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22.

賀籠六絢月咲(かごろくあがさ)

八重嶌郁伽(やえしまいくか)の友人である彼女。

絢月咲はこの日、更に部屋を片付けてきれいにしたと。

自信たっぷりにそう言ったのである。

絢月咲の自宅の話だ。


アイドルでの名義はT―Garme(ティー・ガルメ)

絢月咲はバーチャルアイドルをやっている。

杵屋依杏(きねやいあ)はいつまで経っても、ガルメかあ。と思う。

絢月咲は彫刻作品が好きだという。


自宅の二階にスタジオを備えている絢月咲(あがさ)

依杏は以前、そのスタジオを見せてもらったことがある。


三度目の訪問が今回だ。

絢月咲からは個人的な依頼を受けている依杏(いあ)

それから八重嶌郁伽。

九十九(つくも)社の「その()依頼」として、絢月咲の依頼を受けた形である。

ただ、いまだに解決はしていないのだ。







通された部屋。

そこには大きな窓がある。

取り入れた光で部屋全体が明るく、照らされていた。

依杏と郁伽はこの日もまた紅茶を、一杯御馳走(ごちそう)になる。

以前もまたそうだった。


絢月咲は、依杏と郁伽が自宅を訪れる度に。

()れて持て()すのである。







「前回とは違うブレンドで、淹れてみたよ」


絢月咲は言った。

依杏としては何がどれでブレンドしたら、とかは全然分からない。

ダージリンか、あるいはカモミール。


案内されたその部屋には、茶葉のストックがセットで置いてある。

どれも手書きのラベルで、大切に(ふう)がなされている様子だ。

ダージリンとカモミールは読めた。

だがそれ以外のストックには、何と書いてあるのかが依杏には分からなかった。


オレンジの切り身が()えられて、薄い淡い色の紅茶である。

白いカップに注がれ、それが小皿に()りテーブルに。

郁伽は一口、飲んで尋ねた。







「少しシナモン入りかな」


「内緒よ。自分でブレンドしているだけだからね」


絢月咲はそう言った。


郁伽。


「なかなかイケるんじゃない」


「よかった」


絢月咲は言って微笑んだ。

郁伽はそのままグッといった。

依杏はちびちび飲む。

温かいのだが、あまり体感としては暑いと感じない。

温かいゆえに体の芯が、スッとするような感覚である。







「相変わらずかな」


郁伽は絢月咲へ。


絢月咲は少々ポカンとして言った。


「それは仕事のこと、それともなくし物の件かな」


「両方。あたしたちはまあ、依頼されている立場だからね。なくし(もの)(ほう)がメインと言えばそうかもね」


「そう、ね」


絢月咲は紅茶を出したあとで、少々片付けをしに立っていた。

依杏と郁伽はソファへ腰掛けている。

郁伽の話をちゃんと聞くためだろう。

絢月咲もやがて依杏と郁伽の向かいへ腰掛けた。

その片付けとやらは再度やるということらしく。


大切に封をされた茶葉の入れ物。

沢山ある。

沢山あるなあと依杏は思う。







「なくし(もの)は。相変わらず出て来ないのね」


絢月咲(あがさ)は苦笑して言う。

なくし物とは絢月咲が今回、依杏(いあ)郁伽(いくか)に依頼をしたことである。

絢月咲は小物ばかり、手元からなくなっている状態だ。

依然、それが出て来ないということだった。







「そもそも私の依頼、あなたたち九十九(つくも)社にとっては小規模というのかな。あまりに個人的すぎた感じかもしれないけれど」


「い、いえそんな」


依杏は言った。

絢月咲さんの言うこともよく分かる。

なくした物は小物ばかりだったから。

それに個人的依頼というのは否定が出来ないなあ。







「何だかここまで出て来ないなら日頃の注意が足りなくて、とかそんな感じに思えてきちゃったり」


「確かに一理あるけれど。九十九社として絢月咲の依頼を受けているのは、あたしたちなんだよ」


郁伽はツッコんだ。


「そして依頼したのは私ね」


絢月咲は苦笑する。


郁伽は続けた。


「それに清水(しみず)さん。実際絢月咲の自宅にも前回来ていただいた。憶えているでしょう」


清水というのは、西耒路署の鑑識である。


依杏は絢月咲の依頼の助っ人として彼を、絢月咲の自宅へ呼んだのである。


二回目の訪問だ。


「それは憶えている。なくし物にも何か手掛かりがあったって、説明してくれた」


絢月咲はそう言った。


「依頼してよかったと思っている。私の方では進展はない。今のところはね」


「分かった。了解」


郁伽は更に紅茶を頂いた。


「それでね、今日は持って来たのよ。杵屋(きねや)


