20.
週刊誌の紙面。
安紫会と阿麻橘組の間で起きたそのズラリは抗争のこと。
情報は減ってきている。
情報は抗争の代わりに、安紫会の親分である鮫淵柊翠の話題が増えて行った。
そしてその話題も減って今度は、薬物に関する情報が飛び交い始める。
起きた抗争事件は、薬物に関すること。
その隠蔽のためによるものではないか。
飛び交うのは憶測だ。
それは週刊誌での紙面上にて。
飛ぶのは憶測だ。
正確な情報かは分からない。
紙面上では扱われない情報がもちろんある。
釆原凰介。
情報を共有した相手は刑事だ。
西耒路署の強行犯係、怒留湯基ノ介と桶結千鉄。
いくつも奇妙な出来事が起きた。
一番刑事たちの頭を悩ませたのが、入海暁一という医師の失踪である。
だが失踪して五日経ち、彼は釆原宅へ脚を運ぶという行動を取る。
そこで釆原と入海は、酒も交えて話し込む。
何か話をしていて辿り着くというよりは、要所を掴んだ感じだった。
話題の中心は、何故入海が失踪したのかについて。
抗争前後に何があったのか、について。
入海の話では、安紫会と阿麻橘組の一部がつながっているのではないかと。
彼はそう考えていたようである。
それも、後日釆原は他の仲間へ共有した。
その情報は日刊を越えて、週刊誌の域にも入って来ている。
「正確な情報なんでしょうかね。これ」
軸丸書宇は、紙面を示しながら言った。
彼は劒物大学病院の研修医をやっている。
軸丸の論文は病院内でも好評を博し、論文に関する書籍もこの前出たばかりだ。
実は、たくさん本になっているという噂がある。
論文は主に薬学のもの。
軸丸自身も薬学の分野で携わる研修医だ。
釆原は今回の抗争の件にあたって、この軸丸書宇に眼をつけた。
実際にこいつだと眼をつけたのは後輩の、五味田茅斗だった。
それを継いだ形だ。
安紫会で起きた抗争に関して、話題になってくる一番は阿麻橘組のこと。
安紫会を管轄内に置く、西耒路署にて話題の中心だ。
そして抗争の最中に失踪した、入海の勤務先である劒物大学病院。
この関わりの中で、携わる人々を当たっていく。
日刊「ルクオ」に居る記者三人が、最初に眼をつけた点だった。
で、釆原と五味田、それからもう一人菊壽作至は、西耒路署と劒物大学病院をつなぐのであれば、軸丸書宇であると。
最初、軸丸は釆原へ捨てアカウントを送って来た。
捨てアカウントでのメールアドレス。
軸丸からすれば、釆原は記者なのである。
記者というのは記者なのだ。
情報はどこからでも握る。
捨てアカウントというのは、それはそうだろう。
釆原もまた自分の捨てアカウントで、連絡を返していた。
釆原と数登珊牙。それから軸丸。
今は三人である。
日数が経った。
入海暁一が釆原宅にやって来て、それから更に三日。
数登の元には、日数が経った分だけ情報の量が増えていったようで。
釆原もその間、何度か軸丸とやり取りを重ねた。
入海が釆原宅へ来ていた間のことも共有された。
軸丸は情報として頭へ入れた。
謎だったのは、安紫会の抗争で起きた数々の出来事だけではない。
劒物大学病院から入海が往診に行ったこと。
そのこと自体も何故なのかと重視されていた。
といっても日刊「ルクオ」の中では、主に釆原を始めとする三人に重視されているだけだった。
軸丸は薬学。
西耒路署にも鑑識がいる。
その辺のコネとかは、署と病院であるかもしれない。
軸丸の話からも、西耒路署と劒物大学病院の間では種々の面でつながりがある。
そんな感じで話が出た。
歩いては止まり、止まっては歩き。
とある道端。
数登は、途中から別の方向へ向かう予定だ。
それは安紫会の事務所への予定だ。
釆原と軸丸はとりあえずこの日、時間が合った。
だからとりあえず三人で歩いている。
