表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/38

28.

例えばこう。

洋見仁重(なだみとよしげ)


洋見は自ら自白したので、西耒路(さいらいじ)署にいる。

今さら怪しむべき点とはなんだ。

力江航靖(りきえこうせい)()った」と言ったらしい彼。

自白のことは(おおやけ)になった。

いま、洋見について血縁の情報を調べる必要はあるのだろうか。

杵屋依杏(きねやいあ)としては、それが正直なところ。


伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)

既に彼は亡くなっている。

後から、その事実が分かったということだ。

頭蓋骨が伊豆蔵であったということ。

すぐにはそれは分からなかった。


調べる範囲は、こんな感じで広がっていく。


次。

賀籠六絢月咲(かごろくあがさ)

T―Garme(ティー・ガルメ)、としては現在活動を休止中だ。

八重嶌郁伽(やえしまいくか)の考えを飛躍として考えた場合でも、依杏は避けて通ることが結局出来ず。

郁伽と同様、絢月咲が何かしたのではないかと。

郁伽の「女性の組員」説を入れた場合、ということだ。







女性という共通点。

依杏と郁伽の頭の中にまず上がるのが、絢月咲の名前である。

安紫(あんじ)会での盗難とのつながり。

企画動画が流れたら困ってしまう人?

Se-ATrec(シーアトレック)は果たして、どうだったのだろうか。


珊牙(さんが)さんは道々で連携という言葉を使っていた。

賀籠六絢月咲さんや、シーアトレックのようなバーチャルアイドル。

彼女らが企画動画を撮るといって。

動画自体は、西耒路署向けに配信されたものだ。

それを実際に配信した場所としては、安紫会の事務所。

珊牙さんの考えでは、西耒路署と各所の連携ということになる。

絢月咲さんの場合で言えば、何か安紫会の連携というのはあったのだろうか。

あるいは。

安紫会の若頭(わかがしら)に会ったことがあるのか。


いや、会ったことがあるのは中逵景三(なかつじけいぞう)さんと螺良青希(つぶらあおき)さんである。

中逵さんに螺良さんは劒物(けんもつ)大学病院として、である。

安紫会の往診へ若頭を訪ねるにあたり、入海先生が訪問する前の段階で訪れていた。

そして、軸丸書宇(じくまるしょう)さん。


三人で往診の前段階を担当した。

その時には若頭(わかがしら)は、既に頭蓋骨だったということになる。

中逵さんと螺良さんは事務所へ行って、何を話したのだろう。

自分たち自らで名乗りを上げて、出向(でむ)くことにしたのだろうか?

それには、何か血縁と関係のあることだった?


釆原凰介(うねはらおうすけ)


「どう」


声を掛けた。

依杏は顔を上げる。


釆原さんなら、中逵さんと螺良さんから。

ある程度話を聞いている、ところもあるだろう。


珊牙(さんが)の仮説だね」


手元の資料を見ながら、釆原はそう言った。


依杏は(うなず)く。


「ただ、阿麻橘(あおきつ)組の中に。安紫会の血縁の人がいるっていうのは考えにくい。とか思います」


「だろうね」


怪しいのは(くみ)事務所の面々だろう。

その見方が西耒路署にも強かった。

当然だ。刑事と組だから。

だけれど。その組に関する情報というのは、意外と少ない。


釆原としても、集めるのに苦慮したらしい。

とか。


「あと軸丸さん」


と依杏。


軸丸書宇。


薬物分野の研修医ということだから、薬物には強いと判断していていい。

と依杏は思う。







力江(りきえ)の件だけれど」


釆原(うねはら)は腰掛けた。

居間の椅子。

それから資料を置いてあるのはテーブルで、いまここは依杏(いあ)郁伽(いくか)の住まい。

シェアハウス。狭いとも広いとも言い難い。

資料をめくる釆原。


西耒路(さいらいじ)署のデータベースで。力江の身体(からだ)から検出された、薬物はヒットしなかったと」


「捜査情報ですよね」


「たぶん」


言って苦笑。


「情報は軸丸から。データベースでヒットしない薬物なら、何か劒物(けんもつ)大学病院でヒットするものはないか。西耒路署はそう考えたって」


「それで軸丸さんも知っていると」


釆原は、中逵と螺良の資料を眺める。


「今、若頭の血縁だっていう人を中心に洗っている?」


「です」


確信はない。

だが依杏の頭の中では、数登の見方も多分(たぶん)に含んでいる。


依杏。


「頭蓋骨で発見されたのは、伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)さんです。何故、頭蓋骨になっていたかっていうのもあります。だから、私たちが血縁を辿っているのは若頭なんです。(いま)事務所にいるであろう、若頭ではなくて」