郁伽は依杏へ言った。


「は、はい!」


依杏は郁伽の、一言(ひとこと)をバネにバッグを(あさ)る。

いつもはリュックサックを持ってくるところである。

だがリュックのゴマフアザラシも今日は留守番だ。

絢月咲宅へ持って来るものが、あったためだ。

いつもと違う、大きめのバッグに変更した。







郁伽は再び絢月咲へ。


「サンプル。先日調べていたもので、清水さんがいろいろ教えてくれた。ただ全部のサンプルとか結果ではない。一応、照合をしてくれたって彼は()っていた」


絢月咲は眼をぱちくりする。


「サンプルってなあに」


「そこんとこはまた後で話す。さて」


郁伽は少々座り直して言った。


「なくし物と話は、大きく変わるんだけれど。質問がある」


依杏はようやく、大きめのバッグから紙片(しへん)を取り出し一息。


郁伽はその様子を見て、それから再度。


「なんか物騒なことが結構起きた。起きている。てのは絢月咲、あなたたちのようなバーチャルアイドル系でも知ってはいる。ね?」


絢月咲は大きく(うなず)いた。


「そうね。トレックが関わったってこともあったの」


依杏は尋ねた。


「トレックって(なん)ですか」


絢月咲は苦笑した。


「私たちと同じバーチャルアイドルの名前の短縮(けい)。長い名義ならSe-ATrec(シーアトレック)。そのトレックの動画企画の話よ」


「絢月咲としては、そうね」


郁伽はそう言った。


絢月咲。


「私の知る範囲ではそう。だけれど、郁伽たちの知る範囲では更に物騒なことがあった。ということでしょう」


「そう。当たり」


三人はそれから紅茶を(すす)った。

オレンジの切り身へ依杏はぱくついた。

甘い。

直接食べるというより浮かべて、その風味を楽しむものなのだろう。

だが依杏は食べた。

甘い。







郁伽は言う。


「動画企画が失敗したという話の範囲は、絢月咲たちの領域の話。失敗は失敗で、そこには結構物騒な話題があったの」


「うん。ただ私自身はよく知らない」


(おおやけ)になっていたとしてもね」


「うん」


「その物騒な話に事務所が関わってきていて。組なのよ。あたしはまだ、出入りしたことはない」


郁伽がそう言う。


「え」


絢月咲はびっくりしたように。


「組事務所。それは分かる?」


「分かるけれど。で、出入りってどういうこと?」


「そのままの意味。杵屋(きねや)が直接に、安紫(あんじ)会の事務所へ行ったっていう機会があった」


「ええと。既になんだか(はなし)自体が物騒な感じね」


動揺する絢月咲。

そりゃそうだろうなあ。と依杏は思った。

だが郁伽先輩は()ったのだ。

依杏はこの手の話題にもう慣れてしまった。







依杏は絢月咲へ言う。


「そうなんです。以前絢月咲さんの自宅にいらしてくださった、清水さんも事務所へいらしてて」


「そ、そうなの」


絢月咲。


郁伽が更に。


「直接ではないのだけれど、Se-ATrec(シーアトレック)の場合は動画企画で。西耒路(さいらいじ)署のガサ入れの時に特別で参加していた。それは知っている?」


絢月咲はカップを置いた。


慌てた様子だ。


やっと絢月咲は言った。


「つまり、間接的に組事務所に関わる話ということね。アイドルとしては」


郁伽。


「そこまでは断言しないよ。()えてね。でも署に向けての動画企画だったということは知っていたんでしょう」


「署がどこでっていうのまでは私も知らなかった。一応それは機密事項のはずよ。アイドルの間でも箝口令が()かれてあった。そうとしか思えないわ」


「そう。箝口令ね」


「それで肝心の動画企画では、途中の配信で配信側の(ほう)が途切れてしまった」


「そうね」


「実はね。私のバーチャルの仕事のことで先日、トレックとの合同企画があったの」


「どんな企画」


「インタビュー企画。私がトレックにインタビューをした」


「お互いにバーチャルアイドルの状態で?」


