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30.

移動した部屋。


「取調。ではないんですか」


賀籠六絢月咲(かごろくあがさ)


自販機があり、(ひら)けている所だ。

取調室ではない。

数登珊牙(すとうさんが)桶結千鉄(おけゆいちかね)

絢月咲(あがさ)の向かいに座っている。


「取調というかね」


怒留湯基ノ介(ぬるゆきのすけ)

絢月咲の隣。


「いろいろ分かってきてさ。()えて場所を移動した(ほう)がいいと思ったの」


絢月咲。


「移動して何が変わるんでしょう」


「何も変わりゃしないよ。ただ分かって来たっていうのは、全般的なことだ。いろいろ絡み合って事が起こった。安紫(あんじ)会に始まり。抗争に続き。いろんな人の間で事が起こったね」


「何がです」


「いろいろだよ。とぼけている?」


「いいえ」


「現にあんたは今ここに居て話をしているわけだ。あんたは本来であればね。直接関わりはないはずだ。西耒路(さいらいじ)署に巻き込まれている状況ってのには違いないね」


「あなたがたに疑われる心当たりは、何もありません」


「あんたはそう思っている。だから場所を移したらば、どうなるか。ね」


桶結(おけゆい)


「移したところでどうなるか。取調か(いな)かってことくらいでしょうに」


怒留湯。


「そう()いちゃいかんよ」


「しかし」


「最初に言っておこう。絢月咲さんには取調を受けてもらうよりも。優先して欲しいことがあるんだな」


桶結は眼をぱちくり。


「優先して欲しいこと?」


「絢月咲さんの意見を()かせて欲しい。というわけで、ここへ来てもらったよ」


「意見」


と絢月咲。


「そう。あんたらの話からまずしよう」


「あんたらって(なん)でしょう」


「少なくとも、賀籠六絢月咲(かごろくあがさ)さんにはこれまで。前科というものはない。表立った活動もそう。あんたが女性であること。その外面的なものから来る印象。あんたは背が高いし俺から見ても綺麗だよ。それにアバター姿はとても人気と来た。動画でアバターとして動いている印象。全体的に悪い印象はないよね。それを売りにしているし。それでバーチャルアイドルとしてやっているからね」


絢月咲は眉をしかめる。


怒留湯。


「ただし」


と言った。


「裏であんたが何しているのかっていうのは。今まで警察に目を付けられたことはない。その前提だ。少なくとも、あんたに関しては。その前提が成り立ってしまうわけ。だが事務所単位だと話が変わって来る」


絢月咲の眼の色が変わる。

数登(すとう)は怒留湯へ眼をやる。


「俺たちがこれから、あんたの事務所を調べる対象とするかもしれないから」


絢月咲。


怒留湯。


「そう。事務所単位の話になる。あんた個人の前提では、何もなさそうには見える。事務所はどうだろうね」


「捜査って。例えば今のように。一点集中に絞って行う方が。狙いが見つかりやすいんじゃありませんか。違いますか」


「事務所(がら)みになると自然。あんたの他にも調べる対象は増える。俺らとしてはね」


「今が一点集中で、狙いやすいのではありませんか。例えば私」


と絢月咲は言った。


「そう厭世的な顔をしないでくれる」


絢月咲。


「厭世的というか。私はここで刑事さんとお話しているだけじゃない。それが外部にも噂、雑誌、それから文面、口頭。言われているんですよ。T―Garme(ティー・ガルメ)が取調対象者だって」


怒留湯。


「で。あんたの事務所を調べようってなったのには。理由があるからそれなりに。ただあんたが怪しいという延長でそうなったわけじゃないのよ」


絢月咲は眉をしかめる。


桶結が言う。


「事務所単位であれば。薬物事案や盗難の件についても秘密()に行いやすい」


怒留湯。


「だから。そう急くな。いきなりそっちに行かないで。少し待とう」


四人でテーブルを囲む。

ガラス張りの窓。

外側に見えるビルには人もちらほら。

怒留湯は隣に居た、数登へ言った。


「ちゃんとした証拠として扱うのであれば。数登さんの予想を聞いたあとで、うちとしてもきちんと。調べさせてもらうからね」


数登は肯く。


「あんたは葬儀屋だ」


「ええ」


「あんたの調べはあくまでも非公式。俺らは正式。だから俺ら刑事として扱うためなら、俺らも再度調べる。その認識はいい?」


「ええ」


「で」


「ええ。では」


数登。


「絢月咲さんに提供頂いたものがあります」


絢月咲へ言った。


「全てにおいて網羅し揃うものだとは言い切れません。数としては十分」


「十分というと」


「再度病院へ、研究の方に回して再び解析していただく。絢月咲さん、それから友葉さんの集めたぶんです」


「友葉の集めたぶん」


桶結は数登へ言った。


「黙って集めたんだな。なんで言わなかった」


「ええ。しかし入海(いりうみ)先生や力江(りきえ)さんの遺体、その調査に必要なものは集める。自然とそういう機会が九十九(つくも)社へ巡ってきた。その場合、僕は機会に乗りますから」