依杏は唾を呑み込んだ。


生きているように見えた若頭。


「劒物大学病院の連中。往診へ行くぐらいだからな」


依杏はきょとんとする。


釆原。


「その辺、何か知っているっていう可能性もある。というのは俺の意見じゃなくて、軸丸からの参考意見だけれど」


「軸丸さんは、それもすでに知っている」


なんだか軸丸さんの方が持っている、情報量多い気がするなあ。


釆原。


「いや、頭蓋骨の件について。DNA鑑定の結果が出るまでは、公になっていなかった。軸丸も今まで、事務所の若頭がそうだと思っていたと」


「事務所で会った若頭が生きていた。と思っていたということですね」


「そう。頭蓋骨じゃなくてね」


あの若頭は誰なのか。


「ただ軸丸(じくまる)に関する限り、自分で事務所に行くと。名乗り出たというわけではない」


「往診の前段階の話で」


「そう。その辺、中逵と螺良に話を訊いても。あまり判然としなかった」


「うーん」


何故そこが判然としないか。

一番と気になるところなのになあ。


「劒物大学病院の方に、事実を知る人はいなかった。とも考えられますけれど。あるいは」


知っていても一部隠そうとしている人がいるか、だ。







頭蓋骨が発見された時点で、事務所へ行った入海(いりうみ)先生が会おうとしていた人物。

あるいは、中逵さんと螺良さんと軸丸さんが会った人物。

それは若頭ではなかったことになる。

しかし、中逵さんと螺良さんがあらかじめ、そのことを知っていた上で。

入海先生を事務所へ行かせることにしたのなら?


とにかく頭蓋骨に、注意は払わなかった。

その点では同じなのかもしれないけれど。


「あくまでも入海先生自身の時間があいていたから。行ったというか行かされたというか? そんなふうに聞いた。俺はね」


「入海先生に直接ですよね」


釆原は懐を探った。


「軸丸から」


「え」


依杏は眼をぱちくり。


「薬物の方と、それから依杏ちゃんの方のデータ解析も終わったと」


「薬物。それは、劒物大学病院側としてですか」


「そう」


データベースのことだ。

薬物と言って調べていたのは、清水颯斗(しみずはやと)歯朶尾灯(しだおあかし)

思えば依杏は。清水と歯朶尾とは、安紫会の件があって以降。

結構頻繁に顔を合わせていたように個人的には思っていた。


歯朶尾に関しては、そうでもなかったかもしれない。

ただ人物としての印象が、強かったのはそう。

歯朶尾はバーチャルアイドルのファンだというのを、依杏は清水から聞いた。

(いま)バーチャルアイドルのことだけを抜き出して考えるのであれば、依杏や九十九(つくも)社を除き。

いや、郁伽は例外かもしれない。

その周りの人々に浸透しつつあるのがバーチャルアイドルで、それは先ほど疑問に挙げていた中逵の周辺でも、例外ではないようだった。


シーアトレックが配信したとされる企画動画。

それがブラックアウトした時。

大声で取り乱していたのが、歯朶尾だった。

依杏に向ける視線が、少々冷たかったのも歯朶尾だった。

とはいえ取り乱す鑑識というのは、依杏はドラマでもあまり見たことがない気がする。

ので気になったのである。というか印象に残った。

それを冷静にたしなめている清水も清水だった。

要するに、西耒路署の鑑識にはキャラの濃さが目立つのだ。


その時の音声もスマホで録音しておいた依杏。

解析結果は眼前。

安紫会の親分もそうだし、いずれにしても音声をサンプルとしたことについては、歯朶尾らにも鮫淵柊翠(さめぶちしゅうすい)にも依杏は伝える機会がなかった。







スクリーンがブラックアウトしたこと。

スマホの画面もブラックアウトしたこと。

その時、自分のスマホを見ていなかった。

大騒ぎだったガサ入れ中の、只中(ただなか)で見る(ひま)がなかった。

その後、落ち着いてから確認をしたら、スタート画面になっていた。

あまり長い時間録音出来ないのはそうである。

ともすると依杏のスマホへも影響はあったのかもしれない。


「薬物が」


「そう。軸丸の話だと、薬物ご法度の組から回って来るサンプルの例っていうのは、とても少ないらしい」


「それは、そうでしょう」


と依杏は言った。


「安紫会ではご法度(はっと)、なんですよね」


「捜査情報かもね」


釆原(うねはら)


