27.
遺体が発見される。
その場に居た一部の、五人の判断。
特定の個人。入海暁一。
なのかもしれない。
詳細を調べる必要。
遺体は劒物大学病院へ運ばれる。
それには、遺体の傍にあった頭部も含まれている。
手首に縛られた痕。
脇腹にある刺し傷。
縛られた痕は、あまり強いものではないようで。
ある程度の拘束を、しただけだろう。
それ以外に意味を持つものではないだろう。
怒留湯基ノ介はそう判断した。
数登珊牙は肯いた。
致命傷は、刺し傷の方と。
詳細ではなく、その側面から見た場合。
安紫会の事務所からは武器一式が、押収されている。
それは現在でも西耒路署へ置いてある。
入海を刺した相手がもし、組関係者であるなら。
何か刃物を持ってして、というのであれば一番考えやすい。
実際、数登は柄を突き立てられた。
安紫会の若者に、である。
押収されようが、出処はともかく。組関係者は武器を調達してくる。
とか、そんな感じなのかもしれない。
安紫会と阿麻橘組の抗争に巻き込まれ、失踪。
そして五日経って戻って来た、入海暁一。
五日経って戻って来る間に、入海の自宅周辺で西耒路署の刑事が注意を張っていた。
その後も続いた。
怒留湯と数登を中心に五人の判断として、あくまでも。
杵屋依杏の考えていること。
西耒路署の注意もある中で、入海は自宅に血痕を残したことになる。
そして今、遺体として発見されている状況。
どういうことなのだろう。
依杏には、大いに疑問だ。
よく聞けば、西耒路署も常に張っていたというわけではないそうで。
入海であれば、出勤に病院へ。
自宅に戻らない時もある。
組関係者の関与があった?
その考えは妥当とされた。
警察の眼を掻い潜るために。
殺るためにはそれ相応でないといけない。
だがこれは推測の域を出ない。
捜査は続く。
早速任意で引っ張って来ることになる。
洋見仁重は、最有力候補として挙げられた。
入海の失踪以前に、入海と接触していた人物というのもあるためだ。
安紫会の幹部候補。
そして安紫会の若頭。
伊豆蔵蒼士は引っ張って来ることが、出来なかった。
DNA鑑定の結果。
その頭蓋骨は伊豆蔵蒼士。
頭蓋骨、として畑から掘り出されたもの。
それは数登が掘りだした。
そして掘り出してから大分、日数が経っていた。
桶結千鉄は、依杏に鑑定結果を言った。
依杏と八重嶌郁伽は、ただ突っ立って聞くしかなかった。
組関係者により遺体が出た場合。
再度武器類のある場合は、押収しなければならない。
阿麻橘組やその他の組も引っ張られる。
主に集団の長たち。
「洋見は力江を殺ったと自白したよ」
怒留湯が言った。
「あの頭部は、そうだったということですね」
桶結千鉄。
「頭部。遺体の所へ一緒にあったのね」
「ええ」
肯く怒留湯。
「全然表情を変えない。それは前の取調の時もそうだ」
「洋見ですか」
「そう。押収した凶器の中から、切り口の合う物も。いまだ見つかっていない。だから自白したとしてだ。洋見がどんな方法を取ったか、詳細は不明だよ」
怒留湯はかぶりを振って、桶結に言った。
「ただ本人がそう言っている。自白しているのはそう」
頭部と共に発見された遺体に関しての言及は、今はない。
「清水さんは、薬物の反応もあったって。仰っていました」
と桶結。
「うん。力江の頭のない遺体の切り口。それから今回は頭部。そんで、力江の身体の方へ多く見られた切り口。それと押収した武器が合わない。薬物の反応は正体不明として残っているし」
と怒留湯。
頭の帽子を取った。
彼はぐしゃぐしゃと手で頭をもみほぐした。
桶結。
「ツガさんと清水さんも、精を出さないとですね」
「そう! で」
怒留湯と桶結は少し行った。
スペース。
日刊の記者たちが来ている。
釆原と五味田茅斗、それから菊壽作至。
怒留湯は帽子をはたいて、頭へ戻した。
「で?」
「ええ。なんなりと?」
菊壽はニヤリとして言った。
取調室ではない。
というのは今、組員その他の取調でいっぱい。
それで部屋がないというか、西耒路署が扱える部屋はいっぱいである。