いっそこのまま、軸丸を日刊「ルクオ」へ連れて行って話を訊こうかな。
釆原はそう思い始めていた。
数登はただ歩いて二人の話へ耳を傾けている。ように見える。
「組の一部がつながっているというより、その情報自体何かの隠蔽工作なんじゃないですかねえ。敵対組織同士ですもの」
軸丸は言った。
「その情報って、どの情報だ」
「安紫会と阿麻橘組の一部が、つながっているかもってやつですね」
「出処は入海先生だ。俺が直接聞いたんだよ」
釆原はそう言った。
「一部がつながっているっていう情報が隠蔽工作っていうんなら、入海先生の予想まで疑わなくちゃいけなくなる。いや、あくまで予想なんだから、疑っても問題はないんだろうがね」
「相手は組員なんですよ。抗争周辺で関わった人々も含めて、重箱をこう、つついてみなくっちゃですよ。第一、釆原さんだったら僕のことまで、疑えてしまえる。こうして呼び出しているんだし」
「俺は全く刑事みたいになってきた」
釆原は頭を掻いた。
「疑うのは刑事も記者も、同じなんじゃないですか」
「そうかな」
ただ軸丸の云うことも、釆原の中では一理あった。
軸丸もまた劒物大学病院側の人間なのだ。
何故か五味田の予想は意外にも、ずれていなかった。
西耒路署と劒物大学病院でつながりがあるということ。
例えば事件性のある遺体が出たとする。
その時の霊安室だったり、遺体の解剖だったり。
そんな場合において、つながりというか協力関係にあるということもはっきりしてきた。
軸丸の話により。
「薬物ねえ……」
紙面に踊る「薬物」の文字。
軸丸はそれをよくよく見て言った。
「大いに刑事さんが興味を持ちそうなところですね。で、捜査がどこまで進んだか、とかの情報は入ってきているんです」
「それは、俺が逆に訊きたいところなんだ」
釆原は苦笑した。
「西耒路署から劒物大学病院へ、何か入っていない?」
「今回の抗争の件で薬物が出たってなれば、その分析とかには、うちの教授なんかが駆り出されると思います。ただ報道が先になっちゃっている。今の時点で、うちの教授んところにはまだ何も情報は来ていませんね。たぶんですよ」
入り組んでいるこの辺り。
三人で今、歩いている辺りだ。
周辺にいろいろ座ることの出来る場所はある。
例えば入って、三時間くらい潰すことの出来る場所。
時間的には長すぎるかもしれないが、釆原としては話を訊くには欲しい時間だった。
長く腰を落ち着けることの出来る場所。
いろいろ座ることは出来ても、三時間を潰すことが出来ない。
周辺ではそうだった。
小店が多い地帯へ入り、電柱を一本二本と数えていく。
やがて駐車場へ出る。
そこからは、安紫会の事務所へ近い場所へ出ることになる。
釆原と菊壽と五味田は、その周辺まで行って怒留湯たちと協力することになった。なり行きである。
数登は事務所へ行く前に、立ち話をしたい様子。
釆原と軸丸の歩みへ歩調を、合わせている。
小店が多い地帯へ入る少し手前。小さいベンチがあった。
そこへ、三人で腰掛ける。
喫煙所が設けられ、遊具は豊富である。
「例えば」
釆原は軸丸へ言った。
「薬物の件だ。今回の抗争の件の、薬物の実物だよ。それが実際に劒物大学病院側へ分析やらなんやらに行くとなれば、どうなるんだろう」
「そりゃもちろん! 来た段階で論文に力を入れているやつの眼が輝きますよ。こうバッとね」
軸丸は表情も明るく、自分の眼の周りを手で表現。
だが話している話題は、割と物騒である。
数登は苦笑を浮かべた。
軸丸は続けた。
「成分分析なんです、僕らのやることね」
「成分分析」
釆原が尋ねる。
「薬物っていうとすーごい物騒ですけれど、組成だの塩基だのいろいろあるでしょう。化学式ですよね」
「うん」
