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11.

安紫(あんじ)会の事務所。

その階段。

上ったその先。

どのくらいの広さで、その階が何畳くらいか。

三人には(わか)りかねたものである。


安紫会の親分である、鮫淵柊翠(さめぶちしゅうすい)の住居は三階にある。

そして若頭(わかがしら)伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)がたまに寝泊りで使うための部屋も、三階に設けられている。







怒留湯基ノ介(ぬるゆきのすけ)は息が上がっていた。

西耒路(さいらいじ)署の刑事、怒留湯は強行犯係だ。

そして怒留湯と一緒に、更に二人が階段を上って来た。

数登珊牙(すとうさんが)

九十九(つくも)社の葬儀屋。

西耒路署のマル暴である炎谷(ぬくたに)


日本屋敷。

それ(ゆえ)、上へ(のぼ)るには階段のみ。

唯一の移動手段だ。

三階へ到着した。

数登はしばし、長く続く廊下を見つめている。







「歩きましょう」


数登がそう言った。


「そうだね。歩けはするよ。息()がっちゃったけれどな」


怒留湯はそう返した。


息の上がった怒留湯の脇で。


数登はアキレス腱を伸ばし、炎谷は屈伸運動。


で、三人は廊下を進んだ。


伊豆蔵蒼士(いずくらそうじ)若頭の部屋へ向かう。







ドアを開けた。


ノブに手を掛けて回したのは炎谷(ぬくたに)だ。


「お待ちしておりました」


挨拶をして深々と礼をする。


洋見仁重(なだみとよしげ)


スーツは黒で、ワイシャツは白だった。


「スーツが派手じゃないな」


炎谷は洋見に言った。


洋見は西耒路署の刑事の間で「派手」だと。


その「派手」として名で(とお)っている組員である。


洋見は若頭の運転手をしている。


組員はマル暴と接する機会が多い。


それは炎谷も同じだった。


炎谷は組員相手でもあまり遠慮がない。


洋見は炎谷へ微笑んだ。


「お話を、刑事さんとさせていただくために着替えました」


「なるほど。お前なりに気を(つか)ったんだな」







伊豆蔵の若頭(わかがしら)の部屋。

ソファとテーブルセット。

奥の部屋に続く扉。

白い提灯と神棚が部屋へ飾られている。

親分の部屋だけでなく、安紫会ではこうした演出を取りたがるようである。

怒留湯いわく。


洋見が「お話」と言ったことについて。

それは安紫(あんじ)会で起きた失踪の件である。

立て続けに物事が起こった中の、とある一件だった。


一件目。

安紫会と阿麻橘(あおきつ)組との間で抗争が発生。

怒留湯と、それから日刊「ルクオ」の記者である釆原凰介(うねはらおうすけ)も巻き込まれた。


二件目。

抗争に乗じたであろう盗難が発生。


三件目。

若頭を往診のために訪ねて来た医師の入海暁一(いりうみあきかず)