「そう。トレックと話をしたの。動画はライブ配信された」


「オンラインでの合同企画ってことね」


「歌のライブ配信とかとはまた違うけれど。リアルタイムのインタビュー動画って思ってもらえたらいいかな」


絢月咲は少し、席から腰を浮かせる。


「その時の動画、取って保存してあるの。手元にある。どう、よかったら観て」


「それはぜひ!」


依杏は言った。


絢月咲は微笑む。


郁伽が割って入る。


「ちょっと見る前に待ちたまえよ。さっきの失敗した動画企画について。続きがあるなら()きたい」


「続きというか、例えば箝口(かんこう)令以外の話っていうこと?」


「西耒路署の刑事さん向けの動画配信だと。今さっきあたしは、絢月咲に漏らしてしまったけれど。絢月咲はそれを聞いたということになった。今ね」


「そうね。ええと、ならトレックのことを()いたいということ」


「そうなるかな」


「噂で言うとトレック自身ね、どこか警察に居たみたいな話になっていると聞くわ」


「それは、トレックさんから直接聞いたんじゃないのね」


「うん。あくまでも噂」


「トレックさんとは、リアルで会ったことある」


「何回かバーチャルアイドルの仕事で、一緒にセッションをやったぐらいかな」


「リアルのライブでは」


「一回くらい」


「そう。じゃあ」


郁伽は(ひと)呼吸置く。


絢月咲(あがさ)。あなた安紫会の事務所に行ったことはある?」


「え」


絢月咲はぽかんとしている。


「ある、ない。どっちだ」


「え、そ。そんなのないに決まっているでしょう」


絢月咲はかなりびっくりした様子だ。


「何故、そんなことを訊くの。突然じゃないの」


「絢月咲の依頼はなくし物のことだったわね。安紫(あんじ)会でも盗難があったの」


「盗難……」


絢月咲は腰を()ろした。


郁伽(いくか)は言った。


「そう」


「それも突然じゃない。話題としては」


「絢月咲はそのことに関して、何か知っていることはある」


「あたし。何も知らないの。何が(なん)だか」


「盗難があったという情報が例え公になっていたとしても。絢月咲自身は聞いたことがない。そういうことね」


「そう。知らなかったわ。安紫会の事務所へ行ったことはない」


「そう。分かった」


依杏は先程(さきほど)バッグから取り出した紙を開いた。


だが再度(さいど)畳み直す。


絢月咲は尋ねた。


「何か、その。何か偶然じゃないと云いたいの」


「それはまだ分からない。だから、絢月咲にも訊いたわ」


「そう……」


郁伽は立ち上がって言った。


「じゃあ! 動画をぜひ観たいな」







動画である。

絢月咲の動画といえばバーチャルである。

インタビューの企画としても、それはまた同じだ。


絢月咲は自身バーチャルアイドルである。

そのため、現実で人を集める時にはいろいろ注意を払うそうだ。

依頼を初めて依杏と郁伽が絢月咲から受けた、一回目の自宅への訪問。

その時に絢月咲が言っていたことだった。


一例は「仮面舞踏会」の話である。


アイドル活動自体はバーチャルで行う。

そのために、アイドルたちは各々3D容姿をもってしての活動になる。

リアルでの体というのは、その活動ではあまり意味を()さないものだ。

で、例え現実でも集まった人々は仮面を付けて参加するという集まり。

それで「仮面舞踏会」になった、という。


集まったのは絢月咲と同じくバーチャルとして、アイドルでやっているメンバーたち。だったとか。







(おこな)われた部屋。

依杏と郁伽はここへ案内されて、三回目になる。

二回目の時には、清水颯斗(しみずはやと)、西耒路署の鑑識だ。

その彼を伴っていた。今は絢月咲を入れて三人。


大きいスクリーンがある部屋である。

スクリーンとしては、今までであれば白い状態のそのままを、依杏は見ていた。

それが三回目の今回は、そこに映像が映っている。


動画。

よく造られている。

そんな印象を依杏は持った。