桶結は立ち上がりかけた。

硬い表情だ。だが再び腰を下ろす。


数登。


「そして解析結果が出る」


数登は振り返る。


「最初に解析の話を持って来たのは彼女です」


杵屋依杏(きねやいあ)

彼女も来て座る。数登の隣。

スペースにいる人数は五人に増える。


絢月咲。


「あなたがた九十九社に私が依頼した件も。取調室ではないけれど。ここで私は同時に聞かれる、ということですか。既に西耒路署さんには分かられているし」


「なくし物の依頼でしょう」


と数登。


絢月咲は眉をしかめた。


「依頼は個人的なことだったのに。加えて私は今、西耒路署さんに疑われている身です。だからなくし(もの)と言ったってまともに、取り合ってもらえない」


依杏。


「絢月咲さん。絢月咲さんは、事務所のイベントで確か警備にあたっていた人を見た。というか、そういう人たちと面識があるってご自身。(おっしゃ)っていましたよね」


「言ったわ」


絢月咲は依杏の手元を見る。

依杏は資料をめくる。

それぞれ紙の状態。


数登。


「絢月咲さんに、憶えがあるかどうかご確認を」


「確認。(なん)のことでしょう」


「憶えがあるのかどうか」


絢月咲は依杏へ視線を注いだ。


「何の憶えでしょうか」


と数登へ再び尋ねる。


「あなた(がた)は警察ではないでしょう」


「ええ。絢月咲さんに判断いただく必要があります」


「何故私が?」


怒留湯。


「第一。正確な情報を集めることすら難しいんじゃないか。疑われている人にも話を聞かなきゃ成り立たない。あんたらは葬儀屋だしな」


「ええ」


数登は言って微笑んだ。


「サンプルを調査していく上で。依杏さんと友葉さん。お世話になったのは劒物(けんもつ)大学病院です」


「裏からまた行ったとか()いたいのか」


と怒留湯。


「いいえ」


数登はかぶりを振る。


(おもて)からです」


「そう」


数登。


「院内に記録というものがあります」


「記録?」


言って桶結は眼をぱちくり。


怒留湯。


「そんなのどこにだってあるよ。記録なんだろう」


「残っていたのが幸い。そして、大きな病院だというのが一点」


数登は手を組んで、絢月咲を見つめた。


「お生まれは」


「え」


と絢月咲。


「何ですか急に」


()いているのは僕です」


絢月咲は眉をしかめた。


「お生まれはどちらで」


「大学病院は、確か」


「ええ。あなたの個人的な情報です」


「記録。それって」


「大きい病院です。利用する人も多い。というのは頭に浮かびやすい。絢月咲さんの生まれは《かずら市》」


「御存知なんですね」


数登は微笑んだ。


(いま)お住まいの場所は、お生まれになった所とは違う。だが元々は劒物大学病院と近かった」


「記録って」


と怒留湯。


「そうか。出生記録を」


「ええ」


「あんたはさ」


怒留湯。


「あれだよ。気になっている。(こだわ)り過ぎている。血縁だかなんだかのこと。あんたはまだ拘っている」


「違いません」


数登は苦笑した。


怒留湯。


「やっぱりな」


「さあ」


「出生記録とは言え個人情報だし。そう簡単には見られないはずだ。誰の伝手なのさ」


「アツです」


「即答か」


「ええ。伝手と言えば」


「あの人は」


怒留湯は帽子を取った。

頭をもしゃもしゃやる。


「どこにでも入り込むのな」


軸丸(じくまる)さんの協力もありました。青奈(あおな)さんを通していただいて」


「それで、正面か」


「ええ」


数登は絢月咲に向き直って言う。


「絢月咲さんは今疑われている。先程(さきほど)言いましたが、出生記録から見ていけるのは安紫(あんじ)会もまた同様」


怒留湯は眼をぱちくり。


「絢月咲さんが、安紫会と関わりがある証拠?」


数登はかぶりを振る。


桶結。


「出生記録なんだろう」


「ええ」


「俺らには、疑う余地が出来たことになる」


「そこは。ご判断にとしか僕には言えません」


怒留湯。


「なんだろうね。じゃあ切り口を変えよう。地元がこっちでない組員も多いだろうにさ」


「ええ」


と数登。


怒留湯。


「組員の数は多いじゃない」


「ええ。ですが僕らは内部へ深く入り込んで調査というのは難しい」


「俺たちも割と。調べるのに手を焼くのだけれど」


「ですが九十九(つくも)社とは、調査能力は段違いでしょう」


「あんたのは非公式だろう」


「安紫会の全ての組員を調べることは難しい。情報が手に入りやすかった幹部クラスであれば。ただ表面上ですがね」


数登は微笑んだ。


「結論から言いましょう。少なくとも絢月咲さんに関しては、幹部クラスとの血のつながりは見当たらない」


(いま)姿をくらましている、若頭(わかがしら)はどうだ」


と桶結。


「僕らの調べの効かない組員の方々。そのつながりはともかくとして。少なくとも絢月咲さんに関して」


「俺は若頭の話をしているんだが」


「ええ」


数登は桶結へ言う。


桶結は眉をしかめる。