「だが安紫会の事務所からも、少量だが正体不明のものが検出されたらしい。だから例外みたいな感じだろうね。情報というより、軸丸の話を元に俺自身今の話を組み立てている感じかな」


「いずれにしても、阿麻橘(あおきつ)組でも薬物が絡んできていたりしたら。何か安紫会と同じものが出たら、捜査の進展には役に立つということですね」


「そうなる」


「私たちの血縁に関する個人的調査には、つながりますかね」


「どうだろうね」


依杏と釆原は二人して、書類をひたすら(めく)り始めた。

そう、スマホへの影響。

電気系統に影響があったとして。

それがスマホにどのように影響するのだろう?

清水と歯朶尾、それから鮫淵の居た安紫会のガサ入れ現場。

切られたコード、正体不明のもの。

盗まれた何か。おかしなことはまだある。


例えば雷が落ちて家電が、ショートすること。

というのはあるかもしれない。

でも、今回のブラックアウトの場合は、スクリーンとスマホなのだ。

清水さんは、どうだったのだろう?


「清水さんって」


「何?」


と釆原。


数登珊牙(すとうさんが)もやって来た。


「どこまで進みましたか」


依杏はかぶりを振って言う。


「全然です」


数登は苦笑する。


依杏。


「奥さんがお花屋さんて」


(なん)です」


数登は言って眼をぱちくり。


「清水さんのことです」


「ああ」


と言いながら数登は座った。


資料をめくる。


「それはアツの入院中に、清水さんご自身が(おっしゃ)っていたことですね」


「そうです」


意図的にコードが切られて電源は落ちた、という。

そのあと、すぐに復旧した。

あの時、雷は落ちていない。

スクリーンに映像を映すのはプロジェクターか、何かなのである。

全体でショートしたとは考えにくい気がするのだ。


「正体不明って言うの。西耒路署のデータベースでは長引いたんですよね」


と依杏。


線引(せんび)きはどこなんでしょうね」


「ギリギリだよ。情報に関しては。怒留湯(ぬるゆ)さんもそう言っていた」


「ですか」


依杏は肯いておく。


「全然根拠は、ないんですけれど。清水さんなら正体不明と言わず、いろいろ知っていそうって。郁伽先輩も言っていましたから。奥さんがお花屋さんなら、そういう微粒子とか詳しそうとか」







スクリーンのある場所。

賀籠六絢月咲(かごろくあがさ)の自宅もそうだった。

清水と会ったのは、スクリーンのある安紫会の事務所。

釆原の入院病棟。

それから絢月咲の自宅。


「絢月咲さんと清水さんの間での話がスムーズに進んで、九十九社の個人的依頼にも手を貸してくれた。それは西耒路署にもプラスだったとして。あたしたち九十九社の個人的依頼はすんなりと清水さんに」


依杏はしきりに西耒路署関連の資料をめくり始める。

だが警察だから情報はほとんどない。

釆原は記者だ。

警察のデータベースへ入って、行きすぎることは出来ないのである。


青奈(あおな)