スクリーンの映像の中の二人は、T―Garme(ティー・ガルメ)Se-ATrec(シーアトレック)だ。

対談形式とあって、その二人は向かい合う形になっている動画だ。


その中の背景の色や作り。

演出を交えて、よく映えるように。

素材一つ一つはよく作りこまれたものである。

3Dであったとしても、そしてバーチャル空間であったとしても、そこには空間があった。

ティー・ガルメとシーアトレックという、存在の()える空間である。







映像に映る二人のアイドルは、よくお喋りをしている。

動きも忠実な再現が取られている。


ティー・ガルメとシーアトレックの二人の会話には、「抗争」という話題は出ない。

一応対談の話題としてメインなのは、シーアトレック自身による「動画企画の失敗」である。

失敗した企画は西耒路署に向けたものであった。

郁伽が絢月咲に説明したこと。

だが一般にシーアトレック自身は「西耒路署」として、署の名前を限定しているわけではなかった。

その口からは結構な頻度で「捜査」という言葉が飛び出す。


そう。

シーアトレックの動画企画は、安紫会の事務所の件とつながる。

起きた盗難のことなのだ。

それでのアドバイスということだった。

依杏と郁伽の知る領域としてはそうだ。


動画では盗難そのものの話題は出ない。

どちらかというと、「どうして動画が失敗しちゃったんだろう」という話題が強めである。

依杏は観ていて思った。


絢月咲さんは、盗難のことを知らないと云ったのは本当だろうか。

知らないのは本当かもしれない。

ただその逆もあるかもしれない。

その逆があったとして、どうなるのだろう。

とにかく動画を観てみよう。







ティー・ガルメと、シーアトレックは髪が長い。

そんな3D容姿である。

その背景の雰囲気に合わせてか、後ろで(たば)ねるようにしている今回。

どちらも髪の色はカラフルである。

ティー・ガルメはピンク。

シーアトレックはターコイズブルー。

全体の色の取り合わせは、そのピンクとターコイズブルーもまた映えるように。


T―Garme(ティー・ガルメ)賀籠六絢月咲(かごろくあがさ)という人物が、イコールであるということがどうしても、依杏(いあ)にはつながらなかった。

イコールなのである。

イコールであるということを、改めて思って二、三度目になる。







依杏は絢月咲に尋ねてみた。


「動画って直接、トレックさんと会って撮影したのでしょうか」


絢月咲は答えた。


「私はいつも(どお)りスタジオに()たよ。二階のスタジオ」


絢月咲は微笑んで言った。


「なくし物の件もあったでしょう。だから外のスタジオへは行かなかったの。あなたたちに依頼が増えてしまうかもしれないから」


「そ、そうでしょうか」


「何人か、スタッフさんは来ていたわ。スタジオで手伝っていただいた。家のスタジオに来ていただくというのは、あまりないことなの」


「じゃあ」


依杏は言った。


「以前に見せていただいたスーツとかを着て、こう」


動いて見せる。


絢月咲は笑って言った。


「そうそう。よく憶えているわね。自分の体の動きをトラッキング出来るモーションキャプチャね」


「そう、そのキャプチャなんとかで」


「うん。装着って感じね。こうビシッと」


「装着ですか」


「ただ(いえ)のスタジオだったけれど。通信が途中で途切れるっていうことはなかったわ」


「よ、よかった。じゃあトレックさん自身とは実際、スタジオという面では対談していないということになる」


「そうね。対談形式はあくまでもバーチャルのみ」


絢月咲は一口(ひとくち)紅茶を入れた。


依杏は更に尋ねた。


「じゃあ、Se-ATrec(シーアトレック)はどこからだったんでしょう。その、対談形式の配信を撮るに当たって」


「たぶん私と同じく、どこかスタジオからね。事前の打ち合わせとか、台本とかはほぼスタッフさんに任せちゃっていた。打ち合わせというのはあんまりいらなかった。今回はね。全て決められていたの」