「だがそれで。彼女が組員と関わりがないと。言い切ることが出来る状態にはならないよ」


「ええ」


数登と依杏は、手元の資料を絢月咲の前へ並べて拡げた。


「その上で。改めてお尋ねします」


絢月咲は資料へ視線を向けた。


「これは」


絢月咲は数登を見る。


「イベント会場の」


「ええ」


写真。


「行ったことがあるんでしょうか。あなた?」


数登はかぶりを振った。


「絢月咲さんご自身が出演したという。過去のイベントでのもの」


絢月咲は押し黙った。

沈黙。

やがて言った。


「一般の(かた)の撮影でしょうか」


「ただの撮影ではありません」


「では何の撮影でしょう」


「正確に言うと写真ではなく、警備のために撮影されていた記録の一枚一枚を部分。抜き取ったもの」


絢月咲は改めて資料を見た。


依杏が言う。


「この会場。私も一度、友葉(ともは)先輩とあなたと一緒に」


絢月咲は肯いた。


「そうね。あなたが、いえ友葉もだけれど、現場へ行ってなくし(もの)に関して詳しく知りたいって言うから。結局、あの時は(なん)の収穫もなかった」


依杏は(うなず)いた。


絢月咲。


「イベント会場という場所の意味でしかなかったでしょう」


「そうです。でも絢月咲さんはそこでハンカチをなくされたって」


「うん」


「今のこの資料は。絢月咲さんが参加していた時のものになります」


「じゃあ、撮影はスタッフさん側ということになるわね」


「そういうことです」


絢月咲は肩をすくめた。


怒留湯。


「なくした物があるんだな。このイベント会場で。安紫会とは関係がなさそうだが」


「正真正銘ライブのイベントですから。リアルでだってイベントはやるんですから」


絢月咲は言って肩をすくめた。


「でも、アバターがどうとかまた言うんじゃない」


「そうじゃなくて」


と依杏。


「憶えがあるかどうかってことです」


依杏は更に資料を追加した。

テーブルの上は紙でいっぱい。


依杏。


「写真と、会場」


「これは」


と絢月咲。


「ちょっと待って」


顔写真だ。


「大事なことなんです。絢月咲さんの憶えがあるかどうか」


「だから……」


と絢月咲。


数登。


「資料と写真を見比べて。憶えがあるのであれば」


「私に?」


「そう動揺しないで。あなたに憶えがある場合は、お伝えすることを増やします」


数登は微笑む。













「解析ねえ」


歯朶尾灯(しだおあかし)


「解析はうちの西耒路(さいらいじ)署でもやっていますよ。いろいろ。鑑識なんか特にそうですね」


「でしょうね」


軸丸書宇(じくまるしょう)が言った。


「うちの病院が協力したんですがね」


「へえ」


「タダじゃなかったらしいです」


「でしょうねえ」


歯朶尾。


「解析で病院が動くんです」


「何かまあ、結果としてちゃんと解析はしました。僕がではないですよ」


「どっか研究室でしょう」


「そうですね」


歯朶尾。


「音声分野か。嘘発見器とかとはまた意味合いが違うのかな」


「そう。嘘発見器とかはあれ、身体(からだ)での脈拍とかでしょう? 解析の(ほう)は音声メインに焦点を当てているんです」


「西耒路署では、あなたの言うような。導入はしていないかもしれない。検討を依頼した方がいいか」


「解析って言ってもですね。音声分析の方はまだまだ試用段階っていうものが多いんです。ただ音声認証っていうのは、日を追うごとに段階もレベルも上がっていますね。ていうのは実際に解析を行った教授の受け売りですけれどね」


「あなた薬学のほうですよね」


「そうは言っても教授の尻に敷かれています」


「女性なの?」


「とてもお強いので」


「音声分野で例えば。AI解析みたいなのもあるんですか」


と言ったのは、道羅友葉(どうらともは)


軸丸。


「あるかもしれないな。最近はAIの方も試用試用の連続だし。どんどん出て来ているものね」


「新しいのがね」


言って歯朶尾は肩をすくめる。


「でさあ」


依杏へジト目を向ける歯朶尾。


「あんたらは所構わず収集したわけだろう。データをさ」


依杏は肩をすくめた。


「言い方ひどくありませんか」


「そうだよ。でも事実そうじゃないか」


依杏は赤くなった。


「調査ではっきりさせたい部分は。西耒路署さんでも多かったのではないですか」


「そりゃあね。でもまあ安紫会の伊豆蔵(いずくら)が? 今は全くの別人だったっていうのが判明して」


軸丸の手元を覗く歯朶尾。


安紫会から押収した武器類は、今回は割と少な目だった。

以前に押収した武器類は、そのままになっている。

主に鑑識が占領している部屋である。


「生きている若頭(わかがしら)とそうでない若頭。俺が鑑定したのは後者の方の頭蓋骨だったわけ」


歯朶尾。


「その頭蓋骨に何か痕跡でも残っていればもう少し。薬物の結果とかにも早く辿り着けたかもしれない」

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