怒留湯や桶結としては、記者三人を取調するためではないのだ。
取調をするわけでもないし、捜査情報を話すわけでもない。
あくまで記者三人だ。
だが、記者なりに刑事の捜査へ首を突っ込んでしまう所はある。
臨機応変。
捜査情報を洩らさないギリギリの所で話す。
お互いの予想を言い合う場だ。
でなければお互いに首が危ないのである。
「安紫会の事務所の件に関わった、記者殿たちをここへ集めたよ」
怒留湯は桶結へ言った。
「いろいろ確認して確かめていくのもいい。だから呼んだ」
「確認っていうか、あれです抗争に巻き込まれただけですから」
菊壽は言った。
「その後もなんやかんや、いろいろあったってだけです」
「だけじゃない」
怒留湯は真剣にかぶりを振った。
「今回は本当に。事件になりそうなんだよ」
「ギリギリってえと、どこまでオーケーなんでしょうね」
「あんたらに捜査情報は洩らせないけれど。安紫会の抗争で関わったのはそうだし」
「こちらが怪我を負わせたしな」
と言った桶結。
怒留湯。
「だから捜査情報を洩らさない程度の、確認事項の話し合いだ。で、釆原記者殿の家に入海先生が来たってところは連絡を貰っている。その後の進展の話」
「ですね」
釆原は苦笑した。
お互いに情報は洩らせない。
それはお互いのためである。
だが同時に関わったこと、記者と刑事同士で。
であれば話すことは可能、だと思われる。
捜査への情報提供としてなら、どうか。
怒留湯と桶結としては、今の時点では話すことが出来ない。
遺体の件、自白の件。
だが釆原は、薄々勘づいてはいた。
釆原は九十九社とも関わっているから、そちらからの動きで、なんとなくだが勘づく。
今回は扱いが微妙な情報が多い。
以前は九十九社の、数登の個人的調査としてだけだった。
慈満寺のこと、その他。
自分自身のみでの部分が多かった。
西耒路署の怒留湯と桶結は刑事だ。
釆原としては、「入海」の漢字二文字を出せば話が早いだろうと思っていた。
実際、怒留湯と桶結の状態を見て、九十九社の数登の動きを見ていれば。
入海の名前を出すのが早いというのは、よく分かった。
だが、今すぐ入海本人の話題にすれば空回りになるかもなあ。
とか釆原は思う。
「言ったはいいものの」
「うん」
「実際にきちんと確認し合うってのはまだ、でしたね」
「うん」
怒留湯は溜息をついている。
それから腰を下ろした。
始終うろうろしていた様子から、怒留湯の落ち着かないのが釆原に見てとれた。
桶結は既に腰を下ろしている。うろうろはしない。
「ええとまず。菊壽さんと、釆原記者殿と俺」
「俺も記者殿ですよ」
と菊壽。
怒留湯はスルー。
「で、一応の予想」
怒留湯は紙片を出して言った。
「あの時のですね」
「そう。ようやく言い合える機会を持てた」
「安紫会の縁側」
「あんたがカメラ持って来てくれたやつだ」
「音声は取れなかった。入海先生の口の動きでってやつですか」
「映像は高解像度だったよ。そこはあり合わせとしてはよかった」
「あり合わせか」
「安紫会の事務所の塀は高い」
「高いですね」
「外側から内側を観察するために、正門以外で中を見るのは難しい」
「そのための塀でしょう」
「で。俺は読唇術をやっていたわけではないし」
「俺も経験はありません」
と釆原。
怒留湯。
「音声のない中で、どのくらい情報を取ることが出来るのか」
予想としてはもう、以前から連絡を取り合って、言っていたところがある。
今、改めて場を設けたと言った方がいいのだろう。
お互い個人間で連絡をするのみで、こうした場でまとまってというのはなかった。
とか、釆原。
怒留湯。
「何喋っているかってのもそうだけれど、それにはまず入海先生が大丈夫かっていうのを確認する必要があった」
「今となっては?」
と菊壽。
「そこは言えない」
怒留湯はかぶりを振る。
「なんとなく予想はつきますよ」
菊壽は苦笑した。
「今はその話じゃない。時間を少し遡る」
「ええ」
「あの時は縁側を撮影していた。庭に張り出している榑縁だ。その時居たのは洋見。あとは幹部は誰もいなかった。若頭、鮫淵含め」