「要は薬です。そう。人間へ作用する組成なんです。そういう眼だけで薬物を見た場合にはね、薬なんだから構成している成分がいっぱいあるって見方になります。で、僕らはそれを分析するんです」
「うん」
「成分を一つ一つ辿っていくでしょう。そうすると本質。というか中心ですね。ある一点へトンと行きつく。あくまで僕の考えで、その他の奴らがどう考えているかはまた別として、聞いていただければいいですよ」
軸丸はちょっと笑って言った。
「多少教授の影響があるんです。俺らね。うちの教授は成分分析している間だけ眼が輝いています。生き生きしています」
「そうか」
「僕らもその影響は受けるんで、説明的にはマニアックかもしれませんね」
「影響な」
「だからもし今回も、その薬物とやらがあったとしてですね。うちの教授へ回ってくるとすれば。その分析に人が群がります。ワーッて。特に教授が群がりますね」
「なるほど」
親子連れがやって来た。
三人はそのままベンチに座ったままだ。
「薬物は、成分の分析をしたら。そのあとはどうするのでしょう」
数登は軸丸へ尋ねた。
「どうするって言うと?」
数登は眼をぱちくり。
「ああ、主には論文とかへ纏めて書きますよ。あとは危険物の、リストにもまとめておかなくちゃですね。ただこの話はあくまでも、西耒路署さんとうちの大学での話です。それ以外の大学のことは僕、あまり潜入もしないしよく分からない。第一」
軸丸は言って少し声のトーンを落とした。
「潜入はしません。今の話自体めっちゃ危ない話でしょう。ね?」
「ええ」
数登が言うので、軸丸は苦笑した。
「入海先生は、あのあとどう?」
入海暁一が釆原宅へやって来てから、日数が経ったこの日。
日数が経たない以前の日。
入海が釆原宅へやって来た当日。
突然劒物大学病院からの、情報が入った。
内容は、「入海が釆原宅へ向かっている」とのことで。
入海の自宅には現在、昼夜を問わず刑事が張り着いている状態だ。
入海が釆原の家へ居たのは、来たその日の夜。
それから翌日の午後までだった。
「あんまり入海先生と行き来ないんです。俺研修医だし」
「うん」
「ただ安紫会で往診の話が出たってんで、俺も一緒に事務所へ連れて行かれました。そこまでは、釆原さんにも話しましたよね?」
「うん」
「なんか、入海先生の顔を見ていれば、状態的には大丈夫そうな感じはしましたよ。ただ大変だったのかなってのも顔に書いてある感じはしますね。こう」
軸丸は顔周りで、手を一周させた。
「一応昨日は病院へ、いらしていましたよ。今日はお休みです」
実を言うと釆原は昨日、劒物大学病院の整形外科へ顔を出してみていた。
だが夜で、既に診療の終わっている時間に。
少し入海と話をした程度で。
西耒路署や五味田や菊壽には、すでに情報を共有してあった。
入海が戻って来たこと。
そして安紫会の事務所を張っていた時の、予想の情報を。
「入海先生が俺の家へ寄ったっていう情報は知っていたか」
軸丸へ尋ねる釆原。
「え、あ、はい。でもそれ、西耒路署が先に情報として持っていたとかじゃないんです?」
「いや、うちの社では劒物大学病院から、連絡をもらっていたと」
入海自身は誰にも言わずに、釆原宅へ来るようにしていたことも言い添えておく。
「うーん、何だかその辺妙ですよね」
「誰が連絡してきたとか、何か聞いていない」
「西耒路署に捕まっている組員が、どっか警察署の電話線を傍受して。リークした、とかかも」
「署にいるんなら仮にもだ。どこか外部の情報を得るのですら難しいんじゃない」
脱線しまくっている。
と釆原は思った。
「ああでも、何か傍受してリークっていうよりですね」
軸丸は少々考え込むように。
「たしか、女の人だったみたいです。その入海先生が何とかってのをうちの病院へ連絡して来たの」
