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16.

 

西耒路(さいらいじ)署では『抗争は下火(したび)になった~』とはならないでしょうね」


「下火」とはいうものの、実際に下火になったわけではない。


というのは、安紫(あんじ)会の事務所で起きた抗争については現に、逮捕者も出ているわけで。


下火に「なった」「ならない」と言ったのは、五味田茅斗(ごみたかやと)


日刊「ルクオ」。


「とはならないって、なんで」


菊壽作至(きくじゅさくし)が尋ねた。


「だって、逮捕者は増え続けているって話ですから」


「西耒路署に入る(やつ)?」


五味田は肯いた。


その他の署でも増えている可能性はあったが、五味田は西耒路署の現状しか分からなかった。







週刊誌で取り上げられている。

大手メディアなどによる報道は、下火になった抗争。

といっても安紫会の事務所で起こった抗争は、小さなものでもなく。

菊壽と五味田は巻き込まれた。

菊壽は週刊誌を手に持って、それをさっきから読んでいる。

一方(いっぽう)五味田は、他社の新聞だ。

五味田は菊壽の後輩。

そして二人は記者である。


日刊「ルクオ」。







「新聞では下火(したび)だろうけれど、逮捕者が入るから西耒路署では忙しいんじゃないすかね。あとから組員が見つかったりする場合が多いらしくて」


「週刊誌には今も、抗争の話題がちゃんとあるよ」


鮫淵(さめぶち)親分のことが全般を、()めているんじゃないすかね」


五味田(ごみた)としては、「抗争よりも親分の方が話題だ」という持論。


「さあねえ。いずれにせよ週刊誌は大入り満員だ。鮫淵とか貫禄あるもんな」







小さな抗争ではなかった。

鮫淵柊翠(さめぶちしゅうすい)は、安紫会の親分。

実際には抗争に参戦していない。

ただそこは親分。

参戦していようがいまいが西耒路(さいらいじ)署には居る。

大人しい組として知られる安紫会。

あまり普段問題は起こさない、大人しい(くみ)として知られたが。

抗争となると話は別なのだろう。

安紫会は乗り込まれた側である。

仕掛けたのは阿麻橘(あおきつ)組だったとされる。


ただそこは、安紫会は組事務所だった。

準備は怠りないようである。







「安紫会の事務所はミサイル搭載しているらしいです。つまり抗争に際しての万が一、対応は事務所なりにしていたと。だけれど阿麻橘組に乗り込まれちゃった」







日刊「ルクオ」。

菊壽と五味田。

その二人だけでなく(しゃ)全体で、下火になってきている抗争の話題。

だが報道では、取り上げていない話題もある。

菊壽と五味田はそれが気に掛かっている。


下火なのは抗争の一方で、その最中(さいちゅう)に姿を消した入海暁一(いちうみあきかず)の安否はいまだ不明。

敢えて報道側は、「失踪」のことを取り上げていない。

抗争が起こってから、五日が経過している。

菊壽と五味田、それから釆原凰介(うねはらおうすけ)は、失踪前に入海を張っていた。







「搭載といえば」


菊壽(きくじゅ)が言った。


五味田(ごみた)はきょとんとする。


「お前のはどうなん」


「え」


五味田は眼をぱちくり。


「搭載すか」


「そう。調子はどう」


「い、いや……どうとか言われましても」


赤くなる五味田。


「その話は釆原(うねはら)さんとしていたはずなんだけれどな」


()めるなよ。お前の情報なんてごまんと溢れているんだから」


「いやそれ困りますよ! 困るなあ……」


「実際に劒物(けんもつ)大学病院へ行ったって話じゃないか」


入海暁一もまた、劒物大学病院の医師だ。


「い、行きましたよ行きました! 俺、自重してますからね!」


「整形外科の(した)か」


「え」


と五味田が振り返ると、釆原だった。


抗争で、釆原は劒物大学病院へ搬送された。


匕首(あいくち)で腹部を刺されたのである。


一方の五味田。


彼は匕首でもなんでもなく、自主的に脚を運んだのである。


整形外科の下の階だった。


釆原(うねはら)さん」


五味田はシュンとして言った。


菊壽と五味田の席へ寄る釆原。


「俺の搭載の話題。菊壽(きくじゅ)さんに知られています」


釆原は少し考えてから、言った。


「情報漏洩だな」


「どこからなんでしょうか」


菊壽はツッコんだ。


「俺らは仮にも記者だよ」


「そうでした。あの、俺の搭載の方は調子いいです。はい」


「そりゃ何よりだな」


五味田はまだ顔が赤い。


釆原は苦笑する。


「良かったな」


「良かったです」


釆原は、五味田の運動の大体がベッドの上、であることを把握している。


菊壽が把握しているかどうかは、いまいち定かではない。


「整形外科か……とすると。話題は劒物大学病院へ戻るな」


菊壽が言った。


「うん」


釆原。


「親分と抗争の話題はまだ、週刊誌にはある。実際話題にもそこそこなっている。ただ、整形外科と失踪の件はねえな」


菊壽は数ページ、週刊誌をめくっていく。


「整形外科はないでしょうよ」


五味田は少しむくれて言った。


釆原は菊壽の週刊誌を覗いた。


「うちのルクオでも出していないからな。情報」


「うん」


実際、他の報道がそうであるように、入海暁一の失踪については「ルクオ」でも取り上げていない。







安紫会。

主に西耒路署の管轄内だ。

そこを張る。

実際に張った。

安紫会の話題が日刊「ルクオ」側に届いて、先手で動いた。

それが釆原と菊壽と五味田である。

ちなみに五味田は、釆原にとっても後輩。


記者と刑事。

黙っていないのが西耒路署だ。

三人を追っかけてきたのが強行犯係の二人だった。







安紫会を張った理由。

入海がそこへ、往診に来ていたためである。

更に言えば強行犯係の、怒留湯基ノ介(ぬるゆきのすけ)

彼はもともと、安紫会の細々(こまごま)に関して端緒(たんしょ)で噛んでいたところだった。

怒留湯と、それから桶結千鉄(おけゆいちかね)