菊壽は肯いた。
怒留湯。
「で、読唇ではない。ではないが、音のない映像を見る限りで。俺らとしての予想を挙げた。予想だし、何を話していたか具体的な部分までは、分かりかねる」
「その具体的な部分は分かりかねたとしてもですね。入海先生が安紫会の奴らに何かを話していたってのは間違いない」
「と思うよ。それを含めての予想だ」
「例えば、往診以外の話題」
「そう。何かを渡そうとしていたんじゃないかって。そこは釆原記者殿と俺で何となく意見が同じ」
「何かを渡そうとしていた」
と五味田が言った。
「軸丸さんの話って、俺らしましたっけ」
「俺ら?」
と怒留湯が言った。
「失礼」
「いえ」
五味田は少々眉をしかめた。
怒留湯。
「軸丸って、確か劒物大学病院とこの研修医だろう。それがどうかした」
「安紫会では薬物、ご法度らしいでしょう」
「らしいね」
怒留湯は言葉を一応濁した感じだ。
「釆原さんが、軸丸さんから話を訊いたところによれば。です」
「うん」
「西耒路署からも薬物の話っていうのが。劒物大学病院へ行っているとかいう話でしたよ」
「それ、少し前に数登さんにも言われたんだけれどさ。うちの連中のごく一部の話で」
怒留湯は言い終わらなかった。
菊壽。
「情報漏らす範囲は?」
「ギリギリだからね。あくまでも」
と怒留湯。
「俺は塀を越えてカメラをね。縁側へ向けていた側からの立場で言う」
菊壽は五味田に向かって言った。
五味田。
「俺は正面の門に回っていましたからね」
「うん」
菊壽は他の四人に向き直った。
「怒留湯さんも釆原も、どっちも読唇は出来ないってことで」
「そりゃどうも。改めて言わなくて結構」
怒留湯は言った。
「先をどうぞ。菊壽記者殿」
「入海先生が何か渡そうとしていたってよりね。洋見の方が、入海先生に何か頼んでいたっていう可能性はないですかね」
怒留湯は首を傾げる。
菊壽。
「洋見は疑われていたんでしょう」
怒留湯と桶結としては、洋見は「力江を殺った」と自白した後になる。
今はまだ、公にしていない。
記者三人にも言っていない。
怒留湯。
「なんで力江の話になるの」
「洋見の話題が出たからです」
「入海先生と洋見ってこと?」
「洋見は、力江を殺ったと阿麻橘組から非難轟々でしたから」
「ああ、それでね」
と桶結。
「確かに疑われてはいたよ」
「力江とその話題で、何か頭部がなかったのと関係は」
力江についてと、頭部がない状態については、既に公になっている。
「うーん。なんだか話題が飛躍し過ぎている気がするよ」
怒留湯は頭を掻く。
「俺も人がいいのかもしれない。なんて自分で言うけれどさ。安紫会は基本薬物はタブーなわけ。で、死んだ力江の身体は胸から、上にかけて謎の反応があった」
桶結の補足。
「清水さんいわく、データベースにまだヒットしていない」
怒留湯。
「うん。力江を殺ったのが薬物だったのか。それとも首から上が飛んだのが先だったのか。いずれにしても、薬物だったとしてもね。あんたら記者には分からない感覚かもしれないが」
「ほう。それは興味深いですね」
と菊壽。
怒留湯は肩をすくめた。
「安紫会はね。タブーはタブーで絶対なんだ。つまり、力江を殺ったやつが組員だったとして。安紫会の組員だったとしたらね。薬物を使うと同時に、安紫会をおさらばしなくちゃ」
「おさらば。なるほどね」
菊壽は苦笑して言った。
「じゃあ。洋見は、入海先生に頼み事をする必要がないってことですか」
「だからさ、あんた話が飛躍し過ぎるんだよ」
怒留湯は言う。
今の時点で洋見は、力江を殺ったと自白しているのだから、菊壽の説で言えば「洋見が薬物を使用して」という予想も出来なくはないのである。
そこに安紫会の御法度の件がある。
「入海先生が洋見へ何か渡そうとしていた。それが俺と釆原記者殿の間で共通意見なんだ。洋見の方から入海へだったとしても、そんなに飛躍する?」
「洋見が、入海先生を通じて何か頼むっていう方が自然なんじゃないかって。俺は思うわけですよ」