釆原は眼をぱちくり。
軸丸は続けた。
「らしいです。受付で青奈さんっているんですけれど。その人へね、さりげなく、俺は訊いておきました」
「青奈さんなら知っているよ。お前やるじゃないか」
「夏季限定のやつをおごりました」
「なるほど」
「その連絡で名前は名乗られましたか」
数登は軸丸へ。
「いやあ僕は研修医ですから。あんまり突っ込んだ話っていうのは教えてもらえなくって」
軸丸。
「青奈さんはただ、『女の人』って言っていましたね。誰だかは分からなかったっていう感じがニュアンスで。青奈さん自身そういうの、確かめもしなかったんじゃないでしょうか。忙しいでしょう受付は」
「だろうな」
釆原は言った。
「そういうのってむしろ、釆原さんたちの所へリークとかありそう」
「ないからこうして訊いている」
「そうですね」
ただ一本の電話で、例えば質問だけして名乗らずに切る。
そういうのは、電話をする側で質問だけをしたいなどの場合には、ある話だ。
電話の受け手としては、相手側の掛けてきた電話番号を辿るということは可能だ。
ただ情報として扱うとする。
それは劒物大学病院の、内部ではなく外部の個人の情報になる。
刑事であれば、そのやり方は使えるだろう。
今の段階では、電話番号を辿る刑事がいるかすら分からないが。
受付嬢の青奈へ、電話にて「入海が釆原宅へ行っている」という話がもたらされただけなのだ。
そこには事件性など何もない。
事件性があるのは、入海が抗争の最中で失踪あるいは連れ去られたということなのである。
釆原はそう思った。
西耒路署も入海の件にあたってマル暴が、阿麻橘組の方へ動いている。
「薬物でいうと」
数登が言った。
「どのような薬物を組員が所持しているか、何か御存知でしょうか」
「組員がですか」
軸丸は眼をぱちくり。
「厳密に言うとですね」
ちょっと言いづらそうである。
「成分分析へ回って来る物ってのは、あくまでも薬物とかその組成表のみだったりするんです。出処までは分かりません。出処がどこっていう情報は、西耒路署さんもうちへ教えてくれることは、ありませんね。たぶんです」
「ええ」
「でもね。いろいろ俺らの間で、『出処はどこなのか予想しよう』みたいな暗黙の了解はあります」
「ええ」
「そんなんでいいでしょうか」
「もちろん」
「うーん、じゃああくまで俺の予想を言います。あくまで予想なので、正確な情報とは違うことも多いと思っていただければ」
「ええ」
「組員ですからね。出処中心で動くやつにとっては、資金源になる薬物の方がいいと思います」
「出処中心」
「言うとナンですが、資金源で良いのと言ったらやっぱり高価なやつ。売値で高いやつを組員が出処だってことになれば、そりゃ組員同士で売買か、誰かへ売るかでしょうね。僕自身はあんまりそういう取引に関しては詳しくないですよ」
数登は言った。
「それはそうでしょう」
「資金源で高価なやつっていうと、それなりに効能とかも求められてくる。とか。いやあ薬物の話だから」
軸丸は頭を掻いた。
「なんかどんどん物騒な話になってきちゃった。俺自身薬学のくせにこういうこと言いますが、使用経験は全くありません」
「だったら問題になる」
釆原はツッコんだ。
「呼ばなくちゃならない」
「刑事さんをここに」
軸丸は苦笑。
「即座に呼ぶ。で、資金源の話に戻りますけれど。仮に組員が資金源にしたいとなって、薬物を手に入れるとしたらです。高価で売りやすいというのは薬物にも種類があるはずです。なんかよく警察の間で言われているらしいってのは、一見薬物に見えないような物だって聞きますね」
釆原は尋ねた。
「例えば?」
「成分的にはアヘンとかじゃないでしょうか。飛んじゃうやつ。脳みそへズガンと行っちゃう。そんなのが多いと思います」