釆原と菊壽と五味田。

刑事と記者。

とはいうものの、安紫(あんじ)会の抗争少し前から手を組んで、抗争に巻き込まれたのだった。


安紫会ではその日、いろいろ起こった。

抗争、盗難、その後の難事、入海の失踪。







「お前らこそ、大丈夫なのか」


釆原は尋ねた。


「大丈夫って、なに」


菊壽は言う。


「怪我とかさ」


「ああ、俺は無傷だったよ。言っていなかったっけ? そんでこいつも搭載は万全と。いやいやよかったな」


「搭載はもういいですってば」


五味田は赤い。


なんとか二人とも、抗争に際しては応戦。


そして怪我はなかったのである。


「釆原さんは刺されたとこ、どうなんです」


五味田は尋ねる。


「なんとか」


釆原は苦笑した。


入院と傷口の縫合。


劒物大学病院だった。


「痛いとかないんです」


「ないよ」


「そんならよかったです。入院短かったんでしょう」


「あんまり気にしなくていいよ。ちゃんと傷は塞がった」


「そうですか……」


五味田。


「で、こっからは入海暁一の話題とかになります?」


「そうしようか」


釆原は言った。


菊壽は週刊誌を持ってはいるものの、その眼は二人の方へ。


「失踪についてだな。西耒路署では手掛かりゼロ。右往左往らしい。いろいろ今、俺も当たってみている」


「早速行きますかね」


「そう」


釆原が腰掛けたので、菊壽と五味田は椅子を寄せた。


菊壽は手元を覗き込む。


釆原はメモを手渡してやる。


「洗っている段階」


菊壽はメモを見ながら言った。


「うん。小規模だが」


五味田もメモを見ながら、肯いている。


「大学病院側と安紫(あんじ)会のつながり。なるほど。入海先生は実際に往診へ行ったわけだから。釆原さんと菊壽さんはその様子を見ていますしね」


「お前は正面の門をね」


「そうですね……でも正面からじゃ入海先生は見えませんでした。阿麻橘(あおきつ)組の数人は居たけれど」


菊壽は小型カメラを持参していた。


その映像を怒留湯と釆原と共有。


安紫会の事務所外側から、入海の様子を張っていた。


五味田は桶結と組んだ。


事務所正面を張った。


抗争の起きる少し前である。


「安紫会と劒物(けんもつ)大学病院につながりは、あるかどうか。そりゃ、当然あります。入海先生のことがまずひとつ。だから病院側を調べる価値っていうのは大いに」


五味田は(うなず)きながら言った。


「うん。ただ大学病院側は、何か手掛かりを掴んだりしたのか。入海先生のこと」


菊壽は言う。


だが考え込んだ。


「掴んでいればもう少し動きがあってもおかしくない」


「そういうことだな。俺は少し病院側を当たってみたけれど、手掛かりというにはまだまだ」


釆原はそう言った。


「やっぱりな」


「うん」







入海暁一。

整形外科を担当。

だが意外と(なん)でも診る医師。

釆原の担当だった。


何時から何時。

何をしていたか。

前後の時間。

安紫会の事務所へ、入海が往診へ出掛けるまで。

釆原のメモにある。


数人。

大学病院関係者のプロフィール。

名前、出身大学、どこで何をしていたか。

余談として血液型と、それから連絡先。







「西耒路署では最近、DNA鑑定が多い」