「あんたは要するに、それが薬物だって云いたいんだろう」
「ええ」
「これじゃ堂々巡りだ。とにかくね、あんたは俺らの頭があんたらより固いって言いたいんだな」
菊壽は肩をすくめただけだ。
怒留湯。
「じゃあ、頭の固い俺と、そうじゃないかもしれない記者殿の意見と照らしてね。頭の固い考えで言わせてもらえばさ。力江が殺られたのは薬物じゃなくて。力江が誰かに殺られるということに関しての比重が、大きかったんじゃないかって。薬物じゃなくて、それは殺ることに関する方法ってことで」
「薬物は、自分で摂取しようと思えば出来ますよ。力江は阿麻橘組だったんでしょう。安紫会のように、薬物に対するタブーはないはずです」
釆原は言いながら、それでも自分の説も大分とんちんかんになりつつあると思っていた。
「力江航靖は阿麻橘組でしたよね」
「そうだよ。二回訊いてどうするのさ」
「阿麻橘組に薬物の御法度ってのは」
「安紫会ではご法度だ。阿麻橘組ではご法度ほどではない。だが奴らも馬鹿じゃないからな。表立ってそういう商売はしていない。最近目立った組員の摘発は、ないって炎谷からも報告があるし」
「そういうのは、他部署でも共有している」
「じゃなきゃ強行犯係のオケと俺は動かない」
炎谷は、西耒路署のマル暴である。
下の名前は釆原もよく知らない。
釆原は、入海が自宅へ突然やって来たことを思い出していた。
その時に話したこと。その光景が思い浮かぶ。
光景と言っても、特に大したものはない。
何かしたと言って。
ただ入海を泊めて話をしたというに過ぎない。
突然やって来た日の、その夜。
光景というのは瓶のビールを、呑みながら話したこと。
特に何か特殊な、例えば機密に関わるような情報はなかった。
しかし変な話が出なかったことが変というべきか。
気になった点というのはあったのかもしれないが。
何かを渡すの、渡さないのという話。
怒留湯と釆原が撮影していた映像から、読み取ったに過ぎないもの。
音声はなかった。
お互い読唇術が出来るというわけでもない。
強引にというか無理矢理に、というか。
意地だった。
入海が阿麻橘組へ連れ去られて、そして戻って来て釆原の家へ来た。
それは抗争が起きて、五日後のことだ。
「入海先生が解放されて、ご自身の家へ戻られたのは午後の時間帯。十六日」
釆原は言う。
「十六日。安紫会の若頭も、その時はまだ生きていたわけだ。というか生きていたように見えていた」
怒留湯は言って溜息をついた。
若頭に関する情報。
既に公にされている。
怒留湯もそこは遠慮がなかった。
続ける。
「あいつを取り調べても何もなかった。洋見と一緒に帰しちまったのが午前中」
「入海先生は、誰に殺られたと思います」
菊壽がそう言う。
憶測にすぎないのだろう。菊壽の中では。
釆原の中でも、憶測ということにしておいている。
だが記者というのは話の流れなどで、何となく分かってしまうものだ。
怒留湯はスルーをしたことに、釆原はさほど反応しなかった。
「俺さ、何回かオケにこの話をしたけれど」
「何です」
「洋見は暴力沙汰を起こす。だけれど人を殺すとかそういうレベルのこと。たぶんしないはずだ。そういう奴で通っているから。何しろ『派手』だからな」
「その『派手』は今、理由になっていませんが」
桶結は言って、椅子から立ち上がる。
「何か暴力沙汰を起こしてりゃ、すぐそっちってことになる」
怒留湯。
「洋見が人を殺すとすればね。何か余程のことがあるんじゃないかって思うんだが」
桶結。
「洋見が人を殺るとしたら、余程でしょう」
「余程だ。洋見本人の個人的事情があれば別かもしれないけれど」
怒留湯と桶結は席を立って、釆原たちから離れて行った。
再度刑事の間の話題に戻る。
「だから。入海先生は洋見に殺られたのか」
「それもまた、怒留湯さんの飛躍でしょう」
「そうね。洋見が殺ったと云ったのは、力江についてだけ。入海先生に関しては、今はなんとも言えないから」
席へ取り残された側。
釆原と菊壽と五味田だ。
入海と話したことで、気になった点は。
生きていたように見えていた、若頭は。