その彼が失踪した。







主に「入海暁一の失踪」について、若頭へ話を訊くために。

ということで三人は話を纏めていた。

怒留湯基ノ介と炎谷。

それから数登珊牙だ。

抗争に巻き込まれた釆原は現在、劒物(けんもつ)大学病院へ入院している。


ドアの入口から、中へ招じ入れられる。

洋見(なだみ)は三人それぞれに、視線を流した。







洋見は若頭の隣へ腰掛けた。


ソファである。


「お座りください」


数登は若頭に近い、直角になる位置へ座った。


怒留湯と炎谷は、洋見と若頭の斜め向かいへ。


怒留湯(ぬるゆ)は言った。


「あくまで今回は話をする。そういうことだよ」


「ええ。お話です。交渉事ではありません」


洋見は言って微笑んだ。


「俺たちはね。最初からマルBと交渉する気はないんだな」


「私たちも警察(ヒネ)の方々を相手に交渉は、いたしません」


怒留湯はちょっと肩をすくめた。


炎谷(ぬくたに)は言う。


「俺もマルBとの交渉に応じたことないな」


「うん」


怒留湯はそう言った。


「で、あくまで、正式な話の場だ。いいね?」


「ええ」


怒留湯と炎谷は、少し肩の力を抜いて座り直した。


若い組員が茶を運んで来た。


テーブルに五つ、湯呑が乗る。


数登(すとう)と炎谷。茶を啜った。


怒留湯も湯呑を掴む。啜る。


「一応、茶は貰っておこうかな。飲んじゃった(あと)だけれど」


「あなた方は今日、お客様ですよ。ゆっくりなさっていただきたい」


「あんたらの稼業に首を突っ込む気は全然ないからね。ないんだよ」


「ええもちろん。心得ております」


若頭はそう言った。


怒留湯は茶を啜りつつ。


「で、だ。早速、入海暁一(いりうみあきかず)先生の話をしよう」


「ええ」


「入海先生がここの事務所へ往診に来たよね。その情報は、西耒路(さいらいじ)署は把握済みなんだ。そこからの話を、詳しく訊かせてもらえるかな」


「劒物大学病院の医師の方々に、事務所へ往診に来ていただくということですが。それ自体は今回が初めてではありません。ただ、入海先生がこちらにいらっしゃるのは今回初めてでした」


「なるほど。入海先生に往診してもらうのは初めてだったのね。以前から劒物大学病院にはお世話になっていた、と言いたい」


「ええ。肉体に負荷を掛けることが我々多いものでして」


「じゃあ、阿麻橘(あおきつ)組の抗争の話とはまた別だけれど。肉体に負荷って言ったって、あまり抗争とか起こさないでしょう普段」


「ええ」


怒留湯は肯いた。


若頭は続ける。


「以前局部麻酔を打った部分に、腫瘍が出来たことがありました。その対処をしていただいたこと。それが劒物大学病院の先生に診ていただく始まりでした。定期的に診察を受けておりました」


「手術とかもしたの」


「ええ。執刀医の方のお名前は、失念してしまいましたが……」


「あらそう」


「背中や腕にかけての状態を手術以来、劒物大学病院の先生方に診ていただいております」


「整形外科の先生にでしょう」


「ええ」


怒留湯は(ひと)呼吸置いた。


「肉体に負荷がかかるって、例えばどんなことをしているんだい」


「主にはシノギですね。それから我々、親分に付き添うこともあります」


「となると」


怒留湯は少々考え込む。


「何かスポーツとか」


若頭は微笑んだ。


「入海先生の話題が主だったはずですね」


怒留湯は頭を掻いた。


「そうだね。俺、なんか話を飛ばすことが多いらしいよ」


「なるほど」


怒留湯は少々赤くなる。


若頭は続ける。


「続けますよ。よろしいですか」


「うん」


入海(いりうみ)先生を事務所内へお迎えしました。三階のこの部屋へご案内するところでした。そこへカチコミが」


「うん。阿麻橘組の連中がやって来たんだね」


「その連中の話を。詳しく話して欲しいな」


炎谷が怒留湯の脇から尋ねた。


数登は、茶を啜りながら聞くことに徹している。


「刑事さんなら既にお聞き及びかとは思いますが、私と洋見は襲撃を受けました」


「うん。それで怪我は大丈夫なの。うちの刑事も何名か怪我人が出た」


「そうですか……」


「今はあんたの話でいいよ」


「私なら御覧(ごらん)の通りです」


「大丈夫そうだね」


「ええ」


「それで訊くけれどね、俺、屋敷の一階であんたの姿を見たの」


怒留湯に言われて、若頭は眼をぱちくりした。


釆原(うねはら)記者殿と一緒に、あんたが一階に下りてくるのを見たんだ。釆原記者殿も巻き込まれて襲撃されちまった一人でね。今、あんた方の世話になっているっていう劒物大学病院で、ゆっくりしている。正直に言うと、俺、抗争の起きた日に、抗争の起きる少し前。あんたらのこと張っていたんだ」


