表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星の表情

作者: 彩情一式

多分、僕は生きるのが下手くそだと思う。学校のテストでは小さなミスばかりするして全然成績が伸びないし、友人関係では小さな嘘を重ねて自分を取り繕っている。そんな自分のことが大嫌いだ。


「おーい、次移動教室だってよー」


「うん、今行くよ」


 人といるのが苦手だ。早く帰って部屋でゆっくりと過ごしたい。もう少しで今やってるゲームもクリアできそうだし、楽しみなことはあるんだ。


「なぁ、このあとどっか遊び行かね?」


「いいね!新作めっちゃ甘くて美味しそうだから飲みに行こうぜ!」


 調子のいい友達は、隙あらば女子も一緒に遊びたいと思っているから、毎回大声で放課後の遊びの約束をする。まぁ、女子が来たことはないが、僕には関係ない。僕も行ってないからだ。


「ねぇ、君も行くの?」


 まさか、僕が最初に話しかけられるとは思っていなかった。それも女子に。相手の名前もわからないし、テキトウに返事をして会話を終わらせるようにしよう。


「う〜ん、甘いのは得意じゃないから今回はやめとこうかな〜」


 甘いのは全然好きだけど、仕方なし。また小さな嘘を重ねてしまった。それに毎回断ってるのにあたかもいつも一緒に遊んでるみたいな言い回しにしてしまったのはちょっと失敗だったかもしれない。


「そうなんだ。君が行くなら私も行きたかったな」


 そう言い残してどこかへ行ってしまった。すぐに友人からその女子とどんな関係か聞かれたけど僕もわからない。同じクラスなのかも知らないのに答えようがないだろう。


◇◇◇◇◇


 ゲームクリアの画面を前に僕は昼間の出来事を思い出していた。楽しみにしていたエンディングよりも印象が強かったからだ。


「はぁ、今日も夜が更けるかぁ」


 窓を開けて空を眺める。すっかり夜になっていたが、曇っているのか星ひとつ見えない。僕が悩んでいると毎回曇っているのは神様の嫌がらせだろうか。まるで僕の脳内を空に映し出したみたいな景色だ。


「寝よう」


 いつも通り学生生活を謳歌できるならそれでいいんだが、明日の学校が憂鬱だ。


◇◇◇◇◇


「なぁ、今日カラオケ行かね?」


「いいねぇ〜ちょうど行きたかったんだよねぇ〜俺」


 この2人のレパートリーの少なさにはため息が自然と出てしまう。僕も人のことを言えるほど経験があるわけではないが、女子を誘おうとしてるのにそれが3パターンしかない。残りのパターンはゲームセンターだ。


「お前も来るか?」


「パス」


 カラオケは好きだ。でも、間奏が長い曲だったり、曲と曲の間が気まずくてしょうがない。


「ねぇ、勉強教えてくれない?」


 突然、昨日の女子に今日も話しかけられるとは思っていなかった。それに勉強とは、僕は平均点しか取れないのかってくらい平凡な学力なのに頼られるとは。


「僕が?」


「あなた以外誰がいるの?」


 僕は無言で友達2人を指さした。2人は嬉しそうにしていたが、女子は小さくため息をつく。


「曇り空なんか指さしてどうしたの?」


 この子、2人を見えない者として扱っているのか?流石に可哀想だ。僕が巻いた種でもあるし、フォローを……


「私はあなたに頼んでるの。教えてくれるなら、放課後図書室に来て」


 言いたいことだけ言ったらまたどこかへ行ってしまった。


「お前だけずるいぞー!」


「そうだそうだ!俺たちはずっと頑張ってるのに……!」


「ははは……」


 もう愛想笑いで返すしかない。


◇◇◇◇◇


 放課後になってしまった。何も言わずに帰るのは罪悪感があると僕の脳みそが訴えてくるせいで図書室に来てしまった。昼の女の子はすでに勉強を……いない。


「来たんだ」


 後ろからいきなり声をかけられ、少し驚いてしまった。


「まぁ、」 


「そ、じゃあ散歩でもしよ」


◇◇◇◇◇


 夜、部屋で一人考える。なぜ僕は嘘をつかれてまで遊びに連れて行かれたのかを。その前に図書室に足を運ばなければよかった。流れで連絡先も交代してしまったのは本当に反省すべきだろう。


「はぁ、今日も夜が更けるかぁ」


 考え事をしているとすぐに時間が経ってしまう。明日、学校に行くの面倒だな。


◇◇◇◇◇


「ねぇ、今日の放課後暇?」


「僕?」


「あんた以外誰がいるのよ」


 友人2人が横でソワソワしているが気にしない。どうせ昨日の二の舞だ。


「あー今日はー」


「そ、空いてるのね。じゃあ放課後迎えにくるから」


「え?」


 もういない。有無を言わせぬその行動力には脱帽するしかない。大きなため息をつきたいが、友人2人からずっと俺たちも言っていいかと聞かれるのが面倒だった。この2人……どうせクラスが変わったら話さなくなるだろうし、もうテキトウに相手していいかな…


◇◇◇◇◇


「ついてきて」


 放課後、迎えにきたと思えば開口一番に一言だけ言ってそれ以外の情報がなかった。僕も特に聞くことなく名前も知らないこの子についていった。

 服を見て回って、映画を見て、ご飯を食べに行ってと親が心配しそうな時間まで遊んでしまった。


「楽しかった?」


 楽しくないと言えば嘘になる。映画も気になっていた作品だったし、服も新調したかったから丁度よかった。


「うん」


「そ」


 一言ではなくもう一文字になってしまった。だが、その方が居心地がいいと思ってしまう僕はおかしいのかもしれない。


「もう夜が更けちゃったね」


「そうね」


 無理して会話ぜず、ポツリポツリと2人で思ったことを声に出すだけ。この距離感は初めてだ。


「また、誘ったらきてくれる?」


「もちろん」


 今度は本心だ。それに、今日は夜空の星が見える。


◇◇◇◇◇


 今日はぐっすり寝れる。悩みの種はまぁ、なくなったと言ってもいいだろう。そんなことを考えるとその悩み発端だった女の子からメッセージが届いた。


〈おやすみ〉


 と、一言だけ届いた。メッセージは得意じゃない。そっと窓を開け、空を見る。今日は空に一等星が輝いていた。


「おやすみ。また、夜が明けたらね」


 僕はそう返して。ゆっくりと寝た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