「多い、ね」
「実用的に日常で使う形のやつとか、そういうのに似せたのがあるみたいですよ。例えばお風呂に入れる時に使う、女性とか使いそうな形の」
「アロマとか?」
「ええ。ソルトタイプって言ったらいいんでしょうか。おしゃれなのが多いとか聞きますよ。ただ僕らに関しては、成分分析だけなんです。その届いた薬物は原型を留めていなかったりします。形を壊されて粉末になっていたりとか」
「なるほど。そして出処は明かされない」
数登はそう言って肯く。
軸丸は少々頭を掻いた。
「ええ。西耒路署さんが持ってくるだけですからね。うちへ」
釆原。
「成分があれば他は形も必要ないし、大丈夫と」
「そうです。第一警察でしょう。俺らだって分析のためにやっているのみでしょう。実際に売っている商人の顔だなんてことは、想像もしないんです。それで」
軸丸は少々間を置いた。
「成分も組成も辿って行けば人へ、作用していくものなんです。だから危ないんですよ」
「組員に女性の方がいると想像したことは、ありますか」
数登は尋ねる。
軸丸は言った。
「突然ですね」
「ええ」
「更に言うと話の枠が違うな」
「ええ」
軸丸は考え込んだ。
「それも何か抗争に関係しているとか?」
「単なる思いつきですよ」
「なるほど。さっき言ったお風呂のやつとか言うと、それであれば女性じゃないかと」
「ええ」
「そういう薬物の出処は、数登さんの云うような感じになるかもしれませんね。可能性としてはありますね。ただあくまで、俺の考えです」
「出処が仮に女性の組員だったとしてだ」
釆原はそう言った。
「周辺でそういう情報って訊いたことある? 女性の組員の話」
「いや、その辺は釆原さんの方が詳しいでしょう」
「少なくとも今回の抗争の件で、安紫会と阿麻橘組の件ね。怒留湯さんから、女性が誰か抗争に参加していたとか署へ来ているっていう情報はない。ただまあ奴らは数が多いから」
軸丸は返す。
「それは俺らとしても知っています。結構部屋住みを抱えているって聞きますね。安紫会は」
数登は言った。
「抗争へ参加していなかった。あるいはどちらかの組とつながっていても幹部クラスの方であれば」
少し間を置く。
「独自のルートで、シノギや商売をしているという考えも出来ます」
「直接に仲間へも伝えないってのか」
釆原はそう尋ねた。
「いえシノギはシノギで、単独で行う場合もあります。人数の多い組員であれば組側で、情報を把握できない部分もあるでしょう」
「今の主な話題は、抗争が中心になっているはずだがな」
釆原はそう言った。
数登。
「ええ」
「大きな話題は抗争になる。組内においてもだ。だから情報にどこか漏れがあるとすれば、誰か個人個人の話題ということ」
「ええ。それを若頭へ尋ねてみましょう」
数登はベンチから立ちあがった。
「今からお伺いするところですから」
「薬物のルートのこととかも、訊くの」
釆原は尋ねる。
「いえ、僕は刑事ではありません。そこまでの刺激をするつもりはありません」
数登は微笑んで言う。
「オウスケは何か、女性の組員などについての話は聞いていませんか」
「怒留湯さんたちから?」
「ええ」
「今のところはないな」
「では僕としては、より話題が出来たことになります」
「そう」
「事件性が強いのは、あくまで抗争でした」
「事件性か」
と釆原。
釆原と軸丸も場所を、移動するようである。
数登は一人てくてくと歩き始めた。
電柱の一本、二本と通り過ぎる。
道路は狭くなっていき徐々に小店が増える。
更に電柱を通り越すと、駐車場が右手へ見えてくる。
釆原と菊壽と五味田。
日刊「ルクオ」の記者たちだが、ここよりもう少し行った先で、怒留湯と桶結に会った。