若頭と洋見(なだみ)は顔を見合わせた。


「入海先生がこの事務所へ案内されるところから、阿麻橘組の連中がやって来るまで。様子を伺わせてもらった」


「新聞の情報と何か関係が」


「そうだね。釆原記者殿は日刊『ルクオ』の記者なんだ」


「なるほど」


「今のはあまり情報漏洩の範疇(はんちゅう)と捉えないで欲しい」


若頭は怒留湯を見据えた。


「だからあんたらも、あまり隠し事をしないで話して欲しい。一階へ下りたのは(なん)のためだったか話してくれる」


若頭は怒留湯(ぬるゆ)が言うのに、少々考え込む。


「ええ。事務所の一階へ下りて来ていたのは、怒留湯さんの(おっしゃ)る通り間違いありません」


「そうかい。それで」


「それは」


伊豆蔵と洋見は顔を見合わせた。


「正直に話して欲しいって言っただろう。何かい、あんたらの稼業か何かの領域なのか」


「あまり警察(ヒネ)(かた)にお話しするべきではないと思うのですが」


「そこまで言ったら猶更(なおさら)言って欲しいんだ。俺としては聞き()てならないからさ。俺もあんたを張ったという情報を渡したよ。釆原記者殿のことも話した。だから、あんまり隠し事してもフェアじゃないだろう」


伊豆蔵(いずくら)は少々()を置いた。


そして言った。


「事務所の一階部分に、我々の金庫は設置してあります」


「そうすると、その金庫に用事があったんだね」


「あなた方警察(ヒネ)の方々はよくご存じのはずです」


「そうか……。そうね」


怒留湯は頭を掻いた。


「つまり。入海先生へのお勘定(かんじょう)のために、一階へ下りたんだね」


「お金の用意が手元に足りなかったのです」


「それは、あんたにとっての正直な話だね」


「はい」


「俺と釆原記者殿が、事務所屋敷へ上がりこんでいる丁度そのタイミングと重なった。支払いのためにあんたは金庫に用事が出来た」


「怒留湯さん(がた)は抗争に乗じて、事務所内へ来られたということなのですか」


「そうなる」


「では、お怪我の方は。ただでは済まなかったはずです」


怒留湯は肩をすくめる。


「俺は大丈夫だった。でも、釆原記者殿が刺されたのは匕首(あいくち)でだった。あんたらは匕首携帯っていう(がら)の組じゃないから、たぶん阿麻橘(あおきつ)組の奴だったと思う」