釆原は頭を巡らせていた。
桶結。
「殺るとして余程のことがあるとすれば」
「なんだい」
と怒留湯。
「洋見です。あいつの場合は報復ってところですか」
「それは、例えば組に楯突いた場合。背いた場合。そんなところだろう。力江はきっと、組と組との間の何かに背いた。じゃなきゃ、あんな殺され方はない」
頭部と身体が別だった。
桶結は肯く。
何か話している怒留湯と桶結の姿が、奥の方へ向かっていく。
「情報漏洩になりましたかね」
と五味田。
「さあね。ただ、なんとなく話の流れで想像しちゃうよ。いろいろ公になっていないとしてもだ」
と菊壽。
釆原は肯いた。
その内、公になればまた、怒留湯さんたちと話す話題も増えるだろう。
*
さて、公になった。
影響は各方面に及んだ。
及んだ影響というのは組関係者には、甚大なものがあった。
安紫会と阿麻橘組に関しては最初に来るのが抗争の件である。
そして入海の失踪。
あげく入海が遺体になり、力江航靖は身体の全てが見つかったものの、依然その扱いは「他殺体」だ。
洋見仁重の自白。
公になった、入海の遺体についての反響。
安紫会は、今まで静かにやって来た組だ。
事務所を屋敷として構えてはいたものの。
だから解散に追い込まれるのではないか。という見方も強まった。
抗争の件があって以降、入海と関わりがあった者。
直接の関わりがなかった者にも、影響が出てきた。
例えば、西耒路署に間接的に関わったバーチャルアイドル二名。
あくまでも西耒路署なのだが、動画企画となると安紫会にも間接的になる。
二名はT―GarmeとSe-ATrec。
いま彼女らは活動を休止している。
噂では、中の人が両人とも取調を受けている。
というものまで流れている。
入海の遺体が発見されてから二日でこの噂が立った。
遺体の情報が公になっていない時からなのだ。
依杏としては本当のところは、よく分からない。
依杏は依杏で入海については思うところがあった。
西耒路署についても思うところがあった。
今は遺体が発見されてから三日目の朝だ。
九十九社はこの日、社全体での休みだった。
遺体関連については、意外にも早々と作業が進んだ。
入海の遺族への連絡、それから葬儀や解剖の手配。
内臓からの出血が大量だったため、だと判断された。
当然意図的な犯行と思われる。
入海の遺族は、淡々として応じていた。
だが、相当のショックは受けていたのだろうと依杏には思えた。
葬儀の手配は数登が中心となって、更にまた淡々と進められた。
葬儀の日取りについては未定という。
調査とか、捜査とか。
そう。
遺族と言えば血縁である。
数登が言った、安紫会にかかる人物構成にも関わって来る。
かも、しれない。
九十九社の休みだが、依杏と郁伽と数登。
その血縁に関して、資料を搔き集めて調べていた。
手に入れたのは数登だ。
入手ルートは釆原を介して。
記者というのは記者だ。
だが組関係者となるとその関係筋となる。
入手すると言っては、一般の取材とは少々異なる。
下っ端の組員というのは活動自体、表立ってのものが少ない。
特に安紫会や阿麻橘組は、その辺徹底していた様子。
情報が少ない。
人数としては数十人に絞られる。
主に幹部の情報が多いというのが皮肉のように思えた。
抗争前後でもう少し、打つ手はなかったものだろうか?
入海先生は安紫会の事務所への往診が初めてと言って、その段階で抗争に巻き込まれた。
何故、遺体として発見されなければならなかったのだろう。
阿麻橘組に連れ去られて五日間。
その後戻った後。
確か刑事さんたちも警戒していて、入海先生の自宅周辺を張っていたということ。
依杏は、だらだらと起きて資料をめくる。
そして身支度。
「資料追加」
置く郁伽。
依杏。
「追加ってどういうことです」
「追加は追加だ。とりあえず周辺人物をみんな洗って」
「えええ」
「よろこべ。九十九社の人間は抜いてある」
いや、そういうことじゃないと依杏は思った。
だが、確かに調べる範囲を広げた方がいいと依杏は思っていた。