というより安紫会の事務所へ向かおうとしたところへ、怒留湯たちが駆けつけたのである。
で、今の数登の眼にもその、安紫会の事務所門構えが徐々に近づいてきているのである。
二、三台の車。駐車場。
それ以外に車はなく、小店も各々静かだ。
そして事務所周辺も、大人しい雰囲気に包まれている。
数登は、事務所門構えの前へたどり着いた。
瓦のついた昔ながらの門構え。
筋の入った木目。
正確な木材の種類は不明だ。
だがそこでずっと使われていた年月の長さが、その筋へ表れていた。
数登は上から下まで、よく眺めてみる。
それから、少し移動。
小さなインターホンがある。
そのボタンを押し、少し待った。
誰も出る様子がない。再度押す。
誰も出ない。
数登は待った。
時間にして五分過ぎた。
三度目。押してみる。
上方には監視カメラがある。
数登はそれへ、少し手を挙げるようにした。
そして笑って見せる。
監視カメラへ向かって。
何も返事がなかった。
その代わりに、突如として門の脇の小さい扉が乱暴に。
ドタンバタンと大きな音を立てて開き、突進か。
人相の悪い若者。出て来た。
数登は変わらず笑いかける。
「何の用だ」
若者は言った。
ドスである。
「数登と言います。若頭にご用があって参りました」
「用があってだと」
「ええ。アポなしなんです」
「さっきから訊いている。何者だお前は」
「数登です」
更に二人が出て来た。
その二人目が言った。
「若頭はお会いにならない。てめえどこのモンだ」
こちらもドスである。
数登は言う。
「九十九社です」
「九十九社?」
「聞かねえな」
「どこのモンかと訊いているんだが」
「ですから」
数登は言おうとして。
三人目に遮られた。
「看板は」
「葬儀屋ですよ」
「葬儀屋だって?」
数登の後ろへ回った組員。
着ているブルゾンに両手を突っ込んだ二人目。
それが数登へ思いきり接近した。
背中へ、そのポケットごと突き付ける。
とがっている。柄だ。
「てめえ、冗談を言いに来ただけじゃ済まねえぞ」
「いいえ。アポなしなんです」
最初の一人目が言った。
「若頭は誰ともお会いにならない。何度も言わせるな」
「若頭に一言お話をしたいだけですよ」
「葬儀の話か」
「いいえ」
「どこまでもふざけたいのかな」
背中で突き付けている若者が、数登へドスをぶつけた。
三人目が正面から数登を睨めまわす。
「うちに葬式はない。その予定もな」
「ええ。ですから個人的な用です。抗争の件ですよ」
「抗争……の件だと」
と言った。
若者三人は顔を見合わせる。
「あんた。関係者なのか」
「ええ、そんなところです」
「葬儀屋と言ったか」
「ええ」
最初に出て来た一人も、数登へ近づいた。
上から下まで見て行く組員。
「大丈夫です」
数登は言った。
若者。
「看板はないと」
「ええ」
「堅気なのか」
「葬儀ですから、グレーゾーンかと」
数登はそいつへ言った。
再度若者三人は顔を見合わせた。
そして柄を突き付けていない方の若者が、数登から離れる。
そいつが言った。
「冗談だったらお前、分かるな」
「ええ」
「抗争の件だな」
「はい」
「俺らも今、その件でヒネにいろいろ締め付けにあっている。だから若頭はお会いにならないかもしれない」
「事務所内にはいらっしゃる」
「そうだ。だが本当に、お前自身喧嘩じゃないのか」
「ええ。何もありません」
「何もない」
三人目が言う。
「件の話をしてどうする」
数登は言った。
「若頭が襲撃なされた件について、何か協力を出来ればと」
若者三人は黙り込んだ。
背中の柄は依然だ。
やがて若者が言った。
「こっちだ」
数登は背中へ突きつけられたままである。
だが数登から離れた若者が、彼を導いた。
三人、それから数登は扉の内側へ入る。