若頭は肯く。


「悪いけれど、屋敷には土足で上がらせてもらったよ。あんまり事態が急だったからね。で、抗争の起こったその時は既に、入海先生を三階へ案内したあとだった」


「主に若衆(わかしゅう)が先生のご案内へ上がりました。私は一階へ下りてくる前に三階で、往診のための準備を。洋見も入海先生のご案内に上がっておりました」


「うん。洋見さんが縁側で菓子折りと、それから入海先生と一緒に居たのを、俺と釆原記者殿も見ていたよ」


「なるほど」


洋見がニヤリとして言った。


怒留湯が言う。


「続けてくれる」


若頭が言った。


「我々の内のごく小規模な話になります。三階の()へ上がることを、許されている若衆はごく数名です。二階からその上は洋見に、入海先生の案内をさせておりました」


「幹部候補だからな」


炎谷が言った。


「僕らは、三階へ上がってしまいました」


数登は微笑んで、伊豆蔵へそう言った。


「入海先生の失踪について。お互いにお話ししましょうとした、お約束でしょう」


伊豆蔵はそう言った。


(なに)か腹に一物(いちもつ)あるような笑い方をする」


炎谷はツッコんだ。


若頭はかぶりを振る。


「何も。ここまで正直にお話しております」


怒留湯が言う。


「お勘定もあるけれど、やっぱり抗争が気になって一階へ慌てて下りた、っていうのもあるのかな」


「ええ。我々としては何も関知しないまま、阿麻橘組から襲撃されたという手酷い事態でした」


「そう」


「入海先生をお部屋にご案内している途中で、私は下へ()りました」


「そのご案内は、ちゃんと済んだのか」


炎谷(ぬくたに)は尋ねた。


伊豆蔵は洋見を見た。


「三階のこの部屋へ、入海先生をお連れしました」


洋見が言う。


阿麻橘(あおきつ)組の奴らがなだれ込んで来たのもその時辺りかと」


「その時辺りということは。あまり確信は持っていないのね」


「ええ。時刻なんぞ確認している余裕はありませんでした」


洋見はそう言った。


「若頭のこの部屋に監視カメラなどは、設置されているのでしょうか」


数登(すとう)が尋ねた。


伊豆蔵が応じる。


「事務所(おもて)とは違います。あなた(がた)のようにお客様をお招きすることもある部屋です。監視をするための部屋としては設けられておりません」


「分かりました」


「ええ」


「なら、(おもて)の監視で十分と言いたいか」


炎谷はそう言った。


「そう言われますと……」


「お前らとしては(まも)りが薄いのかもな。特に抗争は起きちまった」


「いえ。それとは話が別ですよ。お客様と我々の間はきちんとしたいもんでしょう」


洋見は言った。


ノックがあり、若衆が茶菓子を運んで来た。


洋見(なだみ)が立ち、ドアを開けた。


若い組員だ。


茶は取り替えられた。


「どうぞ」


伊豆蔵が怒留湯たちに茶を勧めて、言った。


「少し休憩しようってことかな」


伊豆蔵は怒留湯へ肯く。


「ただし今日だけだ。あとは、茶は貰わないよ」


「構いませんよ」


「お言葉に甘えましょう」


数登は言って茶菓子を()まんで頬張った。


「美味しい」


数登は微笑んだ。


「何も入ってはおりませんのでご安心を」


洋見は言った。


それから、各々茶菓子を取る。







怒留湯は茶菓子と茶が止まらなかった。


だが手を止めて言う。


「で、さてだ。事務所の盗難について話を訊きたいんだ」


「ええ。ぜひ僕も伺いたいものです」


怒留湯が言って、数登も伊豆蔵へ言った。


伊豆蔵は、少し困ったような顔をした。


「あんたは襲撃された上にこう、盗難と来ちゃあ面倒だったろうが。すまないね」


「ええ。盗難の件に関しては、私自身よく把握していなかったのです。鮫淵(さめぶち)もそうだと聞き及んでおります」


数登は眼をぱちくりやった。


怒留湯は続ける。


「そうだね。あまり関知していないものを話せと言ってもあれかな。うちの鑑識をここへ、呼んでも構わないかい」


若頭は肯く。


「今ここに、一緒に居る葬儀屋の数登さんが事務所に来る前。俺たちが知り得た情報をおさらいさせてくれる。若頭、あんたの火を()ける(ほう)のライターと、それから飾りに使っていた小皿類が事務所からなくなっていた。そういうことだったね」