「そういえば多いな。最近一人判明したんだろう」


「阿麻橘組の他殺体」


「そうだ。それに(あやか)った感じっぽいな」


菊壽は苦笑した。


「そうかもね」


釆原。







九日。

抗争の起きる二日前。

安紫会から、劒物大学病院へ連絡が入る。

連絡を受けたのは青奈(あおな)

受付嬢だ。

安紫会の若頭(わかがしら)である伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)への、往診。

青奈から連絡が回る。

連絡が回ってそれがまず、湖月康天(こげつこうてん)へ入る。

医師二人が動く。







中逵景三(なかつじけいぞう)螺良青希(つぶらあおき)。事務所へ行ったんだな」


菊壽は言った。


釆原は答える。


「ああ。午後に。恐らく安紫会から直接の詳しい話を、受けるためだ」


医師二名、中逵(なかつじ)螺良(つぶら)


それから案内として研修医の、軸丸書宇(じくまるしょう)


「安紫会から直接の詳しい話」を受けるため。


安紫会の事務所へ赴いた三人。


「怒留湯さんたちの間で抗争の前にさ。『安紫会の事務所で動きがあった』とか何とか話題に上がっていた。俺はそう記憶していたんだが」


菊壽(きくじゅ)が言う。


「事務所の動きっていうよりそれって、劒物大学病院のこの」


示す。


「三人の動きだった、っていうことじゃないか?」


「うん」


釆原は言う。


「動きの情報についてはさ。俺たちが勝手に『掴んだ』形になる。西耒路(さいらいじ)署としては本来困る行動だった。だから、『動き』については安紫会の動きだったかどうか。それとも医師三人の動きかどうかだったか。正確には(なん)とも言えない」


菊壽が言った。


「阿麻橘組の、他殺体が出たのは九日より前だ」


「そう。直接の抗争の原因は、その他殺体が出たからだと。『安紫会の事務所で動きがあった』ことについてはまず、この劒物大学病院。他殺体の件があったとすれば、更にもう一つだ。阿麻橘組の動きがあった。そう考えることも出来る」


「実際に俺らが事務所へ駆けつけた時も、阿麻橘(あおきつ)組の(やつ)ら居たからなあ」


菊壽は頭に手をやって言った。


「『安紫会の事務所で動きがあった』件については既に、怒留湯さんが端緒で噛んでいた。だから動きとしては他殺体に掛かる何かと、端緒の件で二つ。大きいものとしてあったのはそれ。あるいは医師の動きか」


菊壽。







他殺体。

DNA鑑定があった。

結果として出たのは、阿麻橘組に居た力江航靖(りきえこうせい)という人物。

頭部がなかった。


安紫会の事務所で抗争の起こった前後。

他殺体も関係しているとされる。

対立勢力である阿麻橘組が乗り込んだというのがまず第一。


釆原(うねはら)のメモ。

入海暁一が往診へ出掛けるまで。

氏名とその他の情報。

大まかな個人情報。

数名の劒物大学病院関係者たち。







劒物燦(けんもつさん)。病院長。

担当は内科。


湖月康天(こげつこうてん)

湖月は入海と出身大学が同じである。

外科全般。

東若(ありわか)大学の()


安紫会から「往診の頼み」を受けて出掛けた医師二名。

中逵景三(なかつじけいぞう)螺良青希(つぶらあおき)