と数登がつぶやいた。


依杏は顔を上げる。

数登は下の名前も言った。


青奈紗礼(あおなさら)さん」


青奈に下の名前があったことを、依杏はいま初めて知る。

西耒路署の資料を()るのはやめにして、数登の手元を覗き込んだ。


数登。


「電話を受けたのは彼女です。入海先生が阿麻橘(あおきつ)組から戻られたという情報を手に入れたのは彼女だ。そこから情報が広まりました」


依杏。


「電話をしてきたのは、女性だと」


「軸丸さんから僕が聞いたものです」


「入海先生が戻ったという情報が、西耒路署にもたらされたのは。青奈さんが電話を受けたことにある。と思う」


と釆原。


「西耒路署が独自で。手に入れた可能性も(いな)めませんが」


数登は手元を気にした。


「軸丸さんからです」


電話だった。

釆原にはチャット。

そして数登には電話。


「ディア」


「あたし?」


依杏も電話に集中した。


「データベースの件と、先日の結果の件だよ」


軸丸はそう依杏へ言った。


「データベースの件」


二度。

今まで大分(だいぶ)ギリギリのところで話していることが多い。

でも九十九社は記者でも刑事でもないからなあ。

とか依杏は思う。


軸丸。


「今ここで話すかは置いておいて。先日の結果に関しては君に、大いに関係のある話だ」


依杏。


「な、(なん)ですか」


軸丸。


「正面からじゃなくて裏からうちの病院へ来たって件だよ。あいにく病院内ネットワークは盛んだから。舐めちゃあいけない」


「な、舐めてません」


「いや、正面から来ないというのだけでも大いに、うちの病院としては話題になったんだから」


依杏は真っ赤になった。

やはり無理があった。

郁伽先輩だったら、どういう顔をするだろう。


軸丸。


「率直に言うと、データが足りないそうだ」


「データが足りない?」


「君らが正面でなくて裏から持って来た資料だよ。研究室の資料として取り扱って、とりあえずの結果としては出たが。だが少ないんだ」


「少ない」


(なん)ならもっと、いろんな資料を集めてから寄越(よこ)せって」


寄越せ。

ということはもっとサンプルを研究してくれるということか。

だが、更に動く必要があるということだ。


軸丸。


「確実な見解として出すには足りないってことだよ。君の思い描いているかもしれない怪しい疑問点と結びつくにはね」


依杏。


「じゃあ、やっぱりもう少し集めないといけない」


「そう。ところでねえ、今(なに)しているんです?」


軸丸は数登へ振る。


数登。


「データを見ています」


「じゃあ、そこにあるデータ分の人々で何かデータを取って来てくれれば、猶良(なおよ)しです」


依杏はポカンとした。


軸丸は続ける。止まらない。


「で、データベースの件です」


「どうだった」


と釆原。


「先に西耒路(さいらいじ)署さんと情報をなんとかするのが先です。でもね、かなり危険度が高い感じがしますよこれは」


次から次へと言う軸丸。

依杏はただポカンとするばかりである。

情報が上乗(うわの)せされていく。

珊牙さんの言った血縁の話は終わっていない。







依杏は、スマホを取り出した。

賀籠六絢月咲へ掛けてみることにする。

絢月咲も今は活動休止中などで、自由に動くことが出来ない。

ただ一つ。なくし(もの)で進展があったのは、扇子(せんす)が出て来たという点である。


「そっちのデータって言うと例えば、どんなです?」


軸丸は電話越しである。


「何かのデータベース、とかではないですよね」


数登。


「ええ。手元の資料として。データベース自体ではありません。いろんな(かた)の情報を」


「きっと記者さんの(すじ)でしょう。釆原さんとかね」


数登は何も言わない。


軸丸。


「若頭は、そうなんです。今はもっとも、その若頭は死んでいたってことになるんでしょうけれど。じゃあ、僕の会った若頭ってのは、一体全体誰だったんでしょう。すごく不思議なんですが」


「さあ」


と数登。


尋ねた。


「軸丸さんも、若頭(わかがしら)の情報を知りたいのですか?」


「いや、さっきも言ったように。その若頭のサンプルとかもあれば欲しいってことですよ。(いま)事務所に行けば会えますかね?」


「さあ。状況が状況です」


数登は微笑んで言った。


軸丸。


「中逵さんと螺良さんと、安紫会の事務所へ行って。確かに僕は若頭と会いました。でも、その時にはすでに死んでいたってことになるんですから」


そう。

頭蓋骨は亡くなってから二、三日(に、さんにち)との推定がなされた。

それから随分と日にちが経ってしまった。

亡くなって二、三日の若頭の頭蓋骨があった。

「若頭」もまた事務所で抗争にあったのだ。


「事務所へ行ってみるみないは別にしても。事務所に居て、その人は組として()るということだから」


と軸丸。


「事務所は今忙しい様子ですよ」


と数登。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