「はい」


「改めて()くよ。その、なくなっていた物があったということ自体を把握していなかったんだね」


「そうです」


「分かった」


怒留湯が腰を上げる。


炎谷は顎でドアを示す。


「え、俺が呼ぶ感じなの」


「うちの鑑識を呼ぼうと言ったのはあんただろう」


「さっきから俺がずっと質問しているからさ、うちの鑑識を呼ぶのはあんたも一緒でいい気がするんだが」


「なら、俺は今から質問とかしとくから」


怒留湯は肩をすくめる。


「数登さんは一緒に来るかい」


「ここでお待ちしております」


数登は苦笑した。


怒留湯はスマホを出した。


だがかぶりを振る。


「そうかい。じゃあ呼んでくる!」


怒留湯は頭を()き掻き部屋を出た。







「ええっとですね」


怒留湯に連れて来られた歯朶尾灯(しだおあかし)はそわそわしている。


「さっき、あなた方の親分さんに話を訊きました。ええっと……」


「大丈夫ですよ。我々、あなた方警察(ヒネ)方々(かたがた)を取って食うつもりはありませんからね」


洋見は言った。


「盗難の件について話してほしい」


怒留湯が脇から言った。


「ええっと。お、桶結(おけゆい)さんと一緒じゃないんですか」


「事務所内に居るけれどこことは別だよ。歯朶尾さんの話を頼むよ」


「分かりました……」


歯朶尾は息を吸い込んだ。


「ええとですね。盗難の件に関して、捜査には指紋も関係してきます。それで現時点での判断ですが。安紫会の皆さんが今回の盗難に関与している、という可能性は低いといたしました。安紫(あんじ)会の皆さんの、大半の(かた)の指紋。既にうちの署に登録済みです。ですので照合は、それを元に判断いたしました。その結果です」


数登(すとう)は肯いて聞いている。


「では盗難の件に関して我々は、お役御免(やくごめん)ですね」


若頭は歯朶尾へ言った。


「お役御免というかまあ……。でも、品物は何点か、なくなったわけです。なくなった物は、鮫淵親分さんが事務所内に装飾として飾っていた小皿五点。それから若頭愛用の、着火するライター。品物が置いてあったであろう場所から、いくつか痕跡も発見出来ました」


洋見は歯朶尾を見ている。


「推定の話になります。最初に、盗まれた小皿があったという場所です。皿は五点あって、僕らのおおよその推定ですが、皿には少々欠けた部分があった。と思われます。盗まれた小皿は五つでひとまとまりの装飾品として扱われていました。皿の形は二種類です。角形のもの二つ、丸形のものが三つ。その小皿群が装飾されていたという場で、釉薬(ゆうやく)の成分を見つけることが出来ました。上野焼(あがのやき)で間違いないでしょうか」


「あくまで鮫淵(さめぶち)のコレクションです。私が詳しく知っているわけでは……」


「詳しい情報は構いません。僕らとあなた(がた)(あいだ)で話を()り合わせておきたいんです」


「なるほど……」


「上野焼かどうかは分からないということですね」


歯朶尾は頭を掻いた。


「では、違う方面から行きます。そのなくなった小皿は以前、どなたか幹部の方が使用していた。ということはありませんか」


「実物がないのにそこまで推定するのか」


洋見が()に戻って言った。


「親分と気が合いそうな警察(ヒネ)だな」


歯朶尾はムッとした。


「盗難されて(なに)か困る物、ではありませんでしたか」


数登が脇から尋ねる。


洋見はニヤリとして表情を崩さない。


一方で、若頭は考え込むようにしている。


(さかずき)を貰い受けた際に私が使用したものです。ただ、その五つの小皿は盗難されて困るというものではありません。鮫淵も使用していた物だと記憶しております」


「その(ほか)には何か」


「ええと……祝いの席で少々使ったことがあります。鮫淵が義理事(ぎりごと)で二、三回使用した後。その後は、装飾するためだけの物になっておりました」


「歯朶尾さん」


数登は微笑んで言った。


歯朶尾(しだお)は肩をすくめる。


「あのさ……」


洋見に言った。


「なんです?」


「盗難の件で俺らがここへ来ているのは最もなんだけれど。あんたらとしては入海(いりうみ)先生のことだって気になる問題じゃないのかな」


「ええそうですよ。もちろん」


洋見は言った。


しばらく沈黙が続く。


「入海先生の話に戻りましょう」


数登は言った。


「若頭の往診にいらしたのが入海先生ということでしたね。では鮫淵親分は、入海先生を御存知でしたか」


唐突に数登は尋ねた。


若頭(わかがしら)がそれに応じる。

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