三十代。







菊壽は血液型の欄を全て飛ばす。


中逵(なかつじ)の大学名は眼に止まった。


「安紫会の洋見仁重(なだみとよしげ)と、中逵は出身大学が同じ」


洋見仁重。


安紫会の幹部候補とされている組員だ。


「そうか……それで安紫会の事務所へ最初に、中逵をやったんだな。事務所でやりとりしやすいのは彼だとかね」


「なら、その中逵先生に最初は、往診を依頼する形になったかもしれません。安紫会側は」


五味田(ごみた)は肯いて言う。


午後零時から午後二時。


中逵と螺良、それから研修医の軸丸(じくまる)


安紫会の事務所を訪問。


九日午後七時~、安紫会の事務所を訪問。


入海暁一(いりうみあきかず)


「入海先生が一度訪ねている。つまり入海先生に切り替わった」


菊壽。


背もたれへ体を預けている。


週刊誌はいま、放り投げられている。


どこにあるか分からない。


「入海先生が、自分から変更を申し入れた可能性もあるかな」


五味田は何か書き始める。


ずらっと医師の名前が紙の上へ並ぶ。


「安紫会の事務所へ往診があるよってなった時に。入海先生が行くとなった、前後で関わった人は五人です」







釆原は椅子を更に寄せた。

と、電話が鳴る。

誰かが取る。

ざわめき。


受話器が置かれる。

途端に広がる静けさ。

誰かが急ぎ足で出て行く。

弛緩。緊張。

動きの有無。

釆原たちがたむろしている小規模地帯。

だがこちらは、割とすぐ弛緩。


菊壽は壁の時計に眼をやる。

午後一時。







「ガセかなあ」


五味田は首を傾げた。


「落ち着かねえな。どっか出掛けて話そうか?」


菊壽が言った。


「劒物大学病院へ行こう。座れるところあるだろう」


五味田は慌てた。


「いやこの話題で病院はまずいんじゃないすか」


「何はともあれ場所は変えようか」


釆原が言った。


菊壽と五味田は肯く。







五味田は喫茶が()いと言う。

菊壽は和食が良いと言う。

釆原はどちらでも良いと言った。


日刊「ルクオ」の入るビル。

両隣。

それぞれ和食の店と、喫茶店。

どちらだ。

どちらか。

いずれにしろ、どちらも数分の距離だ。







「お二人はご遠慮なく! 食べちゃったりしてください。俺適当にします」


五味田は言った。


彼はカフェオレ一択(いったく)だった。







開放的だ。

釆原は思った。

ガラス張りの窓。

店内の入口と中に入った印象。

えらい違いがあった。

動から静。

中へ「入る」というよりも、印象としては開放だった。


午後一時を少し過ぎ。

喫茶(きっさ)店。

店内はそれなりに混んでいる。

丁度(ちょうど)昼時(ひるどき)だ。

庭の緑は眼に落ち着く。







店内、賑わう声は騒がしいものではなかった。

全体の色調としてはオーカー。

あるいはアンバー。

さりげないジャズ。

レコードの針と盤。


リクエストがあればレコードを掛けることが出来る。

今、店内としては有線のようで。


五味田は席に腰掛けたその途端に、店員を呼んだ。

彼はメニューを見なかった。

大丈夫なのだろうか。

とばかり、菊壽は眼をぱちくり。







三十分で戻る。

一報やら何やら入った時に対応出来るようにするために。


釆原と菊壽。

慌ててメニューに眼を通した。

店員は下がり、数分で戻って来る。

だが釆原と菊壽が注文すると、更に早く戻って来た。


玉子とベーコンのサンドイッチ。

ヨーグルトが添えられたメニュー。