「スタッフさんにということですね」


「そう」


郁伽が言った。


「トレックさんと、直接の面識を持ったことはないの」


「そう」


絢月咲は言う。


「今までのところはまだ、ないかも」


郁伽は言った。


「『仮面舞踏会』ではバーチャルアイドル同士で、生身(なまみ)身体(からだ)だった」


「そういうことね」


改めて、三人は動画へ眼をやった。


大分(だいぶ)会話が進んでいる。







「アクセスがいっぱいあったから、途中で配信が途切れちゃったのかな。なんて思っているんだ」


言ったのはシーアトレックである。


スクリーンに映された動画での会話。


「アクセスがいっぱいって。例えばどんななの」


ティー・ガルメがそう答えた。


「今だってほら、視聴者さんが見てくれているから私たちバーチャルで。この体でいられるわけじゃない?」


「いや、そういうわけじゃないと思うな」


ティー・ガルメが少し困って言っている。


シーアトレック。


「そうかしら」


「そうね」


ティー・ガルメは苦笑した。


その表情は、忠実に映像でも再現されている。







以前絢月咲のスタジオで見た、種々の機材。

あるいはソフトウェアやその(ほか)沢山。

そうしたものを眼にして依杏は、絢月咲たちのようなバーチャルアイドルが表情などに関して。

どうやって映像で再現しているのかというのを、少し調べていた。


通信制高校の課題の合間。

相変わらず数学がネックである課題。

だが、依杏は小テストで比較的いい点を取ったのである。

それは置いておく。

だが小テストによるいい点の影響は、調べるための動機になったことも事実である。


自分の表情を3Dへ持って行くため。

トラッキングソフトウェアやその()カメラ付き機材が、存在するのだということを依杏は知った。

カメラで表情を追っていき、それを別のものと置き換えて再現をする。


絢月咲の顔とは、似ても似つかないT―Garme(ティー・ガルメ)である。

だが笑った顔は何となく、絢月咲の面影があるように依杏には思えた。







ティー・ガルメとシーアトレックの会話。


「今こうしてバーチャルでしょう」


ティー・ガルメに対してシーアトレックは少しだけ声が高めだ。


ティー・ガルメが返す。


「そうね。ただあなたの言うように、アクセスがいっぱいっていうのなら。今だって途切れる可能性は出てくるとか。そういうことを言いたいのかな」


「私の言っているのは、自分でやった動画企画のことだからね~」


「分かっているよ」


「あの時は刑事さんが、沢山アクセスをしてくれた。実際沢山見ていてくれたわ」


「刑事さんたちはあくまでも沢山捜査をしていたのでしょう」


「そりゃ、そうね」


ノリツッコミなのかよく分からない。


依杏は思った。


「じゃあ、捜査ってどんな捜査だったか訊きたい? ガルメ」


シーアトレックが身を乗り出して言った。

ティー・ガルメこと絢月咲さんとシーアトレック。

その彼女らは別々の空間に()て、お互いにおしゃべりをしているということになる。

映像ではそれが、一緒の空間で3Dの体として隣に居るように見えているのだ。







「あのう」


依杏(いあ)絢月咲(あがさ)へ。


「なあに?」


「リアクションとかこう、実際には別の空間に居ても。映像だと同じように見えるっていうか、何か経験あってのものなのですかね。その表現とか演技? って」


「そうね。想像力もあるわね。多少の誤差はあるでしょう」


絢月咲は苦笑。


「実際には多少の時間差だってある。でもね、そこは動かすためのデバイスのスペックがある。ディスクというかサーバーというか」


「あるいはソフトウェアかな」


郁伽(いくか)はそう添えた。


「そう」


絢月咲は言う。


依杏は更に。


「ある程度は息が合ってくるというか、そんな感じでしょうか」


「お互い画面越しでね」


絢月咲は微笑んだ。


喋っていたので、映像の二人の会話を聞き逃した。


その(あいだ)何言(なんこと)()わされたようである。







「やっぱりここから先は、あまり(おおやけ)にしちゃまずいかもしれないなあ」


「どうして?」


ティー・ガルメは尋ねている。

(おおやけ)(いな)か。

シーアトレック側としても「盗難」のことを話す相手としては限定する必要があるのかなあ。

そう依杏は思った。







「動画企画が失敗したからね。今度は歌詞の主役を刑事さんにする歌を、作るプロジェクトが進行中~」


Se-ATrec(シーアトレック)は宣伝している。

それに対して実際のリアルタイムでは、何か動画の画面上での反応があったかもしれない。

だが今のスクリーンでは動画部分のみである。

視聴者の反応の(ほど)はいかんせん。

分からない。

動画を見終わった。







「絢月咲は、安紫(あんじ)会の事務所へ行った経験はないのね」


郁伽は言った。


絢月咲の自宅の帰り(ぎわ)。その玄関で。


「うん」


絢月咲は言った。


郁伽は肯く。


「清水さんのサンプル、私の家から取れたものって」


絢月咲はそう尋ねた。


「何かそれについて、分かったことはある?」


「今のところは正体不明としておくっていうのが、清水さんからの伝言よ」


「そう」


絢月咲は少し考え込むように。


依杏は、郁伽へ尋ねる。


「あのう」


「なあに」


「なんでそんなに安紫会の事務所に(こだわ)るんですか。先輩は」


「なんでって、そりゃあ杵屋(きねや)だって気にならない?」


「いろいろ重なったし、立て(つづ)け過ぎて変だなあっていうのはありました。あたしが元々不自然だとか言ったのもそうですね」


「うん」


「でも安紫会の事務所のことは、トレックさんの動画企画としか今のところ、つながりがない感じがします」


「あのね。じゃああたしの予想を言うよ」


「郁伽は、私を何か疑っているのでしょう」


絢月咲は先行して郁伽に言った。


「そうじゃないのよ」


郁伽はかぶりを振る。


「あなたのなくし(もの)はね、絢月咲。あなたの持っていた小物を盗んだのは女性かもしれないと私は思った」


「それは」


絢月咲は眼をぱちくり。


「あなたというより、あたしの予想は小物の(ほう)に向いているわけで」


郁伽はそう言い添える。


絢月咲は言った。


「やっぱり私を疑うってことになる?」


「そうかもしれないわね。そうじゃないかもしれないけれどね」


郁伽は言った。

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