が生きている若頭であると仮定すれば、説明がつきやすい点がいくつかあります」
「つまりさ。何? 亡くなった若頭の代打だったのか」
「そこまでは」
数登は言った。
「ただ。劒物大学病院でそこまで把握していたか定かではない」
「定かだったら即連絡するよ。我々がだ。劒物大学病院にね」
「伊豆蔵蒼士の情報です。こちらは治療記録が残っていました」
「確か腫瘍の手術とか整形外科の話だろう。それは、俺も」
と言って怒留湯は肩をすくめる。
「生きている若頭から話を聞いたことなんだ」
「情報は、例えば病院内部に居れば手に入りやすいでしょう。例えば過去に出来た伊豆蔵の腫瘍の話などもね。入海先生であれば容易だった」
数登。
「入海先生が阿麻橘組へ捕まってから五日経ち、そして戻って来たという点」
「それは抗争事件のことですね」
と清水。
数登。
「ええ」
「入海先生が安紫会の事務所を訪れていた現場だ」
怒留湯。
「そう。俺ら行っていた。今ここにはいないけれど釆原記者殿もだ。そこで抗争がドッとあったわけ。入海先生はそこに来ていたし」
怒留湯の眼が丸くなる。
だがすぐ戻った。
何か考えたのか。
数登。
「抗争です。入海先生が医師としてそれに巻き込まれる。通常であれば無事で済むと考えるのは少々無理があります」
「確かにな。その時に阿麻橘組に、捕まっていたらボコられて殺されるぐらいはある」
「ですが生きて戻った」
「うん」
「五日経って解放する。そしてその人物は後日遺体となった。出来るのであれば五日の間にも始末出来たはずでしょう」
「言い方が酷いな」
と歯朶尾。
「だがまあ、抗争の最中に人質に取られて。死なないで帰って来たし、その最中にも殺されなくて。ましてや入海先生が仮にですよ。その生きている方の若頭だと阿麻橘組が知っていたとすれば。それこそただじゃおかないはずなのに」
「ええ」
数登は言って微笑む。
「なあ」
と怒留湯。
「生きている若頭だって無事だったじゃないか」
と桶結へ振る。
「ええ。事実西耒路署にも連行した」
「あの時は任意だったよ」
怒留湯はまた眼が丸くなる。
「連行した?」
数登は一呼吸置く。
「そして無事でしたね」
「ちょっと待って。整理しようか」
怒留湯。
「入海先生は抗争の最中に忽然と姿を消した。それは阿麻橘組に連れ去られたからだっていうのが本人の言い分だったね」
「それが本当であれば」
「じゃあ本当じゃないとするなら。入海先生が生きている若頭だったならば。連れ去られる前に自室に戻っていた?」
「生きている若頭が一階へ下りてきたのを、あなたは見ていたはずです」
怒留湯は肩をすくめる。
「屋敷へ上がりこんだ時に、俺は若頭の姿を一階で見た」
怒留湯は頭の後ろで腕を組んだ。
「それで奴は無事だった。西耒路署にも連行した。つまり、阿麻橘組が連れ去ったっていうのはあくまで。入海先生だけの話だったことになる」