同じメニュー。

それが二人分だ。







「俺は水でいいや」


菊壽は飲み物を頼まなかった。


頼むこと自体が面倒のようだ。


サンドイッチをむしゃむしゃしながら言う。


「で、劒物大学病院から話を訊いた印象では、どんな感じだったの」


菊壽は釆原へ尋ねた。


店員が来て、釆原の前にコーヒーを置く。


「さっき五味田が書いたの、あるだろう」


「あ、いま出します」


言って五味田は取り出して置いた。


テーブルへ。


安紫(あんじ)会の事務所な。入海先生が行くっていうその前後について、出なかったんだ話は」


釆原も頬張る。


五味田は眼をぱちくり。


「五人ともですか」


「うん」


「だとますます何かが気に、なりますね」


「いや……各々忙しいんじゃないの。だってほらさ」


菊壽はメモを示した。


テーブルの上にメモは二つ。


釆原のメモと、五味田(ごみた)のメモ。


そこへグラスに入った水が、置かれた。


「ごゆっくり」


店員はあっという間に去る。


三人は眼をぱちくりした。


名前の一人一人、それは五味田のメモ。


釆原(うねはら)のメモ。


何時頃、何をしていたかの行動。


九日、午後三時から午後六時の欄を眼で追い示す。







劒物燦(けんもつさん)東実(とうじつ)大学へ午後二時から、会議のため不在


中逵景三(なかつじけいぞう)油林(ゆばやし)大学。洋見と同じ大学。三十二。整形外科。午後三時、安紫会の事務所から戻る。医療機器の動作確認と整備


螺良青希(つぶらあおき):三十。神経内科。中逵と同じ行動を午後三時頃まで。午後四時から学会向けの資料作成


軸丸書宇(じくまるしょう):研修医、分野は薬学。午後三時半から大学の講義。論文執筆のため午後五時~午後六時に(こも)る。教授室


湖月康天(こげつこうてん):朝から執刀、午後三時に終了。午後四時に早めに帰宅







「全員の情報が正確とは限らない。今のところはね」


釆原はコーヒーのカップへ、手を伸ばす。


菊壽(きくじゅ)は言った。


「入海先生が、『事務所へは俺が』。自分で名乗りを上げたかもしれない。だがもう一つある。誰かと話をした後に中逵と代わる必要が出た場合だ。なら、軸丸か中逵が入海先生の行動前後で関わった候補、になるんじゃない」


菊壽は言ってぐっと水を干した。


「安紫会の若頭(かしら)の往診へ、行くかどうか。行かないか、行くか」


「何をもってこういう布陣になったかですよねえ」


五味田はカフェオレのカップを持った。


「入海先生の失踪につながるかどうかだな」


釆原も言った。


サンドイッチ一つ目を平らげる。


「明らかにこれだけじゃ情報は足りねえな」


言って菊壽は考え込む。


西耒路(さいらいじ)署の方はどうやって当たる? 怒留湯(ぬるゆ)さんと桶結(おけゆい)さんを除き」


菊壽は言った。


釆原。


「西耒路署のネットワークは(かた)い。それが前提だ」


「俺らとしても、怒留湯さんや桶結さんとしても、ネットワークとなるとまずい。やれないことはないだろうけれど、何しろ警察だしな」


菊壽は考え込んだ。


「やれないことはないですが……」


五味田は肯いて言った。


菊壽はサンドイッチの二つ目を平らげる。


「情報共有はする。となると猶更(なおさら)ネットワークはまずい」


菊壽の手は(さじ)へ。


そしてヨーグルト。


「うーん。それなら……」


五味田はメモを追加して書き始める。


怒留湯、桶結、清水(しみず)歯朶尾(しだお)炎谷(ぬくたに)


名前が並ぶ。


「とりあえず、俺らが関わった西耒路署の刑事さんたち。安紫会の件に関しては五人です」


安紫(あんじ)会とはつながると言える」


菊壽は言う。


「ええ。で、安紫会と劒物(けんもつ)大学病院、安紫会と西耒路署ってつなげると可能性があるとすれば」


五味田は、釆原のメモを示した。


「軸丸っていう研修医。一番当たりやすそうです」


「なんで」


菊壽は尋ねた。


「なんか時間はあるかもしれませんから」


「アバウトだな」


「あと、『薬学』ってあります。なら刑事さん、特に鑑識の人たちとコネ多そう。とか、アバウトなんすけれど」


カップのカフェオレは残り少なに。


五味田。


釆原と菊壽は、手元のメモへ視線をやった。


「入海先生と西耒路署と、その中間。として軸丸(じくまる)ってことか。連絡先はあるの」


菊壽は尋ねた。


釆原はスマホを出す。


「あるよ。一応、いま挙がっている全員の分はね」


「西耒路署から当たるっていうのは、俺らとしてもリスク高そうです。だから」


五味田が言う。


ジェスチャー。


手でメモと、それから向かいの釆原と菊壽を交互に。


釆原は眼をぱちくり。


同じようにジェスチャー。


「共有ですね」


五味田は笑って言った。


「三人態勢なら、何かといいですから」


「二度目だな。一応それで助かっているのが現状」


菊壽は言う。


「なんかまあ、大きいことが起きなきゃいいがなあ」


菊壽は頭を掻いた。


「特に怪我には気を付けつつ」


菊壽は釆原に言った。


「うん」


釆原は言った。


それから、菊壽(きくじゅ)五味田(ごみた)はスマホを取り出す。


劒物大学病院以下五名の連絡先。


菊壽と五味田へ。


「軸丸のこれ、捨てアカウントだな」


菊壽は眼をぱちくり。


「ああ、俺も同じく捨てアカウントを教えておいた」


釆原。


捨てアカウントでもメールアドレスの方だった。


「何かと良いかもしれません。情報漏洩だって言われたら、少なくとも(かわ)せる。捨てアカウントなら、なんとかなりますから」


五味田は乗り気だ。


釆原(うねはら)は、軸丸へメールを入れた。


菊壽はスマホを見つめる。


「さっきのガセ。電話の件だ」


「なんの(はなし)すか」


五味田はポカンと言う。


「どうやらガセじゃなかったらしい」


軸丸は返信が早かった。


『俺、大した情報は持っていないし、さっきもあんまり話せることなかったですけれど、捨てアカじゃない方がいいですかね? 記者さんなら込み入った話の方がいいかもしれないし。情報としてはですね。良ければ本アドお送りしましょうか』


「電話、劒物大学病院からだったって」


菊壽は続けた。


釆原は眼をぱちくり。


(なん)て」


「いや、なんか先方(せんぽう)も急ぎじゃなかったようだが……とりあえず一時半には出よう」


「そうだな。いま……軸丸からも返信が来ている」


釆原は画面を見た。


菊壽はヨーグルトを(たい)らげる。


(なん)て来ました?」


五味田はカフェオレを干して、尋ねた。


釆原はスマホをテーブルへ置いた。


その画面を二人へ見えやすいように。


菊壽は眉をしかめる。


「西耒路署に、じかで行っちゃった方が早いかな」


「いや、俺らがっていうのはどうしてもの時です。西耒路署は、いま劒物大学病院に脚を運んでいるはずです」


「安紫会と抗争と入海先生の失踪から、五日経ったよ」


「ならより、軸丸が何か掴むかどうかを見ていた方がいいです」


「掴むねえ……なんか文面からいって。掴むとかそうは見えないな」


「記者なら可能性は少しでも追うんでしょう」


「まあな」


入海の失踪から五日。


そして、頭蓋骨のDNA鑑定の結果が出るのも、やはり五日後か……。


近づくにつれて動くことと変わること。


いろいろあるだろう。


釆原は思った。


「軸丸も、掴むことに関して乗り気っぽく見えます」


五味田が俄然(がぜん)乗り気である。


菊壽は苦笑した。


皿はカラになる。


釆原は軸丸に、


『支障ない程度で大丈夫』


と打った。送信。


「時間です」


五味田は言った。


「出よう」


菊壽。


「オーケー」


三人は腰を上げる。







日刊「ルクオ」。

電話の件だった。

やはりガセではなかったようだ。

肩を叩かれたのは釆原だった。


軸丸を含めて数名の関係者。

劒物大学病院。

入海暁一(いりうみあきかず)の失踪の件。

西耒路署の刑事も動いている。


入海の動向はどうだったか。

それを知っている者は居たか。

「失踪は他人事(ひとごと)ではない」。

西耒路署の歯朶尾(しだお)という鑑識は、そう()ったらしい。

入海の行動と思考は、安紫会の事務所へ行く前後でどうだったのだろう。

いまのところ情報は少ない。







入海暁一の自宅。

釆原も当たろうと考えていた。

だが既に、西耒路署から人数が寄越(よこ)されているかもしれない。


日刊「ルクオ」への電話。

それは劒物大学病院からだった。


維鶴(いづる)は留守。

彼女はこの日記事の取材があった。

それで、一日(いえ)にいなかった。


一方(いっぽう)

釆原は肩を叩かれたあと、自宅へ戻る。

入海(いりうみ)が、釆原宅へやって来たのである。

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